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宇宙にジュエルリングを発見! ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が見つけたのは重力レンズ効果を受けて明るく輝くクエーサーだった

2024年07月09日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえました。
その正体は、地球から約60億光年彼方に位置するクレーター座にあるクエーサー“RX J1131-1231”。
前景銀河による重力レンズ効果で、“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されています。
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)。前景銀河による重力レンズ効果で、クエーサー“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されている。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Nierenberg)
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた宇宙で輝くジュエルリング(宝石の指環)。前景銀河による重力レンズ効果で、クエーサー“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されている。(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, A. Nierenberg)


天然の拡大鏡“重力レンズ効果”

重力レンズ効果は、アインシュタインの一般相対性理論によって予測された現象で、大質量の天体の周りで時空が歪むことで光の経路が曲げられて発生します。

恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする効果があります。

重力レンズ効果は、天文学者にとって天然の拡大鏡の役割を果たし、遠方の天体をより詳細に観測することを可能にしてくれます。


最も重力レンズ効果が顕著に表れているクエーサー

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。

クエーサー“RX J1131-1231”の場合、地球と“RX J1131-1231”の間に位置する前景銀河の重力が、背後に位置する“RX J1131-1231”からの光を曲げています。
この重力レンズ効果により、“RX J1131-1231”の像は明るく弧状に歪み、さらに4つの像が分離して観測されています。

“RX J1131-1231”は、これまで発見された中で最も重力レンズ効果が顕著に表れているクエーサーの一つと考えられています。
このため、天文学者にとって、クエーサーとその中心に位置する超大質量ブラックホールを研究するための貴重な機会を提供してくれています。


ブラックホールの進化と回転速度

クエーサーは、非常に遠方に位置するにもかかわらず、極めて明るく輝いている天体です。
その莫大なエネルギー源は、クエーサーの中心にある超大質量ブラックホールに落ち込む物質だと考えられています。

クエーサーから放射されるX線の測定は、中心ブラックホールの回転速度を推定する手掛かりとなります。
そして、ブラックホールの回転速度は、その成長過程と密接に関係しています。

例えば、ブラックホールが主に銀河同士の衝突や合体によって成長した場合、多量の物質が供給されることで安定した降着円盤(※1)が形成され、その結果としてブラックホールは高速で回転すると考えられています。
一方、ブラックホールが周囲の物質を少しずつ、ランダムな方向から取り込みながら成長した場合、回転速度は遅くなる傾向にあります。

観測から分かっているのは、“RX J1131-1231”のブラックホールが光速の半分以上の速度で回転していること。
これは、このブラックホールが合体を経て成長したことを示唆しています。
※1.降着は、中心にある重い天体の重力によって、周囲から物質が落下してくること。ブラックホールへ降着する物質は角運動を持つため、中心天体の周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造を作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。


ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡と重力レンズでダークマターの謎に迫る

NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の望遠鏡が“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”です。

初期の銀河からの光は非常に暗い上に、宇宙の膨張により遠方からの光ほど赤方偏移(※2)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、このようにはるか遠方に位置する暗い天体でも、重力レンズ効果を用いた観測に適しています。
※2.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”を用いて“RX J1131-1231”を観測することで、ダークマターの性質をこれまで以上に小さなスケールで調べることができます。

ダークマターは、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる謎の物質。
宇宙の質量の約85%を占めていると考えられています。

重力レンズ効果は、ダークマターの分布や性質を研究するための強力なツールとなり、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測は、ダークマターの謎を解明する上で重要な役割を果たすと期待されています。

“RX J1131-1231”の重力レンズ効果は、クエーサー、ブラックホールの成長、そしてダークマターの性質を研究するための貴重な機会を提供しています。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の高感度で高分解能な能力と相まって、重力レンズ効果は宇宙の最も遠い領域についてより深く理解することに役立つはずです。


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多くの銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの成長と進化の謎に迫るシミュレーション

