舞蛙堂本舗リターンズ!~スタジオMダンスアカデミーblog

ダンス(フラ・ベリーダンス他)と読書と旅行とカエル三昧の日々を綴る徒然日記。

先輩の本

2007-11-13 23:53:13 | ぼくはこんな本を読んできた
作家の瀬戸内寂聴さんは、東京女子大の先輩です。
その先輩の最高傑作の一つである『源氏物語』完訳が、今年文庫化されました。

瀬戸内さんの『源氏』の刊行が始まったのは、かれこれ11年前のことでした。
当時中学1年だった私は古典文学が大好きで、特に源氏物語は無謀にも漫画化を謀ったほど好きでした。(『あさきゆめみし』つー素晴らしすぎる先達があると知り頓挫しましたが)
しかしハードカバーゆえその価格は2,000円超×10巻!!!13歳にはいささか、いえ、そうとうキビシー出費でございます。かといって私は一人っ子のせいで人のお下がりを使えない性分で、古本を買うこともできません。
しかたなく、文庫化の時を執念深く待つことといたしました。

で、待ってるうちに実に11年の歳月が流れてしまったんですねえ。
その間いろんなことがありまして、奇しくも瀬戸内さんと同じ大学に行くことになったわけです。尤も、それを知ったのは入学後だいぶ経ってからでしたが。
パイプオルガンの音色麗しい校舎手前のチャペルとか、校門を入ると正面に見えるクラシカルな本館(かつては図書館だったそうな)に瀬戸内さんも足を運ばれたのかと想像すると、不思議な縁になんとも趣深く思われるのでした。(←微妙に古文風)

そう、早速読みはじめております、巻の一!!
あらすじや重要場面はとうに知っていましたが、改めて読むとやっぱり面白いですねえ。
先輩の訳がまた素晴らしいです。って後輩の贔屓目じゃなく、文の雰囲気や内容を原文から大幅に変えることなく、なおかつ現代語として自然な文章に仕上がっています。仕事が丁寧なのですな。
さすが、これまで長きにわたって源氏物語に取り組んでこられた方だけのことはありますね!!
物語がすでにご自分のものとしてしっくりしている感じがうかがえます。

古文の時間に、現代文と同じく生徒が一人ずつ朗読する時間があったのですが、私はこれが大好きでした。
声に出して読むと、字面では意味不明だった古文の一つひとつの言葉の意味がはっきりして、生きた言語として頭にすんなり入ってくるのです。
瀬戸内さんの文章は、黙読しているだけでまさにそれと同じ現象を味わえるような感じです。古典らしさを損なわないまま、意味をすんなり理解できるのです。頻繁に出てくる歌の訳もリズム感の良い文章で、歌の情緒が味わえます。


すんなり理解してみて改めて思いました。
源氏の君、女に節操なさ過ぎ。
つーか光り輝くばかりの麗姿と頭脳明晰で芸にも優れているという美辞麗句に騙されそうだけど、冷静に見ると男としてけっこう最低です
女と見れば見境なく手を出すし、行間読むとどうも男にも手を出していそうだし、女に対して口うるさく注文つける(けどやっぱり手は出す)し、お父さんの後妻に懸想したあげく手を出す(けどやっぱりほかの女にも手を出す)し、紫式部さんも源氏に対して敬語を使っておきながら、女癖の悪さに対しては結構冷ややかなツッコミも入れていて、それがひそかに面白いです。

極めつけは有名な紫の上のくだりですね。そう、療養先で見かけた美少女(注:幼女)に執心し、ほとんど誘拐レベルで自宅に連れ込んだ挙げ句、自分好みの女に躾ける(とかいいつつやっぱり遅からず手を出す)というアレです。
い、異常だ。あんたは『痴人の愛』のジョージか。あ、コッチが本家か。

いっそのこと紫の上がナオミ並みの悪女で、あの源氏の君がさんざ振り回された挙げ句愛の奴隷にされるというのなら面白いですが、あいにく源氏の君の絶望的な女癖はその後も永遠に続き、紫の上を苦しめることになります。
まあ、最終的に源氏の君にも天罰が下り、恋人たちがみんな自分をおいて出家とかしちゃっていく上に、あろう事か自分の奥さんの一人をほかの男に取られちゃうわけですが、そのへんはこの日本一有名な古典のこと、私が解説するまでもないですね。

この『源氏物語』、瀬戸内先輩の風雅な文章と源氏の君のダメ男っぷりが見事なコントラストをなした傑作です。
原作者の紫式部さんも漢詩などの教養のすぐれた才媛だったと聞きますから、きっと遥か昔にこの原文が発表された頃も、当時の人はこのコントラストをさぞ面白く読んだんじゃなかろうかと思います。

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