象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

今こそ減反を廃止し、コメの自給率を上げよ〜農相だった石破は”減反見直し”を訴えたが・・

2024年10月20日 05時25分45秒 | 戦争・歴史ドキュメント

 「前回」では、安倍政権による2度の減反見直しの失態が、高騰するコメ概算金(税金)と高止まりしたままのコメ価格(購買)という2重の負担を国民に強い、更に国内のコメ自給率を下げ、その結果、今回の”令和の米騒動”を生んだ事を説明しました。
 では、減反を廃止して、米の供給と流通を増やし、米価格を下げる事は出来ないのか?
 これらの問題を、農水省と農協と農林族いう”農政トライアングル”という中央組織と結びつけて説明したいと思います。
 以下、「スーパーにお米が戻っても・・」より一部抜粋です。


やはり米不足が原因だった

 農水省は、”9月になれば新米が供給され、コメ不足は解消される。円滑な米の流通が進めば、需給バランスの中で一定の価格水準に落ち着く”と主張する。だが、農水省の見方は間違っている。事実、10月に入ってからも、コメ不足のニュースが後を絶たない様だ。
 コメ不足が起きた7月末の在庫は前年同月期より40万トン少ない82万トンと近年にない低水準だった。農水省はこれを”猛暑による高温障害””インバウンドによる需要増”の影響と説明したが、根本には減反によるコメ生産量減少があった。
 農協と農水省は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するとの前提で減反を進めてきた。結果、昨年産は前年の670万トンから9万トン減少。高温障害で減少した供給は20万トンと推定され、インバウンドなどによる消費増を11万トンとして、減反による9万トンを合わせれば合計40万トンの不足だ。これは、7月末の在庫が前年同月比で40万トンの減少と丁度符合する。

 更には、今年も猛暑だったし、8月に集荷された新米の一等米の比率は前年を下回る63.7%で16年ぶりの低水準となった。その上、今年はコメ不足により、本来なら10月から食べ始める新米を先食いしている。故に、来年は今年以上にコメ不足に陥る可能性が高い。
 つまり、農水省の見方は甘く、需給バランスはコメ不足により崩され、一向に米価は下がらない。
 農協と農水省はここ数年、減反政策を強化し、農家にもっとコメの生産量を減らす様に指導してきた。それによりコメの取引価格は、この2年間で20%も上昇し、10年ぶりの高米価となった。つまり、米価の上昇は農協と農水省にとって成果以外の何物でもないし、コメ不足は彼らの筋書き通りなのだ。
 その証拠に、今年産の概算金は前年より2~4割上昇し、これは農協が今年産の米価が高い水準で推移すると予想してた事を意味する。つまり、(農水省の推測とは異なり)コメ不足が来年の秋まで続くと判断し、高い米価を農家に払ってるのだ。

 一方で、需給が緩和して卸売業者への販売価格が下がると、農協は自腹を切るか?農家から過払い分を取り戻すしかない。だが、現実には精算後に農家から過剰支払分を取り返す事はできないし、農協はそんな事は起きないと思っている。
 また、コメ不足を受けて農水省と農協は来年産のコメの作付け制限を緩和するかもだが、作付けが増えたとしても、収穫は来年9月以降まで待つ必要があり、それまでコメ不足は続く。
 一方で、農協は需給に厳しい見方をする。事実、過剰になると在庫が増えるのを嫌がって、概算金を下げ、コメの引き取りを事実上拒否した事が過去にあった。
 07年に農協は過剰作付けを見通し、米価低下を予測し、全農は概算金を前年の1万2000円から7000円へと大幅に減額。つまり、組合員への事実上の集荷拒否である。理由は売れないコメを抱えると、金利・保管料を負担する必要があるからだ。
 だが全農は、組合員農家より自らの組織の利益を優先。組合員農家は建前は農協の主人だが、実際には農協ビジネスの顧客に過ぎない。当時、コメ業界では”7000円ショック”と言われたが、見方が甘い農水省より農協の方が経済の見通しが明るい事も理解できる。