2024年07月04日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
宇宙の広大無辺な広がりの中で、最も神秘的で抗いがたい魅力を放つ天体の一つに、多くの銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールがあります。
このブラックホールは、想像を絶するほどの強大な重力を持ち、銀河全体の進化に計り知れない影響を与えていると考えられています。

今回の研究では、最新のコンピュータシミュレーション技術を駆使することで、超大質量ブラックホールを取り巻く高温の円盤“降着円盤”がどのようにして形成され、進化していくのかを、これまでにない精度で解明すことに成功しています。

このシミュレーションは、天文学者たちが1970年代から持ち続けてきた降着円盤に関する概念を覆し、ブラックホールと銀河の成長と進化に関する新たな発見への道を切り開くものになります。
この研究は、カリフォルニア工科大学の天体物理学者チームが進めています。
本研究の成果は、“The Open Journal of Astrophysics”誌に掲載されました。
図1.降着円盤と呼ばれる物資の渦巻く円盤に囲まれた超大質量ブラックホール(クエーサー)のイメージ図。(Credit: Caltech/Phil Hopkins group)
図1.降着円盤と呼ばれる物資の渦巻く円盤に囲まれた超大質量ブラックホール(クエーサー)のイメージ図。(Credit: Caltech/Phil Hopkins group)


莫大なエネルギーで輝く天体“クエーサー”

超大質量ブラックホールは、その強大な重力によって周囲の物質を飲み込んでいます。
でも、これらの物質は角運動を持つため、超大質量ブラックホールの周囲を公転しながら降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤状の構造を作ります。

降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測されることになります。

このように、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体をクエーサーと呼びます。

クエーサーは、活動的な超大質量ブラックホールで、その明るさは私たちの天の川銀河のような銀河全体をはるかに凌駕します。
宇宙の初期に形成されたと考えられていて、その形成と進化は、銀河の形成と進化と密接に関係していると考えられています。


ブラックホールの成長を支えるエンジン

降着円盤は、超大質量ブラックホールの成長と進化を理解する上で、極めて重要なカギとなります。
でも、その形成過程や物理的性質には、まだ多くの謎が残されています。

例えば、降着円盤がどのようにして形成されるのか、その形状や大きさを決定する要因は何なのか、といった疑問です。
これらは、天文学者たちにとって長年の課題となっています。

これまでの理論的な研究では、降着円盤の形状はクレープのように平らだと考えられてきました。
でも、実際の天文観測では、降着円盤はエンジェルケーキのようにフワフワとした形状をしていることが明らかになっています。

この矛盾を解消するために、カリフォルニア工科大学の研究チームは、最新のコンピュータシミュレーションを用いて、降着円盤の形成過程を詳細に解析しています。


降着円盤は磁場によって支えられ形状を維持している

今回の研究では、“FIRE(Feedback in Realistic Environments)”と“STARFORGE”と呼ばれる、2つの大規模な宇宙シミュレーションプロジェクトで開発された技術を組み合わせることで、超大質量ブラックホール周辺の物理現象を、これまでにない精度で再現することに成功しています。

“FIRE”プロジェクトの目的は、銀河の形成や進化など、宇宙における大規模な構造形成をシミュレーションすること。
一方、“STARFORGE”プロジェクトは、個々の星形成領域など、より小さなスケールでの物理現象に焦点を当てています。

これら2つのプロジェクトで培われた技術を統合することで、初期宇宙から現在に至るまでの超大質量ブラックホールの成長と進化を、広範なスケールでの追跡を可能としています。
特に、今回のシミュレーションで注目しているのは、降着円盤の形成過程における磁場の役割でした。

これまでの理論的な研究で考えられていたのは、降着円盤の形状や安定性は、主にガスの圧力と重力によって決まること。
でも、今回のシミュレーションの結果、磁場が降着円盤の構造と進化に、予想以上の大きな影響を与えてることが明らかになりました。

