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地球とは違う!? 液体メタンの降雨で集められた有機物エアロゾルがくっついて砂粒子に成長、こうして衛星タイタンの砂丘が作られた

2023年09月30日 | 土星の探査
土星最大の衛星タイタンでは、太陽系の天体としては地球以外で唯一液体の海や湖などが確認されています。

そして、タイタンは地球以上に複雑で分厚い大気を持っているんですねー

今回発表されたのは、タイタンの大気中で作られる極めて微小な有機物エアロゾルが、地表面の液体メタンの降雨蒸発によって、大きな砂サイズの粒子に急激に成長することでした。
この研究成果は、東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の平井英人大学院生、同 関根康人教授たちの研究チームによるものです。
NASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星の衛星タイタン全域の赤外線画像。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘になる。(Credit: NASA JPL(出所:東工大 ELSI Webサイト))
NASAの土星探査機“カッシーニ”が撮影した土星の衛星タイタン全域の赤外線画像。赤道域に広がる色の暗い領域が砂丘になる。(Credit: NASA JPL(出所:東工大 ELSI Webサイト))

地球によく似た地形が存在する

土星最大の衛星タンタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体。
半径が2575キロもあるんですねー

タイタンはメタンを数%含んだ窒素の大気を持ち、地表面の大気圧は地球のおよそ1.5倍もあることが知られています。

また、大気がこのような成分なので、光化学反応によって有機物エアロゾルが生成されていることが分かっています。

タイタンの地表には液体メタン(約-183℃~約-161℃)の海や湖があり、赤道域は有機物からなると推測される砂丘で覆われています。

このように地球によく似た地形がある一方で、砂丘を作る有機物の砂粒子の起源は分かっていませんでした。

有機エアロゾルが地表に落ちて砂になる可能性も考えられます。
でも、エアロゾルは100nm程度、砂粒子は100μm程度と、およそ1000倍も大きさが異なるんですねー
仮に有機エアロゾルをビー玉の大きさとすれば、砂粒子は5階建ての建物に匹敵するほど多きが違います。

砂丘で起こる液体メタンの降雨と蒸発

それでは、タイタンの砂丘を作る有機物の砂粒子はどのようにしてできたのでしょうか?

この謎に対して、今回の研究で着目したのは液体メタンの降雨蒸発でした。

タイタンでは、砂丘でも液体メタンの降雨と蒸発が起きています。

そこで今回の研究では、タイタンの降雨蒸発を再現した実験装置が製作されることになります。

実験では、エアロゾルは液体メタンで集められ、それが蒸発する際に、エアロゾルから溶けた成分が糊(のり)のように無数のエアロゾルをくっつけて、効率的に大きな粒子になることが明らかになりました。

そう、タイタンでは無数のエアロゾル粒子が液体メタンの影響でくっついて、大きな砂粒子になっている可能性があるんですねー

地球や火星、小惑星では、大きな岩石が温度変化や水の浸透などで割れて砂粒子が作られています。
でも、エアロゾルから砂粒子に成長するというメカニズムは、地球や火星、小惑星と大きく異なることになります。

なお、タイタンを調査する計画としては、NASAの“ドラゴンフライ”が進行中です。

“ドラゴンフライ”はマルチロータービークル型の着陸機で、飛行によって複数の地点を移動して探査を行うことになっています。

打ち上げは1年延期されて2027年になることが発表され、到着は2034年が予定されています。

今回の研究の予測について、“ドラゴンフライ”などの将来の探査によってその正確性が確かめられることが期待されますね。
打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機“ドラゴンフライ”のイメージ図。2034年までにタイタンに到着する予定。(Credit: NASA/Johns Hopkins APL(出所:NASA Webサイト))
打ち上げ予定が2027年6月に延期されたNASAのマルチロータービークル型のタイタン探査機“ドラゴンフライ”のイメージ図。2034年までにタイタンに到着する予定。(Credit: NASA/Johns Hopkins APL(出所:NASA Webサイト))


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“NWA 13188”は地球から飛び出して、再びブーメランのように戻ってきた隕石なのかもしれない?

