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衛星エンケラドスから噴出している水は土星を取り囲むように分布している! ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で明らかになったこと

2023年06月19日 | 土星の探査
厚い氷の層に覆われた小さい衛星“エンケラドス”。

土星の衛星エンケラドスは、2005年の探査機“カッシーニ”による観測以来、注目され続けている天体です。

それは、エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されているからです。

観測で得られた数々の証拠は、エンケラドスの内部が潮汐力によって加熱されて融けていて、表面を覆う分厚い氷の下に液体の海が存在するという強力な証拠を示していました。

興味深いことに海水に含まれているのは、水、塩、シリカ(二酸化ケイ素)、炭素を含む単純な化合物。
そう、これらは生命の材料になり得る物質なんですねー
土星探査機“カッシーニ”の挟角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成されている。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)
土星探査機“カッシーニ”の挟角カメラで2005年7月14日に撮影されたエンケラドス。紫外線・可視光線・赤外線のフィルターを使用して取得したデータを元に作成されている。(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)

エンケラドスの20倍以上もの大きさがあるプルーム

今回の研究では、NASAのゴダード宇宙飛行センターのGeronimo Villanuevaさんたちの研究チームが、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて土星の衛星エンケラドスを観測。
すると、思いがけないプルームの様子が明らかになったんですねー
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で観測した土星の衛星エンケラドスのプルーム(背景)と、土星探査機“カッシーニ”で撮影されたエンケラドスの姿(左上)。(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Image Processing; Alyssa Pagan (STScI))
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で観測した土星の衛星エンケラドスのプルーム(背景)と、土星探査機“カッシーニ”で撮影されたエンケラドスの姿(左上)。(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Image Processing; Alyssa Pagan (STScI))
この画像の左上に配置されているのは、土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星の衛星エンケラドスの姿。
背景の青い画像は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”で、2022年11月9日に観測されたエンケラドス周辺の様子です。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像におけるエンケラドスの位置は、赤色の四角で示されています。

このジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像には、噴出したプルームがエンケラドスを要として扇形に広がっていく様子がとらえられていました。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、プルームはエンケラドス自身の直径の20倍を超える1万キロ以上にわたって噴出していることが、今回の観測で明らかになったそうです。

噴出する水の量は、オリンピックサイズのプールを2~3時間程度で満たせる毎秒300リットルと推定されています。
土星を取り囲む水のトーラスの位置とスペクトルのデータを示した図。(Credit: Science: Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Illustration: NASA, ESA, CSA, STScI, Leah Hustak (STScI))
土星を取り囲む水のトーラスの位置とスペクトルのデータを示した図。(Credit: Science: Geronimo Villanueva (NASA-GSFC); Illustration: NASA, ESA, CSA, STScI, Leah Hustak (STScI))

エンケラドスが土星を公転しながら噴霧した水

また、エンケラドスから噴出した水は、土星の環の一部であるE環と同じ位置でリング状のトーラス(ドーナツ形をした厚い構造)を形作るように分布していることも、今回の観測で判明したそうです。

E環を構成する物質はエンケラドスが供給源になっていることが知られていて、エンケラドスは幅が広く希薄なE環の中を公転しています。

このトーラスは、土星を約33時間周期で公転するエンケラドスから噴出した水が、エンケラドスの通過後も滞留し続けることで形成されているとみられています。

別の表現をすれば、トーラスはエンケラドスが土星を公転しながら噴霧した水でできているとも言えます。

宇宙望遠鏡科学研究所によると、トーラスとして残っているのはエンケラドスから噴出した水のうちの約30%。
残りの約70%は、トーラスを脱出して土星系の他の場所へ供給されていくとみられています。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるエンケラドスの観測は今後も継続される予定なので、外核の厚さや地下海の深さなどを調査する将来のミッションに貴重な情報をもたらしてくれるはずです。
土星の影に入った土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星本体と環。一番外側で淡く青白い光を放っているのがE環で、エンケラドスも左側に小さく写っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/SSI)
土星の影に入った土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星本体と環。一番外側で淡く青白い光を放っているのがE環で、エンケラドスも左側に小さく写っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/SSI)


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予測よりも速いスピードだった! 衛星タイタンは年間11センチも土星から遠ざかっている

