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モバライダー mobarider

星のゆりかご“分子雲”に大質量星が存在すると、周囲の若い惑星系では惑星の形成において重要な影響を受けている

2024年03月19日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、オリオン星雲に属する年齢百万年以下の誕生したばかりの原始惑星系円盤“d203-506”(※1)を観測しています。
観測には、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を用いられました。

その結果、誕生したばかりの年齢百万年以下の若い惑星系の形成に、近傍にある質量の大きな星が重要な役割を果たしていることを明らかにしています。

この研究の成果は、フランス国立科学センター(CNRS)のオリヴィエ・ベルヌさんを中心に、東京大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。
研究の詳細は、アメリカの科学雑誌“Science”に掲載されました。
※1.原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
図1.ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたオリオン星雲の画像と、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた原始惑星系円盤“d203-506”の拡大画像。(Credit: NASA/STScI/Rice Univ./C.O'Dell et al / およびO. Berné, I. Schrotter, PDRs4All)
図1.ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたオリオン星雲の画像と、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた原始惑星系円盤“d203-506”の拡大画像。
(Credit: NASA/STScI/Rice Univ./C.O'Dell et al / およびO. Berné, I. Schrotter, PDRs4All)


太陽よりも大きな恒星

太陽は、地球の質量の約33万倍もあり(直径は約109倍)、太陽系の全質量の99.8%を占めるなど、太陽系の中では圧倒的な存在です。

でも、宇宙スケールで見た場合、太陽は恒星としては小さい部類に入り、“小さい星”を意味する“矮星”の一種“黄色矮星”に分類されているんですねー

一方、太陽よりも大きな星は割合としては少ないものの、その総数は決して少なくはありません。

例えば、大質量星が存在した証拠としてブラックホールの存在が挙げられます。
ブラックホールは、太陽の20倍以上の大質量星が超新星爆発を起こした後に残される天体(※2)です。
天の川銀河だけでも、このような質量を持つ天体は1憶~10億個もあると見積もられています(1万個ほどとする説もある。)

中には、太陽質量の数百倍と見積もられている超大質量星も観測されていて、もはや数字を見てもまったくその大きさを実感できないほどのスケールと言えます。
※2.30倍ぐらいまでは条件次第で中性子星が残される場合もある。


大質量星はどうやって誕生するのか

大質量星は、単に重力が強いという以上に、周囲の宇宙環境に対して、多大な影響を及ぼしています。

分かりやすい例として、その一生の最期に超新星爆発を起こし、強大な重力を持つ中性子星やブラックホールなどのコンパクトな天体を残すといった現象があります。
この現象には宇宙規模の破壊的な影響があります。

ただ、星は大きいほど核融合に使う水素の消費量が増加していきます。
なので、明るく輝いているということは、水素の消費量が多く寿命が短いことを意味します。

質量が太陽の10倍以上になると、その明るさは太陽の10倍では効かず、なんと10万倍以上にもなるんですねー
また、巨大な明るい星だと紫外線の放射も強力になります。

それでは、大質量星はどうやって誕生するのでしょうか?

星間空間に撒き散らされた原子やチリ(星間ガス)が集まって雲のようになったとき、周囲からの紫外線(星間紫外線)が内部まで届かなくなると、紫外線によって分子が壊されなくなるので、原子から分子が作られ始めます。

そのような雲を“分子雲”と呼び、数光年~数十光年と様々な大きさのものがあります。

分子雲の中で、自己重力でガスやチリが集まってできた高密度な場所を分子雲コアと呼び、いわゆる星の卵(種)に相当するんですねー
その分子雲コアがさらに収縮することで、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生します。

そう、大質量星には多くの未解明な部分が残されていますが、小型の星と同様に分子雲の中で他のいくつもの兄弟星と共に、ほぼ同時期に誕生すると考えられています。


大質量星が与える影響

ほぼ同時期とはいっても、それは宇宙138億年の時間スケールで見た場合の話。
厳密には差があるので、先に大質量星が輝き出した時は、その近傍に後から生まれた惑星系が存在すると、その惑星系は非常に強い紫外線にさらされることになります。