2023年09月29日 | 宇宙 space
これまでに地球で見つかっている隕石は7万個以上もあるんですねー
(国際隕石学会に認定されている隕石の名前の数)
その一部は、月や火星といった大きな天体に由来することが分かっています。

では、地球に由来する隕石は存在するのでしょうか?

今回発表されたのは、隕石“NWA 13188”が元々は地球の岩石だったとする研究成果でした。
もし、このことが事実だとすると、地球から飛び出して再び戻ってきたことが確認された世界初の岩石ということになるようですよ。
この研究は、フランス国立科学研究センターのJérôme Gattaccecaさんたちの研究チームが進めています。
この研究成果は、フランスのリヨンで7月中旬に開催された“2023年ゴールドシュミット国際会議”で発表されていますが、まだ査読論文は提出されていないので地球由来とする主張には異論も存在しています。

地球を飛び出して戻ってきた隕石は存在する?

地球で見つかる隕石の一部には、月や火星といった大きな天体に由来するものが含まれていることが分かっています。

これらの天体の表面から岩石が飛び出すのに必要になるのが、強い重力を振り切らせることができる激しい現象。
たとえば天体衝突や巨大な火山噴火になります。

でも、このような現象は地球でも起こる可能性はありますよね。

地球から岩石が飛び出す可能性を示した具体的な証拠が初めて見つかったのは2019年こと。
1971年にアポロ14号で持ち帰られた月の石を分析してみると、その中に地球由来の岩石が含まれていることが判明するんですねー

岩石の年代は約40億年前とかなり古いことから、月が現在よりも地球に近かった頃に偶然辿り着いたものと考えられています。

この成果が、地球由来の隕石が存在するというこれまでで唯一の証拠でした。

隕石“NWA 13188”が地球に由来する可能性

今回の研究で分析しているのは、2018年6月にサハラ砂漠のモロッコ側で発見された“NWA 13188”という隕石。
分析の結果、研究チームは“NWA 13188”が地球の岩石だと考えることになります。
図1.“NWA 13188”の外観写真。(Credit: Albert Jambon)
図1.“NWA 13188”の外観写真。(Credit: Albert Jambon)
“NWA 13188”は暫定的に“エイコンドライト(Achondrite)”に分類されています。
でも、“NWA 13188”は、他のエイコンドライトとは似ていない独特の性質を持っていたんですねー

エイコンドライトとは、岩石が主体の隕石のうち、“コンドリュール”と呼ばれる球状組織を含まない隕石を指します。

コンドリュールは重力に乏しい環境で急冷された結果生成されたと考えられています。
なので、コンドリュールが含まれていないということは、大きな天体の表面や内部で形成された岩石ということになります。

エイコンドライトのほとんどは小惑星ベスタに由来していて、一部は月や火星に由来していますが、残りの少数の起源は不明です。

“NWA 13188”も、そのような“起源不明のエイコンドライト”の1つとしてリストに掲載されていました。

分析された“NWA 13188”の組成は、地球外の隕石というよりも、地球の火山に由来する典型的な火山岩(玄武岩質安山岩)のようでした。

特に、酸素やネオジムの同位体比率(※1)、各種希土類元素やニオブとタンタルといった微量元素の存在比は、“NWA 13188”が地球由来の岩石の可能性を高めていました。
※1.同じ元素の中でも、原子の重さが異なるものを同位体と呼ぶ。同位体は、わずかながらも物理的・化学的な挙動が異なるので、たとえ同じ物質(鉱物)でもそこに含まれている元素の同位体組成が異なる場合、それぞれ異なる環境を経験してきたことを示す1つの証拠になる。
図2.“NWA 13188”の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻になる。(Credit: Albert Jambon)
図2.“NWA 13188”の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻になる。(Credit: Albert Jambon)
でも、一部の特徴は“NWA 13188”が地球由来ではない隕石ということを強調していました。

