現役で噴火を起こしている活火山は、太陽系内では非常に珍しい存在です。
地球以外で活火山が見つかっているのは木星の衛星イオのみ。
兄弟星と呼ばれるほど地球と似ている金星では、直近の噴火に関する予備的な証拠が挙がっていたものの、決定的なものではありませんでした。
今回の研究では、NASAが30年前以上に運用していた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像を分析。
噴火で生じた溶岩流の証拠を探索しています。
その結果、1990年から1992年にかけて流出した溶岩流の可能性が高い地形の変化を、2つのエリアで発見しました。
本研究は、直前に発表された別の研究と合わせて、金星の火山が直近でも活発に活動していて、それも1990年代という人間のタイムスパンでも、つい最近に噴火した可能性が高いことを示しています。
この結果が正しければ、金星は現役の熱い活火山を持つ、太陽系で3例目の天体となります。
活火山が見つかっている天体
地下から地上へと高温のマグマを噴出する火山は、私たちにとって身近な存在といえますが、地球以外にも多数の天体で見つかっています。
たとえば、地球と同じ岩石が主体の天体“金星”や“火星”、“水星”、“月”でも、火山のような地形や溶岩流の痕跡が見つかっています。
でも、現役で噴火をしている活火山に限ると、そのような例は非常に珍しくなってしまいます。(※1)
特に、高温で融けた岩石を噴出する“熱い火山”に限ってみると、活火山は地球を除けば木星の衛星“イオ”にしか発見されていません。(※2)
金星における最も新しい噴火
地球との類似性から“兄弟星”とも呼ばれる金星も、これまで活火山が見つかっていない天体の一つでした。
金星では、火山と見られる山そのものは8万5000を超える数が見つかっています。(※3)
でも、いずれも数億年以上も前に活動を停止していると、つい最近まで考えられていました。
でも、最大の理由は、水が存在しないことではないかと考えられています。
高温の水には岩石の主成分であるケイ酸塩の強力な化学結合を切断して、融点を下げて溶けやすくする作用があります。
マグマは水が無くても生成されるものの、水がある場合と比べて高温が必要となるので、水が無いとマグマの生成や噴火活動はより難しくなります。
これに加えて、金星には分厚い地殻が存在していて、プレートテクトニクスは欠如していることから、表面の火山活動だけでなく内部活動もそこまで激しくないという観測結果が得られています。(※4)
この噴火は惑星科学的には、現役と言って差し支えないほど最近の出来事と言えます。
ただ、人間のタイムスケールで直近と言える噴火の証拠は、まだ見つかっていませんでした。
火星では、約5万3000年前に火山が噴火したらしいという観測的証拠があるので、それと比べればまだ古い時代と言えます。
一方、大気に含まれる微量成分の分析結果から、さらに新しい時代にも火山活動があったことを示唆する研究がありました。
また、2023年には、レーダー画像の比較によって、1981年中の数か月の間に火口の形が変化した火山があるという、研究結果が発表されています。
これらが正しい場合、金星では1991年に噴火が起きた可能性があることになりますが、決定的とは言えない状況でした。
30年前の探査機がとらえたレーダー画像を使用
今回の研究では、1990年代に金星の火山が噴火した可能性を示す新たな証拠を示しています。
本研究と2023年に発表された研究が用いているのは、どちらもNASAが打ち上げた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像でした。
金星の分厚い大気と雲は、様々な波長の光を吸収・反射するので、ほとんど地表を見ることができません。
でも、電波は大気を通過して地面で反射される(後方散乱される)ので、レーダーを使用すれば地表の様子を撮影することが可能です。
また、電波の反射強度からは、岩石の組成といった物質の構成をある程度知ることができます。
ただ、“マゼラン”の運用から30年以上経ってようやく研究が行われたことからも分かるように、この種の研究は難しさを伴います。
まず、単純にレーダー画像は他の電磁波と比べると画質が荒く、得られる情報が少ないことです。
このため、解像度の高い画像を用いた研究は行えません。
さらに、30年前の探査機に搭載されたレーダーは、現代のレーダーと比べると、どうしても性能が低くなってしまいます。
また、同じ地域を撮影したデータでも、電波が照射された角度は撮影したタイミングによって異なることがあります。
