ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

原田マヤさんの小説「楽園のカンヴァス」を読み終えた話の続きです

2014年09月22日 | 
 原田マヤさんの小説「楽園のカンヴァス」を読み終えた話の続きです。

 2014年7月1日に新潮社が発行した文庫本「楽園のカンヴァス」の表紙を飾るのは、アンリ・ルソーが没した1910年に描いた「The Dream」(夢)と呼ばれる絵画です。アフリカと思われるうっそうとしたジャングルの前にソファーが置かれ、そのソファーの上に裸の女性が横たわっているものです。女性は、ジャングルにいるトリやサル、ゾウ、雄・雌のライオン、ヘビなどの動物たちをじっと見ているそうです(文庫本の帯の裏表紙側にも載っています)。

 小説「楽園のカンヴァス」では、この「The Dream」(夢)と同時期にアンリ・ルソーが描いたと思われる未公開作品の真贋を巡る話です。

 絵画「The Dream」(夢)自身は、米国ニューヨーク市のニューヨーク近代美術館(MoMA)が所有し、展示されています。この絵は、6フィート8インチ×9フィート9インチ(204.5センチメートル×298.5センチメートル)とかなり大きいそうです。



 この絵を見る目的のために、ニューヨーク近代美術館に来場する方も少なくありません。

 ニューヨーク近代美術館には1980年代後半に訪れたことがあり、中学校の美術の教科書に出ていた絵画のいくつかを実際に目にすることができたと感じた記憶があります。

 この時には、アンリ・ルソーの絵画では、1897年に描かれた「眠るジプシー女」が記憶に残りました。



 「The Dream」(夢)を見た記憶はありません。たぶん見てはいるのですが、中学校の美術の教科書には、「眠るジプシー女」が載っていたことが一因のようです。砂漠に横たわっているジプシー女(黒人女性)が着ている中近東風の衣装がとても綺麗に見えた記憶があります。

 その後は、東京都千代田区の竹橋に建つ東京国立近代美術館に行った時に、同美術館が所有する「第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神」を見て、とても気に入りました。これは1905年から1906年にかけて描かれた作品です。

 その後に、日本の大学の美術系学科を卒業した方に「ニューヨーク近代美術館などで見たアンリ・ルソーの絵画が印象に残った」と話をすると、その方は「パリの税関職員という素人が日曜画家として描いた作品といわれている」と聞き、素人が書いた絵という評価が下されていることを知りました。

 今回の小説「楽園のカンヴァス」を読み、その中に描かれているアンリ・ルソーの職業の税関職員とは実はかなりの下級職員で、この職業からの薄給だけでは生活が苦しかったそうです。このため、アンリ・ルソーは絵画教室の教師やボンボン菓子を売るアルバイトなどで糊口をしのいでいたとのエピソードが出て来ます。さらに、質素な食事と部屋代をためるなどの貧困生活を送りながら、絵を描くためのカンヴァスと絵の具を買うのがやっとだったと伝えています。

 しかも、アンリ・ルソーは絵を描く生活に専念するために、無謀にも税関職員を辞め、ますます貧乏になります。そして貧乏借家の近くにいるヤドヴィガという婦人が気に入り、勝手に絵のモデルを頼みます。この婦人が「The Dream」(夢)に描かれている女性のモデルです。

 この婦人は、真贋の判定を頼まれた未公開の絵画にも大きく関わっているとの、話の展開になります。そして、パブロ・ピカスの”援助”が大きな役割を果たします(ここが小説の肝なので、中身は明らかにしません)

 今回、小説「楽園のカンヴァス」を読んで、アンリ・ルソーは自分が描きたい絵を好きなように描いていたとの印象を持ちました。絵師としては、生存中にはあまり高い評価が得られず、作品が売れずに貧しい生活を送り、寂しく亡くなりましたが、好きな絵が描けた喜びを感じていたようです。貧しくても、自分の人生を好きなように生きた点が共感を呼びます。

原田マハさんの小説「楽園のカンヴァス」をやっと読み終えました

2014年09月22日 | 
 原田マハさんの小説「楽園のカンヴァス」をやっと読み終えました。久しぶりに、小説らしい、想像をかき立てる面白い物語を読んだと感じました。

 先日、東京都内の大型書店に行った時に、この本の文庫本(2014年7月1日発行、新潮社)が並んでいました。




 小説「楽園のカンヴァス」は、その後に山本周五郎賞を受賞するなどと評判がよかったので、この単行本を購入した記憶があるのですがすが、まだ読んでいないことを思い出しました。整理整頓できていないので、購入した単行本を探し出す自信がないために、文庫本を購入しました。

 単行本「楽園のカンヴァス」は2012年1月1日に新潮社から発行され、書評の評判がいいので、大型書店では目立つように平積みされていた記憶があります。各新聞紙などの書評にも取り上げられていました。
 
 たぶん小説の主人公は、米国のニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員(キュレーター)のティム・ブラウンです。ハーバード大学大学院で美術史を学んで修了し、ニューヨーク近代美術館に就職したブラウンは、1983年のある夏の日に、スイスのバーゼル市に住む謎の大富豪・美術品収集家のコンラート・バイラーからの“招待状”を受け取ります。バイラーが所有するアンリ・ルソーの未公開の絵を鑑定してほしいとの内容の手紙です。この依頼を受けて、ブラウンはバーゼル市に降り立ちます(実は、ブラウンという姓の人物がもう一人登場します)。

 アンリ・ルソーの未公開の絵の真贋鑑定を頼まれた、もう一人の主人公は現在、岡山県倉敷市の大原美術館に勤務する美術館監視員(絵画研究家)の早川織絵です。1983年当時は、フランスのパリ市にいた彼女も、バーゼル市に向かいます。

 
 ブラウンと早川の二人は、バーゼル市にあるバイラーの大邸宅の一室で、画家アンリ・ルソーが絵を描くエピソードなどを集めた謎の小冊子を読まされます。この謎の小冊子を、一日当たり一章ずつ読むように指定され、7日間かけて読破します。この小冊子を読んで、バイラーが所有するアンリ・ルソーの未公開の絵の真贋を判定してほしいとの依頼です。

 この謎の小冊子の各章には、1906年ごろに作品を発表していた“素朴派”画家のアンリ・ルソーの貧しい日々が描かれています。遠近法も明暗法も習得できなかった日曜画家と揶揄(やゆ)されたアンリ・ルソーが過ごす苦悩の日々が綴られています。ところが、同時代を生きたあのパブロ・ピカスがアンリ・ルソーの作品を、新しい前衛的な作品だと高く評価し、ある支援をします。この小冊子の各章が物語るアンリ・ルソーの日々の物語そのものが、とても面白いのです。

 多くの方が小説「楽園のカンヴァス」は“絵画ミステリー”の部分が面白いと高く評価していますが、ミステリーではないと思います。いくつか出てくる謎は、謎のままで合理的な解釈などを拒否しています。たとえば、早川が新進気鋭の絵画研究家を断念する理由や、アンリ・ルソーの未公開の絵の真贋判定の勝負の時に、早川が事実上自ら権利を放棄する謎はそのままです。小説の物語としては面白いですが、謎は謎のまま残る展開です。

 長くなったので、続きは次回編になります。