たとえば、“NEA 13188”には“溶融殻”(※2)と呼ばれる隕石に典型的な表面構造が存在すること。
※2.隕石は地球の大気に高速で飛び込むので、前方の空気を圧縮して高温が発生する(断熱圧縮)。この熱によって隕石の表面は溶解・蒸発し、その名残りとして表面が焼けただれたような構造が残る。これを溶融殻という。
大気圏突入時の高温状態は短時間だけ発生するので、表面の数ミリだけが溶けていて、内部は無傷となる。このような状況は地球の自然環境ではほぼ発生しないので、隕石であることの1つの証拠になる。
さらに、ヘリウム3、ベリリウム10、ネオン21といった珍しい同位体が多く含まれていることも重要なことでした。
これらの同位体は、高エネルギーな宇宙線が他の物質に衝突することによって発生します。

地球上では、磁場と大気によって高エネルギー宇宙線の大部分が防がれます。
一方で、真空の宇宙空間で“野ざらし”にされた隕石では大量に発生するんですねー

“NWA 13188”に含まれるこれらの同位体の濃度は、他の隕石に比べると少ないものの、地球の岩石よりはずっと多いことが判明しています。

ベリリウム10は約140万年の半減期で崩壊するので、“NWA 13188”は地球に落下してからさほど時間がたっていないことが推測できます。

これらの情報を総合すると、“NWA 13188”は元々地球の岩石で、10万年以内という比較的短い期間だけ宇宙空間を漂った後、約1万年前に地球に落下したことになります。

天体から宇宙空間に飛び出した後、再び元の天体に戻ってきたブーメランのような物体も定義上は隕石になるので、“NWA 13188”も隕石だということに…
このような隕石は世界初の発見になります。

岩石を地球から飛び出させるような激しい現象が何だったのかは不明です。

ただ、火山噴火の可能性は低いようです。
これは、屈指の大規模火山でも噴煙の高さはせいぜい50キロ程度なので、重さが640グラムある“NWA 13188”を宇宙空間まで飛ばすのは困難だからです。

このため、“NWA 13188”は別の天体衝突で吹き飛ばされた岩片の可能性が高いと見られています。

“NWA 13188”はいつ作られた岩石なのか

“NWA 13188”に関するこの成果は、正式な査読論文にはなっていないんですねー
なので、“NWA 13188”が隕石だということに疑いの声は少ないものの、地球隕石だとする説には異論もあります。

まず、“NWA 13188”はいつ作られた岩石なのかが判明していません。

暫定的な年代は、ほとんどの隕石と同じ約45億年前になっています。
でも、地球の岩石だとするとこれよりもずっと若い年代になるはずです。

また、“NWA 13188”の落下年代が比較的若いこと、サハラ砂漠で発見されたことを考慮すると、クレーターの痕跡がないのは不自然だとする主張もあります。

サハラ砂漠で見つかる他の多くの隕石と同じで、“NWA 13188”も地元の人たちによって採取された後、仲買人によって転売されているので、正確な発見位置や状況が不明です。

でも、“NWA 13188”の大きさや推定される落下年代を考慮すると、素人目に見てもクレーターが見つかるはず…
なので、“NWA 13188”は落下年代がもっと古い、ごく普通の隕石という可能性もあります。

いずれにしても、“NWA 13188”が地球隕石なのかどうかを確定するには、まだ情報が不足している状態です。

研究チームでは、“NWA 13188”の正確な年代測定、鉱物に刻まれる落下衝撃の吸収による傷、宇宙空間に存在した期間を示す別の同位体の測定など、さらに詳しい分析を予定しているようです。

どこから来た隕石なのかを知るにはもう少し時間がかかるようです。


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東アジアの遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力! 銀河中心に潜む大質量ブラックホールに水分子ガスが落ち込む様子を観測

2023年09月28日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、東アジアVLBI観測網を用いて電波銀河“NGC4261”を観測しています。
すると、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布するのが見つかったそうです。
どうやら、これらの水分子は銀河中心の大質量ブラックホールに落下しているようです。
この研究成果は、大阪公立大学の澤田(佐藤)聡子特任研究員たちの研究チームによるものです。
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))