強い紫外線はエネルギーが高く破壊的で、生命の誕生という観点ではマイナス要因となります。
大質量星を巡る惑星は、その公転軌道がたとえハビタブルゾーン(※3)内であったとしても、強い紫外線の影響で有機分子が破壊されやすく、生命は誕生しにくいとされています。
※3.“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
でも、惑星の誕生の場合は異なるようです。
もちろん、その強い紫外線が惑星系にある物質を散逸させてしまうことで、惑星形成を妨げる場合もあります。
でも、その惑星系の中心にある星の質量によっては、逆に惑星の形成を助けることもあります。

そこで今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、チリに囲まれたオリオン星雲の中にある惑星系“d203-506”のガスの量と温度を測定。
同時に、アルマ望遠鏡を用いた観測では、中心星の質量が見積もられました。

その結果、惑星系から散逸していくガスの割合を正確に求めることに成功。
オリオン星雲にはこの強い紫外線があるので、“d203-506”においては木星のような巨大ガス惑星の形成は難しいと推測されました。

今回の観測により、星のゆりかごである分子雲に大質量星が存在する場合の影響が分かり始めてきました。
誕生したばかりの年齢百万年以下の若い惑星系では、その近傍に位置する大質量星が惑星の形成において重要な影響を与えているんですね。


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なぜ、恒星“ASASSN-2lqj”は明るくなってから暗くなったのか? それは2つの巨大氷惑星による衝突を初めて観測でとらえた事例かも

2023年12月16日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
惑星に別の巨大な天体が衝突するという出来事は、惑星の誕生直後には頻繁に起きていたと考えられています。

でも、それを直接観測した事例はこれまでありませんでした。

今回の研究では、恒星“ASASSN-2lqj”の明るさの長期的な変化を観測。
これにより、“ASASSN-2lqj”の周りで惑星同士の衝突が発生したと報告しています。
この報告が正しい場合、地球の数倍~数十倍の重さを持つ2つの惑星が衝突した様子を、初めて観測によってとらえたことになります。
この研究は、オランダ・ライデン大学のMatthew Kenworthyさんたちの研究チームが進めています。
図1.2つの巨大氷惑星が衝突した“ASASSN-2lqj”のイメージ図。(Credit: Mark Garlick)
図1.2つの巨大氷惑星が衝突した“ASASSN-2lqj”のイメージ図。(Credit: Mark Garlick)


実は太陽系内での惑星同士の巨大衝突は珍しくなかった

誕生したばかりの恒星の周りには、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造“原始惑星系円盤”が広がっています。

惑星の形成は、この原始惑星系円盤の中でチリ同士が集まり、衝突合体を繰り返して成長することから始まります。

そして、チリの円盤の中で惑星が作られた後、残ったガスはやがて恒星の放射によって円盤から外へと流れ出し少しずつ消えていくことに。
この段階になると、惑星の公転軌道が変化し、時にはお互いが衝突することもあると考えられています。

例えば、月はジャイアントインパクト(巨大衝突)という形成過程を経て形成されたと考えられています。

ジャイアントインパクト説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。

大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。

ただ、このような巨大衝突は珍しくないんですねー

冥王星とその最大の衛星カロンについては、地球の月と同様に巨大天体衝突によって形成されたという説が提唱されています。
天王星だと、他の惑星のように直立した自転で誕生し、約40億年前に地球の1~3倍の質量の天体が衝突して自転が傾いたという説が有力です。

このように、太陽系内において巨大衝突は地球以外の天体でも発生したと考えられています。

でも、いずれも太古の巨大衝突なので証拠がほとんど残されておらず、今のところ仮説の域を出ていません。


なぜ恒星“ASASSN-2lqj”は明るくなってから暗くなったのか?

