象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

映画王国・韓国の底力〜「警官の血」と「1987」

2024年10月06日 13時44分16秒 | 映画&ドラマ

 今回紹介する2つの作品は、日本では絶対に作られる事のないと思わせる程の重厚な映画である。
 まずは、「警官の血」(2022)からの紹介だが、リーガルサスペンスの巨匠・Mコナリーも真っ青の、図太いクライムサスペンスの王道を行く作品である。
 悪こそが巨悪を潰す。例え、法や規則に反するとしても捜査である限りは違法ではない。つまり、警察の使命や正義よりも悪を撲滅する事を優先する、自称”汚職”警官の物語である。
 ワルから闇金を調達し、巨悪を潰す資金源とする。これには、3世代続く”警官の血”を受け継ぐ若いエリート警官も最初は反発するも、次第にその悪に染まっていく。

 ”白か?黒か?油断すればすぐに黒に染まる。警官とはそういうもんだ”
 だが、巨悪が存在する限り、白か?黒か?なんて事は大した問題じゃない。要は、”どんな手を使ってでも巨悪を潰す”覚悟と勇気があるかだけの問題だ。
 日本の警察ではとても考えられない事だが、違法捜査の是非を改めて考えさせられる斬新な作品でもある。但し、原作は日本の警察小説「警官の血」(佐々木譲著)というから、日本人としては少し情けなく映る。
 更に言えば、日本の刑事モノは「あぶない・・」みたいに薄っぺらなカッコつけが多く、重厚でシリアスな刑事モノを次々と生み出す韓国映画をお手本にすべきである。

 高い検挙率を誇る広域捜査隊の敏腕刑事ガンユン(チョ・ジヌン)が警官殺害事件の黒幕として浮上した。一方、警官だった父が殉職した過去を持つ新人刑事ミンジェ(パク・ヒスン)はガンユンの内偵調査を命じられ、ガンユンと組んで動く事になる。
 2人は新種の麻薬捜査に乗り出すも、その過程でガンユンは、越えてはならない一線を越えてしまう。違法捜査を当然の如く繰り返すガンユンの隣で”正義とは何か”を追い求めるミンジェは、警察内部の秘密組織とその裏に隠された不正行為、そして父の死の真相に迫るのだが・・・

 因みに、”警官の血”とはミンジェの家系が3代に渡り警察官である事から来る。一方、ガンユンは麻薬取り締まりで次々と成果を収めてはいるが、その活動費に疑念が持たれ、これを調査する為に派遣した警官が殺害された。
 故に、ガンユンが犯人ではないかとの嫌疑が掛けられる。
 その頃、前科3犯のヨンビンという麻薬王が刑を終え出所。ガンユンは麻薬密販を手掛けるドンチョルと手を結び、活動費をくすねていたが、ヨンビンの出所で焦りが出る。つまり、この機会を利用し、ガンユンの不正を暴こうというのが監察官や警察上層部の狙いだ。
 そのガンユンだが、ミンジェの父親に勧められ警官となり、共に働いた経歴があり、ミンジェに父親の姿を映し出していたのだ。


巨悪を潰す為の正義とは・・

 しかし、ここらの裏事情が少し複雑で、ついていけない人も多かったろう。
 以下、「警察の闇を暴く・・」その他を参考に主観を織り交ぜ、大まかに纏めます。

 そこで少し整理すると、ミンジェの父親とガンユンは同じチームで働き、延南会という資金調達組織を作り活動したが、これが悪用され、父親は何者かに殺害された。が、これを復活させたのがガンユンである。
 更に、父の死により麻薬中毒に陥ったミンジェの母親を逮捕し、(間接的にだが)自殺に追いやったのも実はガンユンであった。
 事の真相を知らされ、動揺するミンジェだが、”どんな手段を取ろうが捜査は違法でない。君は愚劣な官僚だけにはなるな”とガンユンに説得される。

 一方で、資金繰りに行き詰まり、冷静さを失いつつあったガンユンは、賭博高利貸しのヤクザを電気ノコで傷つけて脅し、キム会長の息子がコーヒーから新しい麻薬を作る為の投資家を募ってる事を吐き出させる。
 ガンユンはすぐに、コーヒー工場への立ち入り調査許可を願い出るも”キム会長は延南会の最大支援者だ”と却下される。
 ここにて、警察組織と悪徳企業との癒着の実態が顕になる。つまり、警察が巨悪を支え、その巨悪をガンユンが違法な資金を使って排除しようとする構図である。
 追い詰められたガンユンは、パーティーに踏み込む為の資金を、麻薬密売業のドンチョルに借りようとするが、”無謀過ぎる”とミンジェが止めに掛かる。

