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金星は火山が活発に活動している3つ目の天体になる!? 30年前の探査機がとらえたレーダー画像の比較で溶岩流の痕跡を発見

2024年06月11日 | 金星の探査
現役で噴火を起こしている活火山は、太陽系内では非常に珍しい存在です。
地球以外で活火山が見つかっているのは木星の衛星イオのみ。
兄弟星と呼ばれるほど地球と似ている金星では、直近の噴火に関する予備的な証拠が挙がっていたものの、決定的なものではありませんでした。

今回の研究では、NASAが30年前以上に運用していた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像を分析。
噴火で生じた溶岩流の証拠を探索しています。
その結果、1990年から1992年にかけて流出した溶岩流の可能性が高い地形の変化を、2つのエリアで発見しました。

本研究は、直前に発表された別の研究と合わせて、金星の火山が直近でも活発に活動していて、それも1990年代という人間のタイムスパンでも、つい最近に噴火した可能性が高いことを示しています。
この結果が正しければ、金星は現役の熱い活火山を持つ、太陽系で3例目の天体となります。
この研究は、ダンヌツィオ大学のDavide SulcaneseさんとGiuseppe Mitriさん、そしてローマ・ラ・サピエンツァ大学のMarco Mastrogiuseppeさんの研究チームが進めています。
図1.噴火している金星の火山のイメージ図。(Credit: ESA & AOES)
図1.噴火している金星の火山のイメージ図。(Credit: ESA & AOES)


活火山が見つかっている天体

地下から地上へと高温のマグマを噴出する火山は、私たちにとって身近な存在といえますが、地球以外にも多数の天体で見つかっています。

たとえば、地球と同じ岩石が主体の天体“金星”や“火星”、“水星”、“月”でも、火山のような地形や溶岩流の痕跡が見つかっています。

でも、現役で噴火をしている活火山に限ると、そのような例は非常に珍しくなってしまいます。(※1)
特に、高温で融けた岩石を噴出する“熱い火山”に限ってみると、活火山は地球を除けば木星の衛星“イオ”にしか発見されていません。(※2)
※1.地球の活火山は“過去1万年以内に噴火したことがある火山”と定義されている。地球以外の天体に対する定義はないが、概ね同程度のタイムスケールで考えられているケースが大半となる。
※2.水やそれ以外の温度の液体を噴出する“氷火山(Cryovolcano)”を含めると、噴火の瞬間が観測された天体には、水を噴出する木星の衛星エウロパと土星の衛星エンケラドス、液体窒素を噴出する海王星の衛星トリトンが追加される。ただ、エウロパとエンケラドスは地下海(内部海)からの噴出物なので、氷火山というよりは間欠泉(水柱)として表現されることが多い。また、火山のような地形があったり、薄い大気の維持に氷火山が関与していると考えられている氷天体は、他にもたくさん存在する。
他の天体で活火山が見つかっていないのは、天体の体積が小さすぎることや、潮汐力や水の不存在などの複合的な理由が合わさり、溶けた岩石が現在まで維持されなかったためだと考えられています。


金星における最も新しい噴火

地球との類似性から“兄弟星”とも呼ばれる金星も、これまで活火山が見つかっていない天体の一つでした。

金星では、火山と見られる山そのものは8万5000を超える数が見つかっています。(※3)
でも、いずれも数億年以上も前に活動を停止していると、つい最近まで考えられていました。
※3.比較として、地球には100万以上の火山があると見積もられている。でも、その大半が海底火山で、かつ活動を停止している。活火山は地上や比較的浅い海底に約1500、海嶺や深海底に約5000あると推定されている。
地球よりやや小さいだけの金星で、これほど火山活動が乏しい理由はよく分かっていません。
でも、最大の理由は、水が存在しないことではないかと考えられています。

高温の水には岩石の主成分であるケイ酸塩の強力な化学結合を切断して、融点を下げて溶けやすくする作用があります。
マグマは水が無くても生成されるものの、水がある場合と比べて高温が必要となるので、水が無いとマグマの生成や噴火活動はより難しくなります。

これに加えて、金星には分厚い地殻が存在していて、プレートテクトニクスは欠如していることから、表面の火山活動だけでなく内部活動もそこまで激しくないという観測結果が得られています。(※4)
※4.衛星が存在しないことによる潮汐力の欠如も理由の1つとして挙げられる。ただ、潮汐力は非常に巨大な天体が複数あり、公転軌道の間隔が狭い場合に最大化されるので、金星に巨大な衛星が存在したとしても、それほど火山活動は激しくならなかったかもしれない。参考として、地球が月から受ける潮汐エネルギーは地熱エネルギーの約6%。地球の火山活動の主なエネルギー源として、放射性同位体の崩壊熱と地球形成時に変換された重力エネルギーが挙げられる。
これまでの研究では、金星における最も新しい噴火は、約250万年前が最後だと考えられていました。

この噴火は惑星科学的には、現役と言って差し支えないほど最近の出来事と言えます。
ただ、人間のタイムスケールで直近と言える噴火の証拠は、まだ見つかっていませんでした。
火星では、約5万3000年前に火山が噴火したらしいという観測的証拠があるので、それと比べればまだ古い時代と言えます。

