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実力があっても個性がはっきり出ていないと命名してもらえないのがアスリートのニックネームです。
メジャー・リーグだと「アイアン・ホース(ルー・ゲーリッグ)」「サイクロン(サイ・ヤング)」「ザ・マン(スタン・ミュージアル)」「ビッグ・ユニット(ランディ・ジョンソン)」、プロレスだと「燃える闘魂(アントニオ猪木)」「破壊王(橋本真也)」「不沈艦(スタン・ハンセン)」「インドの狂虎(タイガー・ジェット・シン)」。
ニックネームだけを見ていくだけでもワクワクゾクゾクしますが、ミュージシャンが奉られたニックネームはどんな感じでしょうか。
カウント Count カウント・ベイシー(バンドリーダー、ピアノ)
カウント・ベイシーの本名は、ウィリアム・ジェームス・ベイシーです。スウィング・ジャズ全盛期に一世を風靡したビッグ・バンド「カウント・ベイシー・オーケストラ」を率いていました。
カウントとは「伯爵」のことです。
カンザスシティのラジオ局のアナウンサーが「カウント・ベイシー」と呼んだことが発端であると言われていますが、ベイシー自身が付けたニックネームだという説もあるようです。
サッチモ Satchmo ルイ・アームストロング(トランペット、ヴォーカル)
アメリカの国民的ジャズ・ミュージシャン、ルイ・アームストロングは「サッチモ」と呼ばれていました。
大きな口が特徴だったことから「サッチェル・マウス(Satchel Mouth)」つまり小型カバン口(=小型カバンを開けた時くらいの大きな口)と呼ばれていました。これが縮まって「サッチモ(あるいはサッチマ Satchmo)」になりました。
サッチモはほかにも「ディッパー・マウス(Dipper Mouth=柄杓のような口)」、「ポップス(Pops)」などと呼ばれ、親しまれていました。
ジャコ Jaco ジャコ・パストリアス(ベース)
エレクトリック・ベースのイノヴェーター、ジャコ・パストリアスことジョン・フランシス・アンソニー・パストリアスⅢ世。
彼の幼い頃のニックネームは「ジョッコ(Jocko)」だったそうです。これは、1930年代から1950年代にかけてメジャー・リーグで審判員を務め、1974年には野球殿堂入りを果たしたジョッコ・コンランから取ったものです。ちなみに、「ジョッコ」とはチンパンジーのことです。
ジャコが最初の妻トレイシーと結婚したのち数年間暮らしていた自宅アパートの隣に、ピアニストのアレックス・ダーキィ(ジャコの大傑作アルバム『ジャコ・パストリアスの肖像』に収められている『コンティニュウム』でエレクトリック・ピアノを弾いている)が住んでいました。アレックスとジャコは毎日のように一緒に練習していましたが、ある日アレックスはジャコのニックネーム「Jocko」を誤って「Jaco」と綴ってしまいます。ところがジャコ本人はそれをとても気に入ってしまい、それからは自ら「Jaco」と名乗るようになりました。
スカイドッグ Skydog デュアン・オールマン(ギター)
弟のグレッグ・オールマンらとともに結成したオールマン・ブラザーズのリーダーとして、またギタリストとしてバンドを牽引したのがデュアン・オールマンです。
彼はオールマン・ブラザーズ結成以前にはスタジオ・ミュージシャンとしても活躍しており、数多くのレコーディング・セッションに参加、そのギターの評判は次第に高くなってゆきます。1970年には、エリック・クラプトン率いるデレク&ドミノスの傑作アルバム『レイラ』にゲストとして招かれ、さらにはクラプトンから「自分のバンドに入らないか」と誘われたほどでした。
デュアンは、1969年にウィルソン・ピケットのアルバム『ヘイ・ジュード』のレコーディングに参加しました。ウィルソン・ピケットは、この時のデュアンのプレイに驚愕し、敬意を込めて「スカイマン(Skyman)」と呼びました。デュアンはもともとその外見から「ドッグ(dog)」と呼ばれていたので、このふたつがミックスされて「スカイドッグ」というニックネームになったというわけです。
スロウ・ハンド Slow Hand エリック・クラプトン(ギター)
クリームに在籍していた1967年、まだわずか22歳だったにもかかわらず、ロンドンで「Clapton is God(クラプトンは神だ)」と落書きされていたほどのギターの名手、エリック・クラプトン。
