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天の川銀河は今後さらにゆっくりとした回転になっていく!? 棒渦巻銀河にブレーキがかかる仕組みを解明

2020年06月30日 | 銀河・銀河団
渦巻銀河では星の材料になる分子ガスの大半が銀河中心を周回しています。
でも、棒渦巻銀河の中心部にある棒状構造の部分では、円運動の割合が下がることが分かってきたんですねー
この棒構造が時間と共に成長すると、それに伴って銀河の回転にブレーキがかかるようです。


中心部に棒状の構造を持つ渦巻銀河

渦巻銀河の中には、中心部に棒状の構造を持つ“棒渦巻銀河”と呼ばれるタイプの天体があります。
棒渦巻銀河は渦巻銀河と全く同じ特徴を持つが、銀河中心のバルジを貫くような配置の棒状構造をディスク(中心核と腕を含む銀河円盤)内に持ち、渦巻腕がこの棒構造の両端から伸びている点が通常の渦巻き銀河と異なる。

全天で観測される渦巻銀河のうち約半数が棒渦巻銀河だと考えられていて、私たちの天の川銀河も棒渦巻銀河に分類されています。

棒渦巻銀河の棒の部分は物質が移動する道のような役割を果たすなど、銀河そのものの進化に影響すると考えられています。
棒渦巻銀河の例、エリダヌス座の“NGC 1300”(Credit: Kamui γ)
棒渦巻銀河の例、エリダヌス座の“NGC 1300”(Credit: Kamui γ)


銀河の中で分子ガスはどのように移動しているのか

国立天文台野辺山宇宙電波観測所では2014年から2017年にかけて、45メートル電波望遠鏡による観測データを次世代の研究の土台として残す“レガシープロジェクト”を実施していました。

この“レガシープロジェクト”の一つ“近傍銀河の複数輝線による分子ガス撮像観測プロジェクト”が今回の研究になります。

研究では、天の川銀河の近傍にある20個の渦巻き銀河(うち7個が棒渦巻銀河)を45メートル電波望遠鏡で観測。
一酸化炭素分子のガスが発する電波を調べています。

私たちに近づく方向へ動くガスが発する電波の波長は短くなり、遠ざかるガスからの波長は長くなります。
なので、波長の変化を調べれば、銀河の中で分子ガスがどのように移動しているのかが分かるんですねー

そこで、研究チームでは、銀河中心の周りを回る円運動をしているガスと、内向き・外向きに流れているガスの割合を調査。
すると、棒渦巻銀河の中心寄り、すなわち棒の部分では円運動の割合が下がることが判明します。

この調査結果は、棒状構造の中でガスが内向きに流れているという、これまでの予測と一致するものでした。
(左)観測例。上段は波長1.2μmの電波で観測した星の分布を疑似カラーで表した画像に、一酸化炭素が発する電波の強度を表す等高線を重ねたもの。下段は一酸化炭素ガスの速度を表し、私たちに近づいている成分を青、遠ざかっている成分を赤で表現している。(Credit: 2MASS J-band, Jarrett et al. 2003、COMINGプロジェクト)<br>
(右)野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡。(Credit: Dragan Salak)
(左)観測例。上段は波長1.2μmの電波で観測した星の分布を疑似カラーで表した画像に、一酸化炭素が発する電波の強度を表す等高線を重ねたもの。下段は一酸化炭素ガスの速度を表し、私たちに近づいている成分を青、遠ざかっている成分を赤で表現している。(Credit: 2MASS J-band, Jarrett et al. 2003、COMINGプロジェクト)
(右)野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡。(Credit: Dragan Salak)
また、観測結果からは棒状構造が銀河全体と共に回転する速度も求めることができました。
そこから棒が発達した棒渦巻銀河ほどゆっくり回転していることが判明します。

このことから分かったのが、時間とともに棒状構造が成長し、それに伴って銀河の回転にブレーキがかかるということ。
これも棒渦巻銀河の進化に関する理論と一致する結果でした。

天の川銀河が普通の渦巻銀河でなく棒渦巻銀河だと考えられるようになったのは1980年代のこと。

2005年に赤外線天文衛星“スピッツァー”で行われた観測でも棒渦巻銀河であることが裏付けられ、この棒構造がこれまで考えられていたよりも大きいことが明らかになっています。

私たちの天の川銀河も棒状構造が時間とともに成長すると、今後さらにゆっくりとした回転になるのでしょうね。
渦巻銀河の棒状構造のパターン速度と半径の関係を表すグラフ。棒状構造が大きいほど回転が遅くなることが分かる。
渦巻銀河の棒状構造のパターン速度と半径の関係を表すグラフ。棒状構造が大きいほど回転が遅くなることが分かる。


