書き溜めてる数学ネタがかなりの量になってるので、これからは数学をメインに次々と紹介していこうと思います。
前回「その2」では、”素数に憑かれた数学者たち”として、古代ギリシャ時代の数学者であるピタゴラスやユークリッドにエラトステネス、そして17世紀のフランスの数学者(本業は弁護士)であるフェルマーを紹介しました。
そこで今回は、フェルマー(後半)とオイラーの偉業について述べたいと思います。
フェルマーの偉業
素数に関するフェルマーの発見はこの他にも「2平方定理」や「フェルマーの小定理」や「フェルマー素数」などがある。
まず、「2平方定理」とは素数を平方数の和で表す法則で、”4で割ると1余る素数は2個の平方数の和として一意的に表され、4で割ると3余る素数は2個の平方数の和では表せない”と定義される。
これは、2以外の素数は全て、4で割ると1余る数と3余る数に分類できるが、これらの分類を”平方数の和”で特徴付け出来る事を示している。
事実、5=4×1+1=1²+2²、13=4×3+1=3²+2²、17=4×4+1=1²+4²、29=4×7+1=5²+2²、37=4×9+1=1²+6²、と4で割ると1余る素数は確かに平方数の和となり、一方で4で割ると1余る素数は、3や7は勿論、19も平方数の和では表せない。確かに、19以下の平方数は1,4,9,16だが(足しても)19になるペアは存在しない。
フェルマーの「2平方定理」は後にガウスの数論によって複素数の中の”ガウス素数”として再論され、”代数体”と呼ばれる大きな現代数学の分野に繋がってきます。
次に「フェルマーの小定理」ですが、高校受験や大学受験の裏技として塾や予備校でも使われ、今でも有名な定理です。
”pを素数、aをpの倍数でない自然数とすると、aᵖ⁻¹をpで割った余りは必ず1となる。つまり、aᵖ⁻¹−1はpの倍数となる”で定義されます。恥ずかしいかな、私初めて知りました(悲)。
例えば、a=2として、p=3の時、2³⁻¹−1=3は3の倍数、p=5の時、2⁵⁻¹−1=15は5の倍数、p=7の時、2⁷⁻¹−1=63は7の倍数となる。同様に、a=3として、p=2の時、2²⁻¹−1=2は2の倍数、p=5の時、3⁵⁻¹−1=80は5の倍数、p=7の時、3⁷⁻¹−1=728は7の倍数となる。
この様に、指数計算で得られる非常に大きな数を素数で割った余りが常に1となるのは驚異的とも言えますね。
この性質は”素数が作る数空間(5元体を含む有限体やp進体など)”やRSA暗号の世界とも深く関係します。
(少し専門的になりますが)証明は、p=5の時を例にとり、5の倍数でない任意のkに対し、k⁴を5で割った余りが1を示せばいい。これは5元体F₅にて、”任意の要素k=1,2,3,4に対し、k⁴=1である”事と同義であるから、F₅ではk,2k,3k,4kは1,2,3,4の並べ替えになるので、これらを掛け合わせ、k・2k・3k・4k=1・2・3・4を得る。 故に、k⁴=1が示せる(証明終)。
最後にフェルマー素数ですが、nを0以上の整数として、Fₙ=2^(2ⁿ)+1というフェルマー数の計算式を提示しました。
奇跡的にも、5番目までのフェルマー数は全て素数となってます。
事実、F₀=2^(2⁰)+1=2¹+1=3、F₁=2^(2¹)+1=2²+1=5、F₂=2^(2²)+1=2⁴+1=17、F₃=2^(2³)+1=2⁸+1=257、F₄=2^(2⁴)+1=2¹⁶+1=65537となりますね。
フェルマー数の中でも素数であるものをフェルマー素数と呼びますが、フェルマー自身はフェルマー数は全てフェルマー素数であると予想した。但し、6番目のフェルマー数であるF₅=4294967297が素数かどうかはフェルマーにも判定できなかった。
50年以上経った1732年、オイラーは4294967297=641×6700417と素因数分解し、”F₅が素数ではない”事を発見します。
計算の達人であるオイラーのなせる神業ですが、フェルマーの時代にはそこまで数学(数論=算術)が進歩してなかった事も考慮する必要がありますね。
フェルマーからオイラーへ
そのオイラーですが、”フェルマー数の素因数は(2ⁿ⁺¹の倍数)+1の形である”という「オイラーの判定法」を使い、フェルマー素数の闇を暴いた。つまり、n=5の時は、F₅の因数は”2⁶の倍数+1=64の倍数+1”の形をとる。
こうしてオイラーは、素因数641=10×64+1を見つけたのだ。
因みに、その次に来るフェルマー数はF₆=18446744073709551617ですが、オイラーの発見から更に100年以上の歳月を必要としました。同じくオイラーの法則を利用したランドリーは1880年、当時82歳と高齢ながらも、F₆=274177×67280421310721との素因数分解を発見します。