一方、大気に含まれる微量成分の分析結果から、さらに新しい時代にも火山活動があったことを示唆する研究がありました。
また、2023年には、レーダー画像の比較によって、1981年中の数か月の間に火口の形が変化した火山があるという、研究結果が発表されています。

これらが正しい場合、金星では1991年に噴火が起きた可能性があることになりますが、決定的とは言えない状況でした。


30年前の探査機がとらえたレーダー画像を使用

今回の研究では、1990年代に金星の火山が噴火した可能性を示す新たな証拠を示しています。
本研究と2023年に発表された研究が用いているのは、どちらもNASAが打ち上げた金星探査機“マゼラン”のレーダー画像でした。
図2.スペースシャトル“アトランティス”によるSTS-30ミッションで放出される金星探査機“マゼラン”(Credit: NASA)
図2.スペースシャトル“アトランティス”によるSTS-30ミッションで放出される金星探査機“マゼラン”(Credit: NASA)
金星の分厚い大気と雲は、様々な波長の光を吸収・反射するので、ほとんど地表を見ることができません。

でも、電波は大気を通過して地面で反射される(後方散乱される)ので、レーダーを使用すれば地表の様子を撮影することが可能です。
また、電波の反射強度からは、岩石の組成といった物質の構成をある程度知ることができます。

ただ、“マゼラン”の運用から30年以上経ってようやく研究が行われたことからも分かるように、この種の研究は難しさを伴います。

まず、単純にレーダー画像は他の電磁波と比べると画質が荒く、得られる情報が少ないことです。
このため、解像度の高い画像を用いた研究は行えません。
さらに、30年前の探査機に搭載されたレーダーは、現代のレーダーと比べると、どうしても性能が低くなってしまいます。

また、同じ地域を撮影したデータでも、電波が照射された角度は撮影したタイミングによって異なることがあります。
すると、反射される電波の性質も変化してしまうので、仮に全く同じ地形を撮影したとしても、見た目には異なるレーダー画像として映ってしまうことになります。

このため、比較研究を行うには、これらの違いを無くすための補正が必要です。
ただ、この補正を膨大な観測データに対して行うのは、時間がかかる作業となります。


レーダー画像の比較により溶岩流の痕跡を発見

それでも、研究チームは活火山があるかもしれない地域を探索していきます。

そして、1990年と1992年に撮影されたレーダー画像を比較することで見つけたのが、電波の強度が上昇している場所です。
1990年から1992年の間に電波の強度を高める物質といえば、噴火して固まった溶岩流に由来する、新鮮な岩石の存在が考えられました。
ついに有力な候補の発見に成功したわけです。

その場所は、高さが2200メートルある火山“シフ山(Sif Mons)”の西側斜面と、多数の火山が見られる“ニオベ平原(Niobe Planitia)”の西部地域でした。
図3.“マゼラン”のレーダー画像から再現されたシフ山の地形。地形を見やすくするため、高さ方向が水平方向よりも強調されている。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
図3.“マゼラン”のレーダー画像から再現されたシフ山の地形。地形を見やすくするため、高さ方向が水平方向よりも強調されている。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
ただ、風の影響で新たに堆積した砂丘や、電波に干渉する大気の影響なども電波の強度を高める要因として考えられるので、これだけでは火山の噴火の証拠とは言えませんでした。

そこで、研究チームが行ったのは、地形データを元に斜面の配置や角度をモデル化すること。
これにより、溶岩流であることと矛盾しないかどうかの調査を行っています。
その結果、新たに発生した地形は、斜面を下る溶岩流で形成された可能性が高く、他の理由である可能性は低いことが分かりました。
図4.シフ山の西側斜面のレーダー画像を比較したもの。画像dで赤く塗られた場所が、噴火によって放出された後に固まった溶岩流の可能性が高い。(Credit: Davide Sulcanese, Giuseppe Mitri & Marco Mastrogiuseppe.)
図4.シフ山の西側斜面のレーダー画像を比較したもの。画像dで赤く塗られた場所が、噴火によって放出された後に固まった溶岩流の可能性が高い。(Credit: Davide Sulcanese, Giuseppe Mitri & Marco Mastrogiuseppe.)
新たな溶岩流は、平均3~20メートルの厚さで地面を覆ったと考えられています。
また、噴出したマグマの合計量は、シフ山で0.09~0.6立方キロ(9000万~6億立方メートル)、ニオベ平原で0.135~0.9立方キロ(1億3500万~9億立方メートル)と見積もられています。(※5)
※5.比較として、西之島の2013年から2015年にかけての噴火では、総量0.16立方キロ(1億6000立方メートル)のマグマが噴出したと見積もられている。


熱い活火山を持つ3つ目の天体

今回の研究では、2023年発表の研究と合わせて、金星には現役で活動している活火山が存在する可能性が極めて高いことを示しました。

どうやら、金星は地球とイオに次いで、3例目の熱い活火山を持つ天体となりそうです。
もし、噴火の瞬間をとらえることができれば、さらに多くのことが分かるはずです。

現在NASAでは、金星のより正確な地図の作成を主目的とする探査機“ベリタス(VERITAS; Venus Emissivity, Radio Science, InSAR, Topography and Spectroscope)”の打ち上げを目指しています。

