その周りに集う群衆、たぶんほとんどが新生とそれに連れられてきた胎動にまでいかない初見の者たちだろう。かれらが仁の登場を語りだすとその後からそこに集う人間にも仁の存在の特異性が伝わる。それはヒロムの思惑通りに進んでいった。 仁の入場後、一度締め切られたドアがヒデオの手で開けられ、入場が始まった。狭い階段を降りるとややひろいスペースがあり、ロビーのような役割をしていた。そこで一度、溜まり、次に会場に入るには、もう一つ鉄の扉をくぐらなければならなかった。ドアの前に3人の常連が立ち、扉の前で靴を脱ぐように言われ、靴を入れるビニル袋をわたされる。靴を袋に入れたものから、鉄の扉を開けて一人ひとり中に導れた。別世界をイメージさせる会場内、その薄暗い場所、深海のような青の照明。入ると目の前に布の壁があり、どこに行ったらいいのか、不安になる。すると誰かの左手がフッと触れてくる。男には女の、女には男の。ハッとすると、今度は右手が恥らうように、初めて恋人の手を握る時のように、ためらいながらその手を包み込んでくれる。強く引くでもなく、押すでもなく、しかし、包み込んだその手は確実に意思を持ち、その手の持ち主を場所へと誘うのだ。その手の温もりで安心感を得る。布を掻き分けて進む。日常の中では味わうことのない感触。まっすぐ立つことはけしてできない釣鐘を逆さにしたような布の突起。足の下のシワクチャの布。その下には古着が敷かれいたが白い布はすべてを覆い隠し、その感触だけを歩くものの足の裏に伝えた。安定とは違う柔らかさ。手はその場所に付くとフッとその手を離し、その肩に手を沿え、ゆっくりと力を加えた。肩の持ち主は少し増した重力に従うままにそこに座った。