宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

アルマ望遠鏡の膨大なアーカイブデータを活用! すると連星系の軌道運動が分かってきた

2021年10月30日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
鹿児島大学の研究チームは、連星が互いの周りを回る軌道運動を検出することに成功しました。

この連星は若い双子の星“おうし座XZ星系”。
3年間にわたって観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析することにより検出できたそうです。

アルマ望遠鏡の豊富なアーカイブデータを有効活用することで、若い連星の運動を動画として作成した初めてのものでした。

この結果が示していること、それは複数年にわたるアルマ望遠鏡の観測データを解析することで、天体の様々な時間変化を調べられること。
アルマ望遠鏡によるアニメーションを用いた新たな科学の開拓が期待できる成果なんですねー

連星系ではどのように原始惑星系円盤が形成されるのか

宇宙には2つの星が互いの周りを回っている双子の“連星”であふれています。

すでに、天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られています。

これまでに見つかっている4000個以上の太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

また、若い連星のそれぞれの星の周囲には、分子ガスとチリからなる“原始惑星系円盤”が存在し、この円盤が惑星形成の現場であることも分かっています。
“原始惑星系円盤”とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

実際に連星に付随する惑星も多く検出されていますが、連星系でどのように円盤が形成され、その中で惑星がどうやって作られるのかは未だに謎に包まれているんですねー

それでは、連星における惑星形成を調べるにはどうすればよいのでしょうか?

それには、2つの星が互いの周りを回っている軌道運動を観測から正確に求め、個々の原始惑星系円盤の傾き、回転方向を比較することが重要になります。

もし、連星や原始惑星系円盤が、一つの大きな円盤が分裂することによって形成されるのであれば、連星の軌道と個々の円盤の面は同一平面上に存在するはずです。

一方、分子ガスが乱流によって分裂することで連星や原始惑星系円盤が形成されるのであれば、連星の軌道と個々の円盤は異なっていることが予想されます。

これは、最終的に出来上がる惑星の軌道面にも影響する大きな問題です。

連星系の軌道面と原始惑星系円盤面の傾き

そこで、今回の研究ではアルマ望遠鏡のアーカイブデータを活用。
地球からおよそ480光年彼方にある年齢が1000万年程度の若い連星“おうし座XZ星系”について調べています。

すると、個々の原始惑星系円盤が40度以上傾いていることが明らかになります。

さらに、2015、2016、2017年と1年おきに観測されたデータを解析した結果、連星が時計回りに運動していることを発見。
これは、連星の軌道運動を見ているものと考えられます。

3年間での軌道運動の大きさは3.4天文単位で、地球と太陽の間の距離の3.4倍に達していました。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。

さらに分かってきたのは、この連星系の軌道面は、個々の原始惑星系円盤の円盤面とも異なっていること。

つまり、連星を作る2つの星が持つ個々の円盤が互いに傾いているだけでなく、連星同士の軌道を含めすべてが異なる平面上にあることが明らかになったんですねー

これまでにアルマ望遠鏡による観測でも、若い連星の原始惑星系円盤が互いに傾いている例は発見されていました。

でも、連星の軌道運動を明らかにしたうえで、連星の軌道面とも異なる傾きを持っていることが分かったのは、今回が初めてのことでした。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、2015年はグレースケール、2016年は赤色の等高線、2017年は青色の等高線で表し、それぞれから求められた星の位置を十字印で示している。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、2015年はグレースケール、2016年は赤色の等高線、2017年は青色の等高線で表し、それぞれから求められた星の位置を十字印で示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.)

アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動アニメーション。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、年ごとにグレースケールと等高線で表し、求められた星の位置を十字印で示している。
アルマ望遠鏡のアーカイブデータをもとに作成した“おうし座XZ星系”の軌道運動アニメーション。“おうし座XZ星A”(左下)の位置を固定し、“おうし座XZ星B”(右上)の位置の変化を表している。円盤から放射される電波の強度分布を、年ごとにグレースケールと等高線で表し、求められた星の位置を十字印で示している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.)