“ベリタス”で得られる“マゼラン”よりもずっと高精細な地形データは、今回の研究で推定された活火山の痕跡が正しいかどうかを評価するだけでなく、“マゼラン”のデータからは発見できなかった新たな活火山の痕跡を検出することにもつながるかもしれません。

ただ、“ベリタス”は2024年の予算案で停止状態(ディープフリーズ)になっていて、打ち上げ遅延によるリスクが発生しているのが気になりますね。


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金星の雲に含まれる紫外線吸収物質は2種類の硫酸鉄と特定

2024年02月06日 | 金星の探査
金星を紫外線で見てみると、特定の波長で暗く見える斑点構造が見つかります。

この現象が意味しているのは、雲の中に含まれている物質が紫外線を吸収していること。
ただ、物質の正体はこれまではっきりと分かっていませんでした。

今回の研究では、金星の雲の環境を再現するため、様々な物質が含まれた硫酸溶液を合成し、紫外線の吸収波長を調べています。

その結果、2種類の硫酸鉄化合物だと、観測値を最もよく説明できることが明らかになりました。
金星の環境は興味深い研究対象なので、この研究結果は金星の大気化学に関する大きな成果の1つになるはずです。
この研究は、ケンブリッジ大学のClancy Zhijjan Jiangさんたちの研究チームが進めています。
図1.金星探査機“あかつき”の紫外線観測データに基づいて作成された金星の疑似カラー画像。(Data Source: PLANET-C Project Team, DARTS , ISAS & JAXA; Image Credit: Meli thev)
図1.金星探査機“あかつき”の紫外線観測データに基づいて作成された金星の疑似カラー画像。(Data Source: PLANET-C Project Team, DARTS , ISAS & JAXA; Image Credit: Meli thev)


紫外線による金星の観測

地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星。
でも、その大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があり、表面の気圧は地球の90倍に達していることに加え、硫酸が含まれているため極度の酸性を示しています。

金星の大気環境は、他のどの天体にも類例が存在しなので、大気化学の分野で特に注目されています。

ただ、余りにも環境が独特過ぎるんですねー
このため、比較対象が見つからず、金星の環境を分析する研究を困難なものにしていて、分析ができていない観測データは無数に存在します。

その1つが紫外線による観測データです。

金星を紫外線で観測すると、一部が暗く映る斑点状の構造が生じているのが分かります。
この構造は、金星上空の高度48~65キロに浮かぶ雲に由来すると考えられています。

高度48~65キロは、“熱が支配的な下層部”と“光が支配的な上層部”の中間部に当たる領域。
金星の大気の中でも特に注目されている領域の1つです。

その雲が紫外線で映るということは、雲の中に紫外線を吸収する物体が存在することになります。

では、紫外線を吸収する物体は、どのような化学組成を持っているのでしょうか?
その候補は無数に存在するので、これまで解明されていませんでした。


金星の雲に含まれている成分

今回の研究では、金星の雲に含まれている成分を特定するため、様々な硫酸溶液と太陽光を再現した光源を用いて実験を行っています。

既に分かっていたのは、金星の雲には鉄と硫黄が多く含まれていること。
さらに、鉄と硫黄が化合した硫酸鉄は紫外線をよく吸収することでした。

このことから分かるのは、金星の雲の中には硫酸鉄が含まれている可能性があること。
ただ、硫酸鉄には化学組成の細かな違いが生じるので、候補が無数にある状況には変わりがありませんでした。

このため、研究チームでは、実験を行うことで成分の正確な正体を探ることになります。
様々な組成の硫酸鉄を合成し、様々な濃度の硫酸に溶かしてできた硫酸鉄の硫酸溶液を、金星が受けるであろう太陽光を再現した光源に照らすことで、どの波長の紫外線を吸収するのかを観測しています。
図2.観測データと実験結果それぞれにおける、波長ごとの紫外線の吸収度合。観測結果(灰色や緑色の網掛け)に最も一致する実験結果(黄色帯)は、74wt%濃度の硫酸にロンボクレースが1wt%、84wt%濃度の硫酸に酸性硫酸第二鉄が1.25wt%含まれている場合であることが分かった。(Credit: Clancy Zhijian Jiang, et al.)
図2.観測データと実験結果それぞれにおける、波長ごとの紫外線の吸収度合。観測結果(灰色や緑色の網掛け)に最も一致する実験結果(黄色帯)は、74wt%濃度の硫酸にロンボクレースが1wt%、84wt%濃度の硫酸に酸性硫酸第二鉄が1.25wt%含まれている場合であることが分かった。(Credit: Clancy Zhijian Jiang, et al.)
その結果、金星の紫外線吸収を最もよく説明できたのは、“ロンボクレース(Rhomboclase/(H502)Fe(S04)2・3H20)”と“酸性硫酸第二鉄(acid ferric sulfate/(H30)Fe(S04)2)”という2種類の硫酸鉄。
いずれも硫酸に対する重量比が約1%(約1wt%)の濃度で含まれていると考えられています。