明るいジェットを持つ電波銀河

銀河の中心に潜む大質量ブラックホールに大量の星間ガスが落ち込み続けると、結果として膨大なエネルギーが放出されます。

その大質量ブラックホールをエンジンとする銀河の1つが電波銀河です。
その中心からは、数万光年の規模で活発に噴出する明るい電波ジェットを放っていて、星間ガスの持つ重力エネルギーが電波ジェットの噴出エネルギーに変換されていると考えられています。

“NGC4261”も明るいジェットを持つ電波銀河の1つなので、その中心には大質量ブラックホールが存在していると考えられています。

さらに、“NGC4261”の極めて中心の領域では、高密度のガスが円盤のように取り巻いていることがすでに知られていました。

これらのガスがブラックホールに落下すれば、ジェットに噴出エネルギーを投入できる可能性があります。

でも、本当にこれらの高密度なガスが大質量ブラックホールに落下しているのかは不明なんですねー
これまで、数光年というブラックホール近傍からガスが落下しているという観測的証拠はなく、“NGC4261”で中心部のガスがジェットのエネルギー源になっているかどうかは推測の域を出ませんでした。

遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して観測

その謎を解き明かすため、今回の研究では東アジアVLBI観測網を用いて“NGC4261”を観測しています。

東アジアVLBI観測網(EAVN :East Asia VLBI Network)とは、国立天文台や韓国天文研究院、中国科学院上海天文台、中国科学院新疆天文台が連携して、各国の電波望遠鏡群をネットワークさせたVLBI観測網のこと。
遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測すると、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。このような観測を行うことを“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線干渉計)”という。
今回の観測では、東アジアVLBI観測網のうち、国立天文台VERAネットワークの水沢局(岩手県)、入来局(鹿児島県)、小笠原局(東京都小笠原)、石垣島局(沖縄県)の4か所、茨城の高萩32メートル望遠鏡、韓国のVLBIネットワークKVNの3局が用いられています。

水分子ガスの分布

観測の結果判明したのは、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布すること。

水分子ガスの分布は、“NGC4261”の高密度な電離ガス円盤の分布と空間的に一致しているので、水分子ガスも“NGC4261”の中心を取り巻く円盤の一部を構成していることが考えられました。

なお、メーザーとは光のレーザーと同じ原理でマイクロ波で発生する物理現象のこと。
水分子のメーザー輝線のドップラー効果からは、円盤内の水分子ガスが中心に向かって運動している瞬間をとらえています。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
つまり、ブラックホールを取り巻くガス円盤(降着円盤)を構成する物質が、中心のブラックホールに落下しジェット噴出のエネルギー源になる っというシナリオが、“NGC4261”で観測的に示されたことになるんですねー

今回の電波ジェットと水メーザーの観測を受け、過去の電離ガス、中性水素ガス、分子ガスの観測結果も含めて、“NGC4261”の中心部の構造が以下のように提案されています。
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
ガス円盤が中心の大質量ブラックホールを取り巻き、電波ジェット方向に垂直の向きに広がっている。
これは、ジェットが大質量ブラックホールの南北の双極方向に噴き出すもので、赤道に円盤があることを意味します。

そして、水分子ガスは円盤の半径1光年より内側に分布し、円盤の中で乱流を起こしながら中心のブラックホールに落下していると予想されます。

今回の観測では、電波銀河の大質量ブラックホールを取り巻くガス円盤の手前側にある水メーザーが検出されました。
電波望遠鏡から見て水分子ガスの背景にジェットが存在するとき、水分子からのメーザー放射が明るく観測されるようです。

今回、8局の電波望遠鏡によるVLBIネットワークの安定した性能と高角分解能が、“NGC4261”の大質量ブラックホール最近傍のガスの構造と運動の検出を可能にしています。

