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装飾古墳は語る(3)・王塚古墳

2022-07-27 08:43:08 | 装飾古墳

不定期連載シリーズの3回目は、王塚古墳について掲載する。日本で装飾古墳と云えば、王塚古墳の文言が出るほど著名であり、色彩は6色で日本最多である。

<壁画系装飾古墳>王塚古墳 福岡県桂川町 6世紀中頃

王塚古墳については、語ることは山ほどあるが、先ず所在地から紹介する。

全長約86m、後円部径約56m、後円部高約9.5m、前方部幅約60m、墳丘は二段築成で黒色と赭土色(あかつちいろ)の粘質土を交互に積み上げ版築状に造り上げている。斜面には円礫の葺石が葺かれていて、円形埴輪も確認されている。二重の周濠が巡らされている。

出土品は鞍、輪鐙、杏葉などの馬具類、銅鏡、管玉、棗玉、切子玉、小玉、耳環、銀鈴、鉄製大刀、鉾、刀子、鏃、挂甲の小札、土師器、須恵器など。

(以下、掲載の写真の品々はレプリカで、実物は京都国立博物館の蔵品となっている。)

(これらの馬具は金銅製で、当時は煌びやかに輝いていたであろう品々である。騎馬民族やその末裔につながるのであろうか。下の青銅鏡は変形神獣鏡である。)

壁画は赤・黄色・緑・黒・白・灰の彩色(因みに6色は王塚古墳のみ)で、騎馬像、同心円文、三角文、双脚輪状文、蕨手文、靫、大刀、盾が描かれている。

(玄室には被葬者の枕も形成されていた。手前が妃なのか、首長なのか、知る由もないが(考古学的には解明済?)2体埋葬されていたことがわかる。そこには鋸歯文や蕨手文で装飾されていた。)

(天井には、多くの星が描かれている。黄泉の世界とも受け取れるが、それは黄泉の地下世界ではなく、常世と考えたほうがよさそうだ。)

以下、王塚古墳に関する文様の解説や、種々の見解を箇条書きで示す。

  • 馬や武人、双脚輪状文、朱色に塗られた玄室の天井には白い星が描かれ、その下には赤や緑や黒の鋸歯文が幾重にも並ぶ。遺体の床には二人分の枕の窪みがある。それを守るように奥や左右に盾や靫が整列している。
  • 小さな人が馬に乗っている。実際の大小の比率とかかわりなく描かれている。
  • 前室から奥室に入る両側に馬の絵が描かれている。被葬者の来世への乗り物であろうか? 右側には赤と黒、左側に黒・赤・黒と五匹の馬である。いずれも小さく描かれた人物が乗っている。馬の背後には蕨手文と双脚輪状文が描かれている。奥室はすべて魔除けの文様で埋め尽くされている。それに対して前室の奥壁の馬は、魔除けでは説明できない。
  • 部屋の上半部は、ベンガラで赤く塗られ、そこに黄色粘土で小さい円文が多数配されている。その小さい円文は星を示しているであろう。つまり小宇宙とも云うべき夜の世界であろう(これについては先ほど常世であろうと、当該ブロガーの見解を記した)
  • 連続三角文(鋸歯文)とともに靫(ゆぎ)や盾、さらには大刀や弓も描かれている。このような武器・武具は被葬者を護るためのものである。前期終りころの古墳では、盾や靫の形象埴輪が被葬者を護るように、古墳の墳頂部に並べられているのと同様な意味を持っている。
  • 3番目の見解に関連して、描かれている馬は魔除けでは説明できない・・・とある。竹原古墳の馬(馬か天馬か、はたまた龍か?)のような存在でもなさそうだ。王塚古墳の馬だけでは意味不詳である。熊本県山鹿市の弁慶ケ穴古墳の壁画を見ると船の絵が描かれている。上の船は柩でそこには鳥がとまっている。その下の船は馬が乗っているものと思われる。船が被葬者を来世に送るものとすれば、馬もまた来世への乗物との理解が可能であろう・・・とすれば、王塚古墳の馬の絵も、被葬の魂を他界に運ぶ役割を果たすものであったかと思われる。
  • 梅原末治氏、小林行雄氏による京都大学・学術調査報告書によると、埴輪が出土したと記されているが、王塚装飾古墳館にその展示をみることはできなかった。合わせて鉄地金銅張剣菱形杏葉、鉄地金銅張環状鏡板、鉄地金銅張f字形轡(くつわ)鏡板や金銅製鞍金具などの馬具が出土している。これだけの馬具を副葬できるのは、筑紫でも最上位かと思われる首長であったと思わせる。
  • 玄室(奥室)の東北壁面の一枚石の巨石に、上下三段に盾を数十描いている。その反対側の西南壁面にも巨石を据えて石室を構築しているが、そこには黒と赤で色分けした靫が描かれている。東北の壁面には盾、西南の壁面には靫という武具を全面に描き連ねる空間に、三角文や刀の文様もある。これらの武具・武器は、埋葬された人の霊魂を護る意識が強かったためと思われる。

いずれにしても、副葬品に馬具・武具・武器を見ることができ、被葬者は半島南部の百済・新羅からの渡来人ないしはその末裔、あるいは、それに繋がる人物と考えられ、彼の地における葬送観念との繫がりを調査・研究する必要があろう。

<不定期連載にて次回へ続く>



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