ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

日本経済新聞紙の「私の履歴書 23 斉藤惇 『再び証券界』」編を拝読しました

2017年11月06日 | 日記
 2017年10月24日に発行された日本経済新聞紙の朝刊の文化欄に掲載された「私の履歴書 23 斉藤惇 『再び証券界』」編を拝読しました。

 この「私の履歴書」編の筆者の斉藤惇(あつし)さんは、日本取引所グループの前最高経営責任者をお務めになった人物です。

 2007年に産業再生機構の解散時期が迫ったころに、野村ホールディングスの会長になっていた氏家純一氏が訪ねてきて、斉藤さんに「東京証券取引所の社長を引き受けてくれないか」と依頼します。

 その当時の東京証券取引所の社長だった「西室泰三氏の後任を探しているが、適任者が見つからず、困っている」と当時の状況説明が続きます。

 日本経済新聞紙のWeb版である日本経済新聞 電子版にも見出し「私の履歴書 23 斉藤惇 『再び証券界』」と伝えています。



 記事では、その後に二度、三度と氏家氏と会い、さらに西室氏と会った経緯などから、結局、東京証券取引所の社長を引き受けることになります。

 この記事のサブ見出しは「『お役所』の東証社長に」です。東京証券取引所の社長を引き受けて実際に社員と話してみると、同社の本流と考えられていたのは市場のルールをつくる規制部門や、上場申請に対応する審査部門でした。

 斉藤さんはこのことを「お役所の合わせ鏡のような仕事だった」と表現します。逆に、当時の世界の証券取引所は、大量の売り買い注文を処理するシステムの性能を競う時代に入っていました。つまり、証券取引の「環境の変化に合せて人の配置と戦略を変えられない」組織になっていたのです。

 このために、IT(情報技術)部門に人材を回して、陣容を拡大し、先物やオプションなどの派生商品に対応できる体制に切り替え、世界の証券取引所に対抗できる体制に作り直し始めます。

 ここから以下は、この記事内容から少し脱線します。つまり、斉藤さんの前任者の西室氏は東京証券取引所の改革をあまり進めていなかったことが行間から自然と分かってきます。

 さて、東芝の元社長だった西室氏は、たまたま2017年10月18日にお亡くなりになりました。この時の各大手新聞紙の訃報の中には「企業の経営者は死ぬときまで経営者として行った経営判断などが評価され、それは亡くなった時に、厳しく再評価される」と書いた記事がありました。

 実は、最近の東芝転落の引き金を引いたのは西室氏だとの評価が高まっているからです。西室氏は、東芝の社長を1996年から2000年まで務めます。この間に「選択と集中」が企業経営のキーワードとなり、不採算部門から撤退し、成長部門に集中するという大胆な事業再構築を進めます。

 その仕上げに、次の社長に岡村正氏を置き、さらにその次の社長に西田厚聡氏を置く布石を敷いたと考えられているからです。東芝に委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)を設けて、その布石を敷いたとみている方が多いようです。なお、東芝の企業統治をないがしろにした、不正会計を行った歴代社長の暴走(当時の西田厚聡さんなど3人)の話は、弊ブログの2017年10月8日編をご参照ください。

 西室氏が社長を引き受けた東京証券取引所の後を引き受けた斉藤さんからみると、実際には東京証券取引所は世界の他の証券取引所からはかなり遅れた経営戦略のままでした。つまり「選択と集中」という企業経営のキーワードを実践していませんでした。

 この「私の履歴書 斉藤惇」編の連載中にお亡くなりになった西室氏は、東芝社長・会長に続いて経団連副会長、東京証券取引所会長、日本郵政社長などと華麗な経営者の地位に就任し、経営手腕を振るいます。しかし、この「私の履歴書 斉藤惇」編を読む限りでは、東京証券取引所の経営改革は成果を上げていません。

 前任の社長の経営内容を、後任の社長がほとんど評価しないというのが記事の中身になっています。これが結果的に、西室氏の経営手腕の再評価になっている点が偶然ですが、とても興味深いところです。

