僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

SF小説「ハートマン」 ミリンダの変身

2009年04月18日 | SF小説ハートマン
ズンッと突き上げるような衝撃に続いてゆっくりとした揺れが起こった。

ミリンダの微笑みが消え瞳に緊張が走った。

「地震?」
「いいえ、攻撃です。攻撃が始まったのです。」

「攻撃って?」
「この星は、と言うより私たちは敵の脅威にさらされています。敵は私たちの弱点を知って強力な力で執拗に攻めてきます。今までは何とか耐えてきましたが、敵は次第に力を増しているようです。」

「誰なんです?その敵は。地球の科学力では全く太刀打ちできないこの星の力を上回るようなものが存在するなんて。」
「ここは危険です。安全な場所へ行きましょう。それに、あなたに会わせたい人もいるし。」


ミリンダは宇宙の手をとって立ち上がった。
宇宙はその柔らかい手をしっかりと握りかえして後に続いた。


ミリンダの動きは素早かった。
身に纏っていたドレスを一瞬のうちに脱ぎ捨て、次の瞬間にはもう走り出していた。
あっけにとられている宇宙を振り返り、いたずらっぽく笑った。さっきまでの優雅な雰囲気とは全く別人のような精悍さだ。

ドレスの下はレザーを思わせる光沢のある柔らかな生地で首から下をぴったりと隙間なく覆っている。

「いつもそんな、そのぅ、コスチュームなの?」
「攻撃が始まってからはね。見た目ほど窮屈じゃないのよ。頭部を守るフードもあるわ。」

「フードを被ると女スパイダーマンだな。キャットウーマンかな?」
「え?」

「なかなかカッコイイ!」
「向こうにはあなたの分も用意してあるのよ。しなやかだけれど衝撃を受けるとカーボンナノチューブより堅くなる素材で作ってあるからかなり強いものが飛んできても大丈夫。それに電磁波や光波の影響をすり抜けるの。」


「ステルスってことだね。すごいな。早く試してみたい。」



ミリンダは風のように走った。宇宙船での長い旅の後とはいえ宇宙(ひろし)も全力を出さないと遅れてしまいそうだった。









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SF小説「ハートマン」 ミリンダの時間②

2009年04月17日 | SF小説ハートマン
「その説明が一番近いかも知れません。
私たちの世界では時間は流れていません。
流れているのは自分なんです。

私たちは時間のどこででも生まれることができます。
もちろん自分で指定はできません。
地球で言えば100年前の世界でも1万年後の世界でも必要ならばそこに生まれることができます。
そして生まれたみんなが世界を共有しています」

「うーん…。ミリンダ」
「はい」

「分からないけど、もっと話してほしい。世界は理解はできなくてもミリンダのことが少し分かるような気がするから」

「いいわ」

ミリンダは口に手を当てて笑った。

バイオリストコンピュータはミリンダの説明を解析しようと懸命に働いていたが時間と世界の概念を理解するには及ばなかった。
それは説明を地球の常識に当てはめようとするからで、ここではそれが全く通用しないことを受け入れ全てを「そうゆう世界」なんだと認めることにした。

ミリンダは時折困ったような表情で言葉を探したが、微笑みながら話し続けた。

宇宙は聞き入っていた。
けれど多分それは話しの内容よりも次第に増してゆく語り手の美しさに瞬きするのを忘れてしまっただけだったのだ。











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SF小説「ハートマン」 ミリンダの時間

2009年03月28日 | SF小説ハートマン
「簡単に言うなら、時間は流れていて止まることがないもの。その流れの中で一定の間だけ個々の生命が活動する。僕はそんな風に考えているんだけど」

「ほとんど同じだと思います。違うところがあるとすれば、」

そういってミリンダは宇宙(ひろし)から視線を逸らせた。
例えを探しているように首を傾げていたが微笑みは絶やさなかった。

宇宙はそんなミリンダをじっと見つめながら次の言葉を待っていた。
ミリンダは美しかった。次の言葉はなくても良い、このままずっと見つめていたいと思ったほどだ。


大きく息をしてミリンダは視線を宇宙に戻した。

「やはり上手に説明できないような気がしています。ごめんなさい」

「分からなくてもいい、ずっと分からなかったんだから。でもあなたの口から聞いてみたい。
宇宙船が牽引ビームを振り切れなかった時から地球とは絶対的にちがう大きな物があることは感じていたんだ。

まるで自分が小さな塵のひとつのような、体の中にあるミクロの細胞になったような、そんな気がしている」









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SF小説ハートマン 「違い」

2009年03月06日 | SF小説ハートマン
「恋愛も自由よ。誰かが誰かを好きになるって自然なことですもの。ただ少し違うのは、恋愛は純粋にお互いが愛を感じ合う為の儀式よ」

