先日、みすず書房の読者担当者からメールをいただいた。出版の広告案内の類ではなく、個人あてのメールは嬉しく、ちょっと誇らしい。実を申せば、質問したことの回答をご親切にも頂戴した次第、正直なところ誇るべしとはいえない。
忙しいなかを律儀に応えていただいた。その丁寧な対応は、老身に沁みるほどに実感し有難い。出版社によっては、誤植なぞを報告してもなんらレスポンスしない会社もあると聞く。それに較べれば、みすず書房さんの顧客を大切にする姿勢は、この世智辛い時代にはめずらしく奇特といえようか。
何を私が質問したかというと、アゲハ蝶についてである。
月に一回ほど、みすず書房さんから「ニュースレター」と称するメルマガを送ってもらっている。近刊・新刊書の紹介やイベントその他の案内などが主な内容。最後の編集諸子によるエッセイ「菊坂便り」は、書き手がその都度変わり、テーマも様々なので、それも読み手の興趣をそそる。個人的な日常風エッセイもあれば、今日的な出版事情、歴史・文化の話題など、硬軟とり混ざって面白く飽きさせない。
その時、目にとまった「菊坂便り」は、アゲハ蝶の飼育についてであった。
どうやらご自宅で多種の蝶を飼育し、成長過程を見守り、羽化そして飛翔するまでを馥郁として愉しむ様子が書かれている。室温をたもち、餌やりにも気をつかう。その辺のマニアックな感じが実にいい。温暖化のせいか、アサギマダラという美しい蝶が、昨今台湾あたりから渡来しているとのこと。そのアサギマダラを、その方は飼育しているようだ。
▲アサギマダラ 実際に見た確信はない。
亜熱帯の昆虫を育てるには、細心の配慮が必要だろう。その苦心を語る筆致はさりげないが、わが少年時代の昆虫を育てたときの好奇心旺盛の頃が甦った。幼少の頃、昆虫観察は多くの人が経験しただろうし、少なくともその面白さは知っているはず。
そうなのだ、子ども心にも生命のメカニズムの神秘を自分の目で見て感動する。そんな歓びを想いかえしたのだった。
その方は、アサギマダラだけでなく、沖縄のシークワーサーやクスノキなどを室内に植え、アオスジアゲハやクロアゲハなども飼育されているらしい。南国生まれらしい色鮮やかなアサギマダラ、その卵から成虫へと育てること。幼少の頃、誰もが経験した昆虫観察は、生命のメカニズムの不思議を自分で見て体験する歓びだった。
私としては、アゲハ蝶の羽化を見るためには、どんなことをすれば良いかということ。もちろん、ネットで調べればわかることであるが、その質問にかこつけて、エッセイを読んだ感動をつたえ、直截にアゲハチョウの飼育ノウハウの教えを乞うためであった。(※追記)
▲わが家の山椒の木に毎年のように卵を産むナミアゲハ(?)の幼虫。3,4匹見つかるが、いつの間にかいなくなる。鳥に食べられてしまう。
かつてわが家のベランダにあった檸檬の木に、蝶の幼虫が何匹も蠢いていたことがあった。そのレモンの木は枯れてしまったが、3年ほど前から、庭にある山椒の木に同じ幼虫を見かけるようになった。虫を毛嫌いする家人も、どういう訳か興味をしめした。ときおりT字状のオレンジの舌をだしつつ、山椒の葉を食べている様子が可愛い。このまま成長してくれたらと願ってきたが、素人の浅はかな了見である。たっぷり太った芋虫になったところで、鳥に食べられてしまう。ということで、この辺の事情を書き、アゲハチョウの成長を最後まで見届けるまでの「いろは」を質問したのだった。
四の五を書くより、その方の丁寧なるご返事の一部を紹介したい。(了解をとってはいないが、誰もが参考にしてもおかしくない、耳よりの知識だと思うので悪しからず)
飼育ケースは基本1つですが、成長過程の異なるものを収容する場合は予備のケースで飼育します。
ナミアゲハやクロアゲハなどの食樹はミカン科なので、わが家で植えているものではシークワーサーのほかサンショウや
ヒレザンショウ(イワザンショウ)がこれに該当します。サンショウの葉ではモンシロチョウは育ちませんので、ごらんになったのはおそらくナミアゲハではないでしょうか。
アオスジアゲハの食樹はクスノキなので、クスノキをプランターで育てています。
> やはり、飼育ケースで室内で飼うのがベストなんでしょうか?
天敵が多いので飼育ケースが必要になります。
室外においてもいいのですが、小さな天敵(寄生バエ、寄生バチ、クモなど)が入り込まないような工夫が必要です。また室内のほうが観察しやすいと思います。