ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

「駆ける魂」とサンピア倉敷

2007-06-02 23:42:26 | 日記
日経新聞の夕刊に大ちゃんが出てる、という話は小耳に挟んでたのですが、コンビニでの入手に失敗したもので、先日販売店に乗り込んでまとめてバックナンバー買って来ました。親切に対応してくれたおじさんありがとう。

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ここの所、硬めな媒体での露出が増えてますね。思うのは、世界選手権でメダルを取って、初めて世間的には「男子にも世界で戦える選手が出現した」と思って貰えるんだなあ、ということです。
私は彼をトリノで発見したつもりだったんですけど、世間様に取っては彼は「今回初めて出て来た人」だったんでしょうか、もしかして。

という訳で、「駆ける魂」三回連載。内容的には「逆風満帆」とそんなに変わらないはずなんですが、文体はえらく文学的です。「彼はアーティストだ」とか、いきなりモロゾフさんのセリフで始まる(上)の巻。これは一体どういう小説ですか。

(上)では技術だけでなく表現力を兼ね備えた芸術性の高さと、その反面謙虚過ぎるというか弱気な性格、そしてそこからの脱却を手際よくまとめ。
(中)では「神戸プチ家出事件」のやけにリアルな描写に始まり、マイペース(?)だった倉敷での少年時代からエリートコースを歩むことへの戸惑いが描かれ。
(下)では3年後のバンクーバーを目指して文字通り駆け抜けようとしている現在で結ばれています。

(中)のプチ家出はファンには有名な話ですが、「自由になりたい」という言葉は生々しいですね。彼の場合、本人が動くより先に周囲の状況が動いて来たような印象があるので…それだけ才能に期待されて来たということなんだと思いますが、本人にして見れば、自分が覚悟を決める前に逃げ道を塞がれてしまったようで息苦しかったんでしょうね。
そこから一転して(下)ではまさに覚悟完了したような、戦う目をした横顔が頼もしい。今の彼に取ってスケートは、誰に強要されたのでもない「自分の選んだ道」なんだなと思える、そのコントラストが鮮やかです。

これを読んで改めて思うのは、私って初めから強い人ではなく、自分の弱さに傷ついてのたうち回って、でもそこを乗り越えて強さを掴んだ、みたいな人が好きなんだなあ、ということでした。以前の記事にも書きましたけど。自分の弱さを知る人は、きっと強いんじゃないかなと思うのです。

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で。個人的なポイントは、倉敷時代の状況や、今の倉敷の状況が結構詳しく出て来たことです。それで改めて、私も色々思い出しました。

今でこそ、岡山&倉敷って日本のフィギュアの中でもちょっとした勢力になりつつありますが、以前は全然そうじゃなかった。私は単なるサンピアの一般客で、関係者でもなんでも無かったですけど、たまに滑ってる子供たちを見ては「こんなフィギュア不毛の地でがんばってるんだなー」と大きなお世話にも程があることを思っていたものです。人によっては、岡山にフィギュアやってる子供たちがいること自体知らなかったかも知れません。
だからこそ、大ちゃんがサンピアで育った選手と聞いた時には心底驚きました。こんな英才教育とはほど遠い所で、よくそんなハイレベルな選手が育ったなあ、と思って。
記事に書いてあるように、自由にのびのびやれることで生来の感性を延ばすことが出来たのも大きいとは思いますが、やっぱり「嚢中の錐」ってヤツだったのかなあと思います。

今、岡山&倉敷のフィギュア界はとても活気付いてるみたいです。今の子供たちは大ちゃんという身近な目標を励みにできるし、先生方もノウハウや経験を積んで来たし、大ちゃんが開拓したルートで、関大まで練習に行く子供たちもいるそうだし。大ちゃん一人の力ではないかも知れませんが、でも彼が地元にもたらした影響は決して小さくないと思います(大ちゃんとほぼ同世代で頑張ってる絵己ちゃんや大上くんもスゴいと思います)。

決して恵まれているとは言えない所で競技を始めて、でも周囲の人の援助を受けて大きく育って、そしてその恩恵が、今度は地元の後輩たちに受け継がれて行く。
たまたま自分の出身地が近かったこともありますが、こういう所が、彼を応援してていいなあ、と思える所でもあります。

※このネタ、多分もう一回引っ張ります。