第二十三章
それぞれの旅立ち
三人は車に乗り込んだ。江美の携帯がなる。てらおは、一旦エンジンを切り、タイミングを、ジッと待つ。「江美ちゃん、昨日からかけてるのに、やっと繋がったよ。電源、切ってたの?」マスターの声だった。数日しか、会ってないだけなのに、懐かしい。「江美ちゃん、どう、健ちゃんの故郷、みつかった?一人で、大丈夫だった?」声が、胸の奥にしみる。安心してしまう。マスターの横には、いつも健二がいた。思い出が、交差する。江美は、マスターに、今まで判ったことを、報告した。マスターは少しテンションをあげた声で、話しだした。
「江美ちゃんが、祖谷に出掛けたあとで、どうなったと思う?」「何が、どうなったの。急に聞かれても、判らないよ~」「あのさあ、のま簾の連中、健ちゃんの生き方で、目が覚めたんだって。保健所のシンさん、いつも飲んで愚痴ってただろう。同期の宮尾って奴と、うまがあわないって!シンちゃん、飲み会の席で、宮尾と言い争いになって、用意していた辞表で、宮尾の顔面叩いて、握り拳で、一発殴ったんだって」「すごーい」「それで、ギターひとつ持って、東京にいったよ。弾き語りして、のんびりメジャー、目指すって」
江美が、携帯電話を片手に、目をキョロキョロさせるので、てらおと菜々子は、目を合わせて笑っている。「それから、カズだよ、カズ!」マスターの声が、更にテンションを増す。「カズさあ、あいつ、徳島に帰るって」「えー奥さんの故郷に?」「奥さんが、前から趣味で焼いてたパン、自然何とかパン!」「マスター、それなら、天然酵母パンでしょう。前にみんなで、食べたよねー」「そう、そう、そのパンを故郷の水で造りながら、家族でペンション経営するって」「カズ兄さん、よく承知したわねー」「ゆうべ、焼酎飲みながら、あのヒョウヒョウとした顔で、言うんだよー」「なんて?」「家族が一緒なら、どこで生活しても、同じだよ。俺は、あいつと一緒になったんだから!」「カズ兄さんが~渋ーい 」江美が、電話に手を当てて、小さく笑う。マスターの声が、いつものトーンに戻る。「江美ちゃん、健ちゃんのこと、落ち着いたら、帰っておいで。みんな、待ってるから。じゃあ、また連絡するよ」電話を、切った。涙が、膝の上に落ちていく。後から、後から落ちていく。菜々子が、テイッシュを差し出しながら、てらおに言った。「江美ちゃんの、泣き虫なところが、好きだったんじゃーないのー健二さんっていう人」てらおが、エンジンをかけながら、江美に振り返り笑う。「こんな、おばさんには、なられんぞー江美ちゃん」車は、発進した。
それぞれの旅立ち
三人は車に乗り込んだ。江美の携帯がなる。てらおは、一旦エンジンを切り、タイミングを、ジッと待つ。「江美ちゃん、昨日からかけてるのに、やっと繋がったよ。電源、切ってたの?」マスターの声だった。数日しか、会ってないだけなのに、懐かしい。「江美ちゃん、どう、健ちゃんの故郷、みつかった?一人で、大丈夫だった?」声が、胸の奥にしみる。安心してしまう。マスターの横には、いつも健二がいた。思い出が、交差する。江美は、マスターに、今まで判ったことを、報告した。マスターは少しテンションをあげた声で、話しだした。
「江美ちゃんが、祖谷に出掛けたあとで、どうなったと思う?」「何が、どうなったの。急に聞かれても、判らないよ~」「あのさあ、のま簾の連中、健ちゃんの生き方で、目が覚めたんだって。保健所のシンさん、いつも飲んで愚痴ってただろう。同期の宮尾って奴と、うまがあわないって!シンちゃん、飲み会の席で、宮尾と言い争いになって、用意していた辞表で、宮尾の顔面叩いて、握り拳で、一発殴ったんだって」「すごーい」「それで、ギターひとつ持って、東京にいったよ。弾き語りして、のんびりメジャー、目指すって」
江美が、携帯電話を片手に、目をキョロキョロさせるので、てらおと菜々子は、目を合わせて笑っている。「それから、カズだよ、カズ!」マスターの声が、更にテンションを増す。「カズさあ、あいつ、徳島に帰るって」「えー奥さんの故郷に?」「奥さんが、前から趣味で焼いてたパン、自然何とかパン!」「マスター、それなら、天然酵母パンでしょう。前にみんなで、食べたよねー」「そう、そう、そのパンを故郷の水で造りながら、家族でペンション経営するって」「カズ兄さん、よく承知したわねー」「ゆうべ、焼酎飲みながら、あのヒョウヒョウとした顔で、言うんだよー」「なんて?」「家族が一緒なら、どこで生活しても、同じだよ。俺は、あいつと一緒になったんだから!」「カズ兄さんが~渋ーい 」江美が、電話に手を当てて、小さく笑う。マスターの声が、いつものトーンに戻る。「江美ちゃん、健ちゃんのこと、落ち着いたら、帰っておいで。みんな、待ってるから。じゃあ、また連絡するよ」電話を、切った。涙が、膝の上に落ちていく。後から、後から落ちていく。菜々子が、テイッシュを差し出しながら、てらおに言った。「江美ちゃんの、泣き虫なところが、好きだったんじゃーないのー健二さんっていう人」てらおが、エンジンをかけながら、江美に振り返り笑う。「こんな、おばさんには、なられんぞー江美ちゃん」車は、発進した。