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予測よりも速いスピードだった! 衛星タイタンは年間11センチも土星から遠ざかっている

2020年06月27日 | 土星の探査
探査機“カッシーニ”の観測データから、衛星タイタンはこれまでの予測の100倍も速く土星から遠ざかっていることが分かりました。
月が地球から遠ざかるスピードは1年間に3.8センチ。
でも、タイタンは年間11センチの割合で土星から遠ざかっているようです。


月が地球から遠ざかっている理由

月は1年間に3.8センチずつ地球から遠ざかっています。

月の重力の影響で、地球の表面はわずかに伸び縮みし、これによって地球の自転にブレーキがかかることになります。
一方、その分のエネルギーが月の公転半径を大きくすることに使われているんですねー
これが、月が地球から遠ざかる仕組みです。

同じことは、地球以外の惑星とその衛星にも起こっています。

土星最大の衛星であるタイタンも例外ではなく、年々土星から遠ざかっています。
ただ、これまで天文学者たちは、その割合を少なく見積もっていたようです。
“カッシーニ”が2012年に撮影したタイタンと土星。真横から見た環がタイタンの後ろを横切っていて、土星にその影が映っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
“カッシーニ”が2012年に撮影したタイタンと土星。真横から見た環がタイタンの後ろを横切っていて、土星にその影が映っている。(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)


タイタンは予想よりも土星に近い位置で誕生した

今回、フランス・パリ天文台の研究チームが調べたのは、タイタンが土星から遠ざかるペースでした。
研究では、2004年から2017年まで土星を周回していたNASAの探査機“カッシーニ”から得られたデータで、2通りの分析を行っています。

一つ目は、“カッシーニ”が撮影した画像に写っている恒星の位置を精密に測定してタイタンの位置を追う方法。
この方法で分かったのは、タイタンが1年で土星からおよそ11センチ遠ざかっていることでした。

二つ目の方法では、100回以上に及ぶタイタンへのフライバイ(接近通過)のうち10回について、“カッシーニ”が地球に送った電波信号の周波数の変化からタイタンの軌道を追跡。
すると、一つ目の方法と同じ結果が得られたんですねー

タイタンが土星から年間約11センチずつ遠ざかっているという分析結果は、これまでの予測の100倍も速いペースでした。

このことは何を意味しているのでしょうか?
それは、現在土星から約120万キロの距離に位置しているタイタンが、これまでの予想よりもはるかに土星に近い位置で誕生したということです。

土星自身が太陽系誕生直後の46億年前に生まれたことは分かっています。
ただ、その環や80個以上の衛星たちがいつ形成されたかについては、不明な点が多くあります。

今回の研究成果は、土星系の年齢、衛星がいつ生まれたのかという問題に、新たに重要な手掛かりを与えてくれたことですね。


衛星が惑星から遠ざかる速度

タイタンが、これまでの見積もりよりも速く土星から遠ざかっていることは、今回の研究にも参加しているアメリカ・カリフォルニア工科大学の研究者が発表した理論からも導かれていました。

これまで50年にわたり、衛星が惑星から遠ざかる速度は、どれも同じ数式を使って計算されていました。
この理論では、タイタンのように惑星から遠くに位置する衛星は、それだけ惑星との重力による相互作用も弱く、内側の衛星に比べてゆっくりと移動すると考えられていました。

一方、カリフォルニア工科大学の新しい理論では、惑星の振動と衛星の公転の周期が一定の比で固定されることで、遠くにある衛星でも近くの衛星とさほど変わらないペースで外向きに移動することが可能でした。

今回の観測結果が意味するのは、こうした惑星と衛星との相互作用が、これまでの予想以上に顕著だということ。
このことは、土星とタイタン以外の惑星系、さらには太陽系を超えて系外惑星や連星にも適用できるようです。


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宇宙で最初に誕生した第一世代星を探せ! ハッブル宇宙望遠鏡と重力レンズ効果の組み合わせで探る初期宇宙

2020年06月25日 | 宇宙のはじまり?
ハッブル宇宙望遠鏡と重力レンズ効果により、宇宙誕生後5~10億年に存在した小銀河が数多く発見されました。
でも、そこに宇宙第一世代の恒星は見つからず… 最初の星はもっと前に形成されていたようです。


最初に生まれた星は質量が大きく寿命が短かった

138億年前のビッグバンで誕生したばかりの宇宙には、水素とヘリウム、そしてごく少量のリチウムしか存在していませんでした。
このため、宇宙で最初に誕生した“第一世代星(種族III)”は、これらの元素から形成されたと考えられています。

