思へただ去年の別れの哀しさを風にまかせしふうしゃの音を
からからと風に泣く声あはれなり高嶺の雪に思ひつたへむ
この集落からの眺めは左から塔の丸ー三嶺ー西熊ー天狗峠ー天狗塚ー牛の背と連なる
やまなみを楽しむことが出来る
林道から少し上のほうに建っているO家にはちょっと丸顔のふっくらとした人懐こい笑顔の
かわいらしいおばさんが一人で住んでいた
林道沿いにある茅葺きの崩れかけの廃家の写真を撮り、向いの山々の四季の装いを眺めて
写真に収め、林道上のO家のおばさんと話すのを楽しみに訪ねるのが常であった
家に連なる道を上がってゆくと家の手前の右に小さな畑と並んで見晴らしの良い場所に
セメントで2m角ぐらいの見晴らし台を作って、そこに飛行機型の風車を立てている
飛行機の風車は左主翼が無くなっていたが、残っている右主翼のプロペラは少しの風でも
からからと軽やかに良く回ったものである
気候の良い季節にはおばさんはその小さな畑に居ることが多いのであるが休憩時間とか
とくに夕方のころは見晴らし台に腰掛けて山々を眺めているのが常であった
林道を歩きながら上に視線を向けると早くから僕を見つけていたおばさんは軽く手を
振ってくれたものである
そのおばさんが去年の末ころに亡くなったのである、救急車で三好の病院に搬送されたが
元気で帰ってくることはなかったそうだ
去年の中ごろに訪ねたときは調子が悪いながらも、畑にいたのだが、残念である
先日、主の居ない家を眺めて寂しい思いを胸に見晴らし台に立ち霧氷の山々を眺めていると
傍で風車がからから、からからと哀しげにまわる音のみが力なく響いていた。