ヒトリシズカのつぶやき特論

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人気ミステリー作家の伊坂幸太郎さんの最新の単行本「ホワイトラビット」の読後感想です

2017年10月22日 | 
 人気ミステリー作家の伊坂幸太郎さんの最新作の単行本「ホワイトラビット」を読み終えたの話の続きです。

 この単行本「ホワイトラビット」は、新潮社が2017年9月20日に発行されました。価格は1400円+消費税です。



 この単行本「ホワイトラビット」は、仙台市の新興住宅地の一軒家に、短銃を持った男が入って来て、その家の母と子を人質にして立てこもる籠城事件です。

 拳銃を持った黒い服装の男が突然、鍵をかけ忘れていた玄関から一軒家に入って来て、母と子に「潜んでいるオリオオリオを出せ」と脅します。この男は、一軒家の2階にいた父親らしい人物を見つけ、拘束します。

 以下は、ネタばらしに基ずく感想です。

 まず、一軒家の2階にいた“父親らしい人物”とは、実はこのミステリー小説の事実上の主役の一人である黒澤です。黒澤は泥棒ですが、“義賊”のような役どころです。そして、この小説の母と子を人質にして立てこもる籠城事件を作りあげる人物です。

 このミステリー小説の仕掛けである“神の視点”の説明によると、仙台駅前で仲間の泥棒から、老人たちから金をだまし取る詐欺師がいて、その詐欺師はだました老人たちのリスト情報を持ち、詐欺師仲間にそのリスト情報を提供する可能性が高いと伝え、このリスト情報の回収を依頼します。

 実は、黒澤は凄腕の金庫破りなどのテクニックを持っています。この仲間の泥棒からは、その金庫破りなどのテクニックを見せてほしいと頼まれます。

 今回、籠城事件の舞台となった一軒家の隣の一軒家が、その詐欺師の自宅でした。この詐欺師は“海外旅行中”らしく無人の家なので、黒澤は易々と進入し、ありきたりの金庫を開け、詐欺師はだまされた老人たちのリスト情報が入ったUSBメモリーなどを回収します。黒澤は義賊なので、“盗んだメッセージ”を書いた紙を残します。

 「凄腕の金庫破りなどのテクニックを拝見したい」といった仲間の泥棒は、そこつで間抜けなので、黒澤と合流する前に、詐欺師の自宅と間違えて、今回の籠城事件の舞台となった隣の一軒家に侵入し、その2階に上がって金庫を見つけ、例の“盗んだメッセージ”を落とします。

 仲間の泥棒が落とした“盗んだメッセージ”を回収するために、黒澤は籠城事件の舞台となった一軒家に侵入し、2階に上がって、“盗んだメッセージ”を回収します。この回収中に、母と子が帰宅し、さらに、黒い服装の男の兎田孝則(うさぎだたかのり)が突然、拳銃を持って侵入し、親子を縛り上げます。さらに、父親らしい人物として黒澤をみつけて縛り上げます。

 ここまでの状況は、“神の視点”の説明によってさらりと書かれています。見かけの状況と、さらりと書かれた本当の状況が交錯します。

 この立てこもり犯人になった兎田孝則は、愛妻を誘拐され、誘拐ビジネスを事業化している企業の社長から、その企業の金を持ち去った「オリオオリオを連れてこい」との無茶な注文を受けます。

 そして、またこの小説の途中には、“神の視点”の説明によってさらりと書かれています。無茶な注文を受けた兎田は、JR仙台駅前で偶然、オリオオリオと遭遇します。しかし、足蹴にされて、倒れているすきに、逃げられます。ところが、この倒れている時に、兎田はGPS発信器をオリオオリオのカバンに入れることに成功しています(この籠城事件を構成するための偶然の重なりにはかなり無理があります)。

 この結果、兎田はカバンに仕掛けたGPS発信器を追って、その発信源にやってきます。実は、“神の視点”の説明によると、仙台市の郊外の路上で、オリオオリオは、今回の立てこもり事件の現場となった一軒家の親子の息子とすれ違います。

 このすれ違い時に、オリオオリオは一軒家の息子と小競り合いを起こし、火事場の馬鹿力を起こした息子がオリオオリオを転倒させ、打ち所が悪かったために、オリオオリオは死にます。

 人を殺したことに動揺した息子は、オリオオリオの死体を、自宅の2階に隠します。この時に、オリオオリオのカバンも一緒に持ち込まれます(いくらか籠城事件の必要条件が整い始めます)。

