世界の街角

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日本の失われた30年に未来はあるのか・前編

2021-10-16 07:19:55 | 日記

中国恒大(こうだい)集団のデフォルト懸念が高まっていると云う。当然のことで驚くに値しない。中国の経済成長率は、戦後日本の高度経済成長どころではないほどの高成長率でかつ長期に渡る。日本で高度経済成長が止まると、多くの大企業が苦境に陥った。特に1990年代前半のバブル崩壊後、放漫経営の行き詰まりから山一証券が倒産したことは記憶に新しい。その事例から云えば、中国も淘汰の時代の始まりであろう。

思えば、今日の中国の基礎を築いたのは鄧小平である。共産中国において彼は『白猫黒猫論』を提唱し、1962年に毛沢東の政策を批判した(暗に階級闘争のイデオロギーにとらわれるなと批判した)。その後1978年に改革開放政策に着手し、1992年に中国南部で南巡講話をするに至った。つまり、豊かになれる者から豊かになれば良いとの改革開放政策である。

この改革開放政策とは何だ。識者が云う“新自由主義”と同義に他ならない。2001年4月26日に発足した小泉純一郎内閣は、“聖域なき構造改革”を推進した。これは、新自由主義経済派の小さな政府論より派出したもので、郵政や道路公団の民営化を推進した。

経済学者や識者は、この“新自由主義”を諸悪の根源として槍玉にあげる。GDP成長率は鈍化し、国内では富める者と富まざる者の格差が拡大したと手厳しい。結果はそうだとして、その原因が本当にそうか、との疑問が湧く。日本の経済成長率が鈍化するのは、小泉内閣が発足する10年前の1990年代初頭、つまりバブル崩壊後からである。“新自由主義”が槍玉にあげられる以前から、成長はとまっている。

話は飛ぶが、小泉内閣発足後の中国環球時報(人民日報姉妹紙・タブロイド版)は、事あるごとに小泉首相の記事で埋まっていた(無錫へ出張の度に、環球時報のその種の記事を目にした。その環球時報を写した写真が見当たらない、代わりに財経時報の一面写真を掲げておく)。

それも一面トップで大きな写真入りである。何となれば、改革開放政策と同じようなことを大々的に、日本が遣りだそうとの驚異を持ったからに他ならない。しかし、日本は再び中国のように躍進することはなかった。何故か・・・これは後段で言及したい。

何故、日本はここ30年に渡り成長できずにいるのか、個人的に考えるその原因を述べる前に、日本のGDP成長率の結果と中国・米国との比較、更に成長著しい電子部品産業と、その恩恵に浴していない物販業の売上推移を紹介しておく。

上表を御覧のように、1990年代初頭と2020年代初頭の比較である。この30年間で日本のGDP成長率は6.7%の成長に過ぎないが、その間に米国は4倍、中国は3倍に成長した。一人当たりGDPはシンガポールに抜かれ、もはやキャッチアップどころか、差は開く一方である。悔しいことに数年前には韓国に抜かれてしまった。このテイタラクは何だ。

日本の成長は鈍化どころか停滞しているが、米国以上の成長を遂げている企業も存在する。それが電子部品業界で、村田製作所、TDKに代表される。売り上げで悲願のTDKを抜きさった村田製作所はこの30年で、売り上げが6.4倍に伸びた。何故、村田製作所やTDKが伸長し、半導体が身売り同然のテイタラク状態になったのか。

(横浜 村田製作所・みなとみらい研究開発センター)

(村田製作所は首都圏に多くの研究開発センターや東京支社ビルを保有するが、本社は京都にとどまったままである。大いなる田舎者にすぎないが、どういう訳か、日本電産、京セラ、任天堂、OMRONはいずれも京都にとどまる田舎者である)

(TDK本社ビル)

成長産業にタマタマ身を置いたのが良かった、との見方もできるが、では最先端を走っていた太陽電池や半導体はどうなのか。成長著しいとはとても云えない物販業はどうか。

イオンをたとえに挙げてみた。イオンは、この30年で5.7倍の売り上げ増を達成している。ダイエーは倒産して久しい。セブンイレブンはまだしも、同グループのヨーカ堂は斜陽に近い。この差はどこからくるのか。

イオンのマレーシアやタイのショッピング・コンプレックスは、何度か出かけたが、地元客でにぎわっている。国内売り上げが物販業全体でシュリンクするなか、海外にも活路を見出し、国内においてはスクラップ&ビルトにより清新さをうちだしている。それは物販業としては異例とも云うべき設備投資額比率にも表れている。まさに“あっぱれ”である。

(写真はGoogle Earthより借用したMidvalley MagamallでKL Sentral(クアラルンプール・セントラル駅)より一駅。KL Sentralの隣接地にもショッピング・コンプレックスがある)

ここで手前味噌ながら村田製作所と各業界の数字比較をしてみる。先ず村田製作所である。設備投資額+研究開発費+税前利益で何と40%超に達する。当然のことながら一朝一夕で、できる訳がないが、それなりのものであると考えている。

そこで我が国最強のトヨタ自動車である。流石に研究開発費と設備投資額合計で2兆3000億円を超える。トヨタ生産方式は健在で、国内生産台数もそれなりに維持されている。設備投資額の何割が国内投資か、詳細はわからないが、労務単価が増加する中、国内雇用を維持できる合理化投資は行われているであろうと思われる。

その国内最強のトヨタ自動車の研究開発費+設備投資額の売上げ比率は、8%強である。ここでトヨタ自動車は我が国最強と記しているが、トヨタと云えども安泰ではない。内部留保は22兆円なるも有利子負債は約26兆円も抱かえており、年間売上高に匹敵する。電気自動車・EVなのか、燃料電池自動車・FCVなのか、水素エンジン車・HEなのか、先行きを一歩誤れば、借金が重くのしかかる・・・横道に逸れて恐縮である。

最近、復調著しいソニー。ソニーのそれは11%を超えており、そこでも復調している様子が伺われる。それに引き換えもはやダメにちかいNECは、双方合わせて5.7%しかない。成長をあきらめたのか?・・・このように比較してみると、あきらめたとしか思えない。

諦めはジャパンディスプレイもそうだ。最先端商品の開発に鎬を削る先端産業分野で2.7%しかない研究開発投資は、後塵を拝してかまいませんよとの宣言以外の何物でもなかろう。

世界の負け組の建設業。毎年談合のニュースが駆け巡る。もっとも競争・切磋琢磨しない業界は、財務諸表にそれが現れている。研究開発費+設備投資額合計で1%以下である。建設大手5社の海外工事は、ほとんど受注できず、かろうじでODAの紐付き受注程度で惨めこの上ない。今や中国の個々の建設業の売り上げ規模は、日本大手各社の10倍以上で年々差は大きくなっている。研究開発費+設備投資額合計で1%以下が物語っているが、生産性向上の設備投資や研究は行わず、談合により国内の小さなパイを分け合っているに過ぎない。

日本のほとんどの産業界は、新機能材料や新商品の開発投資を怠り、生産性向上の合理化投資を避け、労務費の低廉な海外に逃避した。長年の生産性の鈍化から、分配にあずかる個人所得は増えず、消費に回る金は一向に増大しない。何故、このようになったのか。次回は失われた30年、何故成長鈍化したのか真相に迫りたい。

<続く>