太陽以外の恒星を観測すると、誕生直後の惑星系が見つかることがあります。

誕生直後の惑星系を観測することは、過去の太陽系をイメージすることができるので、年代の若い惑星系の様子は、しばしば興味深い観測対象となります。

もし、惑星同士の衝突のような激しい現象があった場合、衝突に由来するチリの変化を赤外線望遠鏡で観測できるはずです。
すでに、NASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”は、“NGC 2354-ID8”や“HD 166191”、“ペルセウス座V488星”で顕著なチリの変化を観測しています。

でも、これらの観測結果が惑星同士の衝突によるものかどうかは、はっきりしていません。

研究チームでは、とも座の方向約1800光年彼方に位置する恒星“2MASS J08152329-3859234”に関するソーシャルメディア上の投稿をきっかけに、この恒星に注目していました。

“2MASS J08152329-3859234”の明るさは、2021年12月から約500日にわたって暗くなりましたが、それ以前の約1000日間は赤外線で2倍も明るくなっていました。

この明るさの変化は、超新星の探査を行う“超新星全天サーベイ(ASASSN; All Sky Automated Survey for SuperNovae)”によって検出。
このことから、“2MASS J08152329-3859234”は“ASASSN-2lqj”に再命名され、論文でもこちらの名が採用されることになります。

“ASASSN-2lqj”の明るさの変化については、過去の観測データや暗くなった後に実施された追観測データを使用し分析を実施。
すると、意外なことが判明します。

まず、約500日もの間暗くなった理由は、巨大なチリの雲が恒星の光を遮ることによって発生したと考えることができます。
一方、暗くなる前の約1000日間の明るい期間については、すぐに理由が判明しませんでした。

でも、観測データの分析から温度が1000K(約700℃)程度であること、恒星の放射全体に対してかなりの割合(約4%)を占める光の量であることから、かなりの高エネルギー現象であることが徐々に明らかになってきました。

研究チームでは、シミュレーション結果も組み合わせて分析を実施。
その結果、約1000日間の赤外線放射は、惑星同士の衝突で発生した膨大な熱に由来していると結論付けています。

観測結果を良く説明できていたのは、恒星から2~16天文単位(3億~24億キロ)の距離で、地球の数倍~数十倍ある2つの巨大氷惑星(天王星や海王星のような惑星)が衝突したというシナリオでした。

この衝突によって膨大な熱が発生するだけでなく、衝突で生じたチリの雲は公転運動によって長く引き伸ばされることになります。
これにより、約1000日間の明るい期間と、その後に発生する約500日間の暗い期間の両方を、うまく説明することができていました。
図2.今回の研究により、“ASASSN-2lqj”では「2つの巨大氷惑星が衝突し、大量の熱とチリの雲が発生する」というシナリオが起きた可能性が高いことが突き止められた。(Credit: Kenworthy, et al.)
図2.今回の研究により、“ASASSN-2lqj”では「2つの巨大氷惑星が衝突し、大量の熱とチリの雲が発生する」というシナリオが起きた可能性が高いことが突き止められた。(Credit: Kenworthy, et al.)
特に約500日の暗い期間は明るさの変化が複雑だったのですが、これは公転運動によってチリの雲が分断された結果として説明することができました。

今回研究チームが結論付けたシナリオが正しい場合、“ASASSN-2lqj”では誕生から3億年後に2つの巨大氷惑星が衝突を起こしたということになります。

これは恒星の放射によって原始惑星系円盤のチリが消滅し、惑星同士が衝突しやすくなるという、これまでの予測と一致。
“ASASSN-2lqj”は、惑星同士が衝突するという惑星形成論で予測されていた出来事について、初の詳細な観測事例になるかもしれません。

“ASASSN-2lqj”で起きた惑星の衝突による残骸の運命はよく分かっていません。
おそらくチリの一部が再び集まって、小さな惑星やその周りを公転する衛星になるはずです。

この段階での進行はかなり遅いので、ずっと観測し続けて成り行きを見守るという訳にはいきません。
でも、他の恒星で同じような現象を見つけることができれば、惑星衝突の別の段階が観測できるかもしれませんね。


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惑星の形成はどのようにして始まるのか? アルマ望遠鏡が見つけた“のっぺり”とした円盤は惑星形成前夜の様子だった

2023年12月11日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
誕生したばかりの恒星(原始星)の周りに広がる、水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。
これを原始惑星系円盤と呼び、恒星の形成や円盤の中で誕生する惑星の研究対象となっています。

今回の研究では、比較的若い原始星“おうし座DG”周りの原始惑星系円盤を対象に、アルマ望遠鏡による高解像度観測や多波長観測を行い、円盤の構造や惑星の材料となるチリの大きさ、量について詳細に調べています。