現在、国立天文台のVERAネットワークでは、新しい高感度受信機の開発を進めていて、その新型受信機を用いると観測の感度を向上させることができます。

さらに、韓国に設置された3基の電波望遠鏡ネットワーク“KVN: Korean VLBI Network”では、現在4基目の電波望遠鏡を平昌に建設中。
これまでより感度と撮像性能の高い観測が期待できます。

今後のアップデートされた東アジアVLBI観測網が、“NGC4261”のブラックホールへのガス降着機構をさらに詳しく解明してくれるはずですよ。


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これまでのロケットエンジンと同推力で2~5倍高い効率! NASAとDARPAの核燃ロケットエンジン試験機はロッキード・マーティンが製造

2023年09月27日 | 宇宙 space
NASAとアメリカ国防高等研究計画局“DARPA”には、将来の有人火星探査を見据えて“核燃ロケットエンジン”の技術実証を行う“DRACO(Demonstration Rocket for Agile Cisulunar Operations)”というプログラムがあります。

今回、NASAとDARPAが発表したのは、“DRACO”プログラムについて。
試験機の設計・製造を行う主契約者がロッキード・マーティンに決定したことでした。
DRACOプログラムの核燃ロケットエンジン試験機のイメージ図。(Credit: Lockheed Martin)
DRACOプログラムの核燃ロケットエンジン試験機のイメージ図。(Credit: Lockheed Martin)

核分裂反応で発生する熱を利用するロケットエンジン

核燃ロケット(Nuclear Thermal Rocket : NTR)エンジンは、核分裂反応で発生する熱を利用して水素などの推進剤を加熱・膨張させノズルから噴射することで推力を得る推進システムです。
“核燃推進(Nuclear Thermal Propulsion : NTP)ロケットエンジン”や“原子力推進ロケットエンジン”などとも呼ばれています。

核燃推進の研究は東西冷戦時代にまで遡り、かつてはNASAでも“NERVA(Nuclear Engine for Rocket Vehicle Application)”プログラムのもとで研究が進められたことがありました(1972年に中止)。

それぞれ特徴がある2種類のロケットエンジン

現在利用されている主なロケットエンジンには、推進剤の化学反応で生じたガスを噴射する“化学燃料ロケットエンジン”と、電気で加速させた推進剤を噴射する“電気推進ロケットエンジン”があります。

2種類のロケットエンジンを比較すると、化学燃料ロケットエンジンは推力が高くて比推力(効率)が低く、電気推進ロケットエンジンは推力が低くて比推力が高いという特徴があります。

例えば、JAXAの小惑星探査機“はやぶさ”や“はやぶさ2”の場合。
地球と小惑星を往復する巡航フェーズでは、効率に優れるイオンエンジン(電気推進ロケットエンジン)を使用。
機体の姿勢制御やサンプル採取(タッチダウン)時などでは、イオンエンジンよりも高い推力を発生させるスラスター(化学燃料ロケットエンジン)を使用しています。
ロッキード・マーティンによるDRACOプログラムの核燃ロケットエンジン試験機のイメージ動画(英語)。(Credit: Lockheed Martin)

月や火星に効率的かつ迅速に物資を輸送するために

一方、ロッキード・マーティンによると、核燃ロケットエンジンは化学燃料ロケットエンジンと同程度の推力でありながら、2~5倍高い効率を実現可能にするそうです。

飛行時間を短縮して宇宙飛行士が負うリスク(宇宙放射線の被ばくなど)を軽減できるだけでなく、月や火星に効率的かつ迅速に物資を輸送できる可能性もあることから、核燃ロケットエンジンは改めて注目されているそうです。

NASAとDARPAが、DRACOプログラムのもとで核燃ロケットエンジンの技術実証に共同で取り組むことを発表したのは2023年1月のことでした。

今回、ロッキード・マーティンとの間で合意に達したのは、2027年に打ち上げが予定されている核燃ロケットエンジン試験機“experimental NTR vehicle : X-NTRV”の設計と製造に関する契約。
核燃ロケットエンジンの心臓部になる核分裂炉の開発は、ロッキード・マーティンのパートナーのBWXテクノロジーが担当することになります。

