ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

情熱のピアニズム

2013年02月03日 | 映画
 
 テレビでプロ野球中継が始まったころのアメリカでは、
「家にいながら野球を見ることができるのなら、もう誰も野球場へなんか行かなくなるだろう」と言われたそうです。
でも実際は、テレビは野球熱の広がりに大きな役割を果たしました。「ベースボールはやっぱり楽しい。だから野球場でもっと楽しんでみたい」と誰もが思ったのです。
 

 映画館で映画を観るのは、今でもけっこうなイベントだったりするんですね。
 ちょっとだけおしゃれして外出。映画の前後にはたいていお茶とか食事とか。観終えたあとウィンドショッピングしてみたり。
 デートの行き先の変わらぬ定番でもありますね。好きな人と一緒に行った映画にどぎついシーンが出てきて、なんとなくドギマギしたのもいい思い出です。


 しかし、映画が「斜陽産業」だと言われるようになって久しいです。
 今では各家庭にDVDデッキがあるのは当たり前。行動半径内にはたいていレンタルDVD店があり、気軽にホームシアターが楽しめる。しかも何度でも繰り返して観られます。
 せっかく料金払って観に行ったのに全くの期待はずれに終わることもあるし。
 でもテレビとは違う迫力、緻密な造り、やっぱり気になる作品は映画館の大きなスクリーンで観たいものなんです。
 

 そんなわけで久しぶりに行ってきたのが、独立系の映画館で公開中の、ジャズファン必見の作品「情熱のピアニズム」です。
 1980~90年代を駆け抜けた稀代のジャズ・ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの内面に迫ったドキュメンタリー映画です。


 ペトルチアーニはぼくの好きなピアニストでもあります。
 素晴らしい演奏とともに必ず語られてきたのが、彼の持つ骨形成不全症という先天的な障害についてです。
 正直に言って、障害を持ちながらどのような演奏をするのか、ということも興味のひとつだったのですが、初めてペトルチアーニのCDを聴いた時には障害がどうとかいうことはどうでもよくなってしまいました。障害があろうがなかろうが、彼の奏でるサウンドに魅かれた、ということなんです。
 「クリスマス・ドリーム」という曲を聴いた時に思ったのが、「このペトルチアーニという人は、もしかしてとてもユーモアがあって、バイタリティあふれた人ではなかろうか」ということでした。たいへんな障害を背負っていて、なぜこんなに明るくやんちゃな演奏ができるんだろう。



♪ペトルチアーニのファースト・アルバム「ミシェル・ペトルチアーニ」。驚異的なテクニックはもちろんだけど、明るくてユーモアが感じられるサウンドが大好きです。


 その後、ライナー・ノートやなどのいろんな記事を読むにつれ、彼がとても奔放な人生を送ったことを知りました。この「情熱のピアニズム」は、数多くのインタヴューをもとに、そのあたりのことにスポットを当てています。


 演奏シーンは、期待していたよりやや少なめでしたが、強いタッチで弾くと骨折したり、さらには骨折をものともせずステージを全うしたり、あるいはアメリカへ渡るためごく短期間で英語をマスターしたりなど、彼の「努力」や「気合」などを感じさせてくれるエピソードがいくつも知ることができました。


 でもやはり印象に残るのは彼の女性遍歴だったり、気難しい一面があって気ままに生きていたというところでしょう。
 しかしそこから垣間見えるもの、それはミシェル自身が障害を理由にマイナス志向に陥ることはなかったこと、あるいは先天的な資質だったかもしれないけれど、貪欲に人生を謳歌しようとしていた彼自身の価値観ではないでしょうか。
 肉体的ハンディを補ってあまりある成果をあげた彼の原動力は「前向きであること」を改めて教わりました。


 ただ、映画の時間的制約もあるでしょうが、いわばミシェルのスキャンダラスな部分、奔放な生き方に時間の多くが割かれていたので、ぼくが興味があった部分が端折られていた感はありました。
 たとえば「音楽に取り組む時に自分自身をどのようにして追い込んでいったか」とか「壁に当たったときにいかにそれを乗り越えたか」、あるいは「障害があることに対する葛藤の有無、そして葛藤があったとしたら自分とどう戦ったのか」といった部分をもう少し観たかったです。
 ただし、映画の中でミシェル自身によって語られた中には、それらの答えを示唆した言葉がいくつかありましたけどね。


 音楽的なこと以外にもいろんな意味で考えさせられたことの多い、濃い作品だったと思います。
 DVDが出たら買ってもう一度観たいな~(^^)





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コメント
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