すると、円盤はのっぺりとっしていて、惑星の痕跡がないことから惑星形成前夜の様子であることが判明します。

さらに、チリが外側で大きく成長していたり、内側では通常よりチリの濃度が上昇していることも分かりました。

惑星の形成は、どのように始まるのでしょうか?
この研究では、その最初の一歩を明らかにしたようです。
この研究は、国立天文台の大橋 聡史特任助教たちの国際研究チームが進めています。
図1.アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長1.3ミリの電波強度マップ。より年を経た原始星周囲の円盤とは異なり、リング模様のような構造形成が進んでおらず、惑星形成の直前であることが示唆される。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
図1.アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長1.3ミリの電波強度マップ。より年を経た原始星周囲の円盤とは異なり、リング模様のような構造形成が進んでおらず、惑星形成の直前であることが示唆される。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)


惑星の形成はどのようにして始まるのか

地球のような惑星は、どのようにして作られたのでしょうか?

この謎を解明することは私たちの生命の起源を知る上でも重要な問題といえます。

惑星は、原始星の周りを取り巻く原始惑星系円盤内で星間チリ(ダスト)や星間ガスが集まって形成されると考えられています。
でも、“いつ”、“どこで”、“どのように”して惑星形成が始まるのか、その最初の一歩は分かっていません。

一方、惑星が円盤内で作られると、その重力によって円盤にリングのような模様ができることが知られています。
実際、アルマ望遠鏡(※1)の観測では、多くの原始惑星系円盤でリング構造が見つかっていて、そこには惑星の存在が示唆されています。

ただ、惑星が作られる過程を調べるには、まだ惑星が存在していないことが確実な円盤を、詳細に調べることが重要になります。

でも、そのような惑星の痕跡がない円盤を発見することの困難さや、その円盤を詳細に調べることの難しさから、惑星形成がどのように始まるのか、その様子はまだはっきりとは分かっていません。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。


リング模様が見られない“のっぺり”とした原始惑星系円盤

今回の研究で着目しているのは、原始星の中でも比較的若い天体“おうし座DG”。
“おうし座DG”を取り巻く原始惑星系円盤を、アルマ望遠鏡を用いて詳細に調べています。

円盤内のダストが放つ波長1.3ミリの電波強度の分布を0.04秒角という非常に高い空間分解能で観測することで、円盤の詳細な構造が明らかになりました。

その結果分かったのは、“おうし座DG”周囲の円盤は“のっぺり”としていること。
比較的年を経た原始星の周囲の円盤で見られるリングのような模様が見られないことでした。

このことが意味しているのは、“おうし座DG”の円盤には、まだ惑星は存在していないこと。
そう、惑星形成前夜の様子をとらえたと考えられるんですねー
図2.(上)アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリの電波強度マップおよび、波長0.87ミリ、3.1ミリにおけるダストにより散乱される電波の偏向強度マップ。(下)上の観測結果と最もよく一致した場合の観測シミュレーション。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
図2.(上)アルマ望遠鏡を用いて観測した原始星“おうし座DG”周りに広がる原始惑星系円盤の波長0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリの電波強度マップおよび、波長0.87ミリ、3.1ミリにおけるダストにより散乱される電波の偏向強度マップ。(下)上の観測結果と最もよく一致した場合の観測シミュレーション。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.)
さらに、波長を変えて円盤を観測(0.87ミリ、1.3ミリ、3.1ミリ)し、その電波強度や偏向強度(電波の波の振動方向がどれだけ揃っているのかの度合い)を調べています。

ダストの大きさや量の分布パターンに応じて、異なる波長の電波強度の比や、ダストにより散乱される電波の偏向強度が変わります。
このことから、観測結果をダストの大きさや量の分布が様々なパターンでの観測シミュレーションと比較し、よく一致するパターンを探し出すことで、惑星の材料となる星間ダストがどの程度成長しているのか、その大きさや量の分布を推定することができます。