水素やヘリウムしか含まない原始ガス雲は、光を出して冷えることがあまりないので、重力が圧力に打ち勝って収縮して星になるには、ガス雲の質量が大きい必要があります。

そう、最初の恒星は、きわめて質量が大きかったと予想されているんですねー

ただ、大質量星は寿命が短いので現在は存在せず…
過去の(遠方の)宇宙にも第一世代星を含む銀河は確実には観測されていません。
初代星は太陽質量の100倍くらいの非常に重い星が多く、わずか1000万年程度で超新星爆発を起こしていたと考えられている。


重力レンズ効果を用いた初期宇宙の観測

今回、宇宙の第一世代星探しを行ったのはヨーロッパ宇宙機関の研究チームでした。

ハッブル宇宙望遠鏡を用いて観測したのは、エリダヌス座の方向約40億光年の彼方にある銀河団“MACS J0416”。
銀河団の膨大な質量が引き起こす重力レンズ効果の利用が目的でした。

重力レンズ効果を利用すると、銀河団の向こう側、さらに遠方にある天体の光が増幅されるんですねー
重力レンズ効果がない場合に比べて、10倍~100倍も暗い天体まで見つけることができるようになります。
銀河団“MACS J0416”(Credit: NASA, ESA, and M. Montes (University of New South Wales))
銀河団“MACS J0416”(Credit: NASA, ESA, and M. Montes (University of New South Wales))
“MACS J0416”の重力レンズを通して見えてきたビッグバンから約5~10億年後の初期宇宙。
ここから第一世代星を探すため研究チームが用いたのは、NASAの赤外線天文衛星“スピッツファー”とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡“VLT”の観測データでした。

さらに、研究チームは、重力レンズ効果を及ぼす手前の明るい銀河からの光を取り除くという新たな手法を開発。
この手法により、ビッグバン後10億年以内の若い宇宙で、これまでハッブル宇宙望遠鏡が観測できなかったほど質量の小さな銀河の探査を可能にしています。

観測の結果、低質量の暗い銀河が数多く見つかりました。

ただ、それらのスペクトルが示唆していたのは、この時代には既に水素やヘリウム以外の重元素が存在しているということ。

重元素は、第一世代星の内部で最初に合成され、超新星爆発でばらまかれる元素です。
この元素が存在しているということは、すでに第一世代星は存在していないことになります。
反対に、第一世代星が残っていることを示す証拠を得ることはできませんでした。


宇宙の再電離

一方で、今回の観測対象になった宇宙誕生後5~10億年は“再電離”が進行した時代と考えられています。

ビッグバン直後の宇宙では、元素が原子核と電子に分かれた電磁状態でした。
でも、宇宙が冷えてくると両者は結合して原子になっていくんですねー

その中から光を放つ天体が生まれた結果、そのエネルギーを吸収して星間物質が再び電離したのが再電離期になります。
研究チームは、今回見つかった小さな銀河が再電離を引き起こした主なエネルギー源ではないかと考えています。

また、今回の観測結果は、宇宙に最初の星や銀河が誕生した時代は、ハッブル宇宙望遠鏡で観測可能な限界よりもさらに以前にさかのぼることを示唆するものでした。

残念ながら今回の研究では、宇宙で最初に誕生した星を見つけることはできませんでした。
この課題は、将来の研究や新しく登場する観測機器に委ねることになりそうです。

まずは、2021年の打ち上げが検討されているハッブル宇宙望遠鏡の後継機“ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡”に期待しましょう。
低質量の暗い銀河が存在する初期宇宙(イメージ図)。(Credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser, and NASA)<br>
低質量の暗い銀河が存在する初期宇宙(イメージ図)。(Credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser, and NASA)


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“フェルミ・バブル”や“マゼラニック・ストリーム”にも影響を与えていた? 350万年前に起こった銀河中心ブラックホールによる爆発

2020年06月23日 | ブラックホール
天の川銀河周辺のガスの研究から、中心にある超大質量ブラックホールがかつて爆発的現象を引き起こしていた可能性が示されました。
これまで無関係だと考えられていた“フェルミ・バブル”と“マゼラニック・ストリーム”。
実は銀河中心のブラックホールによる強烈な輝きが、“フェルミ・バブル”と“マゼラニック・ストリーム”にとって大きな役割を果たしていたようです。


高温の巨大なプラズマの泡構造“フェルミ・バブル”

アメリカ・宇宙望遠鏡科学研究所の研究チームが、ハッブル宇宙望遠鏡を使った観測から見つけたもの。
それは、天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが、過去に爆発的現象を起こして莫大なエネルギーを放出した証拠でした。