この研究は、金星に関する謎を1つ明らかにしたものの多くの謎が残っています。

例えば、これらの硫酸鉄は塩化鉄のような揮発しやすい別の鉄化合物からの反応によって生じたと考えられますが、その反応機構は正確には分かっていません。

また、金星の大気上空へ重い鉄を供給するメカニズムも不明です。
硫酸鉄は二酸化硫黄を吸収するものの、金星で観測されている二酸化硫黄の局所的な現象を説明するには不足しています。

このように挙げられた謎は、金星の大気に関する謎のほんの一部です。
それでも、金星の紫外線吸収に関する謎の解明は、金星の大気化学に関する大きな成果の1つになるはずです。


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空飛ぶ天文台“SOFIA”が金星の昼側で単独の状態で存在する酸素原子の観測に成功! なぜ、これまでの観測では見つからなかったのか?

2024年01月16日 | 金星の探査
金星の大気中には“原子状酸素”という、単独の原子の状態となった酸素が存在すると考えられています。
でも、これまでの観測では、太陽光のあたる昼側で原子状酸素は見つかっていませんでした。

今回の研究では成層圏赤外線天文台“SOFIA”によって金星を観測。
金星の昼側では、初めて原子状酸素を観測することに成功しています。

その観測結果は、原子状酸素の発生に関する事前の予測と一致するものでした。
この研究は、ドイツ航空宇宙センター(DLR)のHeinz-Wilhelm Hobersさんたちの研究チームが進めています。
図1.金星探査機“あかつき”によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像。(Credit: Kevin M. Gill)
図1.金星探査機“あかつき”によって赤外線および紫外線で撮影された金星の合成画像。(Credit: Kevin M. Gill)


昼側では見つからない原子状酸素の謎

金星は、約97%が二酸化炭素で構成された非常に分厚い大気を持っています。

二酸化炭素は化学的に非常に安定した分子なので、一見すると金星大気内で発生する化学反応は乏しく見えます。

でも、金星大気の上層では状況が異なるんですねー

強力な紫外線を含む強い太陽光に晒されると二酸化炭素は分解され、酸素原子が単独の状態で存在する“原子状酸素”の状態になります。

原子状酸素は極めて不安定で、他の分子と出会うと分解や化合などの化学反応を起こしてしまいます。
なので、金星大気中での化学反応の主因になっていると考えられています。

このため、原子状酸素は太陽光のあたる昼側で多く生成され、その後の大気循環で夜側に運ばれると考えられています。

でも、これまでの観測では原子状酸素が見つかっているのは夜側だけで、昼側では見つかっていませんでした。

原子状酸素を見つけるには、原子状酸素から放射される固有の波長の光をとらえる必要があります。

ただ、金星の雲は太陽光を強く反射してしまい、原子状酸素から放たれる微弱な光を隠してることが問題となっていました。


空飛ぶ天文台で金星の原子状酸素を観測

今回の研究では、ドイツ航空宇宙センターとNASAが共同で運用していた“SOFIA”を用いた金星の観測が実施されています。

“SOFIA”は、ボーイング747型機に口径2.5メートルの赤外線望遠鏡を搭載し、高度約14キロの成層圏を飛びながら観測する「空飛ぶ天文台」として知られています。
図3.NASAとドイツ航空宇宙センターが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA/Carla Thomas)
図3.NASAとドイツ航空宇宙センターが2022年9月まで運用していた成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA/Carla Thomas)
物質は、その組成や構造によって、特定の波長の光を吸収したり放射したりする性質があります。
なので、その光を観測することで天体の組成を調べることができます。

特に赤外線の波長域を使えば、水をはじめ、可視光の波長域では見られない様々な物質を調べることができます。

でも地上だと、地球の大気に含まれる水蒸気や二酸化炭素の吸収や放射の影響を受けてしまいます。
なので、地上の天文台からは赤外線領域を精度良く観測することが原理的に難しいんですねー

一方、衛星や探査機などに搭載して宇宙に望遠鏡を持って行くには、大きさや質量などに大きな制約があり、性能が限られてしまいます。

そこで、大気の薄い成層圏から、衛星に搭載が難しい大きな望遠鏡で観測できる“SOFIA”の登場になったわけです。

今回の観測では2021年11月に3回の飛行で観測を行い、分光計“upGREAT”を用いて金星からの光を詳細に分析。
金星の17か所(昼側が7か所、夜側が9か所、昼夜の境目が1か所)からの分光データを取得しています。
図2.“SOFIA”によって観測された金星の輝度温度(a)、原始状酸素の温度(b)、原始状酸素の濃度(c)。昼側(円の右側)は夜側(円の左側)と比べて濃度が高い。(Credit: DRL, Heinz-Wilhelm Hübers, nature)
図2.“SOFIA”によって観測された金星の輝度温度(a)、原始状酸素の温度(b)、原始状酸素の濃度(c)。昼側(円の右側)は夜側(円の左側)と比べて濃度が高い。(Credit: DRL, Heinz-Wilhelm Hübers, nature)
その結果、観測で得た全ての分光データから、原子状酸素の存在を示す情報を得ることが出来ました。

