汗臭さと石鹸の臭いが遠慮しあいながら混在する部屋。暫くそこにいると自分の消毒薬の臭いが際立ってくる。アキコが服を一枚一枚脱ぎ、その部屋のしきたりのように一枚一枚きれいにたたんでベッドの脇に置いくとヒデオの部屋の臭いがアキコの素肌を包み込んでくれるように思われた。アキコはヒデオの微かなぬくもりが残るベッドにもぐりこみ、静かに眠る。何度となく繰り返したことなのだが、そのたびに高揚する気持ち。人を受け入れようとしない部屋に無理やり押し込んだような興奮。アキコは泥のような眠りに付く前に、そんな感覚にとらわれる自分が不思議だった。
その日、アキコがうなされて目を覚ました。アキコは、それがアキコ自身がうなされているのではなく、夢の中のヒデオがうなされているのに同調して、いや、アキコは夢の中ではヒデオになっていた。涙が流れないように歯を食い縛っていてもどうしようもなく流れる涙が自分のシャツに染み込んでくる。鼻水を手の甲でぬぐって、もう一度、そのときの父親の顔を睨み返そうとするが、恐怖がそれを許さない。ヒデオは死んだ猫を蹴り飛ばし、部屋を出て行く父親を霞んだ視界の中で追いかけるのがやっとだった。それは事実か、それとも、アキコの想像か、アキコはこの部屋ではじめてヒデオと愛し合ったときのことを思い出した。
セクスの後、ハイミナールとストレートジンでが頭が軽くなっていたのかもしれない。ヒデオはヒロムが凄いと言い。ヒロムと自分が同じ行動の輪の中にいることが不思議でしょうがないとも言った。ヒデオは年少のころ、今で言う幼児虐待にあっていた。そのころの両親は学生結婚をしたのはいいが、父親は就職に失敗し、母親が居酒屋で働いて生計を立てていた。両親とヒデオと雑種の猫がヒデオの家族だった。部屋は五反田の目黒川沿い1階で6畳の居間と4畳の台所、風呂はなくドアの横にドアがあり2軒が一つのトイレを使う構造になっていた。
臭かったなー。あの部屋は臭かったよ。俺の父親はね、猫を蹴るんだよ。すぐに蹴るんだよ。酔ってね。邪魔なんだよって言って猫を蹴るんだよ。猫は飛んでね。小さな玄関のドアにぶつかるんだよ。ドーンて。猫がぐったりすると今度は俺を殴るんだよ。俺はね、痛いって言わないんだよ。逃げもしないんだよ。だから、また殴るんだよ。俺もぐったりしたフリをすると、つまんねーなーって言って、金を探して出て行くんだよ。
その日、アキコがうなされて目を覚ました。アキコは、それがアキコ自身がうなされているのではなく、夢の中のヒデオがうなされているのに同調して、いや、アキコは夢の中ではヒデオになっていた。涙が流れないように歯を食い縛っていてもどうしようもなく流れる涙が自分のシャツに染み込んでくる。鼻水を手の甲でぬぐって、もう一度、そのときの父親の顔を睨み返そうとするが、恐怖がそれを許さない。ヒデオは死んだ猫を蹴り飛ばし、部屋を出て行く父親を霞んだ視界の中で追いかけるのがやっとだった。それは事実か、それとも、アキコの想像か、アキコはこの部屋ではじめてヒデオと愛し合ったときのことを思い出した。
セクスの後、ハイミナールとストレートジンでが頭が軽くなっていたのかもしれない。ヒデオはヒロムが凄いと言い。ヒロムと自分が同じ行動の輪の中にいることが不思議でしょうがないとも言った。ヒデオは年少のころ、今で言う幼児虐待にあっていた。そのころの両親は学生結婚をしたのはいいが、父親は就職に失敗し、母親が居酒屋で働いて生計を立てていた。両親とヒデオと雑種の猫がヒデオの家族だった。部屋は五反田の目黒川沿い1階で6畳の居間と4畳の台所、風呂はなくドアの横にドアがあり2軒が一つのトイレを使う構造になっていた。
臭かったなー。あの部屋は臭かったよ。俺の父親はね、猫を蹴るんだよ。すぐに蹴るんだよ。酔ってね。邪魔なんだよって言って猫を蹴るんだよ。猫は飛んでね。小さな玄関のドアにぶつかるんだよ。ドーンて。猫がぐったりすると今度は俺を殴るんだよ。俺はね、痛いって言わないんだよ。逃げもしないんだよ。だから、また殴るんだよ。俺もぐったりしたフリをすると、つまんねーなーって言って、金を探して出て行くんだよ。