 “盗んだメッセージ”をこの一軒家から回収する目的で侵入し、母と息子が帰宅したために、2階に潜んでいたのが黒澤でした。

 そして、オリオオリオのカバンに入れたGPS発信器の位置情報を基に、兎田は拳銃を持って、一軒家に侵入します。

 さて、兎田が持っているスマートフォンのGPS発信器の位置情報を、兎田の愛妻を誘拐した企業の社長は見ています。そして、「兎田に早くオリオオリオを探し出して、連れてこい」といいます。

 既に、オリオオリオは亡くなっています。これでは、兎田の愛妻を誘拐した企業の社長のところにオリオオリオを連れて行って、愛妻を奪い返すことができません。そこで、偶然に現場にいた義賊の黒澤は今回の籠城事件を演出します。まず、宮城県警に電話し「オリオオリオを探し出して、連れてこい」と伝えます。すごい、発想です。

 警察と同時にマスコミ各社にも連絡し、この籠城事件現場の一軒家をテレビ中継させます(テレビのワイドショーなどの定番ニュースを思わせます)。

 この籠城事件現場のテレビ報道を、誘拐した企業の社長は見ています。そして、この警察の特殊捜査班SITに囲まれた籠城事件現場の一軒家の中に兎田がいることを知ります。兎田は身動きが取れないことを知ります。

 この籠城事件現場の近くで、オリオオリオを自称する男が見つかります。この男の正体は黒澤でした。

 オリオオリオになりすました黒澤は、宮城警察の籠城事件本部に連行され、兎田のスマートフォンに電話していた誘拐した企業の社長のスマートフォンの位置情報を逆探知によってつかみます。

 警察の力でないと、誘拐した企業の社長のスマートフォンの位置情報を逆探知できないからです。このために籠城事件を演出したのでした。

 後は、その企業の社長のスマートフォンの位置情報を手がかりに、兎田は仙台市の港地区に向かいます。しかし、誘拐した企業の社長に見つかってしまい、拘束されます。

 兎田とは別に、黒澤は特殊捜査班SITの現場担当者の夏之目課長を巧みに誘導し、その仙台市の港地区の現場に向かいます。そして、めでたく社長を捕まえます。実は、夏之目課長にもある秘密がありました。その詳細は、実際にこの小説をお読みになってお調べください。

 結局、籠城事件は黒澤が考えた演出された事件でした。その演出された事件の正体を、“神の視点”による説明で明らかにしていきます。やや無理な話の展開のように感じます。

 “神の視点”による説明部分はさらりと書かれています。ここを読者がしっかり読み取るかどうかが、このミステリー小説の面白さの分かれ目です。以上がネタばらしです。

 伊坂幸太郎さんの最新作の単行本「ホワイトラビット」を読み始めた話は、弊ブログの2017年10月21日編をご参照ください。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
伊坂幸太郎さん (T-REX)
2017-10-22 06:49:27
人気がある伊坂幸太郎さんは、立てこもり籠城事件をつくり出すために、周到にいろいろと準備し、余りない展開にして、読者を楽しませていることが分かりました。
これだけいろいろと考え出す構想力はやはり大したものです。
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T-REXさま (ヒトリシズカ)
2017-10-22 07:10:54
T-REXさま

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

今回読んだ単行本「ホワイトラビット」は、伊坂幸太郎さんの発想力の豊かさに驚かされます。

悲惨な立てこもり籠城事件を、ある意味ではファンタジー化してしまいます。

神の視点を使いすぎの点が、やや不満なのですが・・
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伊坂幸太郎さん (海星)
2017-10-22 08:33:46
伊坂幸太郎さんのミステリー小説を読むと、その豊かで独創的な発想力に圧倒されます。
よくこんなことまで考えるなと感じます。
さらに、その発想とコミカルな会話が魅力的です。
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海星さま (ヒトリシズカ)
2017-10-22 10:09:13
海星さま

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

確かに、伊坂幸太郎さんのミステリー小説を読むと、豊かな発想を次々と産み出す才能に驚かされます。

その豊かな発想から産み出される人生の生き方の警句などに驚き、楽しませてもらってます。

多くの方から人気がある理由を感じますね。
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伊坂幸太郎さんの作風 (魔方陣)
2017-10-22 10:55:58
伊坂幸太郎さんの軽妙な会話は、実は人の生き方を示唆する部分もあり、なるほどと思うことがあります。
楽しい会話と予想を裏切るストーリー展開に、いつもハラハラし、楽しんでいます。
大した才能です。
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魔方陣さま (ヒトリシズカ)
2017-10-22 17:43:11
魔方陣さま

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

伊坂幸太郎さんの小説に出てくる軽妙な会話は、面白いと同時に、人生訓にもなっていて、興味深い部分が多いですね。

同時に、小説の流れが予想を超えるストーリー展開になっていて、感心するばかりです。


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