シミュレーションにより判明したのは、降着円盤の磁場の圧力が、ガスの熱による圧力よりも1万倍も大きいことでした。
これは、降着円盤が、磁場によって支えられ、その形状を維持していることを示唆しています。

今回のシミュレーションは、降着円盤がなぜフワフワとした形状をしているのかを説明する、新たな手掛かりを提供してくれています。

シミュレーションの結果、降着円盤の磁場は、ガスを乱流状態にかき混ぜることで、円盤をフワフワとした状態に保っていることが明らかになりました。
これは、磁場が降着円盤の構造と安定性に、大きな影響を与えていることを示す明確な証拠となります。

この発見は、降着円盤に関するこれまでの理解を大きく覆すものです。
これまでの理論では、降着円盤は重力によって薄く平らな形状に押しつぶされると考えられていました。
でも、今回のシミュレーションは、磁場が重力に対抗する力として働き、降着円盤をフワフワとした状態に保っていることを示しています。


大規模構造と小規模構造の物理法則をシームレスに統合

今回の研究の画期的な点は、超大質量ブラックホールの降着円盤という極小のスケールから、銀河全体の進化という巨大なスケールまで、単一のシミュレーションで繋ぎ合わせた点にあります。
これは、これまでのシミュレーションでは不可能だった手法で、宇宙物理学の研究に新たな扉を開く画期的な成果と言えます。

この成果を達成するため、研究チームが使用したのは“GIZMO”と呼ばれる独自のシミュレーションコードでした。
このコードは、“FIRE”プロジェクトと“STARFORGE”プロジェクトの両方で使用できるように設計されたもので、大規模構造と小規模構造の物理法則をシームレスに統合することができました。

このシミュレーションは、初期宇宙に存在するガス雲から始まり、重力によって収縮していく様子を追跡しています。
ガス雲の中心部では、物質が高密度に集中し、やがて超大質量ブラックホールが誕生。
さらに、シミュレーションを進めていくと、ブラックホールの周囲に降着円盤が形成され、物質が円盤を介してブラックホールへと落下していく様子が再現されます。

今回のシミュレーションは、降着円盤の質量、密度、厚さ、物質のブラックホールへの落下速度、形状(非対称性など)に関する予測を変更する可能性があります。
これらのパラメータは、ブラックホールの成長速度や、周囲の銀河への影響を決定する上で非常に重要だからです。

例えば、降着円盤がこれまでの予測よりもフワフワとしている場合、ブラックホールへの物質の供給速度は遅くなり、ブラックホールの成長速度も遅くなる可能性があります。
また、降着円盤の形状が非対称だと、ブラックホールから噴出されるジェットの方向が変化し、周囲の銀河に異なる影響を与える可能性があります。

本研究の成果は、超大質量ブラックホールの成長と進化に関する理解を深める上で、極めて重要な一歩となるものです。
特に、降着円盤の形成過程における磁場の役割が明らかになったことで、ブラックホールの成長速度や、周囲の銀河への影響など、関連する多くの研究分野に大きな進展が期待されます。

研究チームでは、さらに高解像度のシミュレーションを行うことで、降着円盤の形成過程をより詳細に解析し、ブラックホールと銀河の進化における謎の解明に挑む予定です。
特に、銀河同士の衝突合体におけるブラックホールの活動や、初期宇宙に誕生した初代星の形成過程など、多くの謎の解明に貢献することが期待されます。


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129億光年彼方で合体を起こしているクエーサーを発見 宇宙の夜明けの時代に銀河や中心ブラックホールはどのように進化したのか?