その後、F₇とF₈はそれぞれ1970年と80年に電子計算機により素因数分解され、10番目のフェルマー数F₉は、1990年に”数体ふるい法”を用い、コンピュータを使って素因数分解された。
現在では、フェルマー素数はフェルマー自身が見つけた5つ以外は見つかっておらず、それ以外にフェルマー素数はがあるか否かも証明はなされていない。
オイラーは素数の研究だけでなく、様々な分野でも偉業を成し遂げました。その中でも現代数学に大きなテーマと影響を与えたのが、ゼータ関数の発見です。
オイラーと言えば、若干27歳(1735年)の若さでなし得た”バーゼル問題”で有名ですが、1/1+1/4+1/9+・・・=π²/6を導き出し、平方数の逆数の無限和にπ(円周率)が現れた事で、数学の世界は衝撃を受けます。
当時は微積分の発見により、三角関数の微積分を使い、円周率を無限級数の和で表す事が知られてたし、円周率をかなりの桁数にまで求める事が可能でした。しかし、バーゼル問題には三角関数の影は全く見えてなかったから、その衝撃も大きかった。
その後、自然数の偶数乗の逆数和についても調べ上げ、答えには必ずπが現れる事を発見します。
バーゼル問題の解決という衝撃のデビューから2年後の1737年に、オイラーはこれまた衝撃的な等式を発見する。それは”バーゼル問題”の左辺である”平方数の逆数の無限和”=1/1+1/4+1/9+・・・=(2²/(2²−1))×(3²/(3²−1))×5²/(5²−1))×・・・と、この等式の右辺が全ての素数(の2乗)を渡る積になる。つまり、”オイラー積”の2乗版の誕生である。
この等式は、全ての素数と円周率の関係を示す数学史上初めての重要な発見となった。
この”オイラー積”ですが、1+1/2ˢ+1/3ˢ+・・・=2ˢ/(2ˢ−1)・3ˢ/(3ˢ−1)・5ˢ/(5ˢ−1)・・・と、”全ての自然数を渡る無限和=全ての素数(のs乗)を渡る無限積”の形で表され、左辺はゼータ関数になる事から、”オイラー積表示”とも呼ぶ。
オイラーは自身が発見した積表示を使い、”素数が無限にある”事を証明します。
証明はとても簡単でした。
まず、s=1の時、左辺(オーレムの調和級数)は1+1/2+1/3+・・・=∞となり、一方で右辺(オイラー積)=2/(2−1)・3/(3−1)・5/(5−1)・・・となる。ここで仮に素数が有限個なら、右辺も有限個の積で有限値をとり、左辺が無限大である事に矛盾。故に、素数は無限に存在する。
因みに、調和級数の発散ですが、1+1/2+1/3+・・・=1+(1/2)+(1/3+1/4)+(1/5+1/6+1/7+1/8)+・・・>1+(1/2)+(1/4+1/4)+(1/8+1/8+1/8+1/8)+・・・=1+1/2+1/2+・・・=∞となる。
オイラーの偉業とオイラー積
でもオイラーは、どうやって”積表示”を発見したのだろうか?実は彼はエラトステネスの篩(ふるい)をヒントにオイラー積を導きます(「リーマン”2の10”」参照)。
まず、ζ(n)=1+1/2ˢ+1/3ˢ+1/4ˢ+・・・ー①とおく(事実オイラーはゼータ関数をZ関数で表記した)。これは(1を含み)0でないので、両辺を1/2ˢ倍すると、1/2ˢζ(s)=1/2ˢ+1/4ˢ+1/6ˢ+1/8ˢ+・・・ー②を得る。
ここで、①−②=(1−1/2ˢ)ζ(s)=1+1/3ˢ+1/5ˢ+1/7ˢ+1/9ˢ+・・・ー③となり、右辺で分母に2の倍数である項は全て消える。
同様に、③の両辺に1/3ⁿを掛け、1/3ˢ(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1/3ˢ+1/9ˢ+1/15ˢ+1/21ˢ+1/27ˢ+・・・ー④を得て、③−④=(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1+1/5ˢ+1/7ˢ+1/11ˢ+1/13ˢ+1/17ˢ+・・・となり、分母に3の倍数の項は全て消える。
後も同様に、1/5ˢを掛け、上の式から引くと、(1−1/5ˢ)(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=
1+1/7ˢ+1/11ˢ+1/13ˢ+1/17ˢ+1/19ˢ+・・・となり、分母に5の倍数の項は全て消える。
以降、右辺の分母の素数の項がなくなるまで続けると、・・・(1−1/7ˢ)(1−1/5ˢ)(1−1/3ˢ)(1−1/2ˢ)ζ(s)=1となり、ζ(s)=(1−2⁻ⁿ)⁻¹(1−3⁻ⁿ)⁻¹(1−5⁻ⁿ)⁻¹・・・と変形でき、”全ての素数pを渡る無限積”である”オイラー積表示”が直感でも導ける。
