小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

試詩3・リアルノワール

2005年11月10日 | 

誰も近づかない私の無意識の地下室に
錆びた螺旋階段があり
そこに紫の薔薇が一本捨てられている
裸電球の下で震えている、記号として

すえた黴の匂いにむせかえる半死の記憶たち
美しい紫色の記憶だけを寄る辺にして
「私という現象」を生きてきた

過ぎ去りし日々よりも、未来への確かなリアルをと
私は何をしたかったのか
ヨブになりたかったのか

焦りなのか、衝動なのか
脳のなかの海馬がいらだち
薔薇の花をつぶせと、私の他者が命令する

たとえばワイエスの黒人奴隷を薔薇の花に見立て
彼女が眠りを貪り、体を癒していても
それはワイエスの欲望なのか、美への賞賛なのか、それとも怯えなのか

臀部のなめらかな曲線がふくらはぎに達したとき
世の中の一切の企みは無に帰すべきだ
生死の間のあきらめとして理解されてほしい

それはリアリティの暗黒であるし
いまでも身近にある愛でもあってほしい

すべてのリアルカラーは黒に溶けていく
何者かに巧みに封印されているにも拘らず
地下室のどこかで居場所を求めて彷徨っている

嗚呼、風よ、海よ、青空よ、太陽の光よ
地下室こそ解放された場所なのだ

私の甘美なリアル・ノワールにようこそ





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