今回の観測結果をもとに描いた“おうし座XZ星系”のイメージ図。連星系を成す2つの若い星の周りにそれぞれ原始惑星系円盤があり互いに傾いている。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面状を軌道運動している。
今回の観測結果をもとに描いた“おうし座XZ星系”のイメージ図。連星系を成す2つの若い星の周りにそれぞれ原始惑星系円盤があり互いに傾いている。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面状を軌道運動している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))
これらは、アルマ望遠鏡の高い解像度と豊富なアーカイブデータによって成し遂げられた成果です。

今回の研究で活用されたのは3年分の観測データでした。
今後、追加観測によってさらに観測点を増やし、より正確な軌道運動の検出が待たれます。

様々な天体現象の解明に応用可能な新たな研究手法

今回の研究が示しているのは、これまでの“天体画像”ではなく“天体アニメーション”を使った新たな研究手法の可能性でした。

高感度かつ高解像度を誇るアルマ望遠鏡の膨大なアーカイブデータをフル活用し、天体の運動の動画を作成すれば、それに基づいた研究ができることになります。

この研究手法は、連星の軌道運動のみならず、星から噴き出すジェットの運動や星の明るさの時間変化など、様々な天体物理学研究に応用可能です。

今後、この手法が様々な天体現象の解明の手助けになってくれるはずですよ。


こちらの記事もどうぞ


初期の宇宙に“ガス欠”に陥った大質量銀河を発見

2021年10月23日 | 銀河・銀河団
ビッグバンから30億年の間に形成された初期の大質量銀河には、星を作るための材料になる冷たい水素ガスが大量に含まれているはずです。

でも、“アルマ望遠鏡”と“ハッブル宇宙望遠鏡”を用いて初期の宇宙を観測してみると、星の材料を使い果たした奇妙な初期大質量銀河が6つも見つかったんですねー

短い時間で大量の星を作り、そして突然星を作るのをやめてしまった銀河…
いったい何が起きているのでしょうか?
NASAの“ハッブル宇宙望遠鏡”で撮影された銀河団“MACSJ 0138”の画像に、“アルマ望遠鏡”のデータを合成した画像。拡大された部分に見えるオレンジや赤の明るい点は“アルマ望遠鏡”で観測された冷たいチリの広がり。この冷たいチリは、銀河団内の銀河に存在する星の形成に必要な冷たい水素ガスの量を推測するのに役立った。
NASAの“ハッブル宇宙望遠鏡”で撮影された銀河団“MACSJ 0138”の画像に、“アルマ望遠鏡”のデータを合成した画像。拡大された部分に見えるオレンジや赤の明るい点は“アルマ望遠鏡”で観測された冷たいチリの広がり。この冷たいチリは、銀河団内の銀河に存在する星の形成に必要な冷たい水素ガスの量を推測するのに役立った。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO), STScI, K. Whitaker et al.)

星の形成が止まってしまった銀河

初期の宇宙で星の形成が止まっている銀河がありました。
この銀河を観測したのは、“REQUIEM(REsolving QUIEscent Magnified at high redshift)”と名付けられたプロジェクトでした。

宇宙で最も質量の大きい銀河たちは猛烈な勢いで活動していて、非常に短い時間で星を生み出していました。

初期の宇宙には星形成の材料になるガスは豊富にあるはずです。
なので、当初はビッグバンから数十億年後に、これらの銀河は星形成にブレーキをかけたと考えていたんですねー

でも、今回の研究では、初期の銀河は実際にはブレーキをかけたのではなく、ガス欠になっていたのではないかと結論付けることになります。

では、銀河はどのように形成され、どのように星形成活動を停止するのでしょうか?

