秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年06月01日 | Weblog
第十四章
台風の夜
江美は、アパートの布団の中にいた。朝から、熱っぽい。身体がだるい。バイトは休みをもらった。気休めにつけたテレビは、朝から台風情報ばかり。今日の夜中に、関西に上陸します。きれいな標準語のアナウンサが、天気図を、解説している。確か前に買って置いた、解熱剤が残っていることを、思いだし探してみる。風邪なんて、何年ぶりだろう。台風と風邪が、いっしょにくるなんて、ついてない。外にでる気力も残っていない。とりあえず、歯は磨き、顔を洗う。バサバサの髪形は、どうでもよかった。アパートの外にでなければ誰にも会わない布団の中で、ひたすらじっとしている。台風の余波なのか、薄い硝子窓が、輪ゴムで弾いているような、嫌な音をたてている。
熱が、下がらない。何も口からいれないで、ひたすらスポーツドリンクを、飲み続けている。夕方につれて、雨足が、ひどくなってきた。外が見えないように、カーテンを引く。外の外灯が、雨のカバーをかけられているように、いつもより、暗く感じる。どこかで、金づちを打つ音がするカーテンのすき間から、カッパを着て持ち家の周りの盆栽を片付けているのが、見える。すき間を、洗濯バサミで、もう一度とめる。″ドンドン″アパートのドアを、誰かが叩く。怖くなって、布団をかぶる。
「江美ーいるんだろう携帯の電源、切れてるよ」健二の声がした。なんで、この場所がわかったのか、紛れもない健二の、声だった。ふつうなら、髪でもといて、カギをあけるのだろうけど、熱で麻痺して、判断力がでない。江美は、チェーンをはずす。
「江美、大丈夫?それにしても、ヒドイ髪だなあー。嫁にいけなくなるよ。」
健二は、さっさと部屋に入ってきて、買ってきた果物とジュースを冷蔵庫に片付けていく「江美、薬のんだ?」「ないのー探したけど飲んでない」
「ほらっ、これ飲んで」健二は、横になった江美に、錠剤とコップに入った水をわたす。江美の右手に健二の手をそっと添えて、薬をゆっくりと江美のくちに、はこんでいく。
「暫く、眠れよ。熱下がるまで」
「健二さんは、帰るの「帰りたいけど、ギリギリで帰れなくなった地下鉄、台風で再開まで、時間見合わしているんだって。暫く雨宿りさせていただきます」健二は、畳に座り、膝をついてお辞儀をした。江美が、小さく笑った。健二は、アパートの壁に持たれて、江美を見ていた。
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天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年06月01日 | Weblog
第十三章
回想結婚
瑠美の毅然とした眼が、脳裏から離れない。「変な女が、訪ねてきて、参ったよー!馬鹿じゃない。初対面の人に対してあれは、性格悪いよ。親の顔が観てみたい、どこが良くて付き合ってるの、男って、単純の固まり」健二に大きな声で叫べたら、どんなに楽だろう。聞きたいことが、ある時に限って、残業続きの健二に、会えない。携帯電話で話すには、内容が重たい。健二が、しつこい話しが嫌いなことは、久兄さんの話しを、ほとんど聞かず相槌を上手くうつ態度で解る。
「江美ちゃん、今日もひとり?」
テレビの台風情報を気にしながらマスターが聞く。
「あのね、みんなどうして、結婚するの?」「妻を亡くして、三年のヤモメには、ちょっとキツイ質問だなー僕以外の人に聞いてほしいなあー」マスターがカズの顔をチラッと伺う。「こっちに振ってくるかー、今日は口のかるーい人が欠席だから、たまには、江美ちゃんのお話に付き合ってみるか」
「それって久兄さんのこと」江美が振り向きながら、カズを見る。「女は誰でも最初は初々しいわけよ。付き合ってる時は喧嘩して拗ねても、言い訳するタイミングを余裕で空けてくれてたしー」
「結婚したらどうなった?」江美が、椅子ごと体勢を変えながら、声を弾ませる。
「余裕なんて、全然ナシ!自分のことは、棚に上げといて、文句マシンガンの連打、あれは、お経の世界だよ。毎日同じこと言ってるよ」カズは、グラスを空けて、マスターに合図を送る。
「なんか、気の毒だなー」江美は、割り箸を指でなぞる。
「だろう、かわいそうだろー。あいつも昔はちょうど、今の江美ちゃんみたいに恥じらいがあったんだよー。帰れるものなら、今の子供達連れて、あの頃のあいつと一緒になりたーい」
「マスター、カズ兄さん、今日はよくしゃべるね」「江美ちゃんに気を遣ってるんだよ。久に聞いたんだよ。久が瑠美ちゃんに江美ちゃんのこと話したって、健ちゃんにはそれとなく言っておくよ、それより、江美ちゃん顔色悪いよ、風邪じゃない?」「うん、アリガトウ。私の風邪より、台風が心配だね。マスター、明日、台風来たら、帰れなくなるね。徳島であるんでしょう、奥さんの法事」
「うん、お墓は、藍住だからねー女房の口癖だったから。死んだら親の隣にお墓造ってって。なんて言いながら、親のほうがまだ元気で長生きしてるよ」
「マスター、結婚してよかった?」「よかったから、もう一度したい」
マスターが、暖簾を片付けながら、自分のジョークに笑っていた。つけっぱなしのテレビから、台風22号の予想針路が、流れていた。降り出した雨音が江美の小さなクシャミを、そっと掻き消していった。


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