2020年06月27日 | 土星の探査
探査機“カッシーニ”の観測データから、衛星タイタンはこれまでの予測の100倍も速く土星から遠ざかっていることが分かりました。
月が地球から遠ざかるスピードは1年間に3.8センチ。
でも、タイタンは年間11センチの割合で土星から遠ざかっているようです。


月が地球から遠ざかっている理由

月は1年間に3.8センチずつ地球から遠ざかっています。

月の重力の影響で、地球の表面はわずかに伸び縮みし、これによって地球の自転にブレーキがかかることになります。
一方、その分のエネルギーが月の公転半径を大きくすることに使われているんですねー
これが、月が地球から遠ざかる仕組みです。

同じことは、地球以外の惑星とその衛星にも起こっています。

土星最大の衛星であるタイタンも例外ではなく、年々土星から遠ざかっています。
ただ、これまで天文学者たちは、その割合を少なく見積もっていたようです。
“カッシーニ”が2012年に撮影したタイタンと土星。真横から見た環がタイタンの後ろを横切っていて、土星にその影が映っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
“カッシーニ”が2012年に撮影したタイタンと土星。真横から見た環がタイタンの後ろを横切っていて、土星にその影が映っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)


タイタンは予想よりも土星に近い位置で誕生した

今回、フランス・パリ天文台の研究チームが調べたのは、タイタンが土星から遠ざかるペースでした。
研究では、2004年から2017年まで土星を周回していたNASAの探査機“カッシーニ”から得られたデータで、2通りの分析を行っています。

一つ目は、“カッシーニ”が撮影した画像に写っている恒星の位置を精密に測定してタイタンの位置を追う方法。
この方法で分かったのは、タイタンが1年で土星からおよそ11センチ遠ざかっていることでした。

二つ目の方法では、100回以上に及ぶタイタンへのフライバイ(接近通過)のうち10回について、“カッシーニ”が地球に送った電波信号の周波数の変化からタイタンの軌道を追跡。
すると、一つ目の方法と同じ結果が得られたんですねー

タイタンが土星から年間約11センチずつ遠ざかっているという分析結果は、これまでの予測の100倍も速いペースでした。

このことは何を意味しているのでしょうか?
それは、現在土星から約120万キロの距離に位置しているタイタンが、これまでの予想よりもはるかに土星に近い位置で誕生したということです。

土星自身が太陽系誕生直後の46億年前に生まれたことは分かっています。
ただ、その環や80個以上の衛星たちがいつ形成されたかについては、不明な点が多くあります。

今回の研究成果は、土星系の年齢、衛星がいつ生まれたのかという問題に、新たに重要な手掛かりを与えてくれたことですね。


衛星が惑星から遠ざかる速度

タイタンが、これまでの見積もりよりも速く土星から遠ざかっていることは、今回の研究にも参加しているアメリカ・カリフォルニア工科大学の研究者が発表した理論からも導かれていました。

これまで50年にわたり、衛星が惑星から遠ざかる速度は、どれも同じ数式を使って計算されていました。
この理論では、タイタンのように惑星から遠くに位置する衛星は、それだけ惑星との重力による相互作用も弱く、内側の衛星に比べてゆっくりと移動すると考えられていました。

一方、カリフォルニア工科大学の新しい理論では、惑星の振動と衛星の公転の周期が一定の比で固定されることで、遠くにある衛星でも近くの衛星とさほど変わらないペースで外向きに移動することが可能でした。

今回の観測結果が意味するのは、こうした惑星と衛星との相互作用が、これまでの予想以上に顕著だということ。
このことは、土星とタイタン以外の惑星系、さらには太陽系を超えて系外惑星や連星にも適用できるようです。


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太陽光による加熱は少ないはず… なぜ土星の上層大気は高温なのか?