このことを理解するために、研究チームでは“ハッブル宇宙望遠鏡”を用いて銀河に存在する星の詳細を明らかにしています。

また、“アルマ望遠鏡”では銀河のチリが放つミリ波の観測が行われ、銀河内のガスの量を推測することができました。

重力レンズ効果を自然の望遠鏡として利用する

“REQUIEM”の目的は、星形成休眠中の銀河をより高い解像度で観測することです。

この観測により、研究者は銀河の内部で何が起きているのかを明確に把握することができます。

ただ、銀河は新しい星をあまり作っていないと、すぐに暗くなってしまいます。
なので、望遠鏡で詳細に観測することは難しくなるんですねー

このため“REQUIEM”が考えたのは、強い重力レンズを自然の望遠鏡として利用することでした。
重力レンズ効果を受けた銀河を“ハッブル宇宙望遠鏡”や“アルマ望遠鏡”を用いて観測することで、この問題を解決しています。

重力レンズ効果とは、銀河の光が私たちに近い場所にある他の銀河の周りで曲がることで、元の銀河の姿が引き伸ばされたり拡大されたりする現象です。
恒星や銀河などが発する光が、途中にある銀河などの重力がレンズのような役割を果たすことで、曲げられたり拡大されたりする現象を重力レンズ効果という。これにより遠くの銀河が大きく拡大され、アルマ望遠鏡の高い解像度と相まって、銀河の詳しい様子を調べることができる。

観測では、重力レンズ効果に“ハッブル宇宙望遠鏡”や“アルマ望遠鏡”の解像力や感度が相まって、自然の望遠鏡として機能することになります。

これにより、星形成活動が止まりかけている銀河が実際よりも大きく明るく見え、何が起きていて起きていないのかを知ることができました。

ガスの枯渇により星形成活動を停止

今回の観測で分かってきたのは、研究対象となった6つの銀河で星形成活動が停止したのは、冷たいガスを星に変換する効率が急激に低下したのではないこと。
星形成活動の停止は銀河内のガスが枯渇したか、ガスが外部に取り除かれた結果だと分かりました。

なぜ、このようなことが起こるのかはまだ分かっていません。

考えられるのは、外部からのガスの供給が絶たれたこと。
あるいは、超大質量ブラックホールが膨大なエネルギーを注入して銀河内のガスを高温に保っているのかもしれません。

こうなってしまうと、銀河は燃料タンクを補充することができず、星形成のエンジンを再起動することができない状態になってしまいます。

6つの銀河のうち4つでは、チリからの電波がそもそも検出されませんでした。

このことが示唆しているのは、銀河の星に対して塵の量が1万分の1以下しかないこと。
チリとガスの存在比が天の川銀河と同じだとしても、これらの銀河におけるガスの総質量は、星の総質量の100分の1しかないことになってしまいます。

今回の研究は、今後何年にもわたって初期宇宙の研究の指針となる情報を提示しています。

研究で初めて測定することになったのは、遠方の星形成休眠中の銀河に含まれる冷たいチリからの電波でした。

天の川銀河にごく近い場所以外で、この種の測定を行ったのは今回が初めてのこと。
さらに、今回の研究によって、星形成が停止した銀河がどれだけのガスを持っているかを確認することができました。

初期の大質量銀河の星形成の材料を十分な感度調べること、言い換えれば銀河の燃料タンクの残量を読み取ることができたわけです。

この情報は、これらの銀河の冷たいガスの特性に関して、これまで決定的に欠けていたものでした。

研究チームは、これらの銀河が“ガス欠”状態になっていること、何かがガスの補充と新しい星の形成を妨げていることまでは明らかにしました。

でも、初期の大質量銀河で起きる星形成活動を何が支配しているのか?
この問いについては、まだ解決の一歩目を踏み出したにすぎないんですねー

大質量銀河がなぜこれほど初期の宇宙に形成されたのか。
また、大量の冷たいガスが容易に手に入ったのに、なぜ星の形成をやめてしまったのか。
まだまだ、多くのことが分かっていません。

この巨大な宇宙の怪物たちが約10憶年の間に1000億個の星を形成した後、なぜ突然星の形成を停止したのか。
“REQUIEM”は、この疑問に最初の手掛かりを提供してくれています。