天の川銀河の中心核が、かつて激しい活動を起こしていたという仮説は、既に“フェルミ・バブル”の研究から提唱されていました。

2010年にNASAのガンマ線天文衛星“フェルミ”が、銀河面から上下約3万光年の距離にそびえる高温の巨大なプラズマの泡構造“フェルミ・バブル”を発見します。
この“フェルミ・バブル”は、200万年以上前に銀河中心部で起こった爆発的なガス放出で作られたと考えられているんですねー

“フェルミ・バブル”に基づいた推測では、爆発が起こったのは約350万年前、人類がまだアフリカ大陸で進化の途上にあった頃。
そのころ夜空を見上げれば、天の川銀河の中心部分が不気味に光っているのが見えたはずです。

そのような爆発現象を引き起こした原因として考えられているのは、超大質量ブラックホールを取り巻くガスの円盤に、太陽10万個に相当するほどの巨大な水素の雲が落ち込んだことでした。
地上から見た約350万年前の大爆発(イメージ図)。(Credit: NASA, ESA, G. Cecil (UNC, Chapel Hill) and J. DePasquale (STScI))
地上から見た約350万年前の大爆発(イメージ図)。(Credit: NASA, ESA, G. Cecil (UNC, Chapel Hill) and J. DePasquale (STScI))


“マゼラニック・ストリーム”と呼ばれるガスの流れ

今回の研究では“フェルミ・バブル”とは別に、天の川銀河中心核における爆発現象の証拠もとらえています。

研究では、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている宇宙起源分光器“COS”を使って、天の川銀河のはるか遠方に位置するクエーサーからの紫外線スペクトルを観測。

この紫外線の光が天の川銀河周囲のガスを通過すると、ガスの状態に応じて特定の波長の光が吸収されるんですねー
この吸収された光の波長からガスの性質を調べることができます。

天の川銀河の周囲には、衛星銀河の大マゼラン雲と小マゼラン雲が通った跡“マゼラニック・ストリーム”と呼ばれる、太陽1億個分もの水素を含むガスの流れがあります。
衛星銀河(伴銀河ともいう)とは重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河。

また、両マゼラン雲の前方には“リーディング・アーム(先行腕)”という、ちぎれた雲のようなガスも伸びています。

研究チームでは、“マゼラニック・ストリーム”の背景に存在するクエーサー21個と、“リーディング・アーム”を通して見えるクエーサー10個のスペクトルを調査。

その結果、“マゼラニック・ストリーム”で見つかったのは、水素が強力なエネルギーを受けてイオン化している証拠。
一方、“リーディング・アーム”の水素には、そのような形跡は見られませんでした。

“マゼラニック・ストリーム”は天の川銀河の南極方向を通っています。

中心の超大質量ブラックホールが爆発的な増光を引き起こした場合、サーチライトのように強力な紫外線が円盤の上下(北極と南極)に向かって放たれたと考えることができます。
これによって“マゼラニック・ストリーム”の水素がエネルギーを受けてイオン化したと説明できます。

これまで考えられていたのは、“フェルミ・バブル”と“マゼラニック・ストリーム”は、お互い隔たっていて無関係だということ。
天の川銀河のハロー(周縁の構造)の中で別の場所に位置しているので、他人のように振る舞っているように見えていました。

今回の研究で分かってきたのは、“フェルミ・バブル”と“マゼラニック・ストリーム”が同じ1つの現象から影響を受けていたこと。
銀河中心のブラックホールによる強烈な輝きが、両者にとって大きな役割を果たしていたんですね。
天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが放った紫外線が円盤の上下に広がる様子を表したイラスト。下(南)に広がる紫外線が“マゼラニック・ストリーム”を照らしている。(Credit: NASA, ESA and L. Hustak (STScI))
天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールが放った紫外線が円盤の上下に広がる様子を表したイラスト。下(南)に広がる紫外線が“マゼラニック・ストリーム”を照らしている。(Credit: NASA, ESA and L. Hustak (STScI))


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元素を生み出す現場を発見! 天の川銀河のリチウムの1割は新星爆発で作られていた

2020年06月21日 | 宇宙 space
これまで新星爆発は、元素を生み出す現場として考えられていませんでした。
それが今回、新星爆発でもリチウムが放出されることがシミュレーションから分かってきたんですねー
天の川銀河のリチウムには、新星爆発が由来のものがかなり含まれているようです。