2024年06月19日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
今回の研究では、すばる望遠鏡とジェミニ北望遠鏡を用いた観測により、合体中の2つの巨大ブラックホール(クエーサー)を発見しています。

このクエーサーのペアは、これまでに知られている中で最も遠方に位置するもの。
それだけでなく、“宇宙の夜明け”と呼ばれる時代でその存在が初めて確認された合体中の巨大ブラックホールになるようです。
この研究は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)の尾上匡房特任研究員とJohn Silverman教授が参加する愛媛大学、国立天文台などの研究者からなる研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年4月10日付のアメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal Letter”に、“Discovery of Merging Twin Quasars at z=6.05”として掲載されました。
図1.すばる望遠鏡によって129億光年彼方の宇宙で発見された双子の超大質量ブラックホール“HSC J121503.42-014858.7(C1)”と“HSC J121503.55-014859.3(C2)”。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin (NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))
図1.すばる望遠鏡によって129億光年彼方の宇宙で発見された双子の超大質量ブラックホール“HSC J121503.42-014858.7(C1)”と“HSC J121503.55-014859.3(C2)”。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin (NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))


宇宙の夜明けの時代

138憶年前のこと、生まれたばかりの宇宙は電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にありました。

でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。

その後、数億年が経過した頃に宇宙最初の星“初代星(ファーストスター)”や、最初の銀河“初代銀河”が誕生し、それらが放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離(宇宙の再電離)されて晴れていきます。
この誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光がともされる時代のことを“宇宙の夜明け”と言います。

この宇宙の夜明けの時代は、138億年の宇宙の歴史の中でまだ探査されていない最後のフロンティアで、天文学者の大きな関心を集めています。
特に初代銀河がいつ頃形成し、どのような性質を持っていたのかは分かっておらず、現代の天文学の大きな謎になっていました。


129億光年彼方で合体を起こしているクエーサーのペア

宇宙の夜明けの時代に、銀河とその中心に位置する超大質量ブラックホールはどのように進化したのでしょうか?
そして、それは再電離の進行に、どう影響したのでしょうか?

天文学におけるこの大きな謎を解き明かすため、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”による大規模サーベイ“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”によって、超遠方宇宙でのクエーサー探しが行われました。

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。

明るく輝いているので、これまでに約200個の超遠方クエーサーが発見されて来ました。
でも、“HCC-SSP”以外の発見を含めても、これまでにペアになっているクエーサーは見つかっていませんでした。

でも、研究チームが“HSC-SSP”の画像を目視で見直していると、思いもよらない発見に出くわすんですねー
それは、クエーサー候補の画像をスクリーニングしているときでした。
とても赤く、似通っている2つの天体が隣り合っているのに気付いたそうです。

この発見は、まったくの偶然によるもの。
極めて珍しいペアなので、“HSC-SSP”ほどの深さと広さを兼ね備えたデータだからこそ写っていたと言えます。

研究チームは、このペアが本当にクエーサーかどうかを確認するため、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置“FOCAS”とジェミニ北望遠鏡の赤外線分光器“GNIRS”を用いて追観測を実施。
その結果、“FOCAS”で検出したライマンアルファ輝線から、2つの天体が129億光年彼方に位置するクエーサーだと判明します。

また、2つの巨大ブラックホールが、ほとんど同じ質量を持つ“双子”ということも明らかになりました。
さらに、2つのクエーサーをつなぐガスの構造も検出されたことで、研究チームでは両者の合体が起こっていると推測しています。
図2.宇宙の夜明けに合体する双子の超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/M. Garlick)
図2.宇宙の夜明けに合体する双子の超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/M. Garlick)
予測されながらも長い間見つかってこなかった、“宇宙の夜明け”に存在する合体中のクエーサーが、今回初めて確認されました。
さらに、アルマ望遠鏡による追観測からは、周囲のガスが非常に興味深い構造をしていることも明らかになっています。

衝突と合体を繰り返しながら銀河は成長していきます。
今回の発見は、その中で超大質量ブラックホールが、どのように進化するのかを知るために重要なものと言えます。


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最も遠方の宇宙に合体しつつある超大質量ブラックホールを検出! 超大質量ブラックホールは最初期の頃から銀河の進化と関係していた