実は、原子状酸素は地球の大気にも含まれています。
ただ、金星の原子状酸素から放射される光は、ドップラー効果により波長がズレていたので区別が可能でした。
さらに、“upGREAT”の性能が優れていたことで、原子状酸素の光が地球と金星のどちらから来たのかを区別することが出来ました。

金星の昼側で原子状酸素を観測したのは、今回が初めてのこと。
この観測によって、昼側と夜側で原子状酸素の濃度を比較することも可能になりました。
夜側より昼側の方が、原子状酸素の濃度が高いという結果となり、これは太陽光で原子状酸素が生成されているという事前の予測にもよく合致するものでした。

興味深い観測結果として、原子状酸素の温度を測定したデータがあります。

今回観測された原子状酸素の温度は、昼側で-93度、夜側では-158℃あり、どちらも高度100キロに相当します。

金星全体を巡る大きな大気循環としては、高度70キロのスーパーローテーション(※1)と、高度120キロの昼側から夜側への大気の流れがあります。
※1.金星の自転周期は地球時間で243日、公転周期は225日。ただ、金星は自転と公転の向きが逆なので、金星の一日の長さは地球の117日に相当する。このゆっくり自転する金星自身を軽々と追い越してしまうほどの速度で回転しているのが、金星の分厚い大気。この現象は“スーパーローテーション”と呼ばれ、一番速度が大きい雲層の上端付近(高度約50~70キロ)では、自転速度の60倍にも達している。
高度100キロは、ちょうど中間に位置しているので、原子状酸素の発生現場と大気循環に何か関連があるのかもしれません。

金星の直径や質量は地球と類似していて、“双子星”と表現されることもありますが、大気の性質は大きく異なります。

大気のどのような違いが地球と金星の運命を分けたのでしょうか?
それを知るためにも、今回の原子状酸素の発見のような観測が必要になるんですね。


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金星誕生から10億年間の活発なプレートテクトニクスが分厚い大気を作った? プレートテクトニクスは大気が濃くなり過ぎて停止した

2024年01月07日 | 金星の探査
地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星。
でも、その大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があり、プレートテクトニクスは存在しないことになっています。

同じ岩石惑星なのに、どうしてこのような違いが生じたのでしょうか?
この謎は今も議論が続いているんですねー

今回の研究では、金星の大気に関するコンピューターモデルを使用して、この謎を解明しようとしています。

その結果分かってきたのは、金星のプレートテクトニクスは少なくとも10億年の間は活発でなければ、現在の分厚い大気を生み出すことができないということでした。

このことは、「金星の分厚い大気はプレートテクトニクスがほぼ存在しなかったから存在する」っという、これまでの見方とは真逆なもの。
地球と金星の運命を分けた原因に迫る興味深い結果になります。
この研究は、ブラウン大学に所属していたMatthew B. Wellerさんたちの研究チームが進めています。
図1.金星大気の下にある地表のレーダー画像。これまで、金星の歴史を通じてプレートテクトニクスはずっと停止していると考えられていた。(Credit: NASA & JPL)
図1.金星大気の下にある地表のレーダー画像。これまで、金星の歴史を通じてプレートテクトニクスはずっと停止していると考えられていた。(Credit: NASA & JPL)


金星ではプレートテクトニクスを示す痕跡は見つかっていない

金星は地球の約95%の直径と約82%の質量を持ち、大きさに関してはどの天体よりも地球と似ている天体です。
このため、金星はしばしば地球の双子星と呼ばれます。

その類似性から、1960年代に探査機が接近観測を行うまで、金星は地球の石炭紀のような、高温湿潤の環境を持っているという考えが一般的でした。

でも、実際の金星の表面環境が、地球とはあまりにもかけ離れていることが分かってきます。

金星には、地表の気圧が地球の92倍にも達する分厚い大気があり、主成分の二酸化炭素による温室効果で気温は460℃にも… これは鉛を融かすほどの温度でした。

地球とは似ても似つかない大気を持つ理由は、金星の大きな謎の一つになります。
それと同時に、なぜ地球は金星のような大気を持っていないのか? っという地球大気の謎にも関連していました。

金星が現在のような大気を持つ理由の一つとして長年考えられてきたのが、金星にはプレートテクトニクスが無いことです。
このことも金星が地球と大きく異なる点として挙げられます。

地球の表面は柔軟で、内部で対流するマントルによって引っ張られたり、押し締められたりしています。

そして地球の進化に伴い、この押し合いへし合いによって最も外側を構成する岩石の薄皮“地殻”に亀裂が入り、何枚もの移動するプレートに分裂することになります。

プレートは内部の対流を原動力にゆっくりと動いていて、新たに生成される場所や天体内部へと沈み込む場所もあります。
この全体の運動がプレートテクトニクスになります。

でも、プレートテクトニクスは重要なものなのでしょうか?