すると、反射される電波の性質も変化してしまうので、仮に全く同じ地形を撮影したとしても、見た目には異なるレーダー画像として映ってしまうことになります。
このため、比較研究を行うには、これらの違いを無くすための補正が必要です。
ただ、この補正を膨大な観測データに対して行うのは、時間がかかる作業となります。
レーダー画像の比較により溶岩流の痕跡を発見
それでも、研究チームは活火山があるかもしれない地域を探索していきます。
そして、1990年と1992年に撮影されたレーダー画像を比較することで見つけたのが、電波の強度が上昇している場所です。
1990年から1992年の間に電波の強度を高める物質といえば、噴火して固まった溶岩流に由来する、新鮮な岩石の存在が考えられました。
ついに有力な候補の発見に成功したわけです。
その場所は、高さが2200メートルある火山“シフ山(Sif Mons)”の西側斜面と、多数の火山が見られる“ニオベ平原(Niobe Planitia)”の西部地域でした。
ただ、風の影響で新たに堆積した砂丘や、電波に干渉する大気の影響なども電波の強度を高める要因として考えられるので、これだけでは火山の噴火の証拠とは言えませんでした。
そこで、研究チームが行ったのは、地形データを元に斜面の配置や角度をモデル化すること。
これにより、溶岩流であることと矛盾しないかどうかの調査を行っています。
その結果、新たに発生した地形は、斜面を下る溶岩流で形成された可能性が高く、他の理由である可能性は低いことが分かりました。
新たな溶岩流は、平均3~20メートルの厚さで地面を覆ったと考えられています。
また、噴出したマグマの合計量は、シフ山で0.09~0.6立方キロ(9000万~6億立方メートル)、ニオベ平原で0.135~0.9立方キロ(1億3500万~9億立方メートル)と見積もられています。(※5)
熱い活火山を持つ3つ目の天体
今回の研究では、2023年発表の研究と合わせて、金星には現役で活動している活火山が存在する可能性が極めて高いことを示しました。
どうやら、金星は地球とイオに次いで、3例目の熱い活火山を持つ天体となりそうです。
もし、噴火の瞬間をとらえることができれば、さらに多くのことが分かるはずです。
現在NASAでは、金星のより正確な地図の作成を主目的とする探査機“ベリタス(VERITAS; Venus Emissivity, Radio Science, InSAR, Topography and Spectroscope)”の打ち上げを目指しています。
“ベリタス”で得られる“マゼラン”よりもずっと高精細な地形データは、今回の研究で推定された活火山の痕跡が正しいかどうかを評価するだけでなく、“マゼラン”のデータからは発見できなかった新たな活火山の痕跡を検出することにもつながるかもしれません。
ただ、“ベリタス”は2024年の予算案で停止状態(ディープフリーズ)になっていて、打ち上げ遅延によるリスクが発生しているのが気になりますね。
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地球以外で活火山が見つかっているのは木星の衛星イオのみ。
兄弟星と呼ばれるほど地球と似ている金星では、直近の噴火に関する予備的な証拠が挙がっていたものの、決定的なものではありませんでした。
今回の研究では、NASAが30年前以上に運用していた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像を分析。
噴火で生じた溶岩流の証拠を探索しています。
その結果、1990年から1992年にかけて流出した溶岩流の可能性が高い地形の変化を、2つのエリアで発見しました。
本研究は、直前に発表された別の研究と合わせて、金星の火山が直近でも活発に活動していて、それも1990年代という人間のタイムスパンでも、つい最近に噴火した可能性が高いことを示しています。
この結果が正しければ、金星は現役の熱い活火山を持つ、太陽系で3例目の天体となります。
この研究は、ダンヌツィオ大学のDavide SulcaneseさんとGiuseppe Mitriさん、そしてローマ・ラ・サピエンツァ大学のMarco Mastrogiuseppeさんの研究チームが進めています。
図1.噴火している金星の火山のイメージ図。(Credit: ESA & AOES) |
活火山が見つかっている天体
地下から地上へと高温のマグマを噴出する火山は、私たちにとって身近な存在といえますが、地球以外にも多数の天体で見つかっています。
たとえば、地球と同じ岩石が主体の天体“金星”や“火星”、“水星”、“月”でも、火山のような地形や溶岩流の痕跡が見つかっています。