2020年05月11日 | 土星の探査
木星から海王星にあるガス惑星の上層大気は、なぜ高温に保たれているのでしょうか?
地球だと、上層大気は太陽光による加熱で高温に保たれています。
でも、木星より外側の惑星は太陽から遠く離れているので、太陽光による過熱はあまり強く働かないはず…
今回、2017年に運用を終了した土星探査機“カッシーニ”のデータから、土星の上層大気が高温に保たれている謎を解く手がかりが得られたようです。


オーロラが上層大気を加熱している

地球の大気の最上層部は“熱圏”と呼ばれ、密度は極めて薄いのですが、太陽からのX線や紫外線で加熱されるので温度が約2000度にもなっています。

これは木星から海王星までのガス惑星でも同じで、いずれも上層大気は高温に保たれています。
2008年11月1日に探査機“カッシーニ”によって撮影された土星の南半球の近赤外線画像。青い領域は太陽からの赤外線を反射している部分で、赤い領域は土星本体の熱放射の赤外線を示している。緑色のリングが土星のオーロラで、水素イオンが赤外線を放射している。(Credit: NASA/JPL/ASI/University of Arizona/University of Leicester)
2008年11月1日に探査機“カッシーニ”によって撮影された土星の南半球の近赤外線画像。青い領域は太陽からの赤外線を反射している部分で、赤い領域は土星本体の熱放射の赤外線を示している。緑色のリングが土星のオーロラで、水素イオンが赤外線を放射している。(Credit: NASA/JPL/ASI/University of Arizona/University of Leicester)
ただ、木星より外側の惑星は太陽から遠く離れているので、地球の“熱圏”とは違って太陽光による加熱はあまり強く働かないはず。
にもかかわらず、例えば土星の上層大気は、太陽光だけが熱源だと考えた場合よりも数百度も温度が高いんですねー

この食い違いは、ガス惑星の大気における“エネルギー危機(energy crisis)”とも呼ばれ、惑星科学の大きな謎の一つになっています。

この謎を解くためアリゾナ大学の研究チームは、NASAの土星探査機“カッシーニ”の観測データを新たに解析。
土星の上層大気を高温に保つ熱源の有力候補を見つけるためでした。

そして、分かってきたのは、土星の北極と南極に生じるオーロラがその熱源の候補だということ。

太陽風と土星の衛星から放出される荷電粒子とが相互作用すると電流が生じます。
研究チームが考えたのは、この電流によってオーロラが発光して上層大気を加熱するというメカニズムでした。
2005年6月21日に“カッシーニ”の紫外線撮像分光計(UVIS)で撮影された土星のオーロラ。南北両極に見える青白いリングがオーロラ。2枚の画像は約1時間差で撮影されたもので、土星のオーロラが1時間以上持続すること、短時間で変化することを示している。(Credit: NASA/JPL/University of Colorado)
2005年6月21日に“カッシーニ”の紫外線撮像分光計(UVIS)で撮影された土星のオーロラ。南北両極に見える青白いリングがオーロラ。2枚の画像は約1時間差で撮影されたもので、土星のオーロラが1時間以上持続すること、短時間で変化することを示している。(Credit: NASA/JPL/University of Colorado)
大気の中を循環する熱の流れを完全に描き出すことができれば、オーロラの電流が土星の上層大気を、どのように加熱して風が生じるかを深く理解できるようになるはずです。

そこで、研究チームが考えたのは、オーロラによって土星の極域に溜まった熱エネルギーが、全球的な風の流れによって赤道地域へと運ばれるということでした。
これによって、上層大気は太陽光だけで加熱される場合よりも2倍も高い温度にまで熱くなるようです。


上層大気の密度と温度

今回の結果は、惑星の上層大気を広く理解する上で欠かせないもの。
“カッシーニ”の探査データの中でも重要な位置を占める成果になるんですねー

1977年に打ち上げられた“カッシーニ”は、2004年に土星を周回する軌道に投入され、13年以上にわたって土星や衛星の観測を行いました。

“カッシーニ”は2017年9月に土星大気に突入してミッションを終えるのですが、その直前に“グランドフィナーレ”と呼ばれる最後のミッションを実施しています。

このミッションは、22回にわたって土星のすぐ近くを通り土星本体と環の間を通り抜けるというものでした。

今回の研究で分析された重要なデータは、この“グランドフィナーレ”で得られたものでした。
このデータからは、土星の環が本体よりもずっと後になってから形成されたことも分かっている。

“カッシーニ”はオリオン座とおおいぬ座の明るい恒星が、土星の後ろに隠される掩蔽現象を6週間にわたって観測。
研究チームは、恒星が様々な緯度で土星の縁に潜入し、再び出現する様子をとらえたデータから、星の光が土星の大気を通過する際の変化を調べ、上層大気の密度を求めています。

