ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

井上智 & 北川潔 ライブ@岡山蔭涼寺

2016年02月28日 | ライブ



【Live Information】 
 
 
 井上智(guitar)と北川潔(bass)は、アメリカでも長年活躍しているジャズ・ミュージシャンだ。
 井上氏がジャズ雑誌に連載していた記事は愛読していたし、北川氏は尊敬するベーシストのひとりである。もちろん面識はないが、このふたりが12年ぶりにデュオ・アルバムをリリースするという記事は、一種の親近感を持ってぼくの目に入ってきた。
 そのうえ、CDリリース記念ツアーが2月下旬からスタートするというのだが、なんとそれはぼくの住む岡山市から始まるという。
 北川氏のプレイに対しては、一歩でも近づきたいという憧れのようなものを持っているうえに、普段アメリカで生活している北川氏の日本でのライブは地域や本数が限られているので、岡山で氏のプレイが聴けるのはまさに天の配剤。ツアーのニュースを知ったのは、2月も中旬だったので、即座にライブ会場の岡山市蔭涼寺に予約の連絡を入れた。
 早く生で聴いてみたい気持ちが強かったので、ライブまでの一週間はけっこうニヤニヤして過ごしたと思う。
 
 
 会場の蔭涼寺は、建物そのものの音響が素晴らしく、内外のミュージシャンのライブがしばしば行われている。
 住職の篠原氏自らがPAとライティングを担当するのだが、極力生音の良さを生かすことをイメージしているため、音色がとても温かく聴こえる。これは、リスナーとしては嬉しいことだ。
 篠原氏は、お寺には様々な人が集まってきてかまわないし、そうあってほしい、という考えをお持ちなので、毎週のように音楽をはじめとする様々な催し物が行われていて、岡山のカルチャー・シーンにも少なからぬ影響を与えている。


 


 ライブがあったのは2月23日(火)。開演は19時30分。
 客席から見て左にギター、右がベース。
 座席は30~40ほど用意されていただろうか。
 最前列は少し恥ずかしかったので、2列目に陣取る。
 ただし、北川氏の弾く姿をしっかりと見たいので、こころもち真ん中より左に座ったが、ここが最前列の方の頭と頭の間からよく北川氏の見える、自分的な特等席だったので、ひとりでワクワクホクホクしてしまった。


  

  
 井上・北川の両氏が現れたのは、ほぼ定刻。
 小曽根真やジョン・ファディス、ケニー・バロンという、名だたるミュージシャンのベーシストを務めてきた北川氏の姿をやっと見ることができて、ぼくの心は一瞬にして温度が上がった気がする。
 子供が、憧れのプロ野球の大スターに会った時の気分って、こんなんだろうと思う。


 チューニングのあと、おもむろに北川氏がミディアム・テンポでイントロを弾き始める。ゴキゲンにスウィングするベースに井上氏のギターが乗ってきて奏でられ始めたのは、「The Surrey With The Fringe On Top(飾りのついた四輪馬車)」。
 レイドバックした雰囲気で、ブルージーに、どことなくユーモラスに曲は進んでゆく。


  

 
 ライブは、井上&北川デュオのCDリリース・ツアーなので、セット・リストは当然ニュー・アルバム「Second Round」から。それに加えて「Waltz New」「No More Blues」を聴かせてくれた。
 
  
 ふたりとも関西の出身で、付き合いは30年以上。渡米してからの年月も、ふたりとも25年以上になるという。
 長年のキャリアの影響もあるのだろう、気負ったところもなく、ふたりの間の楽器による意志の疎通もスムースであるように聞こえる。
 雰囲気的には井上氏が温厚柔和で面倒見のよい兄、北川氏がどことなくイタズラっぽいヤンチャな弟。
 MCでは穏やかな笑みを浮かべるふたりだが、いざ演奏がはじまると表情が一変、全精力を自分の音楽に費やしているのが清々しい。
 
  
 ジャズ・ギターの巨匠ジム・ホールの愛弟子である井上氏のギターのトーンはひたすら心地良い。訥々と歌っているように聞こえるフレーズの数々には、井上氏の顔に刻まれたものと同じ年輪が刻み込まれているのだろう。
 北川氏のベースは、ウォーキングでは小気味よいグルーブ感が遺憾なく発揮されていて、それだけでぼくの体は心地よく揺れる。ベースソロでは時折「ウッ」とか「ア~」とうめき声をあげていたが、それが却って、氏のソロには切ればほとばしようなアツい血が通っていることを改めて教えてくれていた。


  

 
 各々のソロあとの拍手がやや短いように感じたが、これは演奏が物足りないのではなく、客席が固唾を呑んで聴き入っていて拍手のタイミングを逃したり、長く拍手すると次のソロの頭を聴きもらしてしまうからだと思う。実際客席はみな目がステージに釘づけで、最後まで張りつめた空気が漂っていた。
 
 
 終演後、購入したCDにサインをいただけたが、その時に北川氏と話せて、嬉しさのあまり舞い上がってしまった。緊張してよけいなことばかり口走ってしまったような気がする(^^;)。
 ほんとうは、「あなたのCD「アンセストリー」や「プレイヤー」は自分の愛聴盤である」とか「昔から憧れていた」とか「素晴らしい演奏だった」とか言いたかったのになあ。
 でも、そんなことも、きっといい思い出になることだろう。


  


 北川氏は、今年はケニー・バロン・トリオとしての新譜が出たり、ご自身のバンド「Walkin' Ahead」のツアーがあったりで、ファンとしては目が離せない。
 次のチャンスもまたぜひ聴きに行きたいと思っている。   

 

  

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