ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

向道ダム

2017-07-28 17:59:51 | 山口県
2017年7月18日 向道ダム
 
向道ダムは山口県周南市(旧徳山市)の錦川本流上流部にある山口県と中国電力が共同管理する多目的重力式コンクリートダムです。
日本の土木技術理論において大正期から昭和初期にかけて第一人者であった物部長穂は治水と利水を統合し河川を一貫して開発する『河水統制計画案』を提唱、これをもとに内務省は1935年(昭和10年)に『河水統制事業』を採択、全国七河川一湖沼で治水・利水を一貫した河川開発が実施されることとなりました。
山口県では『錦川河水統制事業』として錦川の洪水調節を図るとともに周南地区への工業用水の供給と発電を目的とした向道ダムが1938年(昭和13年)に着工され1940年(昭和15年)に竣工しました。
向道ダムは着工こそ青森県の沖浦ダムに後れを取ったものの、竣工及び運用開始ベースでは日本初の多目的ダムとなっています。
1942年(昭和17年)に電力事業の国家統制に伴い発電事業は日本発送電傘下の中国配電に委譲、1952年(昭和26年)の電気事業再編政令により中国電力が継承し、以来向道ダムは山口県と中国電力が共同管理する兼用工作物となっています。
1965年(昭和40年)の菅野ダム完成によりダム機能の大半は菅野ダムへと移され、現在の向道ダムは上水道用水及び工業用水の供給、中国電力間上発電所で最大5600キロワットのダム水路式発電、向道発電所での最大500キロワットのダム式発電を目的としています。
 
国道315号線に向道ダムへの標識があり、これに従って隘路を進むと向道ダムに到着します。
この手のダムとしては珍しく堤体直下まで降りることができます。
扶壁の上にゲート操作室が乗るスタイルは中国地方の発電ダムではおなじみで、ここがプロトタイプと言えます。
 
せんぜんおダムでよく見られるすり鉢状の減勢工。
左手前のコンクリートの断面が堪りません。
 
手前は中国電力向道発電所。
 
 
右岸から
まるで戦艦の艦橋のよう。
 
 
ダム下には行けますが天端は立ち入り禁止。
 
これは古いタイプの水位計だそうです。
 
上流面
取水設備は手前側4番ゲートの左手水中にあります。
 
上流から遠望。
 
追記
向道ダムは洪水調節容量のない利水ダムですが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流により新たな洪水調節容量が確保されることになりました。
 
2054 向道ダム(1087)
山口県周南市長穂
錦川水系錦川
WIP
43.3メートル
129.9メートル
7030千㎥/6863千㎥
山口県土木建築部・中国電力(株)
1940年
◎治水協定が締結されたダム

島地川ダム

2017-07-28 14:58:05 | 山口県
2017年7月17日 島地川ダム 
 
山口県中部を南北に流下する佐波川は、流域に広がる県内有数の穀倉地帯を潤す一方で幾多の洪水被害をもたらしてきました。
1956年(昭和31年)に佐波川本流上流部に山口県によって佐波川ダムが建設されますが、本流に匹敵する流入量のある島地川は手つかずのままで佐波川水系の洪水対策は万全とはいえない状況でした。
一方で高度経済成長に伴う沿岸部への工場集積はとどまるところを知らず、併せて人口も増加の一途を辿り新たな都市用水の水源確保が喫緊の課題となってきました。
おりしも1966年(昭和41年)の河川法施工により佐波川水系は一級河川に指定され、建設省(国交省)は『佐波川総合開発事業』を策定、その中核事業として佐波川の主要左支流である島地川上流部に1981年(昭和56年)に竣工したのが島地川ダムです。
島地川ダムは世界で初めて堤体本体をRCD工法によって建設されました。
 
島地川ダムは島地川および佐波川の洪水調節、既得取水権としての灌漑用水への補給と適正な河川流量の保持、防府市・周南市・山口市徳地地区への上水道用水及び工業用水の供給を目的としています。
工業用水については山口県企業局が周南市の旧新南陽地区および旧徳山地区向けの工業用水の水源として島地川ダムを利用しており、佐波川下流で取水された水は導水路で富田川にある山口県営の川上ダムへと送水されています。
 
今回は徳地から国道376号線を東進、国道が島地川ダムの天端を通っているのでアプローチは簡単です。
ダム右岸の管理事務所前の竣工記念碑。
 
RCD記念碑
そういえば同じRCD工法で建設された秋田の玉川ダムにも同じようなモニュメントがあったような?
 
