僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

歩く女…②

2007年09月11日 | 何でも掲示板
女はわくわくしていた。歩くだけでこんなに気分がいいなんて。
もっと早く決断すれば良かったんだわ。今まで何度店を覗いてみたことか。
履いてみれば、まるで自分を待っていたかのようにぴったりと足に馴染んだ。

足が自然と神社に向かっている。
地元の氏神様が祭ってある、通称浅間(せんげん)様と呼ばれる神社だ。

正月と特別の縁日以外はひっそりとした、これと言っていわれなど聞いたことのない 地味な神社だ。
女は子どもの時からここが好きだった。
夏にはうっそうと茂ったケヤキの森が特別に涼しい木陰を作ってくれたし、
いつもきれいに掃き清められた境内にいると意地悪な姉のことも忘れることができたから。

靴のお礼を言おう。
こんな気分にしてくれたのは氏神様のおかげかも知れないし。
御利益かそうでないかは大した問題ではなく、とにかく誰かに報告したかっただけかも知れない。

ケヤキの森を抜け鳥居をくぐると真っ白な玉砂利が本殿をとり囲むように広がっている。
じゃっじゃっと音を立てて歩いた。
歩く音で氏神様が目を覚ますのだと教えられて事がある。

ほら、早く起きて私を見て。
そう思いながら、大きな音がするように玉砂利を強く踏みしめながら歩いた。

玉砂利は一年に一度大祭の時、氏子やボランティアが手入れをする。
玉返しと言って砂利を裏返す儀式だ。
こうすることで砂利にコケが生えるのを防ぐのだ。

女は子どもの時、親に連れられて何度も参加した。
玉返しの作業は単調ですぐに飽きてしまったが、終了後神主から直接手渡されるラムネ菓子が欲しくていつも最後まで頑張った。

「きれいにしてくれてありがとう。」
神主から額に朱を塗られ菓子を貰うと神様に近づけた気がした。

想い出に浸りながら一人歩いていく。後ろの方でほうっと梟が鳴いた。

女が違和感を感じたのはその時だった。

「私はどこに向かって歩いているの?」
コメント
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