減反廃止と食の安全保証

 家計の消費支出に占める食費の割合を示す”エンゲル係数”は29.8%(23年)と40年ぶりの高水準になった。この状態で更に米価が上がれば、国民生活は益々苦しくなる。
 一方、政府は財政負担を行い、国民に安く医療サービスを提供する。逆に減反は、農家に3500億円もの補助金(納税者負担)を出し、供給を減らし米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。つまり、主食のコメの価格を上げる事は消費税以上に逆進的と言える。
 また、1961年から世界のコメ生産は3.5倍に増加してるのに、日本は補助金を出し4割も減少させた(図表1)。食料自給率低下は当然だが、戦前農水省の減反案を潰したのは陸軍省だった。つまり、”減反は食料による安全保障”とは真逆の政策なのだ。

 仮に、減反を廃止すれば1700万トン生産でき、国内で700万トン消費し、1000万トン輸出すれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整するだけで済む。
 それに、減反を廃止すれば米価格は更に低下し、輸出は増える。故に、国内の消費以上に生産して輸出すれば、自給率は100%を超える。つまり、コメの自給率は243%(=1700/700)となり、日本全体の食料自給率は60%以上にまで上がる。
 故に、最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、輸入途絶という危機時には輸出に回していたコメを食べる。政府は備蓄米に毎年500億円かけるが、平時の輸出は財政負担の必要がない”無償の備蓄”の役割を果たすのだ。

 しかし、減反は廃止できない。
 理由は、減反は農協発展の基礎となるからだ。(前回も述べたが)高い米価でコストの高い零細な兼業農家が農協に滞留した。彼らは農業所得の4倍以上の兼業収入をJAバンクに預金した。また、農業を廃業したこれら農家が農地を宅地等に転用・売却して得た利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに成長。
 つまり、減反で米価を上げ、兼業農家を維持した事とJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人である事とが絶妙に絡み合い、JAの発展をもたらしたのだ。
 一方で、減反補助金を負担する納税者、高いコメを買う消費者、米取扱量の減少で廃業した中小米卸売業者、零細農家滞留で規模拡大できない主業農家、全てが農政の犠牲者である。
 特に、政治力のない米販売業者は農政に抗議をする事も出来ずに消えていく。農協という既得権益に奉仕する農水省は”全て公務員は全体の奉仕者であり、一部の奉仕者ではない”とする日本国憲法第15条第2項に、既に違反している。

 ところで、米価が下がるとコメ生産が維持できなくなるとの主張がある。だが彼らは、米価を上げてコメ生産を維持する為に、コメ生産を減少させる減反が矛盾するとは思わないようだ。また、農業界は今の米価はコストを賄えないので”もっと米価を上げるべきだ”とも主張する。
 そもそも多数を占める1ha未満の農家のコメ生産はずっと赤字だ。赤字なのになぜコメ作を止めないのか?
 農家は赤字でも”国民の為ににコメを生産してる”と、一部の農業経済学者は主張するが、全くのウソである。


赤字でも生産を続ける理由

 仮に、1俵当りコストが1万5千円で生産者米価が5千円だとすると、米を作れば1万円の赤字。一方、コメを作らなければ2千円の地代を得て、小売価格8千円の米を買うと6千円の赤字で済む。故に、コメを作らない方が得策となる。
 ここで生産者米価が1万円に引き上げられると、米作りの赤字は5千円に縮小し、小売価格は1万3千円(=8000+5000)に上がる。故に、米作りを止めて2千円の地代を得ても、市販の米を買うと1万千円の赤字となり、自分でコメを作った方が赤字は少ない(図表3)。
 つまり、コメ作りの赤字5千円を米購入代金1万3千円と考えれば、米を買うよりも遥かに安く手に入れる事ができる。零細農家が赤字でもコメ作りを止めないのは、理由があったのだ。更に、コメ農業の赤字を損金算入し(給与所得として)納付した税の還付を受ければ利益が出る。従って、彼ら農民も経済合理的に行動してる事が判る。

