秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

天女花

2007年06月08日 | Weblog
2006年7月2日撮影

里の江や 梅雨に濡れし 天女花

小説「天女花」に添えて、、、、、
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天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年06月08日 | Weblog
あとがき
落人伝説で、知られるここ東祖谷山村は、昨年の市町村合併を機に、東祖谷と名称を変えました。ある夜、村おこし「てんごの会」のメンバー達と、定例会をしていた時、古い地図を拡げて、誰かが言いました。「里の江って在所、昔はあったんじゃー」会話の記憶は曖昧ですが、消えた集落…?私の中で、一気にこの物語りが浮かび上がりました。毎晩、ひらめきのまま、メールで打ち、送信するという、一種無謀とも思える行為にて?と思われる箇所が、多々ありますことを、お許し下さい。
私は、小説の中に登場した菜々子のように、悠々自適の生活ではありませんが、昨年友人と私は、共に夫に先立たれるという、大失恋を経験しました。ありきたりの、ささやかな日常が、一気に自分の前から、摺り抜けて行きました。この哀しみを表現する言葉は、どんな辞書にもありませんでした。最後にホームページを提供して下さったM.iyaさん、お手数をおかけしました。有難うございました。書いている時間だけは、生きている事を実感できました。この物語を読んで下さった方々の、愛する人達が、永遠でありますように。
平成十九年SA・NE
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天女花(OOYAMARENGE)  SANE著

