宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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ブラックホールの超高速ガス流が急速な温度変化をしている

2017年03月31日 | ブラックホール
ブラックホールの周囲から噴出する、
渦巻く超高速ガス流の温度が急速に変化している様子が、
初めてとらえられました。
  ブラックホールの近くに移動するコンパクトなX線源“コロナ”
    

多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ、
超大質量ブラックホールが存在していると考えられていて、
ブラックホールは強力な重力で貪欲にガスやチリなどを飲み込んでいます。

こうしたブラックホールの周囲を取り巻く円盤からは、
超高速ガス流の「風」が吹き出していて銀河中に吹き荒れているんですねー

今回、ケンブリッジ大学の研究チームが、
NASAのX線天文衛星“NuSTAR”で超大質量ブラックホールを観測し、
この風の温度が数時間で急激に上下していることを明らかにしています。
超大質量ブラックホール(イメージ図)。
内側領域(ピンク)からはX線が放射され、周囲を取り巻く円盤からは超高速風(薄紫の線)が噴き出している。

風の中に存在する様々な物質によってX線が吸収される様子を調べると、
鉄やマグネシウムといった風の構成要素を知ることができます。
  破壊だけではない? ブラックホールのジェットに鉄やニッケルが…
    

その観測中、吸収の特徴が数時間で消えたり、
再び現れたりしていることも分かりました。

これは、X線によって風が加熱され高温になったため吸収が起こらなくなったり、
風の温度が下がって再び吸収が起こるようになるという変化によるものと考えられます。

今回、風がブラックホールと反応を起こしている様子が始めて観測されました。

この風が、どのようにして形成され、強力になるのか、
どこにあるのか、密度や継続時間はどのくらいか、といったことを調べていけば、
ブラックホールと母銀河との相互作用に関する理解が進むのかもしれませんね。


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地球には誕生直後から磁場があって大気や海を守っていた?

2017年03月29日 | 地球の観測
約45億年前の地球誕生直後から地球には磁場あった可能性が高い。
という研究成果が発表されたんですねー

この磁場のおかげで生命存在に必要な大気や海、
さらに生命そのものも守られてきたそうです。
  衛星データから作られた“地球のバリア”
    


外核の対流が磁場を形成

地球は誕生の最初の過程でマグマの海ができ、
その後に重い液体の鉄が、マグマ主成分のケイ素や酸素を取り込みながら、
中心部に集まって核(コア)を形成し、
外側には岩石成分のマントルができたとされています。

核には固体の内核と液体の外核があり、
外核が対流することで磁場ができることが分かっていました。

でも、内核と外核が分かれたのは約7億年前とされ、
45億年前にさかのぼる地球誕生の直後から磁場があったかどうかなど、
詳しいことは分かっていませんでした。

地球内部の二酸化ケイ素結晶化と対流運動。


対流と磁場は誕生直から形成

そこで今回の研究では、
地球の内部の環境と同じ高温高圧条件を作るための特殊な装置
“超高圧発生用ダイアモンドアンビル装置”を活用。

ケイ素と酸素を含む液体の鉄の変化などを、
地球内部の核に相当する気圧や温度条件の下で調査・解析しています。

その結果、地球の核の上部で二酸化ケイ素が結晶化して液体の鉄から分離。

残された液体の鉄が地球中心部に沈んで対流(組成対流)ができ、
その結果、磁場が形成されたという一連のメカニズムが分かってきました。

そして、この対流と磁場は、
地球誕生の直後から形成されていた可能性が高いことも明らかになります。


地球以外の惑星でも起こりえる

このことから想像できるのが、
地球の誕生直後から存在した磁場が太陽風を遮断して、
大気の散逸や海の水分の蒸発を防いだ可能性があること。
  過去には酸素がたくさんあった!? 火星の大気はどう変化してきたのか
    

さらに、地球表層への強い紫外線照射も防いで、
生命の陸上への進出を可能にしたことです。

最後に気になるのが、惑星誕生の直後から磁場を形成できた状況が、
地球だけの特別なものではないということです。

ほかの惑星でも起こりえる状況なら、
地球外生命が発生する可能性も高くなりますね。


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タトゥイーンは実在した? 2つの太陽を持つ岩石惑星の証拠を発見

