仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

当日Ⅴ

2008年04月04日 17時01分11秒 | Weblog
 音が変わった。鍵盤の低音部だけを使っていた旋律が徐々に中音域から高音域へまた低音と「始まり」の時が近づいたことを教えていた。深海の青に白が重なり、やがて朝焼けのオレンジへと変わっていった。それと同時に、会場を支配していた布の突起が天井に吸い込まれるように浮上し、大きなテントのような形へと変形して行った。その会場の変化に皆が天を仰いでいるとヒロムが既に中央のステージに立っていた。この演出にはマサルの友人の工業系大学に通う2人の技師の力が大きい。彼らは滑車と紐を見事に組み合わせ、人力で会場の転換ができるように設計した。ヒロムが突然現れたかのように誰の目にも映った。挨拶もなく、ヒロムは語り始めた。
 此処に存在する誰もが此処にあることを信じています。また、世界が此処にあることも誰もが信じています。では、あなた方の存在は誰が証明してくれるでしょう。あなた方の見ている世界をそこにあるものと誰が教えてくれるでしょう。目を閉じて、耳を塞ぎましょう。世界は瞬く間に闇に変わるのです。あなた方は何故ここにいるのでしょう。なぜ此処に来なければならなかったのでしょう。あなたのお知り合いが此処を知っていたからでしょうか。それとも天の声があなた方を導いたのでしょうか。すべて、否、です。今此処にあること事態が奇跡と言えるできごとなのです。
 ヒロムはマサミの伴奏にシンクロするように軽やかにそして力強く語りかけた。