一般にオイラー積の証明は、無限等比級数の公式(1+x+x²+x³+・・・=1/(1−x)、|x|<1)を使い、1/(1−2⁻ˢ)・1/(1−3⁻ˢ)・1/(1−5⁻ˢ)・・・=(1+1/2ˢ+1/2²ˢ+1/2³ˢ+・・・)・(1+1/3ˢ+1/3²ˢ+1/3³ˢ+・・・)・(1+1/5ˢ+1/5²ˢ+1/5³ˢ+・・・)・・・と素因数分解の形に変形し、展開される全ての項の分母の自然数が素数の積に一意的に表される事から、=1+1/2ˢ+1/3ˢ+1/4ˢ+・・・=ζ(s)と展開される事で、その証明が可能になる。
こうして、ユークリッド以来、約2000年を経て、若き超新星の天才オイラーにより”素数が無限個ある”事の正式な証明が得られた訳ですが、更にオイラーは”素数の逆数の全ての和が無限大になる”事もこの年に発見します。
オイラーはまず、自然数の逆数の和をオイラー積表示の(s=1の時の)式で表し、上の証明でやった様に、1+1/2+1/3+・・・=(1+1/2+1/2²+1/2³+・・・)×(1+1/3+1/3²+1/3³+・・・)×(1+1/5+1/5²+1/5³+・・・)×・・・ー⑤の形に変形します。
次に、この両辺の対数を取り、更にテイラー展開からlog(1+x)=x−1/2x²+1/3x³−1/4x⁴+ ・・・≒xとなるので、⑤式の右辺の対数≒(1/2+1/3+1/5+・・・)+(1/2²+1/3²+1/5²+・・・)+(1/2³+1/3³+1/5³+・・・)+(1/2⁴+1/3⁴+1/5⁴+・・・)+・・・=∞と出来る。
右辺の対数=∞な事は、1+1/2+1/3+・・・=∞より、その対数も∞になる事から明らかですね。
そこで、一番最初のカッコ内の和、つまり”素数の逆数の和”が無限大を示す訳ですが、それ以外の部分は素数の2乗以上の逆数の和です。一方で、1+1/2²+1/3²+1/4²+・・・=π²/6<2より1/2²+1/3²+1/4²+・・・<1となるから、素数が2回以上掛かってる項の和は有限(<1)となり、⑤式の右辺が無限大である事から、1/2+1/3+1/5+・・・も無限大である事が直感的でも理解できる。
これこそが、天才オイラーの得た結論である”素数の逆数の和が無限大”である事の証明でした。但し、厳密な証明は「リーマン”2の4”」を参照して頂くとして、ここでは省きます。
最後に
更に驚く事に、オイラーは彼の師匠でもあるヨハン・ベルヌイが発見した”1+1/2+1/3・・・=log∞"を元に、”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”との漸化式をも発見する(詳しくは「リーマン”2の5”」参照)。
つまり、素数の逆数の和の発散速度が極めて遅い事をオイラーが数学史上初めて、感覚的に表現した。これが厳密に証明されるのはずっと後の事(メルテンスの第2定理=1874年)だが、オイラーの直感の凄さをまざまざと思い知る。
以上より、素数の逆数和は調和級数(自然数の逆数和)と同様に発散し、(感覚的には)平方数の逆数和はπ²/6に収束するので、”素数は全ての自然数よりは少なく、平方数よりはずっと多い”とイメージできる。
一方で、素数の逆数和は無散するには発散するのだが、その速度がとても遅い。事実、調和級数の発散のスピードもlognと遅いが、素数の逆数の無限和の発散スピードは(もっと遅い)loglognくらいとされる。勿論、調和級数の対数を取って評価してるので当然と言えば当然ですが・・・
故に、こうしたオイラーの神がかりな発見は”素数が無限個ある”事の別証明にもなり、更に”素数の個数がどの程度の大きさの無限であるか”の発見に繋がり、”素数の個数がどれだけあるか”の考察にも繋がっていく。
こうした一連のオイラーによる発見は、まさにギリシャ時代の発見を超えた大きな進化とも言えますね。
つまり、無限個ある素数がどんな並び方をしているのか?それがわからない限り、無限大の程度もわからない。
これらの考察がガウスの素数定理(素数の密度関数)に発展していくのも、とても興味深い。
次回「その4」では、素数に挑んだ数学の王ガウスの偉業について紹介したいと思います。
少し長くなりすぎましたが、ご勘弁をです。
エラトステネスの篩(ふるい)をヒントに得たオイラー積表示(ゼータ関数=オイラー積)ですが、神がかりなオイラーの直感の凄まじさを思い知らされます。
まさにバーゼルという地域とその時代が生んだ革命児というか風雲児だったんでしょうか。
それに比べると、女子高生の美しいピタゴラスの証明すら小さく霞んで見えますね。
オイラーの周りを囲む人物
この2つがオイラーを数学の道に引き寄せ、数学者として大きな花を咲かせました。
現代数学の原点を作った創始者とも言えますかね。
バーゼル問題→オイラー積→素数が無限にある事の証明
こうした一連の流れは、神が創り出した魔法のようでもあります。
女子高生の証明も読んでくださって有り難うです。