下流面。
 
上流面
国交省直轄ですが、ゲートレスダムのため構造はシンプルです。
自由越流式洪水吐が4門とオリフィスゲート1門 右手に取水設備があります。
 
エレベーター棟
なんか半べそかいた顔に見えます。
 
ダム湖(高瀬湖)総貯水容量2060万立米
雨が上がった直後で空気が洗われ、スッキリした景色が広がりました。
 
減勢工
右手が利水放流設備で、河川維持放流が行われています。
 
天端は国道376号線
国道ですが交通量は非常に少なく見学中にほんの数台通っただけ。
 
下流から
前夜の雷雨で水位が上がったのか?オリフィスから放流されています。
 
ズームアップ
国交省直轄ダムだと、ゲートがごちゃごちゃあるイメージなのですが島地川ダムはゲートレスのスッキリした構造
V字の導流壁が格好いい!!
 
追記
島地川ダムには720万立米の洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらに413万9000立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
2086 島地川ダム(1086)
山口県周南市高瀬
北緯34度10分13秒,東経131度46分31秒
佐波川水系島地川
FNWI
89メートル
240メートル
20600千㎥/19600千㎥
国交省中国地方整備局
1981年
◎治水協定が締結されたダム

佐波川ダム

2017-07-28 12:43:24 | 山口県
2017年7月18日 佐波川ダム
 
佐波川ダムは山口県山口市徳地の佐波川本流にある山口県土木建築部が管理する多目的重力式コンクロートダムです。
山口・島根県境の仏峠付近に源を発し山口県中央部を南流して防府市街を経て周防灘に注ぐ佐波川は流路延長57キロの一級河川で、県下最大の防府平野をはじめとして流域は県下有数の穀倉地帯となっています。
一方で豪雨による洪水被害も多く、とりわけ1951年(昭和26年)7月の豪雨では流域で甚大な洪水被害をもたらしました。
そこで山口県は抜本的治水対策として現地点への治水ダムの建設を計画し1952年(昭和27年)から事業に着手しました。
しかしこの間、戦後の食糧増産対策による新規農地の拡大、沿岸部の休息の工業化進展に伴う都市用水や電力需要の増大などから総合的な河川開発を求める声が高まりました。
これを受け県は1953年(昭和28年)に『佐波川総合開発事業』を策定、佐波川のダム建設を治水ダムから補助多目的ダムに変更し、1955年(昭和30年)に竣工したのが佐波川ダムです。
 
佐波川ダムは佐波川の洪水調節、既得取水権として流域の灌漑用水への補給と適正な河川流量の保持、防府市・徳地町(現山口市徳地)地区の新規開墾農地への灌漑用水の供給、防府市の工業地域への工業用水の供給を目的としているほか、山口県企業局佐波川発電所で最大出力3500キロワットの発電を行っています。
 
中国道徳地インターから国道489号線を北上すると徳地野谷で佐波川ダムへの標識が現れます。これに従って市道を進むと佐波川ダムに到着します。
まずは下流から
クレストには2門のラジアルゲートが装備され、向かって左奥に管理事務所が見えます。
 
正面から
2門のラジアルゲートの左岸側(向かって右手)に自由越流式の細長い洪水吐が並ぶ珍しい形状。
ラジアルゲートの扶壁のコンクリートが新しくここは改修があったようです。
1955年(昭和30年)の竣工当時からこのゲート配置なのか?改修でこうなったのか?
 
アングルを変えて
洪水吐導流部の下の方や減勢工を見たいのですが、見える場所がありません。
 
ゲートをズームアップ
こうやってみるとゲートの扶壁のコンクリートだけ白く、明らかに改修があったことがよくわかります。
ゲート巻き上げ機は被覆されています。
 
上流面
対岸の取水塔は発電用。
 
管理事務所のすぐ下に巡視船用の浮き桟橋があります。
 
天端は車両通行可能です
1950年代のダムらしくゲート部分がクランクになっています。
 
減勢工
やっぱり利水放流設備などが見えません。
 
ダム湖(大原湖)は総貯水容量2460万立米。
 
天端左岸はトンネルになっており、ダム湖上流へと続きます。
 
佐波川ダムの完成により佐波川流域の治水利水は大きく改善しましたが、なお中下流部で計画を上回る出水が発生しました。さらに沿岸工業地帯の一段の発展に伴う人口増を受けて上水道および工業用水の新たな水源確保が必要となりました。
1966年(昭和41年)の新河川法制定により佐波川は一級河川に指定され、1981年に建設省(現国交省)により支流の島地川に島地川ダムが竣工し上記諸課題は大きく解決に向かいました。
現在は佐波川ダムと島地川ダムが連携して佐波川の洪水調節を行っています。 
 
 
追記
佐波川ダムには810万立米の洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらに234万3000立米の洪水調節容量が確保されることになりました。
 
2067 佐波川ダム(1085)
山口県山口市徳地
北緯34度16分37秒,東経131度39分19秒
佐波川水系佐波川
FNAIP
 
54メートル
156メートル
24600千㎥/21400千㎥
山口県土木建築部
1955年
◎治水協定が締結されたダム