 一方で、米価が市場に任せられていれば、他の農業と同様に零細なコメ農家は農業を止めて、農地をコメ専業農家に貸し出し、地代を得ようとする筈だった。しかし、米価引上げは兼業農家の滞留やコメ消費の減退、コメ過剰による減反の実施をもたらし、逆にコメ農業を衰退させた。
 アメリカやEUは農家の所得を保護する為に、(価格支持ではなく)政府からの交付金直接払いに転換。米価を下げても主業農家に交付金を直接支払えば、主業農家だけでなく、彼らに農地を貸して地代を得る兼業農家も利益を得る。それに財政負担は1500億円くらいで済む。

 以前は、麦を収穫した後の6月に田植えをしていた。それが兼業化によりGWの期間になり、二毛作は消えた。故に、田植えを元に戻し、10月にコメを収穫すれば高温障害はなくなり、麦の生産も増加し、食料自給率は70%まで上がる。
 つまり、政府が国民の為に行うべきは、”減反廃止・直接支払い・二毛作復活”である。少なくとも、農政トライアングルの保護ではない。

 総理となった石破茂氏は、農相時代には”減反廃止と直接支払い”なる政策を提唱してきた。総裁選挙でも”補助金を払ってコメ生産を減らすのはおかしい。直接所得補償をすればよい”と正論を主張。コメ不足で値段高止まりの今は、改革実行の絶好のチャンスである。
 しかしこれは、石破氏の持論”一内閣一仕事”に匹敵する大改革であり、小泉内閣時の郵政民営化と同程度の仕事だが、総理として実行できるだろうか?
 かつて、食糧管理制度の下で政府がコメを買い入れてた時代は、政府が買入れ価格(生産者米価)を下げようとすると、自民党などから”選挙があるし、農民票が稼げない”との理由で拒絶されてきた。

 10月には総選挙が控えている。
 しかも、総理が単独で改革を実行できる訳ではないし、コメ政策に影響力を及ぼすであろう森山幹事長や小野寺政調会長は農林族議員でもある上、必ずしも農政改革に前向きではない。更に、党幹部だけでなく選挙地盤が弱い他の自民党農林族議員や農協を説得する必要がある。
 一方で国会論戦になれば、民主党の戸別所得補償との違いも説く必要があるが故に、農相に相当な知恵と覚悟と腕力が必要とされるが、農林水産大臣に起用される小里氏は石破の主張を実現できるだろうか?
 以上、前回同様に、キャノングローバル研究所の山下一仁氏のコラムからでした。


最後に

 勿論、事はそんなに単純ではない筈だが、農業というのは田を耕して作物を植え、収穫して売るという(構造的にはだが)シンプルなもので、単純な需要と供給のシステムの上で成り立っている。
 一方で、減反を廃止し、供給と需要が増え、米価が安くなり、流通が潤えば、コメ卸業者も国民にもコメ農家にも優しくなる。これこそが理想の”食と農”のバランスであろう。
 もっと言えば、農水省や農協を含む農政とは仲卸という調整役に過ぎず、無駄に税金を使って巨大化&組織化する必要は全くない。
 だが、米の流通が滞れば、米専業農家や米卸業者は死滅し、農政だけが潤っても”食と農”の地盤が揺らいでは、その土壌の上に立つ農政も死滅する。

 従って、農政改革は郵政民営化以上の大仕事となる。多分だが、石破総理には正論はあるが、小里農相にその正論を実行に移すだけの知能と覚悟と勇気があるかは不透明である。
 しかし、日本の食料自給率を上げるという点では、”食と農”のバランスにおける最適解を生みだす最高の農政改革でもあるし、コメ自給率の視点からも”減反見直し”はやってみるべき価値のある政策でもあろう。

 知能は覚悟を支え、知恵は勇気を支える。
 日本の食と農を復活させるには、減反廃止という最適解の他に、選択肢はないと思えるのだが・・・ 



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