結論から言えば、挑戦者の完勝である。
ジャッジの結果は、3−0(114-113、115-112、117-110)で、挑戦者の判定勝利だったが、私の採点では4R以降はほぼ挑戦者のラウンドだったから、少なくとも7点差はついてた様に思えた。
10Rの井上のダウンだが、ダメージはほぼなかったものの、レフェリーの判断は適確で、スローで見ても当然と言える。
試合前は、両者の経験や技量の差よりも、挑戦者・堤聖也(写真左)の約6年半で僅か13試合という、キャリアの少なさが気にはなっていた。故に、どっち転んでも井上拓真が勝つだろうと、大まかな予想は出来たが、結局はセコンドの差が勝敗を分けた結果となる。
現代ボクシングは両者の力の差が極端でない場合は、セコンドの指示で勝敗が決まる事がある。
勿論、井上尚弥みたいに圧倒的な力があれば、セコンドは要らない。だが、今日の様な両者が一歩も引かない際どい打撃戦になれば、セコンドの技量が問われる事になる。
特に挑戦者サイドの戦略では、時折見せるサウスポーへのスイッチと体重を乗せた左右のボディフック、それに右のオーバーハンドが印象的だった。お陰で、井上に距離を詰められる事なく、挑戦者は(比較的楽に)打撃戦を制する事が出来た様に思えた。
特に、7Rの開始早々のサウスポーからのラッシュは見事で、あれで勝負がついたとも言える。
セコンドへの信頼が奇跡を生む
スイッチボクサーと言われる堤だが、試合後の左目の腫れを見る限り、基本は右のオーソドックスである。だが、右が強すぎて身体が開き気味になり、井上の距離でパンチを受ける事を警戒し、セコンドはサウスポーを指示したのだろう。
事実、これが見事に功を奏し、試合の大半を挑戦者のペースで進める事が出来た。
試合後の堤は”トレーナーの指示を細かく完璧に遂行した”事を最大の勝因に挙げていたが、今回の勝負に限っては、セコンドの思惑通りになったと言える。
一方で、王者から転落した井上だが、終始攻められ続けながらも、自慢のテクニックで微妙に躱してたものの、堤のパワーブローがあそこまで適確に着弾すると、立ってるのが精一杯という感じに見えた。むしろ、倒れずによく持ちこたえたとも思う。
試合を振り返ると、1Rは井上、2Rは堤と全くの互角だったが、3Rの堤の強打は適確性にこそ欠けたが、試合の流れを引き寄せるには十分だった。
4,5,6Rと挑戦者の優位は変わらない。
井上も適確なパンチをヒットさせ、会場を沸かすも堤は井上に距離を詰めさせず、逆に自分の距離でパワーブローを放ち続ける。
ただ、挑戦者にも気負いから来る”力み”が見られ、後半まで持つのかな?との心配もあったが、最後までスタミナは落ちなかった事を考えると、これもセコンドの計算通りだったのだろう。
7Rの挑戦者の怒涛のラッシュもセコンドの指示通りだった筈だが、井上もアッパーで何とか盛り返し、会場は大きく湧いた。
8,9Rは少し大人し目だったが、パワーブローの着弾数は挑戦者が上回っていた。
更に10Rには、堤が再び仕掛け、井上をロープに追い詰めると、カウンター気味の左が井上の顔面を捉え、堪らずバランスを崩した井上はダウンを取られる。
井上は”効いてない”と両手を広げて抗議するも、堤はここぞとばかりに体重を乗せた左ボディフックで、必死に反撃を試みる井上を封じ込んでいく。
11Rも堤は、体重を乗せたパワーバンドを次々とヒットさせ、井上を追い詰める。その後、堤は左目尻をカットし、流れが変わるかと思いきや傷は浅く、ドクターチェック再開後も堤の勢いは止まらない。連打をもろに浴びた井上はしばし棒立ちとなる。
最終R、最初は井上が攻勢を仕掛けるも、堤も真っ向から応戦し、王者の顔面を何度も跳ね上げ続けた。終了後、挑戦者は両手を大きく振り上げ、王者は下を向いた。
この時点で挑戦者の勝利を確信したが、リング下の2人の解説者は”微妙な判定ですね”と、耳を疑う様なコメントをしていたが、彼らは何を見ていたのだろう。
試合後のインタビューでも、新王者に君臨した堤はとても饒舌で、通訳に気を遣う程の余裕を見せていた。とても12Rを戦い抜いたボクサーとは思えない程にハツラツとしてたのも印象的である。
全ては最初から終わりまで、セコンドの思惑通りに進んだ闘いだったのだろう。
まさに、セコンドの勝利とも言える、教科書に書かれてある様な見事なボクシングであった。
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