彼は「スロウ・ハンド」というニックネームで有名ですが、その由来は「速弾きがあまりにも凄すぎたため、逆に手の動きがゆっくりに見えたから」という説が広く知られています。
あるいは、チョーキング(左手の指先で弦を押し上げ、ピッチを変える奏法)のテクニックが当時はまだ一般には知られていなかったため、指が動いていない、つまり指先の動きがゆっくりなのに音程が変わるのを見て驚いた聴衆が名付けた、という説もあるようですが、本当の由来はヤードバーズ時代に遡ります。
クラプトンはステージで弦を切ることが日常茶飯事で、そのため弦を張り替えることがしょっちゅうでした。普通はローディーが予備のギターを渡すのですが、クラプトンはステージ上で慌てずゆうゆうとチューニングをしていたんですね。その間聴衆は手拍子しながら待っていたのですが、そのテンポがゆっくりだったところから、当時のヤードバーズのマネージャー、ジョルジオ・ゴメルスキーが「スロウ・ハンド(Slow Hand)」と名付けた、ということです。
ディジー Dizzy ディジー・ガレスピー(トランペット)
本名はジョン・バークス・ガレスピー。
モダン・ジャズの原型となるスタイル「ビバップ」を築き、発展させたジャズ界の功労者のひとり。
ディジー(Dizzy)とは「くらくらする」という意味です。
血の気も多かったが、茶目っ気も旺盛で、ステージでコメディアンのように振る舞い、ジョークを飛ばして聴衆をおおいに笑わせたところからこのニックネームが付いたと言われています。
彼のトランペットは非常に素晴らしいテクニックだったため、「目のくらむようなテクニックの持ち主」という意味で「ディジー」と呼ばれるようになった、という説もあります。
余談ですが、1930年代のメジャー・リーグで、セントルイス・カージナルスのエースだったディジー・ディーンも、「目が眩むような速球を投げる」ところから「ディジー」と呼ばれていました。
デューク Duke デューク・エリントン(バンドリーダー、ピアノ)
カウント・ベイシーと人気を二分した「デューク・エリントン・オーケストラ」のバンドリーダー。本名はエドワード・ケネディ・エリントン。
「デューク」とは公爵のこと。
エリントンの父は、白人の有名医師ミドルトン・カスバートの執事を務めていました。仕出し業も営んでおり、時々ホワイトハウスへも出入りしていたそうです。このためエリントンも子供の頃から自然に優雅な所作を身につけており、身だしなみもきちんとしていたところから、友人たちから「デューク」と呼ばれるようになったということです。
バード Bird チャーリー・バーカー(アルト・サックス)
「バード」は、チャーリー・パーカーの伝記映画のタイトルにもなっているほど有名な彼のニックネームです。
このニックネームが付けられた時期は、パーカーがジェイ・マクシャン楽団に在籍していた1928年から1942年までの間です。
しかしその由来は諸説あって、今でもはっきりしたことは分かっていないようです。
1.羽ばたく鳥のように自由で華麗な演奏だったから。
2.ある新聞記事によると、名前の「チャーリー」が「ヤーリー」に、次いで「ヤール」になり、それが転じて「ヤードバード」となったのち、「バード」になったということです。
3.パーカーは、レストランで食事をする時に決まって注文していたのがチキン料理で、「このヤードバードをもらおうか」とウェイターに注文していから。
4.生活に追われていたパーカーがいっとき働いていたレストランではチキンを食べることができたので、いつもお腹いっぱい食べていたから。
それにしてもパーカーがたいへんなチキン好きだということが分かります。
ちなみに「ヤードバード」は囲った庭で飼われている鳥、すなわちニワトリのことです。
このパーカーの愛称を店の名前にしたのが、ニューヨークの有名なジャズ・クラブ「バードランド」ですね。
パール Pearl ジャニス・ジョプリン(ヴォーカル)
「パール(Pearl=真珠)』はジャニスがたいへん好んだニックネームです。ジャニスは人からこう呼ばれることをとても喜んだと言います。ではなぜ「パール」なのか、というのは不明ですが、「Pearl」には「(真珠のように)貴重な人物、逸品」という意味もあり、もしかすると高校時代はクラス内で疎外され孤独だったジャニスの気持ちがこもっているのかもしれません。
ブーツィー・コリンズ Bootsy ブーツィー・コリンズ(ベース)
ファンク・ミュージックにおける代表的なベーシスト、ブーツィー・コリンズ。
彼の本名は、ウィリアム・コリンズです。
