僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

「パトスとエロス」 レストランのふたり

2009年10月09日 | ケータイ小説「パトスと…」
「おいしいね」
と留美子は言った。

「うん」
とだけ辰雄は答えた。

辰雄は料理以上に時間を味わっていた。

目の前の留美子がナイフで肉を切る、取りにくいレタスを何度も落としながらやっと口に運ぶ、パンをちぎってバターを少しだけつける、初めてつけてみたというジバンシーの口紅を気にしながら、冷えて水滴のついたゴブレットから水を飲む、


それから時々辰雄を見て微笑む。


辰雄は留美子より先に食べ終えてしまわないようスピードを合わせながらゆっくりと食べた。
最後は皿に残ったソースをちぎったパンでぬぐい取るようにして食べた。

留美子も同じようにして残りのソースを味わったが、ふたくちで最後のパンが無くなってしまった。

「パンはお代わり自由だからもう一個もらおうか?」
「ううん、いいよ」
「じゃこれ半分あげるよ」

辰雄は自分のパンをちぎって留美子に渡した。

「うん」
留美子はにっこりうなずいて両手を差しだした。

「美味しいソースね」
「肉も軟らかくてうまいけど、この味付けがいいよね」
「うん」

「留美子はパプリカ嫌いなんだっけ?」

皿に赤いパプリカが一切れ残っているのを見て辰雄が尋ねた。

「ううん好きよ、あっこれ?最後に食べるの」
「へえ~、留美子ってそうなんだ」

「なぁに、変?」
「変じゃないけどさ」

「トマトとか人参とか、何か赤いものがお皿から無くなっちゃうのって寂しくない?」
「うん、そんな気もする」


「美味しいって幸せね」

「うん、幸せだ」

そう答えた辰雄だったが、幸せなのは留美子が目の前にいるからだと分かっていた。





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