大気の密度は高度が高くなるほど薄くなりますが、大気密度の減少度合いは温度によっても変わってきます。
この観測データからは、土星の上層大気の温度を緯度ごとに導くことに成功しています。

そして、分析の結果明らかになったのは、土星の上層大気の温度はオーロラが発生する緯度付近で最も高いということ。
これは、オーロラ電流が上層大気を加熱していることを示唆するものでした。

さらに、研究チームは大気の密度と温度から土星大気内の風速も求めています。

惑星の上層大気は宇宙空間と接する領域であり、土星の上層大気を理解することは、太陽系内での太陽風や磁場の変動といった“宇宙天気(space weather)”を理解するカギにもなります。

こうした宇宙天気が太陽系の他の惑星に与える影響を理解したり、他の恒星系での系外惑星と宇宙天気の関係を知る上でも重要になるようです。


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なぜ土星には大型衛星がタイタンしか存在していないのか? 木星には4つも大型衛星があるのに…

2020年03月31日 | 土星の探査
今回は太陽系で木星に次いで2番目に大きな惑星のお話し。
土星は巨大なガス惑星ですが大型衛星はタイタンしかありません。
同じ巨大ガス惑星の木星には大型衛星が4つもあるのに、なぜ土星には大型衛星が1つしか無いのでしょうか?
今回、シミュレーションを用いた研究により、このメカニズムが初めて再現されたそうです。


巨大衛星が1つだけ誕生するメカニズム

土星には現在82個の衛星が見つかっています。

でも、その中で衛星タイタンだけが群を抜いて大きく、その質量は2番目に大きな衛星レアの約50倍もあります。
このことは、同程度に巨大な4つのガリレオ衛星が存在する木星とは対照的でした。
  木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。

では、惑星の周りに大型衛星が一つしか存在しない衛星系は、どうやって誕生するのでしょうか?
これまで様々な理論研究が試みられてきました。でも、いまだに大きな謎なんですねー
  衛星系とは、中心の惑星とその周りを回る衛星からなる星系。

生まれたばかりの惑星の周囲には、ガスやチリなどからなる円盤が形成され、その中で衛星が成長すると考えられています。

ただ、円盤にガスが残っている間は、軌道の外側のガスから衛星が後ろ向きに引っ張られるように力を受けることで、惑星の周囲を回転する勢いが失われていきます。

このため、多くの衛星はだんだん惑星に近づいていき、最終的に惑星に落ち込んでしまうはずです。

こうした環境をシミュレーションしたこれまでの研究では、円盤が消えるまでにすべての大型衛星が惑星に飲み込まれるか、複数の衛星が生き残るかのどちらかであり、1個だけ残るシナリオを描くことができませんでした。
惑星と衛星が誕生する様子を再現したイラスト。土星のようなガス惑星が生まれたときに周りを取り巻いていたガスやチリの円盤の中で、固体成分が集積して衛星が形成される。
惑星と衛星が誕生する様子を再現したイラスト。土星のようなガス惑星が生まれたときに周りを取り巻いていたガスやチリの円盤の中で、固体成分が集積して衛星が形成される。(Credit:名古屋大学)


ガスの温度差が衛星の“安全地帯”を作り出していた

衛星の回転運動を減速させる力は、円盤のガスの温度によって変化します。

でも、これまでの研究で行われてきた衛星の運動の計算では、円盤の温度や密度などが簡略化されていて、実際の円盤の状態と異なる可能性がありました。

そこで、今回の研究では、円盤を構成するガスやチリなどによる熱の放射や吸収の影響を取り入れ、円盤の温度や密度の状態をこれまでよりも詳細に計算。
そして、円盤での衛星の運動を重力多体シミュレーションで行い、詳しく解析しています。
  計算に用いられたのは、国立天文台シミュレーションプロジェクトが運営する共同利用計算機の“計算サーバ”。

その結果、円盤のガスは一律に衛星を内側に引っ張るわけではないこと、惑星からある程度離れた領域では外向きの力が働く“安全地帯”が存在しうることが判明します。

円盤はガスの摩擦によって、惑星に近いほど暖かく、遠いほど冷たいという温度分布になっています。

そこで、研究チームが行ったのは“安全地帯”の詳細な計算でした。
すると、“安全地帯”の周辺がチリの影響によって内側と外側の温度差が、特に大きくなる領域だと分かります。

