~マンスリー連載の映画監督評伝(毎月上旬更新)~
第13部「北野武の物語」~第4章~
前回までのあらすじ
ビートたけし「“たけしらしい毒がない”といわれるんだけれど、俺はいつも毒がある映画をやらなきゃいけないわけ? 毒がある映画もあるだろうし、毒がない映画もあるだろうし。純愛モノもやりたければ、お涙ちょうだいもやりたいわけ、こっちとしては。“いつも毒を”というんだったら、一本創ればいいわけでしょう。同じ感じで、寅さんみたいに。それは映画監督として、あり得ないわけで」
田山力哉「いや、そうじゃないんです。今回、なぜつまらなかったんだろうか、あぁ毒がないからだ・・・って、逆にいくわけなんですよ」(TVタックル『映画監督の逆襲』篇より)
「『HANA-BI』までは、まだ許せる。『キッズ・リターン』も悪くはないけど、ヤクザの話を入れている。『監督・ばんざい!』とかナントカは何をやっているんだろうなと。自分のお楽しみに金を払う気はないし」(常に北野映画に批判的な「おすぎ」の批評、ラジオ番組より)
…………………………………………
まず、筆者個人の評価による北野映画をランキングしてみる。
(1)『3-4X10月』(90)
(2)『ソナチネ』(93)
(3)『キッズ・リターン』(96)
(4)『HANA-BI』(97)
(5)『座頭市』(2003)
(6)『あの夏、いちばん静かな海。』(91)
(7)『その男、凶暴につき』(89)
(8)『アウトレイジ』(2010)
(9)『Dolls ドールズ』(2002)
(10)『アキレスと亀』(2008)
(11)『監督・ばんざい!』(2007)
(12)『菊次郎の夏』(99)
(13)『TAKESHIS’』(2005)
(14)『みんな~やってるか!』(94)
大体、こんな感じ。
(外国映画である『BROTHER』(2001)は、敢えて外した)
とくに90年代に傑作を発表し、ゼロ年代は失速気味、、、といった評価。
映画監督としてのデビューは20年以上も前、作品数も14を数えれば、既にベテランの域に到達しているのだろうが・・・
改めて、その早撮り・多作ぶりに驚く。(映画ばかり撮っているわけではなく、俳優をやったり、バラエティの司会をやっているわけだから)
つぎに、筆者独自の調査(都内150人アンケート)による北野映画のランキングを。
敢えて映画小僧には聞かず、「映画が“そこそこ好き”」というひとに絞ってみた。
(1)『キッズ・リターン』
(2)『HANA-BI』
(3)『座頭市』
(4)『菊次郎の夏』
(5)『ソナチネ』
(6)『あの夏、いちばん静かな海。』
(7)『アウトレイジ』
(8)『その男、凶暴につき』
(9)『アキレスと亀』
(10)『Dolls ドールズ』
(11)『3-4X10月』
(12)『みんな~やってるか!』
(13)『監督・ばんざい!』
(14)『TAKESHIS’』
納得というか、予想通りの結果が出た。
但し9位以降の作品に関しては、そもそも観ているひとが少なく、どんぐりの背比べといった感じだ。
…………………………………………
『キッズ・リターン』の評価・人気の高さは、劇場で「体感」している。
テアトル新宿、公開初日の7月27日午前10時―行列が出来ていて、驚いた。
こんなこと、北野映画で初めてのことである。
高校を卒業したマサル(金子賢)とシンジ(安藤政信)が、開き直るまでの物語―光が射すのは「ほんの」少しで、青春の蹉跌がメインとなっている・・・ものの、後味は悪くない。
ビートたけしとしての照れ隠しともいえる「コントのようなギャグシーン」(成人映画館でのアレコレ)は、じつは「あってもなくても」よく、それは、主題がしっかりしているからそう感じられるのだろう。
それにしても、この入りは(過去が過去だから)異常だ、
バイク事故によるリハビリ映画だからであろうか、筆者は本作を3度観に行き、そのいずれもが満員御礼だった。
批評家筋からも好評で、いままで無視を決めこんでいたメディアもこぞって北野映画を特集、その波に乗った、、、というわけでもないのだろうが、翌年の『HANA-BI』が金獅子グランプリ(ベネチア映画祭、最高賞)を獲得する。
「賞を取ったら傑作(という評価)になる」といったのは、イラストレーターの宮崎祐治。
俳優の津川雅彦は北野映画の評価と興行の「反比例な」関係性に噛みつき、
批評家のおすぎは「いっつもヤクザを絡ませる」と厳しい。
じゃあ、スコセッシはどうなるんだ―とも思うのだが、権威主義になびかない異論は貴重でもある。