2024年05月24日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
国際的な天文学者チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、宇宙誕生7億4000万年後の宇宙で2つの銀河と、その中心に位置する超大質量ブラックホール(※1)が合体しつつあることを発見しました。

この発見は、これまでに検出されたブラックホール同士の合体として最も遠いもので、宇宙の初期に検出された初めての例になります。
※1.超大質量ブラックホールは、太陽の数十万~数十億倍以上もの質量を持つブラックホール。ほぼ全ての銀河の中心には、このような大きなブラックホールが存在すると考えられている。


ブラックホールの急成長

“ZS7”と呼ばれる合体しつつある銀河のペアに存在るブラックホールの質量は、どちらも太陽の5000万倍ほど。
ただ、一方のブラックホールは高密度のガスの中に埋もれているので、はっきりしたことは分かっていません。
図1.“ZS7”周辺の宇宙をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影したもの。画像の中心付近に“ZS7”が写っている。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
図1.“ZS7”周辺の宇宙をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影したもの。画像の中心付近に“ZS7”が写っている。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
今回の研究では、ブラックホールの近傍で高速運動する非常に高密度のガスや、ブラックホールが降着円盤を形成する際に発生する高エネルギー放射に照らされた高温の電離ガスの証拠を発見しています。
図2.右端が“ZS7”を拡大したもの。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)
図2.右端が“ZS7”を拡大したもの。(Credit: ESA/Webb, NASA, CSA, J. Dunlop, D. Magee, P. G. Pérez-González, H. Übler, R. Maiolino, et. al)

宇宙誕生から10億年ほどの間に、すでに大質量のブラックホールが存在していたことが分かっています。
このことが意味しているのは、ブラックホールは短期間のうちに急速に成長し大質量のブラックホールになったことです。

また、銀河とその中心に位置する超大質量ブラックホールは、互いに影響しあいながら成長してきたことも分かっています。

このことから、ブラックホールが急成長をする重要な経路として、銀河中心のブラックホール同士の合体があると考えられています。

また、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による他の発見と合わせると、今回の結果は、超大質量ブラックホールが最初期の頃から銀河の進化と関係してきたことを示しています。


超大質量ブラックホールに伴う重力波の検出

今回発見された2つのブラックホールが合体すれば、重力波(※2)が発生することが考えられます。
※2.一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪んでいる。このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。これを重力波という。
2015年以降、アメリカの“LIGO”や欧州重力波観測所の“Virgo”といった重力波望遠鏡の観測によって、ブラックホール同士の合体などに伴って放出されたとみられる重力波が、何度も検出されてきました。
ただ、検出された重力波は、比較的軽い恒星質量ブラックホール同士によるものでした。

超大質量ブラックホール同士の連星が合体する前に放出されるような低い周波数の重力波は、地球上の検出器ではとらえることができないんですねー

それは、地上の重力波望遠鏡がターゲットにしているのは、互いの周りを回るような激しい公転天体からの1秒間に数十回から数千回もの重力波だからです。
これらの重力波望遠鏡は、10Hz~10kHzの周波数帯で重力波を検出する設計になっています。

一方で、極めて接近した白色矮星同士の連星や、超大質量ブラックホール同士の連星が合体した場合に発生する重力波だと、発生する重力波の周波数は0.0001~1Hzという比較的ゆっくりとした低い周波数になります。

このようなゆっくりとした重力波は、地震波のような地面の振動の周波数に近くなります。
そう、地面の振動の周波数に埋もれてしまい、地上の重力波望遠鏡で観測することが非常に難しくなる訳です。

たとえば、ヨーロッパ宇宙機関は2035年の打ち上げを目指して、宇宙重力波望遠鏡“LISA(Laser Interferometer Space Antenna:レーザー干渉計宇宙アンテナ)”の開発を進めています。