その結果、ダストの大きさは円盤の内側よりも、外側(およそ40天文単位以遠)(※2)の方が比較的大きい、すなわち惑星形成の過程が進んでいることが分かりました。
※2.1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。40天文単位は、太陽~海王星間の距離よりも少し遠くになる。
これまでの惑星形成論では、内側から惑星の形成が始まると考えられていました。
でも、今回の結果が示していたのは、その予測と反すること。
むしろ外側から惑星の形成が始まる可能性でした。

一方、ダストの大きさは小さくなりますが、内側でもガスに対するダストの含有量が、通常の星間空間よりも10倍程度高いことが分かりました。

さらに、これらのダストは円盤面によく沈殿していて、惑星を作る材料をため込んでいる段階だと考えられます。
今後、このダストのため込みを引き金として、惑星の形成を開始する可能性が考えられます。

今回の観測は、アルマ望遠鏡の0.04秒角という非常に高い空間分解能に加え、3つの波長で偏光を含むダストの放つ電波を観測したことにより、可能となりました。

惑星の痕跡がない“のっぺり”とした円盤で、ダストの大きさや量を明らかにしたのは、今回の研究が世界で初めてのこと。
この研究により、これまでの理論研究や、惑星形成の痕跡が見られる円盤の観測では予想できなかった惑星形成現場の新たな側面が見えてきました。

これまでのアルマ望遠鏡を用いた観測では、多様な円盤構造をとらえることに成功し、惑星の存在を明らかにしてきました。

一方で、惑星形成がどのようにして始まるのか? っという問いには、惑星星形成の痕跡がない、“のっぺり”とした円盤の観測が重要になります。
今回の研究では、その惑星形成の初期条件を明らかにしたという点で非常に重要な成果だと言えます。
この研究成果は、Satoshi Ohashi et al. “Dust Enrichment and Grain Growth in a Smooth Disk around the DG Tau Protostar Revealed by ALMA Triple Bands Frequency Observations”として、アメリカ学術雑誌“The Astrophysical Journal (アストロフィジカル・ジャーナル)”に2023年8月28日付で掲載されました(DOI: 10.3847/1538-4357/ace9b9.)。


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3本の腕でガスを吸い込む三つ子の赤ちゃん星“三重原始星”はどのように誕生したのか?

2023年09月26日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、3つの原始星からなる星系“IRAS 04239+2436”について、アルマ望遠鏡を用いた高解像度での観測により、ガスの詳細な構造を調べています。

その結果、衝撃波の存在を示す一酸化硫黄分子が発する電波輝線を検出し、その分布が細長くたなびく大きな3つの渦状腕を形作っていることを発見。

さらに、観測から得られたガスの速度情報を数値シミュレーションと比較することにより、3つの渦状腕は3つの原始星にガスを供給する“ストリーマー”の役割も担っていることが分かっています。

これまでストリーマーの起源については未解明でしたが、観測とシミュレーションのタッグによって、ストリーマーの起源を多重星のダイナミックな形成過程から初めて明らかにしたことになります。
この研究は、ソウル国立大学のジョンユアン・リー教授、法政大学の松本倫明教授たちの国際研究チームが進めています。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

多重星はどうやって作られるのか

天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られていて、これまでに見つかっている太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

その中でも、3つ以上の星が互いに回り合う“多重星”として誕生することも少なくありません。
多重星の形成メカニズムを理解することも、星がどのようにして生まれるのかを知る上で大変重要なことになります。

でも、その形成過程は多くの謎に包まれているんですねー

これまで、多重星の形成について、いくつかのシナリオが提案され熱い議論がされてきましたが、残念ながらいまだに収束できていません。

なので、多重星の形成過程を理解するには、アルマ望遠鏡の高解像度・高感度を活かして、複数の原始星が生まれる瞬間を直接観測するのが効果的になります。

さらに、最近の原始星の観測では、原始星に向かってガスが流れている“ストリーマー”と呼ばれる構造がしばしば報告されています。

ストリーマーは、原始星がガスを吸い込んで成長している様子を示す重要な構造なんですが、どのように作られたのかもまだ解明されていません。

多重星の原始星の周りのガスの流れは、複雑な構造をしていると予想されるので、アルマ望遠鏡のような高解像度による詳細な観測は、ストリーマーの起源を解明する強力な研究手段になるはずです。