「SEXはしないってこと」
「いいえ、するわ。互いに信じ合い求め合うことで幸せになれるもの」

「地球でも同じだと思うけど」
「愛し合った結果として子どもを作ることはないの」

「家族がないって事?母親と父親の両方の資質を持った子どもは自分の分身だから誰だってかわいいと思うけどな」
「子どもは2人のものではないの。実際子どもを育てて教育することもないから、そうゆう感情は分からないわ」


「そうか、君もいきなり大人で生まれたわけだしね」


「どこまで分かってもらえるか分からないけど、子どもである必要が有れば子どもで生まれることもあるのよ」
「必要かそうでないかは誰が決めて誰が実行ボタンを押すの?」
「みんなで決めてみんなが知ってるわ」

「うーん、僕の知識と経験では多分永遠に理解できないと思う」

「貴方のバイオリストコンピュータにフルコンタクトさせてもらえれば理解できるように説明できるかも知れないけれど…」
「うん、考えておく」

「そうしたくなったら教えて下さい」
「本当にありがとう。無理やりそうしようと思えばできるのに意識を尊重してくれるんだね」
「貴方はお客様ですもの」


「ところでもうひとつ、時間の概念についても知りたいこと山ほどあるんだ。ずいぶん違うような気がしてるし」

「確かに違うかも知れません。時間って…」









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ミリンダの世界

2009年02月26日 | SF小説ハートマン
「もうひとつって言うのは。さっきの質問のことですが、私に指示をするのは…」

「そうそう、どんな組織になっているのか知りたいんだ」

「指示はありません。組織という概念もないんです」

「分からないよ。それじゃあ君が何の為に生まれてきたのかとか、こうして僕をここに連れてきたのはどうしてだとか、君が勝手にしていることみたいじゃないか?」

「ごめんなさい。貴方を呼んだのはハートマンを呼ぶ必要があったからよ。
私の存在はここではみんな知っていて、みんなのことも私は知っているの。
だから誰かの指示で働くこともないし、他の人が困るようなことは誰もしないわ。

みんなが自分のするべき事をしているの。それに、」

「それに?」











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ミリンダ

2009年02月25日 | SF小説ハートマン
「挨拶なんだね、言葉はなんていえばいいのかな」
「Lukumariyno hosseru」

「ルクマリーノホッセル?」
「そう、貴方が幸せでありますようにって意味なの」

「君は、会話ができるのか!」
「はい、貴方に教えてもらったから」

「僕は何も教えてなんかいないよ、でもどうして…」
「ポッドに入ってここに来る間に学習したの」

「記憶を読んだのか?」
「ええ、でも貴方の星でいうプライバシーのことなら心配しなくていいわ。見せてもらったのは言語領域だけのはずだから」

「君は誰なの?ここが君の国なのか?僕が来ることは分かっていたの?」
「突然のことで失礼が沢山あったと思うわ、ごめんなさい。ひとつずつ説明させて下さいね」

「君に謝ってもらうことはないさ。でも誰の指示で、これからどうなるのか知りたいとは思うよ」


笑顔で話す彼女の声は澄んでいて、エコーがかかっているかのように奥行きがあった。話していると心の奥まで癒されていくような心地よさを感じた。彼女は宇宙の手を取り歩きながら、母親が子どもを諭すように話しを続けた。


「私はミリ・トゥル・セラン・ダーという名前を持っています」
「ミリ・セ・ンダー?」

「ミリンダと呼んで下さい」
「ミリンダ!君がミリンダなのか!?だとしたら僕は君と会う前から君のことを知っていた」

「はい、多分」
「僕がその名前を知ったのは地球を出発する前だから、20年以上昔なんだよミリンダ」

「貴方の言う『時間』という言葉は、ここでは少し意味がが違うかも知れません。それともうひとつ」
「時間の概念については僕もゆっくり教えてもらいたいことがあるんだ。で、もうひとつって何?」


















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ポッドの行方

2009年02月23日 | SF小説ハートマン
ワープに入る瞬間のような加速度を感じた。

しかしそれは一瞬のことで、軽いめまいと感じる程度だった。


うっすらと発光していたポッドの内側が消え広い空間に変わった。
そこは以前見たことのある部屋のようだった。
大きな窓、ゆったりとしたカーテン、植物。

モニターで見たそれだ。

宇宙は壁に映し出された3D映像かと手を伸ばしてみたが、そこにあるはずの壁に手は触れなかった。
宇宙は立ち上がりもう一方のポッドを探した。並んでセットされていたはずだ。


ポッドは消えたいた。だが、人間はすぐに見つけることができた。
窓際に立って宇宙(ひろし)を見つめている。

宇宙と視線が合うと手を伸ばし微笑んだ。
親しい友人を自宅に招いた時のようなごく普通の自然な動作だった。

上質のサテンのように光沢のある布を身につけている。
体に巻き付いているだけのようにも見えるがそれは体の動きと共にしなやかに揺れ、ずれることもなく優雅に彼女を包んでいた。