しかしタイトルも秀逸な『HANA-BI』が、物語・主題の両面で「ひじょうに分かり易かった」ことも事実なのだった。
…………………………………………
天下国家を語る余裕なんかない、ふつうのひとびとは、自分の身の回りのことだけで精一杯なんだ―北野武はベネチア凱旋直後にそう語ったが、『HANA-BI』はそれを物語として提示した作品である。
笑いはするが喋ることはしない病気を患う妻と、自分の身代わりとして下半身不随となった同僚。
ふたりのため、そして自分のために、主人公の刑事は盗難車をパトカーに改造し銀行強盗を企てる。
破滅は承知のこと、彼は妻と最後の夏休み―冬休み、なのかもしれない―に旅立ち、そうして自害する。
ヤクザの憂鬱(=『ソナチネ』)をふつうのひとの物語にしてみたら、普遍性を獲得した―そんな単純な作品ではないのだろうが、妻が唯一発する「ありがとう、ごめんね」も効果的に働き、北野武は世界のKITANOとなった。
芥川賞もオスカーもそうだが、じつは受賞後の第一作目こそ勝負の作品となる、、、はず。
『菊次郎の夏』は、そういう意味では個人的に期待はずれ―いやそれ以上か、幻滅にちかい感想を抱いてしまった。
天使の羽をつけた不細工な少年の、母親探し。それに同行する、ヤクザな男の物語。
笑うにも笑えず、泣くにも泣けず。
生殺しにさえさせてくれない北野映画は、監督デビュー以来、初めてのことだった。
…………………………………………
つづく。
次回は、5月上旬を予定。
…………………………………………
本シリーズでは、スコセッシのほか、デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、ブライアン・デ・パルマ、塚本晋也など「怒りを原動力にして」映画表現を展開する格闘系映画監督の評伝をお送りします。
月1度の更新ですが、末永くお付き合いください。
参考文献は、監督の交代時にまとめて掲載します。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『線引きが分からない』
第13部「北野武の物語」~第4章~
前回までのあらすじ
ビートたけし「“たけしらしい毒がない”といわれるんだけれど、俺はいつも毒がある映画をやらなきゃいけないわけ? 毒がある映画もあるだろうし、毒がない映画もあるだろうし。純愛モノもやりたければ、お涙ちょうだいもやりたいわけ、こっちとしては。“いつも毒を”というんだったら、一本創ればいいわけでしょう。同じ感じで、寅さんみたいに。それは映画監督として、あり得ないわけで」
田山力哉「いや、そうじゃないんです。今回、なぜつまらなかったんだろうか、あぁ毒がないからだ・・・って、逆にいくわけなんですよ」(TVタックル『映画監督の逆襲』篇より)
「『HANA-BI』までは、まだ許せる。『キッズ・リターン』も悪くはないけど、ヤクザの話を入れている。『監督・ばんざい!』とかナントカは何をやっているんだろうなと。自分のお楽しみに金を払う気はないし」(常に北野映画に批判的な「おすぎ」の批評、ラジオ番組より)
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まず、筆者個人の評価による北野映画をランキングしてみる。
(1)『3-4X10月』(90)
(2)『ソナチネ』(93)
(3)『キッズ・リターン』(96)
(4)『HANA-BI』(97)
(5)『座頭市』(2003)
(6)『あの夏、いちばん静かな海。』(91)
(7)『その男、凶暴につき』(89)
(8)『アウトレイジ』(2010)
(9)『Dolls ドールズ』(2002)
(10)『アキレスと亀』(2008)
(11)『監督・ばんざい!』(2007)
(12)『菊次郎の夏』(99)
(13)『TAKESHIS’』(2005)
(14)『みんな~やってるか!』(94)
大体、こんな感じ。
(外国映画である『BROTHER』(2001)は、敢えて外した)
とくに90年代に傑作を発表し、ゼロ年代は失速気味、、、といった評価。
映画監督としてのデビューは20年以上も前、作品数も14を数えれば、既にベテランの域に到達しているのだろうが・・・
改めて、その早撮り・多作ぶりに驚く。(映画ばかり撮っているわけではなく、俳優をやったり、バラエティの司会をやっているわけだから)
つぎに、筆者独自の調査(都内150人アンケート)による北野映画のランキングを。