この急な温度差によって、衛星軌道の内側のガスと外側のガスから受ける力にも差が生じ、衛星が外側に押されることで、衛星が惑星に落ち込むことなくとどまれる領域ができていました。

この“安全地帯”に一時的に衛星がとらえられ、円盤のガスが散逸するまで生き残ると、衛星が一つだけ形成されることも可能になるわけです。
衛星と惑星の距離が時間変化する様子をシミュレーションした結果の例。シミュレーション開始時に7つあったタイタンと同じ質量の衛星が、円盤状のガスの中を移動し、時間とともに衛星の軌道が変化していく。ほとんどの衛星が惑星に落ち込んでいくが、最初に一番外側に置いた衛星だけは、ガスが散逸しきるまで惑星に落ち込まずに生き残る。
衛星と惑星の距離が時間変化する様子をシミュレーションした結果の例。シミュレーション開始時に7つあったタイタンと同じ質量の衛星が、円盤状のガスの中を移動し、時間とともに衛星の軌道が変化していく。ほとんどの衛星が惑星に落ち込んでいくが、最初に一番外側に置いた衛星だけは、ガスが散逸しきるまで惑星に落ち込まずに生き残る。(Credit:Fujii & Ogihara, A&A, 202)

円盤で生まれた衛星(黒丸)が生き残る過程のシミュレーション結果。青い領域では衛星は惑星(左)に向かって引きずられ、赤い領域では外向きに動く。時間とともに多くの衛星が次々と内側に移動し惑星に落ち込むが、一番外側に位置していた衛星は途中から赤で示された“安全地帯”の範囲に位置し、ガスが散逸し終わるまで残った。(Credit:Fujii & Ogihara, A&A, 2020)

本当にこのようなシナリオが土星とタイタンで起こっていたのでしょうか?

このことを直接確認することは現時点ではできません。

ただ、今後は系外惑星の衛星も次第に観測されてくるはずです。

その観測から、土星のように大きな衛星が一つしかない衛星系がたくさん見つかれば、そのような衛星系の形成についての議論が大いに進展するでしょう。

この時に、このシナリオの正しさも議論され、問題の解明へと近づくのかもしれませんね。
大型衛星が一つだけ形成されるメカニズムの模式図。(1)惑星の周囲を回るガスやチリからなる円盤が形成される。円盤の中でチリなどの固体成分が集積・成長する。→(2)円盤の中で固体成分が衛星の大きさまで成長する。→(3)円盤内の衛星の軌道がガスに影響を受けることで次第に変化し、多くが回転しながら惑星に近づき、やがて惑星に落ち込む。軌道が“安全地帯”に位置するものは、惑星からの距離を保ち続ける。→(4)円盤のガスが散逸し、“安全地帯”で生き延びた衛星は安定した軌道を持ち生き残る。
大型衛星が一つだけ形成されるメカニズムの模式図。(1)惑星の周囲を回るガスやチリからなる円盤が形成される。円盤の中でチリなどの固体成分が集積・成長する。→(2)円盤の中で固体成分が衛星の大きさまで成長する。→(3)円盤内の衛星の軌道がガスに影響を受けることで次第に変化し、多くが回転しながら惑星に近づき、やがて惑星に落ち込む。軌道が“安全地帯”に位置するものは、惑星からの距離を保ち続ける。→(4)円盤のガスが散逸し、“安全地帯”で生き延びた衛星は安定した軌道を持ち生き残る。(Credit:国立天文台)


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NASAが新ミッションを発表! 衛星タイタンにドローンで降り立って有機物を探査

2019年07月09日 | 土星の探査
2023年12月4日更新
11月28日、“ドラゴンフライ”の打ち上げ時期を1年延期することがNASAから発表されました。
このミッションの打ち上げ予定は、もともと2027年に設定されていて、タイタンに到着するのは2033年でした。

NASAによれば、2024年度の予算に基づきミッションを再設計し、打ち上げ準備時期を2028年7月に修正。
2024年半ばにミッションの打ち上げ準備日が正式に設定されることになるようです。
“ドラゴンフライ”ミッションのイメージ図
NASAが発表した新たな探査ミッション“ドラゴンフライ”。
このミッションで使われるのはドローン型の着陸機で、土星の衛星タイタンを探査して有機物の探査などが行われるようです。
“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)