3つの原始星からなる“三重原始星”をアルマ望遠鏡で観測

今回、研究の対象になったのは、約460光年彼方に位置する“IRAS 04239+2436”。
3つの原始星からなる“三重原始星”です。

研究では、“IRAS 04239+2436”周辺の一酸化硫黄(SO)分子が出す電波を、アルマ望遠鏡を用いて高解像度かつ高感度で観測しています。

一酸化硫黄は、衝撃波がある場所でよく検出されている分子なので、原始星の周りでガスが激しく動き回るところを、とらえることができると考えたわけです。

観測の結果、三重原始星の周囲に一酸化硫黄分子を検出。
一酸化硫黄分子の分布が、長さ400天文単位にも渡る大きな3つの渦状腕(渦のような形をした細長い構造)を形作っているのを見つけています。

さらに、ドップラー効果による電波の周波数の変化から、一酸化硫黄分子を含んだガスが動く速度を導き出すことに成功。
ガスの動きを分析してみると、今回観測された渦状腕の形をした一酸化硫黄ガスは、三重原始星に向かって流れ込むストリーマーだと分かりました。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)

観測結果とシミュレーションの比較

ガスの動きをさらに詳細に調べるため、研究チームは数値シミュレーションによってガス雲から多重星ができる様子を再現し、観測から得られたガスの速度とシミュレーションの結果を直接比較しています。

この数値シミュレーションに用いられたのが、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイ”および“アテルイII”でした。
“アテルイ”、“アテルイII”は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する、天文学における数値シミュレーション専用のスーパーコンピュータ。岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められている。
数値シミュレーションでは、ガス雲の中で三重原始星が形成され、その周りでかき乱されたガスが渦状腕の形をした衝撃波を作り、渦状腕がストリーマーになって3つの原始星にガスを供給していました。

観測から得られた渦状腕とストリーマーの速度は、数値シミュレーションととてもよく一致。
数値シミュレーションがストリーマーの起源を説明しているようでした。

三重原始星はどのように誕生したか

観測と数値シミュレーションの比較で、この三重原始星がどのように誕生したかにまで迫ることができます。

これまで、多重星の形成には、2つのシナリオが提案されていました。

1つ目は、星の材料になるガス雲が乱流によって分裂し、それによってできた複数のガスの塊がそれぞれ原始星になるという“乱流分裂シナリオ”。

2つ目は、原始星を取り巻くガス円盤が分裂し、新たな原始星がうまれ多重星になる“円盤分裂シナリオ”。

これらに対して今回観測した三重原始星は、その両方を合わせたハイブリッドシナリオで説明できることが分かりました。

ハイブリッドシナリオのシミュレーションでは、乱流分裂シナリオのような乱流状態のガス雲の中で、円盤分裂シナリオのように円盤が分裂して原始星の種が複数個形成。
周囲のガスの乱流のために渦状腕が広く長くたなびくことになるというものです。

観測結果はシミュレーション結果とよく似ていて、ハイブリッドシナリオによる多重星形成の天体を、初めて観測により発見したと言えます。

このように天体の起源とストリーマーの起源を統一的に解明したのは、この天体が初めてのこと。
アルマ望遠鏡による観測とシミュレーションが手を組むことで、多重星形成の新しい姿を見ることができました。
スーパーコンピュータ“アテルイ”による多重星形成のシミュレーション。乱流のあるガス雲の中から原始星が複数誕生し、周囲のガスをかき乱し渦状腕を作りながら成長する様子が計算によって描き出された。(Credit: 松本倫明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
さらに、今回の研究による知見から、多重星の系における惑星形成の難しさについても知ることができるかもしれません。

惑星は原始星の周りにできるガス円盤の中で生まれます。
でも、この三重原始星のように原始星が狭い場所に集まっている場合、原始星による重力の影響が複雑になってしまいます。
さらに、星の周りのガス円盤は小さく、連星が互いの円盤を剥ぎ取るなどがあり、長時間静かな環境で惑星を作ることができないんですねー

