ホウジョウキ  ++ 小さな引籠り部屋から ~ ゆく川の流れは絶えないね

考えつつ振り返り、走りながらうずくまる日々。刻々と変わる自分と今の時代と大好きなこの国

真夏の夜の夢、薪能

2007-08-08 06:10:54 | art
夕暮れ時、浅草寺に向った。
仲店商店街も人が引きはじめ、向こうからやってくる人ばかり。
時折吹く風が、麻の着物を透かしてゆき、心地よい。
初めて袖を通す、縮みも麻の着物に麻の帯は、こんなに気持いいのかと驚いた。
風が体をすり抜けて行く感覚。

浴衣の若い女性が、ちらほら浅草寺へ向っているのが見える。

境内は、まだ大勢の人でにぎわっていた。
案内の看板を持つ人、看板の→に従って本道の脇に行くと
長蛇の列!
え、こんなに人気なの?
驚きつつ、この人たちも今日の日を心待ちに
前売りチケットを買い、今日ここにやってきた人なのか。
日がまだ落ちないなか、列に並ぶ。暑い。
30分程並ぶと、場内に案内された。

本道を背に、大きな木の下に、舞台が設けられ
柱の代わりに笹が立っていてその前に大きな薪がある。
ああ、これが薪能の舞台か。
浴衣の若い女性が意外と多いが、ほとんどは年配の女性や、ご夫婦だった。
気になるのが、浴衣を着た年配の男性の姿。粋な旦那衆だろうか。

演目は
能「清経」
狂言「泣尼」
能「鵜飼」

最初に、新門鳶かしら衆の木遣りと火入れ式がある。
三番組のまといが振られて、祝いの木遣りを奉納する。
さすが、浅草の薪能らしい趣向が凝っている。

浴衣の女性達が退屈していないか、少し気になるが大きなお世話だろう。

能のヤマ場、清経の霊が今様を舞い入水の場面になると、なぜか
風が吹き、ごおーっという音とともに薪の炎が舞い上げる。
白い煙が上がり、パチパチと薪がはねる音が響く。
鼓と笛の掛け合い、地謡の声が激しく乱拍子を刻みだすのと、
相まって、これぞ薪能の幽玄なのか。と思った。
私は、鼓と笛の音が好き。
鼓のカーンという響きや笛の哀しげにかすれた音が微妙に揃わない拍子を刻む
そのずれが心地いい。いよーっという声に頭を引っ張られるような感覚をおぼえる。
能楽堂と違って、マイクで拾い拡声しているのが
最初気になって、実はなかなか入り込めなかった。

時々、暗くなる空に更に黒い陰何羽かかたまってが横切って行く。
鳥の陰が流れるのが、明るく照らされた幻想的な舞台の背景を引き立てるようだ。

狂言の早いテンポと会話を楽しんで

鵜飼の能になる。
殺生を禁じた川で鵜飼をしていたシテが、簀巻きになって川に沈められて殺されたことを
語る場面にすごみを感じる。
真っ暗に日が落ちて、更に舞台が明るくぼおーっと暗闇に浮かびあがり
後シテの鵜飼の怨霊が赤いかつらと金と黒の妖しげな装束で
激しく舞い怨念を謡う。
薪能の開放感とざわざわした物質感のなかで上演されるに相応しいように感じた。

静かに舞台から人が去り能が終わる。
本日の公演は終了のアナウンスがあり、一斉に人々が席を立つ。

初体験の薪能が終わった。