敢えて映画小僧には聞かず、「映画が“そこそこ好き”」というひとに絞ってみた。
(1)『キッズ・リターン』
(2)『HANA-BI』
(3)『座頭市』
(4)『菊次郎の夏』
(5)『ソナチネ』
(6)『あの夏、いちばん静かな海。』
(7)『アウトレイジ』
(8)『その男、凶暴につき』
(9)『アキレスと亀』
(10)『Dolls ドールズ』
(11)『3-4X10月』
(12)『みんな~やってるか!』
(13)『監督・ばんざい!』
(14)『TAKESHIS’』
納得というか、予想通りの結果が出た。
但し9位以降の作品に関しては、そもそも観ているひとが少なく、どんぐりの背比べといった感じだ。
…………………………………………
『キッズ・リターン』の評価・人気の高さは、劇場で「体感」している。
テアトル新宿、公開初日の7月27日午前10時―行列が出来ていて、驚いた。
こんなこと、北野映画で初めてのことである。
高校を卒業したマサル(金子賢)とシンジ(安藤政信)が、開き直るまでの物語―光が射すのは「ほんの」少しで、青春の蹉跌がメインとなっている・・・ものの、後味は悪くない。
ビートたけしとしての照れ隠しともいえる「コントのようなギャグシーン」(成人映画館でのアレコレ)は、じつは「あってもなくても」よく、それは、主題がしっかりしているからそう感じられるのだろう。
それにしても、この入りは(過去が過去だから)異常だ、
バイク事故によるリハビリ映画だからであろうか、筆者は本作を3度観に行き、そのいずれもが満員御礼だった。
批評家筋からも好評で、いままで無視を決めこんでいたメディアもこぞって北野映画を特集、その波に乗った、、、というわけでもないのだろうが、翌年の『HANA-BI』が金獅子グランプリ(ベネチア映画祭、最高賞)を獲得する。
「賞を取ったら傑作(という評価)になる」といったのは、イラストレーターの宮崎祐治。
俳優の津川雅彦は北野映画の評価と興行の「反比例な」関係性に噛みつき、
批評家のおすぎは「いっつもヤクザを絡ませる」と厳しい。
じゃあ、スコセッシはどうなるんだ―とも思うのだが、権威主義になびかない異論は貴重でもある。
しかしタイトルも秀逸な『HANA-BI』が、物語・主題の両面で「ひじょうに分かり易かった」ことも事実なのだった。
…………………………………………
天下国家を語る余裕なんかない、ふつうのひとびとは、自分の身の回りのことだけで精一杯なんだ―北野武はベネチア凱旋直後にそう語ったが、『HANA-BI』はそれを物語として提示した作品である。
笑いはするが喋ることはしない病気を患う妻と、自分の身代わりとして下半身不随となった同僚。
ふたりのため、そして自分のために、主人公の刑事は盗難車をパトカーに改造し銀行強盗を企てる。
破滅は承知のこと、彼は妻と最後の夏休み―冬休み、なのかもしれない―に旅立ち、そうして自害する。
ヤクザの憂鬱(=『ソナチネ』)をふつうのひとの物語にしてみたら、普遍性を獲得した―そんな単純な作品ではないのだろうが、妻が唯一発する「ありがとう、ごめんね」も効果的に働き、北野武は世界のKITANOとなった。
芥川賞もオスカーもそうだが、じつは受賞後の第一作目こそ勝負の作品となる、、、はず。
『菊次郎の夏』は、そういう意味では個人的に期待はずれ―いやそれ以上か、幻滅にちかい感想を抱いてしまった。
天使の羽をつけた不細工な少年の、母親探し。それに同行する、ヤクザな男の物語。
笑うにも笑えず、泣くにも泣けず。
生殺しにさえさせてくれない北野映画は、監督デビュー以来、初めてのことだった。
…………………………………………
つづく。
次回は、5月上旬を予定。
…………………………………………
本シリーズでは、スコセッシのほか、デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、ブライアン・デ・パルマ、塚本晋也など「怒りを原動力にして」映画表現を展開する格闘系映画監督の評伝をお送りします。
月1度の更新ですが、末永くお付き合いください。
参考文献は、監督の交代時にまとめて掲載します。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『線引きが分からない』
毒も吐かなく成ったし・・。
ボケが始まった感がアリアリだもん!!
借りてもいません。
私でも足を運びたくなる作品、奮起期待したいのですが・・・。