2007年06月08日 | Weblog
最終章
天女花
車は、西に向かって走る。佐野と書いた小さな標識が、出ていた。「これ、この道のずーと上に、営林署が抜いた道が、あるんじゃ。ちょっと道、悪いけど麓から歩くより、ずーと楽じゃけん、この道行くけん、辛抱してよ」ハンドルを必死で押さえながら、てらおが言う。一時間ほど、走っただろうか。大きな木の根元に車を止めた。「ここからは、歩かなきゃーダメなんだよね」てらおの兄さんは、なぜか、時々関東弁を喋る。「歩くって、どれ位」菜々子が、木切れを探しながら、聞く。「30分位。営林署の道なかったら、3時間はかかるぞ!」てらおは、自信満々に答えながら、暗い杉の中の道を、上がって行く。茂みの中から、山鳥がいきなり、音を起てる。江美は、一瞬立ちすくむ。後から、菜々子が喋りだす。「かなり、高いよ、この場所。下界の音なんか全然しないし、空気違うわーもしかして、あの木の向こうの明るくなってるとこ、あそこら辺、曲がったら、別世界とかー?」江美も、前方を見る。「正解!あそこまでがんばったら、雲上寺見えると思う。」「思うって?」菜々子がてらおを呼び止める。「わし、この道、前に来たことあるんじゃ、雲上寺っていうのは昔の呼び名」「昔の呼び名?」菜々子は、キョトンとてらおを見る。二人のやり取りを黙って聞いていた江美が、いきなりはしゃいだ声をあげた。「空と、かくれんぼしてるみたい~。綺麗。緑の葉っぱ、トトロの世界みたい。緑の中って、こんなにいい匂いだったんだー」「江美ちゃんが、言うと可愛いらしいなあー」てらおは、タオルで額の汗を拭きながら、前を指さした。一気に、駆け上がり、彼方を見て叫んだ。「やっぱり、宮の内の和尚さんの寺じゃー。十年前村に帰った時、ここに来たことある。」江美達も、駆け上がった。
彼方の畝裾の向こうに、寺の屋根が、西日を受け、キラキラと黄金色に、輝いていた。振り返ると、幾層にも連なっている、山々が眼下に見える。静かな、音のない世界。巨大な緑の中から、鳥の声だけが、飛び込んでくる。深い渓谷から、風がまっすぐに渡ってくる。江美は、健二の気配を、身体中で、感じていた。
「和尚さん、おるかえー、宮の内の和尚さん」てらおが、庭から声をかけながら、本堂に近づく。本堂は、綺麗に片付けられ、開け放されている。仏間には、ローソクが点され、お線香の香りが、庭に漂っている。中から、細面の小柄な、上品な住職がでてきた。住職の目が、江美を見て止まる。「おー、里さん里さんかー」住職は、目を潤ませている。てらお達が、訳が判らずに立ちつくしていると、母屋から五十才位の女性が出てきて、住職の肩を撫でながら、小さな声で、話し出した。「ごめんなさい、昔のことばかり…、最近調子が悪くて…」「和尚、ワシじゃ、てらおのヒデじゃー覚えとるかえ」てらおが和尚の前に、立つ。和尚の娘さんは、母屋に入って行った。「おー、ヒデさんか、なんなー、長いこと顔みせんかったなあー」和尚は、ハッとして、しっかりと三人を見る。四人は、縁側に座り、彼方の山々をそれぞれに見つめている。てらおは、江美が、ここに来た理由を、和尚に話した。和尚は、ゆっくりとした、口調で話しだした。庭の草の間を、温度の違う小さな風が、そよぐ。「ケン坊は、可哀相な子だった、生まれた時に、親父は隣村の後家さんの家にあがりこんで、帰ってこんかった。爺さん、婆さん、残された母親と四人で、暮らしていたんじゃー。母親は、温和しい人で、いつも隣村の後家さんを、憾んで泣いていた~。むごかった」江美は、和尚の顔をジッと見る。「母親の里さんは、ケン坊が十才の時、持病の心臓がもとで、亡くなった。婆さんも、すぐに流行り病で、死んでしもうて、爺さんも寝たきりになって…」「それで、つくし園に…」江美が、言葉を噛み締める。「里の江は?」てらおが、和尚を見る。「ワシがここで、なんで毎日お経唱えとるか、わかるか。ワシの、檀家だった里の江の在所衆の仏さんワシが拝まんかったら、誰が墓守りする?二十年前、ここには、ようけの、人間がすんどった。十件位の家族が住んどった。ここを通らなんだら、里の江には降りていけんかった。」「里の江は、消滅したの?」菜々子が、和尚を見る。「難しい言葉は、ワシはわからんけど、在所はなしんなってしもた。郵便も、佐野とか書いてきよる。ワシは、里の江じゃーていうのに、配達の若い奴、笑いよる」娘さんが、静かな物腰でお茶を、出してくれた。「番茶?」一口飲んで、江美が聞く。「番茶知ってるんですか、神戸の方が?」江美は、小さく頷く。
「健二さんはどんな子供だったんですか」江美が、小さな声で聞く「すぼっこだったのう。けど、優しい奴じゃった。」江美は、また曇り空を、仰いで涙を怺えた。「江美ちゃん、10分位降りたら、里の江だった場所が、あるんだって。行って見る?」娘さんと話しをしていた、菜々子が立ちあがる。江美も、そっと、立ちあがる。「やっぱり、似とる。最初見た時に、勘違いしてしもたんじゃー。その瞳、ケン坊の母親の里さんといっしょじゃあ。あれは、十年前だろか、ケン坊の爺さんの葬式に、ケン坊がここに一回だけ帰って来た時があった。その時に、ケン坊、今お嬢さんが立っとる場所で、ワシに言うたんじゃあ。和尚、俺はここに必ず帰ってくる。生活できる、男になって帰って来る。その時は、一生、一緒に生きて行く、一番好きな女連れて帰るから、和尚、それまでボケんと、墓守りしてくれっ!って。あんたか、あんたが、そうか、そうか、」和尚は、江美にそう言うと、声を出して泣きはじめた。娘さんが、また肩を撫ではじめる。「行こう」てらおが、立ちあがった。和尚が、手の平で涙を拭きながら、里の江の方向を指さして、ポツンと言った。「今の時期なら、ケン坊の好きな白い花、咲いとる筈じゃあ。」三人は、里の江に続く道を、降りた。彼方の山々に、霧が立ち上っていく。小さな畝を、曲がる。
なだらかな、草の斜面が、悠々と拡がっていた。夢の中で見た白い花が、一面に咲いている。一瞬、江美は幻を見た。大空に向けて、舞い上がった花は、天女に姿を変え、風に抱かれ、空に帰って行った。
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