2017年03月27日 | 宇宙 space
映画スターウォーズシリーズで、
主人公ルーク・スカイウォーカーの故郷として描かれた架空の惑星“タトゥイーン”。

2つの恒星を公転している“タトゥイーン”ですが、
そっくりな惑星系が存在するという証拠が発見されたそうです。
太陽を2つ持つとみられる惑星は、これまでにもいくつか発見されている。“ケプラー16b”もそうした惑星の1つ(イメージ図)。


恒星を公転する破片

“タトゥイーン”に似ている惑星が存在するとみられるのは、
地球から約1000光年の距離にある連星系。

この連星系は“SDSS 1557”と呼ばれ、
白色矮星と褐色矮星という恒星を2個持っています。

惑星が存在すると考えられ始めたのは、この2恒星の周囲を公転する破片からでした。

破片は岩石質とみられ、タトゥイーンに似た地球型惑星が、
連星系の中に存在するかもしれないことを示唆しているようでした。

ただ、これまでに連星系を公転することが分かっていた惑星は、
すべて木星に似た巨大ガス惑星なんですねー


岩石惑星に見られる物質を発見

残念ながら今回の研究では、
“SDSS 1557”系内にある惑星を直接検出できませんでした。

でも岩石惑星に多く見られる、
ケイ素やマグネシウムなどの金属含有量が高い惑星物質を、
発見することができました。

ただ一方で、恒星2個の周りでは、
岩石惑星は形成されにくいことも確かです。
  2つの太陽をもつ惑星は、どこからやって来たのか?
    

それは、岩石のかけらやチリがくっつき合って大きく成長する、
通常の惑星形成過程とは違い、
連星系では、それぞれの星の重力が押し引きする力が加わるので、
惑星への成長が阻害されるからです。
  アルマ望遠鏡で分かってきた連星系での惑星形成
    

当初“SDSS 1557”には、
恒星が白色矮星1つしか存在しないと考えられていました。

でも、詳細な観測の結果、
岩石やチリが密集する領域内に隠れていた褐色矮星が発見されたそうです。

今回の発見は完全に予想外だったようですよ。


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銀河が衝突すると、星がブラックホールに吸い込まれる確立が100倍になる!?

2017年03月25日 | ブラックホール
超大質量ブラックホールが星たちを引き裂き飲み込んでしまう。

めったに起こらない現象だと考えられていたのですが、
これまで考えられていたより100倍も高い頻度で起こることがあるようです。

どうやら、2つの銀河が衝突すると、
星がブラックホールに吸い込まれて消滅する確率が上昇するそうです。
  けっこう起きている銀河の合体!? ウルトラ赤外線銀河からわかった銀河の多重合体
    


銀河同士の衝突

これまでの研究では、星がブラックホールに吸い込まれる現象は、
銀河1個につき1万年~10万年ごとに1回しか発生しない、
非常にまれな現象と推測されていました。

このいわゆる“潮汐破壊現象”をめぐっては、
銀河数万個の掃天観測でしか目撃されてきませんでした。
  潮汐破壊とは、星がブラックホールに近づき過ぎて、
  巨大な重力でバラバラになる現象。

  ブラックホール連星から分かる、銀河の合体と進化
    

でも、最新の研究論文によると、銀河同士の衝突をわずか15件観測しただけで
ブラックホールによって破壊されている星が発見できたそうです。

このサンプルサイズは、天文学の基準からすると極めて小さいものなんですねー

2つの銀河が衝突すると、
星がブラックホールに吸い込まれて消滅する確立が100倍に上昇するようです。
銀河“F01004-2237”での潮汐破壊現象(イメージ図)。


輝度が突発的に上昇した銀河

今回の研究では、
それぞれ数十億個の星を含む銀河同士の衝突を15件分析しています。

そして2015年のこと、
今回の観測対象の1つで、地球から約17億光年の距離にある銀河“F01004-2237”で、
驚くべき変化が起きていることを、10年前の観測データとの比較から発見。

そこで研究チームでは、
アメリカの観測プロジェクト“カタリナ・スカイサーベイ”で収集された
時系列の観測データを詳細に調べ、2010年までの変化を追跡します。
  “カタリナ・スカイサーベイ”は、
  アリゾナ大学の月惑星研究所が組織的に行っている夜空全体の観測。
  地球近傍天体の捜索を主目的にしている。