 ガンユンは激怒し、”警官の任務は境界線の上に立つ。黒と白のどちらに染まってもダメだ。市民の支援があるグレーゾーンに立つんだ!世間を動かす警官になれ!”と自身の正義観をミンジェに押し付ける。
 秘密裏にドンチョルから資金を借ったガンユンは、ヤクザ男に金を持たせ、パーティーに潜入させた。現場を差し押さえる為に、自身の捜索チームを配備していたガンユンだが、首尾よく麻薬王ヨンビンとキム会長の息子を逮捕する。
 一方、外で待機してたミンジェは、警官殺しの犯人と格闘となり、腹部を刺されるも、ガンユンに救われる。が、逮捕した犯人は見事にすり替えられていた。
 裏切られたと思ったミンジェは病院を抜け出し、ガンユンの所へ向かい、”貴方が警官を殺した!もうアナタの正義はグレーでなく真っ黒だ”と激昂する。

 ガンユンはここにて全てを認めた。
 ”俺より悪い連中を刑務所に送り、警察を辞める”と言い放つも、”私は貴方にはついていけない”と反発するミンジェに手錠を掛け、車のトランクに押し込む。
 ドンチョルに大金を借りたままのガンユンだが、麻薬密輸に手を貸す事で借りをチャラにしようとする。が、ドンチョルはトランク内のミンジェを人質に取り、忠誠を試すも、ガンユンは逆にドンチョルを銃で脅し、再びミンジェを窮地から救い出す。
 その後、ガンユンは単独で日本のヤクザが待機する密輸船に乗り込むが、裏切りがバレて負傷する。が、ゴムボートに待機してたミンジェがガンユンを救い出し、その直後に海上麻薬監視隊が突入し、派手な銃撃戦の後、密輸業者は逮捕され、2人は何とか生き延びた。

 ヤクザ男が持ち逃げしたと思われた大金だが、ガンユンからの事前の指示通り、警察に届けられる。これを機に監察は動き出し、ガンユンは”犯人すり替えの容疑”で逮捕され、刑務所に送られたのだが・・
 ”犯人すり替えは犯罪にはならない”と食い下がるミンジェだが、”ヨンビンにうまくハメられた。これも自分の罪。人生には負けもある”とガンユンはすり替えの真相を漏らす。
 一方で、何とかガンユンを救いたいミンジェだが、父殺殺害の真犯人を幼い記憶から探し出し、真相を問い詰める。その後、元警察官の高官に会い、”父親殺害の指示を公にしない”との条件でガンユンの釈放が決まる。
 悲しいかな、ミンジェの父は巨悪を倒そうと奮闘する内に、グレーから真っ黒に染まっていたのだ。


最後に

 ここまで詳しく紹介する必要もないが、ガンユンとミンジェの1対1の人間ドラマはとても見応えがある。
 対極に位置していた互いの正義は最後には1つに収束する。が、それはミンジェの父親が目指した正義ではなかったか。一方で、ガンユンはある時は反発し、ある時は叱咤激励し、ミンジェを自分の息子の如く成長させていく。
 つまり、ガンユンはミンジェの中にもう1人の自分を見出していたし、ミンジェもガンユンの中にもう1人の父親を見出していた。
 そう、2人は”警官の血”を脈々と受け継ぐ札付きの違法捜査官なのだ。やがて継承は新たなる創造を生み、捜査も新たな次元へと突入する。つまり、違法捜査も新しい世界では(捜査である限り)違法ではなくなる。

 この作品は、単に違法捜査の実態や警察内部の汚職や巨悪を描くではなく、2つの”警官の血”が混じり合う時の化学反応を濃密な人間ドラマに沿う様に描いている。
 それにお気づきだろうが、この作品には一人も女性が登場しない。つまり、警察というのは基本的には男社会なのだ。故に、重苦しい展開もシンプルで自然な流れを醸し出してくれる。

 こうした潔さも、この作品に惹かれる大きな要素の1つである。それに、ここまで腹を括らないと巨悪は根絶できない事も教えてくれる。これは、Mコナリーの作品にも共通する事だ。
 ”やったもん勝ち”といえば聞こえは悪いが、巨悪を駆逐する真の正義とはそういうもんだろう。
 最後は、黒のスーツで決め込んだミンジェが高級外車に乗り、出所したばかりのガンユンを出迎える所で幕を下ろす。
 ”闇資金はたっぷりとある。今度はどこの巨悪を潰しましょうか?”と語るミンジェの成長した姿は、亡き父と瓜二つでもあった。

 全く、ドロドロとした幕開けから、英姿颯爽とした幕切れに結びつける辺り、非常に心憎い演出でもある。
 つまり、クライムサスペンスとはこうあるべきなのだろう。


追記〜映画「1987」(2017年)

 次に後者だが、これはこれで韓国映画の底力と本気度を感じさせる極太ノンフィクションである。実際に1987年に起きたソウル大学を中心に起きた民主化運動をモデルにしてるが、安保運動の韓国版と言えば解り易い。
 僅か1人の学生の拷問による死亡事件が韓国全土を大きく揺るがす陰謀事件に発展する。
 豪華オールスターキャスト陣で集結して挑んだ作品には、最初から最後まで目が離せない濃密な人間ドラマでもある。




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