ヒデオはヒロムの話を熱心に聴いた。酔いがまわって話がルーティンになっても我慢強く聞いた。そのころヒロムはT大の法科に在籍していたし、そののまま順調に卒業していれば彼の父親が望んでいたようにキャリア組になっていただろう。ところがヒロムは教養課の2年目から「組織」の中心になり、大学の出席率もかなり悪くなった。ヒロム自身、学業自体に意味を見出せなかった。大学合格で、親に対する夢の代償は払ったつもりになっていた。仁に対する思いなのか、ヒロムの言う魂のウネリの実感なのか、ヒデオはヒロムが好きだった。自分とはまるで違う境遇でありながら、この集団にいるときは何の隔てもなく接してくれることがうれしかった。ヒロムがT大生であることを知ってさらにその気持ちが強くなった。