僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

SF小説「ハートマン」 カイラス

2009年05月19日 | SF小説ハートマン
コックピットは2人分のシートしかなかった。

長さ20メートル程の船体は宇宙船としては驚くほど小さかった。
宇宙がここまでの旅に使用した小型宇宙船でさえこのスペースギアの10倍はある。地上を行き交うコミューターを頑丈にしたようなデザインになっていた。

しかし92㎝厚に削り出されたハイブリッドの装甲外殻は亜光速で小惑星に衝突してもリンゴを打ち抜く弾丸のように無傷で通り抜けてしまうだろう。


肘掛けに腕を置くとすぐにバイオリストコンピュータが反応し、室内のモニターがメッセージを表示した。

「ようこそ宇宙さん、初めまして。私はカイラス、あなたのお供をさせていただきます。バイオリストコンピュータにコンタクトしてもよろしいですか?」


後に宇宙の分身のように活躍することになるこの忠実なしもべは、その丁重な反応からは想像ができないくらい強力な能力を秘めていた。

トントは別れ際、新しいトントが迎えると言ったが、この船の名前がトントでなくカイラスだったことに安堵した。


「これからの予定を話すわ。本当にゆっくりできなくてごめんなさい。宇宙(ひろし)君、大丈夫?」

ミリンダが、まだふたりのトントとの別れを整理できずに茫然としている宇宙に話しかけた。


「カイラスとコンタクトしたまま聞いて下さい。これから宇宙君は少し…」

コンタクトゲートを開いた瞬間、宇宙はたたきのめされるほどの激しいショックを受けた。何とか持ちこたえたが押し寄せる大きな波に飲み込まれるような感覚だった。
いつかどこかで経験したことのある感覚だ。目をきつく閉じ記憶を探した。


あれはトントが僕に、僕の脳を、僕のバイオリストコンピュータに…


宇宙が少年だった頃、何日も続いたあの記憶が蘇った。あれと同じだ、だけどあの時の何倍ものデータが一気に押し寄せてくる。宇宙は時折全身を痙攣させながらもその全てを受け入れていた。

許しを得てフルコンタクトしたカイラスはバイオリストコンピュータと毎秒10テラビット越える速度で情報交換をし、一体化の作業を始めていたのだ。













コメント
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