そう、今回観測された“IRAS 04239+2436”は惑星の形成には適さない場所だと言えます。

ハイブリッドシナリオによって形成中の多重星が実際に観測されたことは、多重星形成シナリオの論争の終息に多く寄与するはずです。

また、最近注目のストリーマーについても、その存在が観測されただけでなく、それらがどのように作られたのかについても説明できたことは大きな進歩になります。


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巨大惑星の作られ方には2つの説があるけど、今回見つけた現場は初めて重力不安定説を支持するものだった

2023年09月13日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡“VLT”とアルマ望遠鏡を用いた観測により、いっかくじゅう座の方向約5000光年彼方に位置する若い星“V960星”の近くに、巨大惑星に成長していく可能性がある、ダスト(チリ)を多く含んだ大きな塊を検出したそうです。

巨大惑星の作られ方としては2つの考え方があり、これまでに観測例があったのは“コア集積説”でした。
でも、今回は初めて“重力不安定説”を支持するもののようです。
この研究成果は、チリ サンチアゴ大学のフィリップ・ウェーバーさんを筆頭に、同 セバスチャン・ペレスさん、チリ ディエゴ・ポルタレス大学のアリス・ズルロさんたちの研究チームによるものです。
“V960星”の周辺物質の画像(“SPHERE”とアルマ望遠鏡の合成画像)。この塊は自分の重さで潰され、さらに進化し巨大惑星に成長する可能性がある。(Credit: ESO)
“V960星”の周辺物質の画像(“SPHERE”とアルマ望遠鏡の合成画像)。この塊は自分の重さで潰され、さらに進化し巨大惑星に成長する可能性がある。(Credit: ESO)

巨大惑星形成には2つのレシピがある

“V960星”は、2014年にそれまでの20倍の明るさまで急激に増光したことで注目されるようになった天体です。

このように急激に明るくなる“アウトバースト”が始まった後、すぐに“SPHERE”を用いた観測を実施。
すると、“V960星”の周囲を回っている物質が、複雑な渦巻構造の腕の部分に集まっていることが明らかになりました。
“SPHERE”は超大型望遠鏡“VLT”に搭載されている分光偏光装置“SPHERE”。
その渦巻構造の腕は、太陽系全体の大きさよりも広い範囲に広がっているそうです。
“V960星”周囲の複雑ならせん状の腕(“SPHERE”による画像)。(Credit: ESO)
“V960星”周囲の複雑ならせん状の腕(“SPHERE”による画像)。(Credit: ESO)
この発見をきっかけにして実施されたのが、同じ“V960星系”に対するアルマ望遠鏡のアーカイブデータの解析でした。

“SPHERE”を用いた観測でできるのは、星周辺のダストが多く含まれる物質の表面を調べること。
これに対し、アルマ望遠鏡の観測では、その構造をより深く知ることが可能になります。

そのアルマ望遠鏡のアーカイブデータの解析から分かったのが、渦巻き構造の腕が分裂している最中であること。
惑星の質量と同じくらいの重さの塊が形成されていることも確かめられました。
“V960星”を周回する大きなダストの塊をとらえたアルマ望遠鏡による画像。(Credit: ESO)
“V960星”を周回する大きなダストの塊をとらえたアルマ望遠鏡による画像。(Credit: ESO)
巨大惑星の作られ方としては、“コア集積説”と“重力不安定説”という2つの考え方があります。

コア集積説は、ダストが降り積もっていくことで惑星が成長していくというもの。

一方の重力不安定説は、中心星の周りに大きな分裂破片ができて、分裂破片が収縮して自分の重さでつぶれて惑星が形成されるというものです。

これまでの研究では、コア集積説を支持すると考えられる観測例がいくつかありました。
でも、重力不安定説を支持するものは、ほとんどなかったんですねー

なので、重力不安定説を支持すると考えられる観測例は、今回が初めてのことでした。

今後のさらなる惑星形成現場の観測の進展が期待されています。
いっかくじゅう座の方向約5000光年彼方に位置する若い星“V960星”。(Credit: ESO)
いっかくじゅう座の方向約5000光年彼方に位置する若い星“V960星”。(Credit: ESO)
“V960星”の周囲の星空。(Credit: ESO)
“V960星”の周囲の星空。(Credit: ESO)


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