 11月上旬に入って、10月24日と少し前の記事を取り上げることに、タイミングの悪さを感じています。

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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
西室泰三氏 (冬将軍)
2017-11-06 06:56:30
西室泰三氏は日本を代表する名門企業の東芝の社長・会長を務め、その経営手腕から経団連副会長、東京証券取引所会長、日本郵政社長などと名経営者として、財界人の道を進まれたことと思います。
今回の「私の履歴書 斉藤惇」編の内容は、死去されたからこそ書けた内容だと思います。生前ではとても書けない内容のように思います。
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経営人の不正 (にあがりもん)
2017-11-06 07:43:23
確か、オリンパスの経営人の不正は、新たに社長として呼んだ欧州人の社長が前経営陣の不正を見つけました。
この点、東芝は社員の中から経営人に選ばれ、前経営陣からその後の経営を任されました。こうした前任者から委託された経営陣は、前任者の不正を暴くことができなかったといえます。
この点は監査法人だけでは、不正は見ぬけない点も大きな問題です。
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冬将軍さま にあがりもん様 (ヒトリシズカ)
2017-11-06 08:04:47
冬将軍さま 
にあがりもん様

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

経営者は時代の変化に応じて、仕事の中身を改善・改良し、従業員を再配置し、事業内容を改革し続けます。

しかし、この基本ができている日本企業が少ないのが現状です。真にプロの経営人はあまり多くない点が、日本の大手企業の課題になっているようです。
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後輩の経営陣 (GLOBE)
2017-11-06 09:13:32
日本の大企業では、後継の経営人は「前任者の経営方針を引き継ぎ、発展させます」と表明します。
実際に、経営方針を変えて実行する場合も、しらっと実行して、前任者は特に非難しません。
今回の斉藤さんも、前任者の西室さんの不実行を直接的には非難していません。日本の経営者の美徳ですね。
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GLOBEさま (ヒトリシズカ)
2017-11-06 10:19:26
GLOBEさま

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

日本の大手企業では、経営陣、特に社長を外部からスカウトする人事はまだ少ないので、後輩の経営人は「前任者の経営方針を引き継ぎ、発展させます」と表明するのか習慣になっていますね。

でも、企業の事業態勢を改革するためには、次第に外部から社長をスカウトする人事もいくうか増えています。

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プロの経営人 (レレレのおじさん)
2017-11-06 17:16:49
今回の「私の履歴書 斉藤惇」編は、従来の日本企業の経営人とは考え方が異なる、是々非々の見解のようです。
プロの経営人は結果責任を問われますので、後任の経営人が前任者の経営判断を淡々と評価してもいいのでは・・
でも、日本流の日本企業の経営人は、前任者を的確に分析しないのが通例ですね・・
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レレレのおじさん様 (ヒトリシズカ)
2017-11-06 17:32:11
レレレのおじさん様

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

後任の社長などの経営陣が、前任者の経営判断について分析・評価した中身を従業員に解説しないと、事業戦略の変更理由が伝わらないと思います。

時宜に応じた事業戦略の変化のやり方を的確に説明できない経営人は能力がないと言えますね。



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大企業の経営者像 (十一面観音)
2017-11-07 08:04:56
日本の高度成長期の経営人は、部下の従業員が優秀なので、設備投資や技術導入などの決断だけで済んでいました。
しかし、2000年以降は、事業再編などの経営手法ができる実力ある経営人が必要になりました。
実力ある経営者は、一企業内で過ごした方には、難しい問題だったことと思います。

名門企業の東芝の社長・会長を務めた西室泰三氏は幸せな、高度成長期の経営者だったことと感じました。
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十一面観音さま (ヒトリシズカ)
2017-11-07 08:54:52
十一面観音さま

コメントをお寄せいただき、ありがとうございます。

高度成長期の日本企業は事業にあまりにも成功しすぎたために、2000年以降のグローバル化では、どんな製品・サービスを事業化するのが収益力・競争力があるかを十分に考える必要が増え、プロの経営者でないと、企業の運営ができない時代に入りました。

日本の多くの大手企業は、まだプロの経営者を探している途上ですね。

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