こちらの記事もどうぞ


天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールを回る星の動きを“アルマ望遠鏡”で見てみる

2021年10月06日 | 宇宙 space

電波と赤外線

電波望遠鏡が得意なこと。
それは、宇宙に存在するガスを見ることです。

例えば、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*(いてざエースター)”周囲では、電離ガスが何本もの腕状に分かれていることが、30年も前から明らかになっていました。
“いて座A*”は天の川銀河の中心に存在している太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール。

ただ、星を見ることに優れているのは赤外線観測になります。

赤外線だと、天の川銀河中心付近の星でも比較的容易に観測でき、さらに補償光学技術を用いると大気による星のゆらぎを取り除いて撮像することができました。

星が放つ光の強さは、波長の2乗に反比例するので、赤外線より波長の長いミリ波サブミリ波では放射が弱くなってしまいます。

また、解像度も波長に比例して悪くなり、解像度が低いと星の放射は薄まってしまうことに…

このように電波望遠鏡を用いた星の検出は難しくなるんですねー

このため、今までの電波望遠鏡では、近距離にあるものを除いて星を観測することはできませんでした。

高感度な電波望遠鏡で星の動きを観測

一方、透過力になると赤外線観測がミリ波サブミリ波よりも強くなります。
十分に高感度な電波望遠鏡を使えば、星雲中に深く埋もれた星であっても観測できると期待されます。

2017年には宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所のチームが、“アルマ望遠鏡”を用いて周波数230GHzで天の川銀河中心を観測。
25ミリ秒角の高解像度と、“いて座A*”の電波強度の5万分の1まで検出できる高い感度を実現しています。

この“アルマ望遠鏡”の桁違いの高感度高解像度によって、天の川銀河中心の周囲の星を電波で初めて検出することに成功しています。

検出された星は約50個であり、そのほとんどが極めて明るい星であるウォルフ・ライエ星やO型星でした。

また、2019年の観測データも用いて、天の川銀河中心に対する星の運動も、電波望遠鏡としては初めて測定しています。

その結果分かったのは、この領域の星がランダムに動いているのではなく、いくつかのグループに分類できることでした。

図中の青い楕円内部、“いて座A*”近傍では多くの星は“いて座A*”を中心に時計回りに公転しているようでした。

この公転は、赤外線観測による長年の観測ですでに知られているもの。
それが、“アルマ望遠鏡”では2年間隔のわずか2回の観測で確認しているんですねー
“アルマ望遠鏡”で観測した天の川銀河中心部の様子。左は“アルマ望遠鏡”で観測した星の位置と動き(矢印)で、中心に“いて座A*”がある。右は星団“IRSI3E”のアップ。
“アルマ望遠鏡”で観測した天の川銀河中心部の様子。左は“アルマ望遠鏡”で観測した星の位置と動き(矢印)で、中心に“いて座A*”がある。右は星団“IRSI3E”のアップ。(Credit: M. Tsuboi et al.)
もし、この領域で星の形成が散発的に起きるとすれば、星の運動はランダムになってもよいはずです。

星の運動が揃っているという観測結果が示唆していること。
それは、ブラックホールに向かって落下してきたガスから同時に星が作られたか、あるいは星自身が揃ってブラックホールに向かって落下していることでした。

星の運動速度は外側では秒速数十キロと緩やかですが、内側に行くにつれて激しくなり、秒速数百キロにも達しています。

これは、星が“いて座A*”の周囲をケプラー運動していると考えると説明が付きます。

この速度から推定したブラックホールの質量は太陽の400万倍以上。
これは、これまで他の観測結果から推定されている質量と一致していました。

さらに、天の川銀河中心に最も近い場所に位置する星団“IRSI3E”における星の動きも測定することができています。

その結果分かったのは、星団のほとんどの星が西向きに運動していること。
これも、赤外線によるこれまでの観測結果を裏付けるものでした。

すでにいくつかの成果を上げている“アルマ望遠鏡”による星の動きの観測。
さらに、“IRSI3E”星団中心に星ではなく明るい円盤状の天体があることも明らかにしたそうです。


こちらの記事もどうぞ