“LISA”では3つの衛星が連携し、衛星間でレーザー光を往復させることで干渉計として機能させます。
約250キロの基線長を実現できるので、1mHz(ミリヘルツ)以下の周波数帯で重力波を検出できる感度を持たせるようです。

なので、“LISA”を用いることができれば、超大質量ブラックホール同士の合体に伴う重力波の検出が期待できますね。


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銀河とブラックホールはほぼ同時に誕生し、お互いの進化に影響を及ぼし合っている

2024年03月09日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。

その銀河は、その中心にある超大質量ブラックホールとともに進化をするとされています。
それでは、その銀河と中心ブラックホールは、どちらが先に生まれたのでしょうか?

これまでの定説は、銀河が形成された後にブラックホールが誕生したというものでした。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による宇宙初期の観測データとシミュレーション結果を組み合わせています。
その結果、銀河とブラックホールは、ほぼ同時に誕生し、ブラックホールが銀河の星形成を加速したことが分かりました。

これは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で示された初期の銀河が予想より多く存在する可能性を裏付ける成果といえます。
この研究は、ソルボンヌ大学のJoseph Silkさんたちの研究チームが進めています。
図1.宇宙初期における銀河の活動の模式図。中心部のブラックホールの活動が活発化すると、その放射によって周りのガスが押しのけられ、恒星の形成が促される。(Credit: Roberto Molar Candanosa (Johns Hopkins University))
図1.宇宙初期における銀河の活動の模式図。中心部のブラックホールの活動が活発化すると、その放射によって周りのガスが押しのけられ、恒星の形成が促される。(Credit: Roberto Molar Candanosa (Johns Hopkins University))


銀河はブラックホールに先駆けて誕生したは本当か

“鶏が先か、卵が先か”は、生物学に絡む哲学的ジレンマとしてよく知られています。
これと似たような問題として、天文学には“銀河が先か、ブラックホールが先か”というジレンマがあります。

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。
私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

では、銀河とブラックホールは、どちらが先に誕生したのでしょうか?

ブラックホールが先だとすると、その強大な重力によって周りの物質が引き寄せられて、やがて銀河が形成されたと考えることができます。
一方、銀河が先だとすると、銀河という物質の集団内で誕生した巨大な恒星の重力崩壊によって、ブラックホールが形成されたと考えることができます。
どちらの説も、もっともらしい理由があるので、順番に関する疑問が生じる訳です。

ただ、これまでは“銀河が先でブラックホールは後”という考えが定説になっていました。
それは、銀河の中心部にあるような超大質量ブラックホールは、宇宙初期でのみ形成されるような非常に巨大な恒星が起源になっていると考えられていたためです。

そのような恒星は、“あっという間に超新星爆発”を起こすことになり、中心核が重力崩壊しブラックホールが誕生します。
このブラックホールが、周りにある大量の物質を引き寄せることで、現在のような超大質量ブラックホールへと成長したと考えられています。

この考えに基ずくと、超大質量ブラックホールの“種”は、巨大な恒星の誕生と重力崩壊がないと撒かれないことになります。

その恒星はガスの塊から誕生すると考えられています。
ガスの塊同士がお互いの重力で寄り集まったものが、銀河の最初期の形態だと考えられることから、銀河はブラックホールに先駆けて誕生した、とこれまで考えられてきました。


銀河もブラックホールも同時に互いの進化に影響を及ぼし合っていた

そこに登場したのが、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”でした。
2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、この定説に疑問を投げかける発見がもたらされることになります。

高い性能を有するジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、これまで観測することが困難だった宇宙初期に関する多くの観測データを取得しています。
特に注目されるのは、宇宙初期にある非常に明るい銀河を大量に発見していることです。
その数は、これまでの予測をはるかに上回る多さでした。

現在の天文学が直面しているのは、これほど多くの明るい銀河が、なぜ宇宙の初期で見つかるのかという疑問です。

そこで、今回の研究では、この謎に挑戦するため、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された宇宙初期に存在する銀河に関する観測データと、宇宙初期における物質の挙動のシミュレーションを組み合わせて、宇宙初期で何が起きているのかを調べています。