実は、プレートは地球の温度調整に重要な役割を果たしているんですねー

プレートが互いに衝突すると火山の噴火を引き起こし、大気に不可欠な温室効果ガスが吐き出されます。
また、地球の温度が上がりすぎると、プレートの変動によって、余分なガスが地球内部に取り込まれていきます。

この活動的なプレートテクトニクスの存在が知られている惑星は、
今のところ地球だけ… この点こそが、地球を特別な存在にしています。

プレートテクトニクスは地表と内部で物質の循環が行われるので、地球では内部から地表へと金属、水、気体などが供給される原動力として、プレートテクトニクスが重視されています。

一方で金星の地殻は、1枚の分厚いプレートで構成されているように見え、少なくとも現在のところはプレートテクトニクスを示す痕跡は見つかっていません。

このことから、これまでは金星の表面は1枚の蓋で閉ざされていて、金星の内部から地表への物質の供給は最小限であったと推定されていました。

これは、誕生直後の金星では表面全体が溶けたマグマオーシャンの状態から、プレートが複数に分裂せずにそのまま固まったことを示唆しています。


誕生から10億年間の活発なプレートテクトニクスが金星の分厚い大気を作った

今回の研究では、現在の金星大気がどのように形成されたのかを知るため、地殻の活動の条件を様々に変えることで調査しています。
元々、太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星の大気について調査するコンピュータモデルを適用しています。

研究チームでは、太陽系外惑星の現在の大気から、惑星が誕生した初期の状況を知ることができるかどうかを調べていて、その終点として金星の調査を行ったわけです。

まず、金星のプレートテクトニクスが歴史を通じて完全に停止しているという過程で計算を実施。
すると、現在の二酸化炭素と窒素を主体とする非常に濃い大気が生成されず、結果が矛盾することが明らかになります。

そこで研究チームでは、金星のプレートテクトニクスが誕生からある時点で停止したとする仮定のもと、様々な停止タイミングを調査していきます。

その結果、明らかになったのは、金星の誕生から少なくとも10億年間の活発なプレートテクトニクスと、その後の停止期間があると、現在の金星の大気が生じることでした。
プレートテクトニクスがある場合、火山ガスによって二酸化炭素や窒素が供給されるためでした。


濃くなり過ぎた大気がプレートテクトニクスを停止させた

今回の研究結果は、金星にプレートテクトニクスが存在したという意味で、これまでの金星に対するイメージを大幅に変えるものでした。
さらに、どのようにして地球と金星の運命が分かれたのかを知る上でも興味深い疑問となります。

もし、過去の金星に活発なプレートテクトニクスがあった場合、なぜ金星ではプレートテクトニクスが停止し、地球では停止しなかったのかを説明する必要があるためです。

研究チームでは、大気が濃くなり過ぎたことが、プレートテクトニクスを停止させた原因ではないかと考えています。

分厚い大気は温室効果を発生させ、プレートテクトニクスに必要な水などの成分を蒸発させてしまうので、これは十分に考えられます。
このことは、少なくとも初期の金星は生命に適していた環境を持っていた可能性にもつながります。

この場合、生命に適している環境を持つ惑星が、その後の生命に適さない環境へと変化するかもしれないことを示唆します。

惑星環境の進化の条件を詳しく突き止めることは、地球環境の変化を探ることや、地球と似た太陽系外惑星を見つける上でも影響するようですね。


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なぜNASAが選定したミッションは二つとも金星なのか?

2021年09月05日 | 金星の探査
今年の6月、NASAは“ディスカバリー計画”のミッション選定を発表しました。

そこで発表されたのは、2030年までに打ち上げ予定の金星に向かう二つのミッション…
なぜ、いまNASAは金星に向かおうとしているのでしょうか?

金星に向けた2つのミッション

NASAは“ディスカバリー計画”のミッション選定を今年の6月に発表しました。

予想外なことに2つのミッションはどちらも金星のもの。
2つの探査機は地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星に向かうことになります。

専門家の多くが「NASAはそろそろ金星に戻るべき時だ」と感じていたこともあるのですが、それでも同時に二つの金星ミッションが選ばれたことは驚くべきことでした。
金星に到着する“VERITAS”(左)と“DAVINCI”(右)のイメージ図
金星に到着する“VERITAS”(左)と“DAVINCI”(右)のイメージ図(Credit: Lockheed Martin)
金星の大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があります。
この環境で2つのミッションでは、どのような活動をするのでしょうか。

1つ目は、金星の雲頂から地表までの大気の垂直構造に焦点を当てるミッション“DAVINCI”です。

“DAVINCI”では探査機が金星に到着すると、地表へ降下しながら大気の温度、気圧、および組成を測定するプロープを展開。
着陸前にはプロープが高分解能で金星の地表を撮像していきます。

ただ、金星地表の気温は約460度、気圧は90気圧にも達すると言われているので、着陸後の探査機は長く活動することは無いようです。

2つ目のミッション“VERITAS”では、金星の地表と内部構造に焦点が当てられます。

“VERITAS”で明らかにするのは、火山活動や地球のテクトニクスのような地質学的現象が金星で起きている手がかりがあるかどうか。
オービター(周回機)を用いて金星を覆う厚い雲を透かし地表を観測することで、金星の立体地形図を作成していきます。