でも、現役で噴火をしている活火山に限ると、そのような例は非常に珍しくなってしまいます。(※1)
特に、高温で融けた岩石を噴出する“熱い火山”に限ってみると、活火山は地球を除けば木星の衛星“イオ”にしか発見されていません。(※2)
※1.地球の活火山は“過去1万年以内に噴火したことがある火山”と定義されている。地球以外の天体に対する定義はないが、概ね同程度のタイムスケールで考えられているケースが大半となる。
※2.水やそれ以外の温度の液体を噴出する“氷火山(Cryovolcano)”を含めると、噴火の瞬間が観測された天体には、水を噴出する木星の衛星エウロパと土星の衛星エンケラドス、液体窒素を噴出する海王星の衛星トリトンが追加される。ただ、エウロパとエンケラドスは地下海(内部海)からの噴出物なので、氷火山というよりは間欠泉(水柱)として表現されることが多い。また、火山のような地形があったり、薄い大気の維持に氷火山が関与していると考えられている氷天体は、他にもたくさん存在する。
他の天体で活火山が見つかっていないのは、天体の体積が小さすぎることや、潮汐力や水の不存在などの複合的な理由が合わさり、溶けた岩石が現在まで維持されなかったためだと考えられています。※2.水やそれ以外の温度の液体を噴出する“氷火山(Cryovolcano)”を含めると、噴火の瞬間が観測された天体には、水を噴出する木星の衛星エウロパと土星の衛星エンケラドス、液体窒素を噴出する海王星の衛星トリトンが追加される。ただ、エウロパとエンケラドスは地下海(内部海)からの噴出物なので、氷火山というよりは間欠泉(水柱)として表現されることが多い。また、火山のような地形があったり、薄い大気の維持に氷火山が関与していると考えられている氷天体は、他にもたくさん存在する。
金星における最も新しい噴火
地球との類似性から“兄弟星”とも呼ばれる金星も、これまで活火山が見つかっていない天体の一つでした。
金星では、火山と見られる山そのものは8万5000を超える数が見つかっています。(※3)
でも、いずれも数億年以上も前に活動を停止していると、つい最近まで考えられていました。
※3.比較として、地球には100万以上の火山があると見積もられている。でも、その大半が海底火山で、かつ活動を停止している。活火山は地上や比較的浅い海底に約1500、海嶺や深海底に約5000あると推定されている。
地球よりやや小さいだけの金星で、これほど火山活動が乏しい理由はよく分かっていません。でも、最大の理由は、水が存在しないことではないかと考えられています。
高温の水には岩石の主成分であるケイ酸塩の強力な化学結合を切断して、融点を下げて溶けやすくする作用があります。
マグマは水が無くても生成されるものの、水がある場合と比べて高温が必要となるので、水が無いとマグマの生成や噴火活動はより難しくなります。
これに加えて、金星には分厚い地殻が存在していて、プレートテクトニクスは欠如していることから、表面の火山活動だけでなく内部活動もそこまで激しくないという観測結果が得られています。(※4)
※4.衛星が存在しないことによる潮汐力の欠如も理由の1つとして挙げられる。ただ、潮汐力は非常に巨大な天体が複数あり、公転軌道の間隔が狭い場合に最大化されるので、金星に巨大な衛星が存在したとしても、それほど火山活動は激しくならなかったかもしれない。参考として、地球が月から受ける潮汐エネルギーは地熱エネルギーの約6%。地球の火山活動の主なエネルギー源として、放射性同位体の崩壊熱と地球形成時に変換された重力エネルギーが挙げられる。
これまでの研究では、金星における最も新しい噴火は、約250万年前が最後だと考えられていました。この噴火は惑星科学的には、現役と言って差し支えないほど最近の出来事と言えます。
ただ、人間のタイムスケールで直近と言える噴火の証拠は、まだ見つかっていませんでした。
火星では、約5万3000年前に火山が噴火したらしいという観測的証拠があるので、それと比べればまだ古い時代と言えます。
一方、大気に含まれる微量成分の分析結果から、さらに新しい時代にも火山活動があったことを示唆する研究がありました。
また、2023年には、レーダー画像の比較によって、1981年中の数か月の間に火口の形が変化した火山があるという、研究結果が発表されています。
これらが正しい場合、金星では1991年に噴火が起きた可能性があることになりますが、決定的とは言えない状況でした。
30年前の探査機がとらえたレーダー画像を使用
今回の研究では、1990年代に金星の火山が噴火した可能性を示す新たな証拠を示しています。