歩み寄ると彼女は両手で宇宙の両手を取り、祈る時にするように合わせると自分の額にそっと触れ何かつぶやいた。
今度は自分の手を宇宙の前に揃えて出し、同じようにするよう宇宙を見つめながらにっこりとうなずいた。









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ふたつのポッド

2009年02月22日 | SF小説ハートマン
ドロイド達の無駄の無い働きにより、それはほぼ50時間で組み立て終わった。

出来上がったものは人間が一人入れるほどの大きさで、コックピットのように肘掛けつきの椅子がひとつある他は窓もスイッチも何もない個人用サウナポッドのような形状をしていた。
そして同じものがもう一台。

一方にその人間、もう一方に宇宙(ひろし)が入るように信号は指示している。

人間を傷つけないように細心の注意をはらって薄膜にメスを入れると粘液状の羊水が流れ出た。
見た目に反して羊水はさらりとしていて肌にまとわりつくことはなかった。
介助用に再プログラムされたドロイドが慎重にポッドに運び入れる。


宇宙は全ての記録装置のスイッチがONになっていることを確認し、小さな入り口を静かに閉めた。

照明などどこにもないはずなのにポッドの中はうっすらと明るく、クッションのない金属製の椅子が柔らかいソファーのように感じられた。



やがてポッド内側全体が発光を始め、宇宙は暖かい光に包まれた。










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新しい信号

2009年02月21日 | SF小説ハートマン
薄い膜を通して顔の表情が見て取れるようになまでにさらに72時間ほどかかった。

もうそれが人間であり、女性であることは疑いのないところだった。
母体内にいる人間の胎児のように動くことはなく、培養器の中で静かに成長を続けている。



ホストコンピュータが宇宙を呼んだ。
途絶えていた信号が再び送られてくるようになったのだ。

言語の解析は既に終わっていたので、その信号が機械の設計図であることはすぐに理解できた。
ただそれがどんな機能を持っているのかということは全く想像ができなかった。
ありふれた部品を組み合わせてできているのだが、回路は見たことのないもので、駆動エネルギーも分からなかった。


メンテナンスドロイド達によって直ちに部品が集められ、製作が始められた。
ホストコンピュータも今度は警告を発しなかった。















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生物の創造

2009年02月19日 | SF小説ハートマン
菌類や植物のDNAが解読され遺伝子の操作が始まった頃、人体DNAゲノム解析が各国で競われた。
ジェネシス社のハイスピードゲノム解析機を数百台も使って解読し特許権を握ろうとベンチャー企業が現れた。

各国でしのぎを削る競争の後、あっという間に解析が済んだ人のDNAだったが、実際には分からないことが数多くあった。

一見無意味に見える配列のヌクレオチドや、活動しないままのDNAはどうして存在するのかということが生物学者達によって幾たびも研究されたが解答には至らず、結局進化の過程で変化してきたものだろうということでそれ以上の研究は途絶えてしまった。


今宇宙(ひろし)の目の前で進行していることは、遺伝子操作とかバイオテクノロジー、デザインチャイルド等と呼ばれていたDNA培養技術の究極の形かも知れない。


DNAを作り出し培養することで思いのままの生物を創造するのだ。











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72時間後のそれは

2009年02月18日 | SF小説ハートマン
最後の部分がコミュニケーションの為の「言語」とそれを理解する為の「文法」であることは すぐに解析できた。
それは遙か昔地球で発掘されたロゼッタストーンのクサビ形文字にみる文法と同じだったからだ。

宇宙(ひろし)はメディカルルームに移動しDNAの合成を始めた。

ホストコンピュータは未知の生物の培養に警告を発していたが、バイオリストコンピュータは楽観的だった。
相手がその気になればこの宇宙船など強烈な排斥ビームで弾き飛ばすか熱線で蒸発させてしまう事などたやすいことだろう。
そうしないということに何かのメッセージを感じる宇宙だった。


DNAの培養は72時間ほどで形を表してきた。

人間の姿に似ている…
動物か?