これら2つのミッションから得られるデータは、2015年12月から金星の雲頂面における気象現象を観測し続けているJAXAの金星探査機“あかつき”による観測と合わせることで、金星の全体像を明らかにしてくれるはずです。
“あかつき”のイメージ図。
“あかつき”のイメージ図。(Credit: 池下章裕、ISAS/JAXA)

ディスカバリー計画

低コストで効率の良いミッションを目指し1992年に創設されたのが“ディスカバリー計画”です。

すでに、NASAでは12のミッションを実施しているんですねー

NASA惑星科学部門では、宇宙探査ミッションをその予算と規模により4つのクラスに分けています。

“ディスカバリー計画”が属しているのは、キューブサットよりも少し大きい程度の探査機を扱う最小カテゴリの“SIMPLExプログラム”と、大規模な“ニュー・フロンティア計画”や“フラッグシップ”というカテゴリの間。
科学者自身が想像力を深く掘り下げ、太陽系の謎を解き明かすための新しい方法を見つけ出す機会を生み出すミッションが“ディスカバリー計画”になります。

目標は、より小さいリソースと短い開発スパンで実現可能な小規模ミッション、そして優れた成果を得ることです。

大規模な2つのカテゴリでは、10年おきに行われる調査結果(ディケーダル・サーヴェイと呼ばれているもの)や、NASAの戦略的目標を参照したコミュニティ全体による推奨に基づいて調査目標が定められています。

それに対して、“ディスカバリー計画”でミッションの行き先を決定するのは、純粋にそれぞれのミッション提案チームの好奇心だけ。

当初、“ディスカバリー計画”に2つの金星ミッションが選ばれたことは驚かれました。
でも、「2つの探査機が一緒になった方がバラバラに実施する場合より多くの科学的成果を得られる機会になる」っとすぐに認識されるようになったそうです。

これとよく似ているのが、NASAの“オシリス・レックス(OSIRIS-REx)”とJAXAの“はやぶさ2”の小惑星からのサンプルリターンミッション。
それぞれが採取したサンプルを交換する協定を結んで成果を最大化させようとしています。

つまり、惑星がどのように進化してきたかといった複雑な疑問を解明するためにも、いくつかのデータセットを得ることは不可欠なことになるということです。

並行してミッションを進めることで違った側面に関する情報を得ることもできます。
これにより、新たな発見があれば見間違いでないことを確認することもできそうです。

なぜNASAは金星に戻ることにしたのか

“DAVINCI”と“VERITAS”は、NASAが30年ぶりに金星に向かうミッションになります。

NASAの金星ミッションは1990年代の探査機“マゼラン”が最後…
それでも、金星地表のデータとしていまでも価値の高いものを提供しています。

これまでにも、お隣の惑星である金星に再び探査機を送り込むミッションコンセプトはいくつかありました。
でも、どれも採択には至らなかったんですねー

では、なぜNASAはこのタイミングで金星に“戻る”ことにしたのでしょうか?

人々が納得する宇宙探査とは、“ストーリー”が伴っているものです。

それは、太陽系にある他の世界を訪れることで、私たちが知りたいと本気で思っていることにどれだけ近づくことができるかだと思います。

NASAが継続的に火星探査を行うのは、現生であれ過去のものの痕跡であれ、“赤い惑星に居住する生命”がテーマだからです。
こういった話題は専門家だけでなく、私たちを魅了します。

金星への興味は、科学コミュニティでの研究から明らかになってきたように、その生い立ちにあります。

地球の双子星と呼ばれる金星のストーリーとは地球のものであり、いかに生命居住可能性が維持されるのかといったハビタリティに関するものになります。
そう、私たちが地球表層環境の進化や気候変動の影響を含めた将来のことを解明しようとするときに役立つのが金星の研究なんですねー

金星が地球の双子星と呼ばれるのは、サイズ、質量、太陽からの距離という点で似ているからです。
でも、この2つの惑星の状況は大きく異なっています。

金星を研究し、金星と地球がそれらの進化においていつどのように道を違えたのかを解明していくことは、私たちの星の理解を深めることにも役立つはずです。

さらに、金星での発見は地球の理解に役立つだけではありません。

太陽系の外に目を向けると、太陽以外の恒星を公転する系外惑星の発見が爆発的に増えてきています。

地球や金星に近いサイズの惑星も発見されていて、これらが生命居住可能性を維持できるかどうかという疑問は重要な研究対象になりつつあります。

すぐそこにある太陽系の惑星について知れば知るほど、遠く離れた系外惑星の世界のことをきちんと考えることができるようになるわけです。

確かに金星では、大気中にホスフィン(リン化水素。リンと水素による無機化合物、PH3)検出の可能性が示されたことにより、これが金星の雲の中の生命に由来する可能性についての議論を呼び、地球とは異なる形の生命居住可能性とは何か、という問題意識に至っています。

科学的な議論や関心の大きな的になったこの不確かな発見が教えてくれたこと。
それが、「謎を解き明かすべく再び金星に戻りたい」っと科学者たちが考えていたことでした。
NASAの“DAVINCIプローブ”が金星表面から数キロの高度で自由落下する様子(イメージ図)。“DAVINCI”は金星で初めて大気圏の最も深い下層での撮像と大気成分の計測を行う。
NASAの“DAVINCIプローブ”が金星表面から数キロの高度で自由落下する様子(イメージ図)。“DAVINCI”は金星で初めて大気圏の最も深い下層での撮像と大気成分の計測を行う。(Credit: NASA GSFC visualization by CI Labs Michael Lentz and others)

2つのミッションから見えてくるもの

それでは、“DAVINCI”と“VERITAS”からの最大の発見は何になるのでしょうか?

