とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

書評「ヒート」(堂場瞬一作)

2015-12-28 09:58:38 | 読書
 元箱根駅伝のランナーであった神奈川県知事が、マラソンの世界最高記録を作りたいとの想いから「東海道マラソン」を新設する。その仕事をまかされたのが、やはり元箱根駅伝のランナーの神奈川県公務員である音無。音無は高速レースにするためにコースの選定、風よけの設置などできることをすべてやろうとする。しかし一番重要なランナーがきまらない。

 知事は山城を選手として考えていた。というよりも山城を想定しての新設マラソン大会だったため、山城抜きでは成立しなかった。山城は日本人としては圧倒的な力を持っていた。しかし、山城は他人の意見には絶対に耳をかさない男であった。だからその大会に出ることを断り続ける。

 もうひとつ問題があった。音無はペースメーカーが大切だと考えていた。そこでハーフの日本記録を持っていた甲本が最適だと考えた。しかし甲本もプライドがゆるさない。音無の依頼を受ける気にはなれないでいた。

 結局、山城も甲本も走ることにはなるのだが、・・・・

 大会の成功のためにあらゆることを計画し準備する音無と、自分の生き方を曲げられないふたりのランナーのそれぞれの思いが交錯し、大きなうねりを作りだす。

 ストーリーはわかりやすく誰でも楽しめるものであるが、そこに描かれている心情は、きっちりと準備をすることも、自分を貫こうとすることも、両者とも誰の心の中にもあるものである。その人間らしい心の動きが加速度をつけて小説を大きく運動させている。

 世界には数えきれないほど多くの人間がいて、それぞれの人が自分の思い通りに人生をおくれるように計画を立て必死に準備をする。しかし、一方ではそれぞれの人は準備された生き方を嫌い、自分らしい生き様のために必死にもがく。人生のおもしろさはその衝突の中から、全く新しいもっと魅力的な世界が生まれことにある。

 スポーツ観戦のおもしろさはそこにある。小説も作者の手を離れるような作品ができた時名作になる。

 もちろんそんなドラマはめったにない。
コメント
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