『ドライブ・マイ・カー』を監督した濱口竜介監督の3つの短編からなるオムニバス映画です。偶然の引き起こす人間の心の揺れを丁寧に描写する名作です。
「魔法」
古川琴音 中島歩 玄理
「扉は開けたままで」
渋川清彦 森郁月 甲斐翔真
「もう一度」
占部房子 河井青葉
濱口監督の最大の特徴は、抑揚のほとんどない棒読みのようなセリフです。役者は他の演劇だったら下手だと思われるようしゃべり方をします。しかしこの演出は観客をセリフに集中させます。セリフひとつひとつが、役者の余計なフィルターを通さずに、観客に直接とどくのです。不思議な効果があります。
役者が演技をしていないわけではありません。役者はセリフに集中し、そのセリフを自分のものにしていきます。そして普段の自分のしゃべり方になるまで自分の中で育て上げています。他の人のまねをしているのではなく、自分の身体から発せられる自分の言葉になるのです。だからいつの間にか不自然さは感じられなくなります。
セリフは時にはかみ合いません。時にはかみ合います。時にはぶつかり、時にはすれ違います。集中したセリフはそれ自体がドラマを生みます。退屈になりそうでありながら、逆に濃密な時間の中で時間を忘れます。
小津安二郎以来、日本の伝統的な手法なのかもしれません。あるいは世界的にも確立したひとつの方法論なのかもしれません。それを見事に作品として具現化するのは並大抵の力ではないはずです。
すばらしい映画でした。
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