推測は難しいのですが、“DAVINCI”の降下プローブによる観測からは、金星大気中の希ガスやその他の組成の正確な測定値が得られると期待されています。

そうすれば、金星がなぜ地球と違い“暴走温室効果”に見舞われたのかを解明できるはずです。

希ガスの“非反応性”から、それが惑星が形成されてからそのままの状態で保存されてきた分子化石ということができます。

したがって、地球上に存在する希ガスと金星に存在する希ガスの量を比較することで、惑星形成当初は2つの惑星が同様の状態にあったのか、もしくは金星の運命は最初から決まっていたのかを解明できるかもしれません。

また、“DAVINCI”では地球の大陸と同等のものだと考えられている金星のテッセラと呼ばれる領域の画像を、初めて高分解能で撮像することになっています。

“VERITAS”で得られる高分解能の地形図、合成開口レーダーの画像、赤外線観測を連携すれば、金星の表層部分の堅い岩盤“リソスフェア”の性質や進化を多角的に迫ることができ、さらに金星が現在も地質学的に活動的であるか、そしてテクトニクスが作用しているのかを解明できるかもしれません。
レーダーを使用し高度および地理的特徴をとらえた高分解能マップを作成するNASAの金星周回機“VERITAS”のイメージ図。
レーダーを使用し高度および地理的特徴をとらえた高分解能マップを作成するNASAの金星周回機“VERITAS”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
地球とよく似た大きさですが、現在の金星は地質学的な動きは鈍いようです。
火山活動やリソスフェアが現在も動いているという証拠はほとんどありません。

地球では、こういった活動が生命を維持するのに適した環境を保つため不可欠なんですねー

では、金星は地質学的な活動を一度も発達させてこなかったのでしょうか?
それとも、一度は地球と似ていたのに、そうではなくなったのでしょうか?
まだ活動が残っていて、そこから金星での地質活動史を読み解くことができるのでしょうか?

テッセラは金星の地表の中でも最も古い領域と考えられていて、“DAVINCI”のプローブが降下しながら高分解能で撮像する画像には、ここがかつては海に囲まれた大陸であった証拠が見つかる可能性があります。

一方、金星の周りを周回する“VERITAS”では、レーダー観測により得られた情報をもとに金星全球の3次元地形図を作成します。

さらに“VERITAS”は、岩石から放射される近赤外線を測定して、地殻の動きや火山のホットスポットを探すことができます。

こういったデータセットを組み合わせることで、金星の過去と現在の状態が見えてくるはずです。

これから長期的に注目される惑星

金星にまつわる魅力的なストーリーが虜にしたのは、NASA“ディスカバリー計画”の審査員だけではありませんでした。

NASAが“DAVINCI”と“VERITAS”の選定を発表した1週間後のこと。
ヨーロッパ宇宙機関“ESA”も“EnVision”というミッションで金星に「戻る」ことを明らかにしています。

ミッションの採択や投資は科学に基づくということはもちろん重要ですが、そこに関わる人たちにも深く関わることです。
そう、多くのエンジニアや科学者が、技術を開発し、探査機を作り、ミッションを運用することになるんですねー

運用が終了した後も、データの解析やその意味するところを解明するのに何年も、もしくは何十年も費やすことになります。

そこで期待されるのは、これらのミッションが次世代、さらにその先へと金星のコミュニティが作られるための核になること。
さらに、世界中で金星のストーリーに興味・関心が広がれば、多くのアイデアがいっぱいに詰まった真のグローバルな協力の機会が生み出されそうです。

NASAにもヨーロッパ宇宙機関にも金星ミッションがあること。
さらに、他機関のミッションにNASAやヨーロッパ宇宙機関が提供する機器が搭載されること。
そして、JAXAには現在運用中の探査機“あかつき”があります。

これらのミッションはこれから何十年もの間、金星探査を推進することのできる国際的で多様性のある、持続的なコミュニティを作るチャンスを与えてくれることになります。

金星は、これから長期的に注目されることになり、そこから新しい知見がもたらせるはずです。
どんな発見があるのでしょうか? ワクワクしますね。
ヨーロッパ宇宙機関の金星ミッション“EnVision”のイメージ図。“EnVision”が解明しようとしているのは地球と金星が異なる進化をした理由。
ヨーロッパ宇宙機関の金星ミッション“EnVision”のイメージ図。“EnVision”が解明しようとしているのは地球と金星が異なる進化をした理由。(Credit: ESA)


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