2年8か月の有機物探査ミッション

土星の衛星タイタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体です。

タイタンの大きな特徴の1つは、衛星としては唯一、大気が存在すること。
その主成分は地球と同じ窒素で、表面気圧は地球の1.5倍あります。

また、タイタンではメタンの雲が発生してメタンの雨が降り、地表には湖や海が存在しています。

さらに、タイタンは初期の地球に似ているので、地球でどのように生命が誕生したのかを知る手がかりを与えてくれると考えられているんですねー

これまでにもNASAとヨーロッパ宇宙機関の土星探査機“カッシーニ”による観測が行われたほか、2005年には“カッシーニ”の子機“ホイヘンス”が着陸探査を実施しています。

そのタイタンを探査する新たなミッションとして今回発表されたのが、NASAの“ドラゴンフライ”でした。
トンボを意味するこの探査機が打ち上げられるのは2026年、タイタン到着は2034年になる予定です。

“ドラゴンフライ”の基本ミッションは約2年8か月。
この間に有機物の砂丘から衝突クレーターの底まで、幅広い環境を探査することになります。
タイタンに着陸する“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)
タイタンに着陸する“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)

大気が濃いタイタンでの探査と移動にはドローンが適していた

“ドラゴンフライ”の着陸機は8枚のローター(回転翼)を持ち、大型のドローンのような機体になっています。

地球以外の天体で複数の回転翼を持つ機体を、科学調査目的で飛行させるミッションはNASA史上初。

タイタンの大気は地球の4倍の濃さなので、観測装置を新たな場所へ運んでは特定の表面物質を調べる、ということを繰り返し行うのにドローンが適していたんですねー

“ドラゴンフライ”では、“カッシーニ”が13年間にわたって集めたデータを活用。
着陸に適した穏やかな天候や安全な着陸地点、科学的に興味深い探査地点が選ばれています。
“ドラゴンフライ”の着陸機(イメージ図)
最初の着陸地点は、タイタンの赤道域にある“シャングリラ”という砂丘地帯になる見込み。
この場所はナミビアにある縦列砂丘に地形的に似ていて、多様なサンプル採取場所を選ぶことが出来ます。

着陸機は、この地域を短い期間探査した後、最大8キロに達する長距離の飛行を何度か行います。
蛙跳びのように飛行と着陸を繰り返し、様々な地質を持つ場所に着陸してサンプルを採取していくことになります。

生命誕生の前段階で起こる化学反応“前生命化学”を調査

この飛行の後、着陸機が目指すのは最終目的地の“セルククレーター”。
ここはかつて液体の水と、炭素・水素・酸素・窒素からなる複雑な有機分子が、1万年以上にわたって存在した証拠が見つかっている場所です。

これらの物質に加えてエネルギー源があれば、生命誕生の材料がそろうことになります。

“ドラゴンフライ”ミッションでは、この場所で生命誕生の前段階で起こる化学反応“前生命化学”がどのくらい進行しているのかを調査するそうです。

最終的に着陸機は175キロキロ以上を飛行します。
これは過去に火星探査車全機が走破した合計距離の2倍近くになる距離なんですねー

冥王星やカイパーベルト天体を探査した“ニューホライズンズ”、木星探査機“ジュノー”、小惑星ベンヌを探査中の“オシリス・レックス”などと並ぶ、NASAの“ニュー・フロンティア”計画の一部として今回選定されたのが“ドラゴンフライ”です。

“ニュー・フロンティア”計画では、荒れ狂う木星大気の内部構造や組成を解き明かし、氷で覆われた冥王星の風景の秘密を発見し、カイパーベルトに存在する不思議な天体の姿を明らかにし、生命の材料を求めて地球近傍小惑星の探査を行っています。
その結果、私たちの太陽系に関する理解は次々に変わることになります。

そして、今回NASAが探査リストに加えたのが土星の衛星タイタンでした。
謎に満ちた衛星タイタンの探査で、生命誕生に関する新たな発見があるのでしょうか?

神秘的な海を持っているタイタンを探査することで、私たちが持っている宇宙の生命についての知識が一変するかもしれませんね。


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