ブーツィー・コリンズの写真を見ると、とにかくファッションがド派手。ブーツも派手。(ファンク・ミュージシャンにはありがちなのですが、ついでに言うとメガネも所有するベースも、とにかく派手)そこから「ブーツィー」と呼ばれるようになった、、、のかなあ~と勝手に想像していたんですが、これがまったく違ったんですね。
ブーツィーとは、黒人の漫画家オリー・ハリントンが1930年代半ばに描いたヒトコマ漫画の主人公の名です。この名を母親がウィリアム少年にニックネームとして付けたんだそうです。
フリー Flea フリー(ベース)
世界的ロック・バンド「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」のベーシスト、フリー。本名はマイケル・ピーター・バルザリーです。
ぼくも長いこと勘違いしていましたが、綴りは「Free」ではなくて、「Flea」。
つまり「蚤」のことなんですね。
身長168cmの小柄な体をいっぱいに使い、ステージを所狭しと飛び跳ねるその激しいアクションからこのニックネームが付けられました。
ザ・ボス The Boss ブルース・スプリングスティーン(ヴォーカル、ギター)
若かりし頃のブルースはバンドのギャラ分配係だったことから「ボス」と呼ばれるようになった、という説があります。冠詞の「The」が付いているので、「ボスの中のボス」といったニュアンスがあるのでしょうね。
そのブルースも今では「ロック界のボス」と呼ばれるまでになり、多くのミュージシャンから尊敬され、慕われています。
ポンタ Ponta 村上秀一(ドラム)
生涯にレコーディングした曲は14,000曲以上と言われる名ドラマー、村上秀一。おそらく日本の音楽界で彼を知らない者はいないのではないでしょうか。
彼は、生まれてから4歳半になるまで実母の親友に預けられていたそうです。いわゆる育ての母だったその女性は、「ポンタ姐さん」と呼ばれていた京都祇園の芸妓さんでした。
村上氏が実家に戻ることになった時、ポンタ姐さんは「せめて名前は持って行って」と言って実家へ送り出したそうです。「ポンタ」の名前とともに実家に戻った村上氏は、そう呼んでくれと誰かに頼んだわけでもないのに、以後生涯を通じて「ポンタ」の愛称で呼ばれ、親しまれました。
メタル・ゴッド Metal God ロブ・ハルフォード(ヴォーカル)
1969年のデビュー以来、ハード・ロック~ヘヴィ・メタル・ロックの王道をひた走るジューダス・プリースト。
そのリード・ヴォーカリストであるロブ・ハルフォードは、5オクターヴとも言われる驚異的な声域を持ち、そのシャウトはヘヴィ・メタル・サウンドの象徴ともいえるものであるところから「メタル・ゴッド」と呼ばれるようになりました。
また、ジューダス・プリーストというバンドそのものがメタル・ゴッドと呼ばれることも多いようです。
リンゴ Ringo リンゴ・スター(ドラム)
いわずと知れたビートルズのドラマー。
本名はリチャード・スターキー。
「リンゴ・スター」は芸名で、ロリー・ストーム&ハリケーンズに在籍していた頃、メンバーそれぞれが芸名を考えた時にスターキー本人が考えたものです。
指輪が好きだったスターキーは、いつも両手に何個も指輪を付けていたので「リングズ(Rings)」と呼ばれていました。また彼はジョン・ウェインが演じた西部劇映画『駅馬車』の主人公リンゴ・キッドに憧れていたので、このふたつをかけ合わせて「リンゴ」と命名しました。
当初「リンゴ・スターキー(Ringo Starkey)」という芸名にするつもりだったけれど、しっくりこなかったので「Starkey」の前半分に「r」をもうひとつ足して「リンゴ・スター(Ringo Starr)」にした、とのちにリンゴ本人が語っています。
レディ・デイ Lady Day ビリー・ホリデイ(ヴォーカル)
ジャズ史に燦然と輝き続けるであろうヴォーカリスト、ビリー・ホリデイ。
本名エリノラ・ホリデイ。
父のクラレンスは、お転婆だったエリノラのことを男の子を呼ぶように「ビル」と呼んでいました。その「ビル」の愛称が「ビリー」です。
のち人気ヴォーカリストになったビリーと、当時のニューヨークで最も人気のあったサックス奏者レスター・ヤングは、強い信頼関係で結ばれていました。ふたりはとても仲がよく、レスターはビリーのことを「レディ・デイ」と呼び、ビリーはレスターのことを「サックスの大統領」という意味を込めて「プレジデント」「プレス」などと呼んでいました。