その結果得られたのは、これまでの定説に反してブラックホールと銀河はほぼ同時に形成されただけでなく、お互いの進化に影響を及ぼし合っているという意外な結果でした。

つまり、“銀河が先か、ブラックホールが先か”という謎の答えは、“銀河もブラックホールも同時”ということになります。
図2.今回の研究で推定される宇宙初期の進化の予測。ブラックホールと恒星は同時に誕生し(redshift 15)、ブラックホールが成長するに従って恒星も大量に形成される(redshift 10)。でも、銀河に含まれるガスの量が減ると、今度はブラックホールの活動が恒星の形成を阻害する(redshift 5)。(Credit: Steven Burrows, Rosemary Wyse & Mitch Begelman)
図2.今回の研究で推定される宇宙初期の進化の予測。ブラックホールと恒星は同時に誕生し(redshift 15)、ブラックホールが成長するに従って恒星も大量に形成される(redshift 10)。でも、銀河に含まれるガスの量が減ると、今度はブラックホールの活動が恒星の形成を阻害する(redshift 5)。(Credit: Steven Burrows, Rosemary Wyse & Mitch Begelman)
研究結果による、宇宙初期における銀河とブラックホールの共進化は次の通りです。
まず、宇宙誕生から約3億年後という非常に初期段階の宇宙で巨大なガス雲が集合し、中心部が崩壊してしまいます。
そこにブラックホールが誕生し、その周辺では恒星が誕生します。
これが、銀河の最初期の形態だとも言えます。

次に、ブラックホールは周りのガスを取り込むことで、ジェットのような激しい放射を開始します。
この放射は周りのガス雲を押しのけて密度を高めるので、高密度の場所では活発に恒星が誕生するようになります。
この段階では、ブラックホールの活動が星形成を促す“正のフィードバック”として働くことになります。
この“正のフィードバック”時代は、宇宙誕生から3~12憶年後まで続いたと推定されます。

でも、時代が下るにつれてガスは恒星の形成に消費されるか、あるいはブラックホールの放射によって銀河から離脱してしまうことに…
そう、ガスは段々と枯渇していくんですねー
中心部では、相変わらずブラックホールの重力がガスを引き寄せることで活動が活発な状態が続くので、放射によるガスの離脱は、ますます進行して恒星の形成に必要なガスも枯渇してしまいます。
このような“負のフィードバック”時代は、宇宙誕生から12億年後から始まったと見られています。


予想外の発見をもたらすジェームズウェッブ宇宙望遠鏡

研究チームが示した今回のシナリオは、これまでの定説とは全く異なる一方で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果とはよく適合していました。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で発見されている宇宙初期の銀河は、宇宙誕生から9億年後の時代のものであり、今回のシナリオにおいては“正のフィードバック”時代が終了して“負のフィードバック”時代へと差し掛かる頃になります。

“正のフィードバック”時代は銀河が大量のガスをまとっているので、ブラックホールの放射は隠されてしまいます。
一方、“負のフィードバック”時代はガスが枯渇して放射が良く見えるようになります。

このことが理由で、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡より以前の望遠鏡では、“正のフィードバック”時代の銀河はほとんど見えないので、観測できる“負のフィードバック”時代の銀河の明るさなどから、これまでの定説が組み立てられてきた訳です。

このため、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって“正のフィードバック”時代の銀河が観測されれば、定説が覆されるのは、ある意味で当然とも言えます。

今のところ、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による宇宙初期の観測は始まったばかり。
なので、定説を覆す今回のシナリオが妥当かどうかどうかの検証は、まだ難しいと言えます。

研究チームでは、あと1年程度でさらに多くの観測データが集まるので、今回のシナリオの妥当性を含めた多くの疑問に対する答えが提供されると期待しているようです。


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