仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

人の生る木Ⅲ

2008年02月25日 16時33分35秒 | Weblog
だからさー、橋本さんは言うんだよ。人間が一番劣った生き物なんだ。考えても見ろよ。普通の動物は1年もしないうちにひとり立ちするだろ。でも人間は今のヒーちゃんみたいに18年も教育を、もっとか、教えられないと生きていけない。それは劣っていると言えないかい。動物は環境の中に一体化して生きれるけど、人間は生きるための環境を作らないと生きていけない。これは地球的に見たらおかしな存在なんだよ。環境を破壊する生き物、地球を一つ生命体と考えたら人間はそこに巣食うガン細胞みたいなものさ・・・・
僕には、橋本さんの言うことが全部真実だとは思わなかったけど、とても悲しい気分になった。悲しい気分は僕を虚無に引きずり込んで言ったんだよ。橋本さんに殴りかかったことあったよ。ヒデちゃん、僕は橋本さんの孤独感に耐えられなかったんだよ。
ヒデオはヒロムの泣きが入ったところで眠るパターンを知っていた。なぜだろう、そんな時、ヒロムが非常に愛おしく思えた。ヒロムはそのころ、桜上水のマンションに住んでいたし、ヒデオは自分とはずいぶん違うなー、と思ってもいた。ヒデオは高校を中退して、組に入った。親方が厳しい人で、それゆえ、二十歳を過ぎるころにはハイエースのバンを買って、請ができるようになった。ただ、親方に付いたころ、ヒデオがコンクリートを下水に流し、側溝の蓋にこびりついたセメントをたわしで落としているすぐ脇でタチションをされたときは、初老の親方を殺そうと思うこともあった。現場の足場から、突き落とされ腿に鉄筋が刺さったこともあった。でも耐えた、何故耐えるのか、解らないままただ、耐えた。土曜の夜、親方が飲みに連れて行ってくれた渋谷のバー、親方の女が経営する雑居ビルの一部屋、フラフラして親方にもう帰れって言われてヒデオは渋谷をさまよった。そこで「ベース」へたどり着いた。あまりに違うヒロム。生まれた場所でこんなにも、違う生き方になってしまうのか。何のことはない。ヒロム的に言えば死は平等に全ての人に訪れるのだ。かわいいヒロム。
この場所にいること自体が俺には奇跡かもしれない。
ヒデオはヒロムをベッドに運び、ヒロムの部屋を出るのがいつものことだった。