DARPAによると、DRACOプログラムの試験機ではNERVAプログラムで用いられた高濃縮ウランではなく、高純度低濃縮ウラン(HALEU)が核分裂炉に採用されています。
また、トラブルへの対応のため目標の軌道に到達するまでは、核分裂炉の停止状態が維持されるようシステムが設計されることを、DARPAは強調しています。
DRACOプログラムの核燃ロケットエンジン試験機のイメージ図。(Credit: Lockheed Martin)
DRACOプログラムの核燃ロケットエンジン試験機のイメージ図。(Credit: Lockheed Martin)
これまでの宇宙開発における原子力といえば、放射性物質の崩壊時に発する熱から電気を得る“放射性同位体熱電気転換器(Radioisotope Thermoelectric Generator : RTG)”が主に利用されてきました。

“放射性同位体熱電気転換器”はNASAの惑星探査機“ボイジャー”や土星の衛星タイタンに向けて2027年に打ち上げを予定の探査ドローン“ドラゴンフライ”での採用も決定しています。

4年後に試験機を打ち上げ予定のDRACOプログラムが目指しているのは、核分裂反応を利用したロケットエンジンの開発。
さらに、長期間の月面滞在などを想定した電源としての核分裂の利用についても、現在研究が進められています。

そう遠くない将来の有人探査ミッションでは、核分裂の活用が一つの重要なポイントになるのかもしれませんね。


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3本の腕でガスを吸い込む三つ子の赤ちゃん星“三重原始星”はどのように誕生したのか?

2023年09月26日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、3つの原始星からなる星系“IRAS 04239+2436”について、アルマ望遠鏡を用いた高解像度での観測により、ガスの詳細な構造を調べています。

その結果、衝撃波の存在を示す一酸化硫黄分子が発する電波輝線を検出し、その分布が細長くたなびく大きな3つの渦状腕を形作っていることを発見。

さらに、観測から得られたガスの速度情報を数値シミュレーションと比較することにより、3つの渦状腕は3つの原始星にガスを供給する“ストリーマー”の役割も担っていることが分かっています。

これまでストリーマーの起源については未解明でしたが、観測とシミュレーションのタッグによって、ストリーマーの起源を多重星のダイナミックな形成過程から初めて明らかにしたことになります。
この研究は、ソウル国立大学のジョンユアン・リー教授、法政大学の松本倫明教授たちの国際研究チームが進めています。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

多重星はどうやって作られるのか

天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られていて、これまでに見つかっている太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

その中でも、3つ以上の星が互いに回り合う“多重星”として誕生することも少なくありません。
多重星の形成メカニズムを理解することも、星がどのようにして生まれるのかを知る上で大変重要なことになります。

でも、その形成過程は多くの謎に包まれているんですねー

これまで、多重星の形成について、いくつかのシナリオが提案され熱い議論がされてきましたが、残念ながらいまだに収束できていません。

なので、多重星の形成過程を理解するには、アルマ望遠鏡の高解像度・高感度を活かして、複数の原始星が生まれる瞬間を直接観測するのが効果的になります。

さらに、最近の原始星の観測では、原始星に向かってガスが流れている“ストリーマー”と呼ばれる構造がしばしば報告されています。

ストリーマーは、原始星がガスを吸い込んで成長している様子を示す重要な構造なんですが、どのように作られたのかもまだ解明されていません。

多重星の原始星の周りのガスの流れは、複雑な構造をしていると予想されるので、アルマ望遠鏡のような高解像度による詳細な観測は、ストリーマーの起源を解明する強力な研究手段になるはずです。