本研究と2023年に発表された研究が用いているのは、どちらもNASAが打ち上げた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像でした。
図2.スペースシャトル“アトランティス”によるSTS-30ミッションで放出される金星探査機“マゼラン”(Credit: NASA) |
でも、電波は大気を通過して地面で反射される(後方散乱される)ので、レーダーを使用すれば地表の様子を撮影することが可能です。
また、電波の反射強度からは、岩石の組成といった物質の構成をある程度知ることができます。
ただ、“マゼラン”の運用から30年以上経ってようやく研究が行われたことからも分かるように、この種の研究は難しさを伴います。
まず、単純にレーダー画像は他の電磁波と比べると画質が荒く、得られる情報が少ないことです。
このため、解像度の高い画像を用いた研究は行えません。
さらに、30年前の探査機に搭載されたレーダーは、現代のレーダーと比べると、どうしても性能が低くなってしまいます。
また、同じ地域を撮影したデータでも、電波が照射された角度は撮影したタイミングによって異なることがあります。
すると、反射される電波の性質も変化してしまうので、仮に全く同じ地形を撮影したとしても、見た目には異なるレーダー画像として映ってしまうことになります。
このため、比較研究を行うには、これらの違いを無くすための補正が必要です。
ただ、この補正を膨大な観測データに対して行うのは、時間がかかる作業となります。
レーダー画像の比較により溶岩流の痕跡を発見
それでも、研究チームは活火山があるかもしれない地域を探索していきます。
そして、1990年と1992年に撮影されたレーダー画像を比較することで見つけたのが、電波の強度が上昇している場所です。
1990年から1992年の間に電波の強度を高める物質といえば、噴火して固まった溶岩流に由来する、新鮮な岩石の存在が考えられました。
ついに有力な候補の発見に成功したわけです。
その場所は、高さが2200メートルある火山“シフ山(Sif Mons)”の西側斜面と、多数の火山が見られる“ニオベ平原(Niobe Planitia)”の西部地域でした。
図3.“マゼラン”のレーダー画像から再現されたシフ山の地形。地形を見やすくするため、高さ方向が水平方向よりも強調されている。(Credit: NASA & JPL-Caltech) |
そこで、研究チームが行ったのは、地形データを元に斜面の配置や角度をモデル化すること。
これにより、溶岩流であることと矛盾しないかどうかの調査を行っています。
その結果、新たに発生した地形は、斜面を下る溶岩流で形成された可能性が高く、他の理由である可能性は低いことが分かりました。
図4.シフ山の西側斜面のレーダー画像を比較したもの。画像dで赤く塗られた場所が、噴火によって放出された後に固まった溶岩流の可能性が高い。(Credit: Davide Sulcanese, Giuseppe Mitri & Marco Mastrogiuseppe.) |
また、噴出したマグマの合計量は、シフ山で0.09~0.6立方キロ(9000万~6億立方メートル)、ニオベ平原で0.135~0.9立方キロ(1億3500万~9億立方メートル)と見積もられています。(※5)
※5.比較として、西之島の2013年から2015年にかけての噴火では、総量0.16立方キロ(1億6000立方メートル)のマグマが噴出したと見積もられている。
熱い活火山を持つ3つ目の天体
今回の研究では、2023年発表の研究と合わせて、金星には現役で活動している活火山が存在する可能性が極めて高いことを示しました。
どうやら、金星は地球とイオに次いで、3例目の熱い活火山を持つ天体となりそうです。
もし、噴火の瞬間をとらえることができれば、さらに多くのことが分かるはずです。
現在NASAでは、金星のより正確な地図の作成を主目的とする探査機“ベリタス(VERITAS; Venus Emissivity, Radio Science, InSAR, Topography and Spectroscope)”の打ち上げを目指しています。
“ベリタス”で得られる“マゼラン”よりもずっと高精細な地形データは、今回の研究で推定された活火山の痕跡が正しいかどうかを評価するだけでなく、“マゼラン”のデータからは発見できなかった新たな活火山の痕跡を検出することにもつながるかもしれません。
ただ、“ベリタス”は2024年の予算案で停止状態(ディープフリーズ)になっていて、打ち上げ遅延によるリスクが発生しているのが気になりますね。
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