生まれてくる赤ん坊の姿ではなく、大人の人間がマユのような膜に包まれて現れだしたのだ。


さらに24時間が経過した…


DNAの構造は人間(ホモサピエンス)と全く違うが、明らかにそれは
人間だった。













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設計図

2009年02月15日 | SF小説ハートマン
ホストコンピュータとバイオリストコンピュータの共同作業は数分間続いた。

一回の繰り返しで送られてくる信号は内容の違う3つの部分で構成されていた。

最初の部分は全体の内容を司るもの、次の部分は何かの設計図のようなもの、最後の部分がその使い方であるらしかった。

初めの部分を二進法に置き換えた円周率に乗せてグラフィック表示させてみると、それはDNAの二重らせんと全く同じ構造を示した。

次の部分を同じ方法で解析し配列の同じタンパク質のDNAに変換していった。


宇宙が想像したとおりそれはひとつの無駄もなくぴったりと当てはまった。
ただ全体の組み合わせを分析してみても地球上のどの生物ともそれは合致しないのだ。


DNAはどこにでもある。
それが独自の組み合わせで繋がりヒストンにまきついたものがヌクレオソームとなり、さらに螺旋状に圧縮されたものが遺伝子(染色体)と呼ばれる。


地球とは遙かに離れた銀河にあってもそれは何か生物の設計図であることは確かだった。













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送られてくるもの

2009年02月14日 | SF小説ハートマン
瞬きしたように画面は切り替わり、室内を映しだした。
それは幾何学的に整ったものだったが、無機質で冷たい感じはなく、むしろ地球の故郷に見るような開放的な暖かさがあった。

ドレープをたっぷり取ったカーテンがゆったりと揺れていたり、見たことのない奇妙な形だが植物らしきものが緑色の葉を茂らせたりしている映像が宇宙(ひろし)を落ち着かせるのだろう。


それに合わせて信号が二進法で送られている事をモニターの記録装置が知らせた。
一秒間に数テラバイトの一定のスピードでそれは繰り返し送られている。

宇宙のバイオリストコンピュータは即座に解読を始める。

ホストコンピュータに記憶されているデータと合致するものは何もなかったが、言語のようなものが含まれているらしいことは予測できた。

繰り返される信号は、いくつかの同じパターンが部分的に組み合わされブロックを構成していた。
ブロックは少しずつずれたり数回繰り返されたりして全体を表しているらしいことが分かった。

宇宙(ひろし)はモニターを見つめながら身じろぎひとつせず信号の意味を考え続けた。
実際宇宙の脳はバイオリストコンピュータとしてその持てる力をほぼ100%使いながら働き続けていたのだ。













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接近

2009年02月08日 | SF小説ハートマン
宇宙のバイオリストコンピュータは抵抗を断念するようにホストコンピュータに指示した。
牽引ビームの強さからして船の最大限のエネルギーをつぎ込んでも全く無駄であることが計算できたからだ。


激しい振動が嘘のように止んだ。
明かりが戻るとコンソールの全てのモニターが一斉に回復し何事もなかったかのようにそれぞれの情報を映し出した。

ひとつを除いて。

そのモニターは宇宙(ひろし)の目の前にあった。
軽いノイズの後小さな点を表示し、それがみるみる大きくなっていく。
星だ。

見つめているとなめらかにズームアップは続き、星の表面に構築物が見えてきた。

ピラミッドのようだ。
それは地球のエジプトに残るそれと全体の形は同じ正四角錐だがおそらくその数千倍の規模で圧倒的に大きい。
岩石の色でも金属の色でもなく、ほとんど透明に近い不思議な色で表面はなめらかに美しい光沢を発している。


宇宙船はピラミッドに吸い込まれるように正面から近づき続けた。











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触手 (久しぶりのハートマン…)

2009年02月07日 | SF小説ハートマン
激しい振動が宇宙船全体を襲った。
まず数回瞬いた後照明が消えオレンジ色の非常灯が辛うじて視界を確保した。

宇宙(ひろし)はすぐにシートにしがみつき、無接点に改良されたバイオリストコンピュータを肘掛けに置いた。宇宙の頭脳が宇宙船のホストコンピュータとリンクし共同作業を開始する。
バイオリストコンピュータはデータプール部分をのぞけばホストコンピュータを凌ぐスピードと分析力を持っている。宇宙(ひろし)の脳そのものなのだから。

激しい揺れは宇宙線によるものでもなければ流星群によるものでもなかった。原因は照射されている作為的に作られた牽引ビームで、この宇宙船を捕らえてどこかに引っ張っていこうとするものらしかった。

船の制御コンピュータは自由を取り戻そうと強力な衝撃波を作り出しビームを断ち切ろうとプロトンコンデンサーに蓄積したエネルギーを外殻から放出する事を繰り返している。
小惑星くらいなら粉々に砕いてはじき飛ばしてしまうほどのエネルギーが繰り返し放出されているその様は、少し離れてみると宇宙船自体が爆発しているように見えるかも知れない。

激しい揺れはそのためだったのだ。

しかしPX星の方向から向かってくるそのビームは恐ろしく圧倒的な力で宇宙船を捕らえもがく宇宙船をあざ笑うかのように引き寄せていった。

それは巨大なタコがその吸盤に獲物を吸い付け、ゆっくりと口に運ぶ様子に似ていた。











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