3つの原始星からなる“三重原始星”をアルマ望遠鏡で観測

今回、研究の対象になったのは、約460光年彼方に位置する“IRAS 04239+2436”。
3つの原始星からなる“三重原始星”です。

研究では、“IRAS 04239+2436”周辺の一酸化硫黄(SO)分子が出す電波を、アルマ望遠鏡を用いて高解像度かつ高感度で観測しています。

一酸化硫黄は、衝撃波がある場所でよく検出されている分子なので、原始星の周りでガスが激しく動き回るところを、とらえることができると考えたわけです。

観測の結果、三重原始星の周囲に一酸化硫黄分子を検出。
一酸化硫黄分子の分布が、長さ400天文単位にも渡る大きな3つの渦状腕(渦のような形をした細長い構造)を形作っているのを見つけています。

さらに、ドップラー効果による電波の周波数の変化から、一酸化硫黄分子を含んだガスが動く速度を導き出すことに成功。
ガスの動きを分析してみると、今回観測された渦状腕の形をした一酸化硫黄ガスは、三重原始星に向かって流れ込むストリーマーだと分かりました。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)

観測結果とシミュレーションの比較

ガスの動きをさらに詳細に調べるため、研究チームは数値シミュレーションによってガス雲から多重星ができる様子を再現し、観測から得られたガスの速度とシミュレーションの結果を直接比較しています。

この数値シミュレーションに用いられたのが、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイ”および“アテルイII”でした。
“アテルイ”、“アテルイII”は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する、天文学における数値シミュレーション専用のスーパーコンピュータ。岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められている。
数値シミュレーションでは、ガス雲の中で三重原始星が形成され、その周りでかき乱されたガスが渦状腕の形をした衝撃波を作り、渦状腕がストリーマーになって3つの原始星にガスを供給していました。

観測から得られた渦状腕とストリーマーの速度は、数値シミュレーションととてもよく一致。
数値シミュレーションがストリーマーの起源を説明しているようでした。

三重原始星はどのように誕生したか

観測と数値シミュレーションの比較で、この三重原始星がどのように誕生したかにまで迫ることができます。

これまで、多重星の形成には、2つのシナリオが提案されていました。

1つ目は、星の材料になるガス雲が乱流によって分裂し、それによってできた複数のガスの塊がそれぞれ原始星になるという“乱流分裂シナリオ”。

2つ目は、原始星を取り巻くガス円盤が分裂し、新たな原始星がうまれ多重星になる“円盤分裂シナリオ”。

これらに対して今回観測した三重原始星は、その両方を合わせたハイブリッドシナリオで説明できることが分かりました。

ハイブリッドシナリオのシミュレーションでは、乱流分裂シナリオのような乱流状態のガス雲の中で、円盤分裂シナリオのように円盤が分裂して原始星の種が複数個形成。
周囲のガスの乱流のために渦状腕が広く長くたなびくことになるというものです。

観測結果はシミュレーション結果とよく似ていて、ハイブリッドシナリオによる多重星形成の天体を、初めて観測により発見したと言えます。

このように天体の起源とストリーマーの起源を統一的に解明したのは、この天体が初めてのこと。
アルマ望遠鏡による観測とシミュレーションが手を組むことで、多重星形成の新しい姿を見ることができました。
スーパーコンピュータ“アテルイ”による多重星形成のシミュレーション。乱流のあるガス雲の中から原始星が複数誕生し、周囲のガスをかき乱し渦状腕を作りながら成長する様子が計算によって描き出された。(Credit: 松本倫明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
さらに、今回の研究による知見から、多重星の系における惑星形成の難しさについても知ることができるかもしれません。

惑星は原始星の周りにできるガス円盤の中で生まれます。
でも、この三重原始星のように原始星が狭い場所に集まっている場合、原始星による重力の影響が複雑になってしまいます。
さらに、星の周りのガス円盤は小さく、連星が互いの円盤を剥ぎ取るなどがあり、長時間静かな環境で惑星を作ることができないんですねー

そう、今回観測された“IRAS 04239+2436”は惑星の形成には適さない場所だと言えます。

ハイブリッドシナリオによって形成中の多重星が実際に観測されたことは、多重星形成シナリオの論争の終息に多く寄与するはずです。

また、最近注目のストリーマーについても、その存在が観測されただけでなく、それらがどのように作られたのかについても説明できたことは大きな進歩になります。


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