そして、この年に“F01004-2237”の輝度が突発的に上昇。
その様子は、まさしく引き裂かれている星が上げる断末魔の叫びそのもののようでした。

ひとたび危険領域に入ってしまえば、
星はブラックホールの重力に飲み込まれる運命から逃れることはできません。

星が破壊されるにつれて、
引き裂かれた星のかけらは、ブラックホールへの落下速度がますます高速になり、
熱せられて閃光を放ち始めることに…

このような現象を引き起こすのに、
銀河衝突が重要な役割を果たしていることを今回の研究が示しているんですねー

そして、この研究成果は、スペイン・カナリア諸島のラ・パルマ島で運用されている、
ウィリアム・ハーシェル望遠鏡を用いた観測がもとになっているそうです。


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ダークマター候補物質の検出へ! アメリカが次世代ダークマター検出装置を建設

2017年03月22日 | ダークマターとダークエネルギー
宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めているのに、
目に見えない未確認の重力源ダークマター(暗黒物質)。

このダークマターの候補物質の中に未発見の粒子WIMPがあります。
  ダークマターの候補“WIMP”の兆候を検出

WIMPは電磁気的な相互作用がほとんど起きないので、
電磁波による観測ができないんですねー

このWIMPを検出するため、
アメリカが次世代の実験装置を建設するというお話です。


地下深くの実験施設

このプロジェクトを選定したのは、
アメリカエネルギー省とアメリカ国立科学財団で、
世界38以上の研究機関も参加するそうです。

実験設備が建設されるのは、サウスダコタ州のスタンフォード地下研究施設。

この施設の地下深く(地下約1.6キロ)に、
WIMPを検出するLUX-ZEPLIN実験のための施設が建設されるんですねー
完成用は2020年になっています。


大型地下キセノン実験

LUX-ZEPLIN実験の前身には大型地下キセノン実験がありました。

この実験では350グラムの液体キセノンを詰めた容器を地下坑道に設置し
ダークマター粒子が液体キセノンに衝突したときに起こると予想される、
微弱な発光を観測しようとしました。

でも、検出は出来きず…

今回のLUX-ZEPLIN実験では、大型地下キセノン実験の跡地を利用。

10トン級の超高純度液体キセノンを用いることで、
検出感度を大型地下キセノン実験より50倍以上高め、検出に挑むそうです。


微弱な発光の検出

入射したダークマター粒子が、大型容器内に満たされた液体キセノンと衝突すると、
キセノン原子が発光し電子を放出します。
大型の液体キセノン容器に入射したダークマター粒子が、キセノン原子と衝突するときの発光を電子増倍管で検出する。

この発光を容器の上下にある検出器(光電子増倍管)で検出しようというわけです。

衝突時にキセノンから放出された電子は、
電界によって容器上部に移動し二次発光するので、
これも検出するそうです。

ダークマター粒子がキセノンに衝突するときの発光は、
極めて微弱なものと考えられています。

なので、その信号をとらえるには、
バックグラウンドノイズのレベルを下げておく必要があります。
LUX-ZEPLIN実験でのダークマター粒子検出装置のイメージ。バックルラウンドノイズを減らして微弱な信号をとらえるため、地中深くに建設される。

実験施設を地中深くに建設するのはこのためなんですねー

なお、同様の次世代ダークマター検出実験は、
イタリアや中国でも計画されています。


超対称性粒子

検出対象となるWINPとしてはニュートラリーノなどが想定されています。
  “Super-WIMP”がダークマター候補から外れる
    

ニュートラリーノは、
素粒子物理学上の仮説である超対称性理論によって存在が予測されている
超対称性粒子の一種。

冷たいダークマター(熱的なランダムな動きの小さいダークマター粒子)の
最有力候補とされています

超対称性理論が正しければ、
素粒子には未発見のパートナー粒子が存在することになり、
素粒子の数は現在の標準模型の2倍になるそうです。

ヨーロッパの大型ハドロン衝突型加速器や、
国際宇宙ステーション上に設置されたアルファ分光器など、
さまざまな方法での実験が続けられています。

でも、これまでのところニュートラリーノを含む、
超対称性粒子が実験的に確認された事例はありません。

今回は、地下深くの検出感度を高めた検出装置で、
この粒子の発見に挑むことになります。

され、この粒子と液体キセノンの衝突時に起こる微弱な発光を
観測することができるのでしょうか。


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