白色矮星と普通の星の連星系で起こる爆発現象

今回の研究を進めているのはアメリカ・アリゾナ州立大学の研究チーム。
新星爆発でかなりの量のリチウムが宇宙空間に放出されることを、数値シミュレーションで明らかにしています。

新星は、白色矮星と普通の星の連星系で起こる爆発現象です。

まず、相手の星から白色矮星に向かってガス(主に水素)が少しずつ降り積もりと、やがて積もったガス層の底で水素の核融合反応が始まります。

この反応は、恒星の中心部で起こる安定した核融合とは違い、いったん反応が始まるとガスの温度が上がり続けていくんですねー

白色矮星は、この温度上昇によって、ますます反応速度が上がるという不安定な性質を持つことに…

この暴走した核融合反応によって、降り積もったガスと白色矮星の物質の一部が爆発的に宇宙空間に吹き飛ばされる現象が新星爆発です。

爆発の頻度は白色矮星の質量や、降り積もるガスの量によって変わってきます。
新星爆発には数千年~数万年ごとに爆発する“古典新星”や、数十年おきに爆発を繰り返す“再帰新星(回帰新星、反復新星)”などがあります。
新星の一例、へびつかい座RSのイラスト。大きく膨らんだ星(右)から白色矮星(左)に向かって絶えずガスが降り積もっていて、積もったガスの温度が約1000万度を超えると暴走的な核融合を起こし、表面の物質を吹き飛ばす。へびつかい座の方向約5000光年の距離にある連星系で、約20年ごとに爆発を起こす回帰新星に分類されている。(Credit: David A. Hardy)
新星の一例、へびつかい座RSのイラスト。大きく膨らんだ星(右)から白色矮星(左)に向かって絶えずガスが降り積もっていて、積もったガスの温度が約1000万度を超えると暴走的な核融合を起こし、表面の物質を吹き飛ばす。へびつかい座の方向約5000光年の距離にある連星系で、約20年ごとに爆発を起こす回帰新星に分類されている。(Credit: David A. Hardy)


新星爆発もいくつかの元素の供給している

新星は、元素を生み出す現場としても注目されています。

現在の元素合成の理論では、宇宙に存在する100種類ほどの元素のうち、最も軽い水素とヘリウム、それにごく少量のリチウムが、ビッグバン直後の熱い宇宙の中で合成されたと考えられています。

残りの元素は、ほぼ全てが後の時代に恒星内部の核融合反応や、大質量星の最期である超新星爆発、中性子星同士の合体現象で合成されたものになります。

ただ、最近では新星爆発もいくつかの元素の供給源になっていると考えられているんですねー
中でもリチウムについては、爆発直後の新星の観測から、リチウムの元になるベリリウム7の放出という証拠が見つかっています。

研究チームではこうした観測結果を踏まえて、新星によってリチウムのような元素がどのくらい放出されるかを数値シミュレーションで調査。

すると、白色矮星の表面に降り積もったガスの中で、ヘリウム3とヘリウム4からベリリウム7が合成される核融合反応が起こり、これが新星爆発で放出される様子が再現されました。
この後、ベリリウム7はリチウム7に変化することになります。
ベリリウムの放射性同位元素の一つベリリウム7は、約53日の半減期でリチウム7に変わっていく。

研究チームが天の川銀河全体で新星から供給されるリチウムの量を見積もってみると、太陽質量の約100倍という結果になります。
この数値は、天の川銀河に存在するリチウムの総量の約1割を占めるものでした。

リチウムは耐熱ガラスやセラミックス、リチウム電池、リチウムイオン電池、向精神薬など、広い用途に使われている重要な物質。
この元素が宇宙のどこから来たのかを知ることができたこと。っが今回の研究の成果のひとつになりそうです。


新星がIa型超新星の親星になることもある

さらに研究チームでは、白色矮星と普通の星の連星系がやがてIa型超新星になるかどうかも調べています。

Ia型超新星は、何らかの原因で白色矮星の質量が太陽の約1.4倍(チャンドラセカール限界質量)を超えた場合に星全体が爆発する現象です。

新星の場合だと、降り積もったガスよりも爆発で放出される質量の方が多くなると考えられています。
なので、白色矮星の質量は増えることはなくIa型超新星にはならないと、これまで考えられていました。

そこで、研究チームが行ったのは、最初の白色矮星の質量や降り積もるガスの量、降り積もったガスと白色矮星の表面物質との混ざり具合など、様々な条件を変えたシミュレーションでした。

その結果は、多くのケースで新星爆発により放出される物質の量は、降り積もったガスの量を超えないというものでした。

これが正しいとすると、爆発を繰り返しながらも白色矮星の質量は次第に重くなるはずです。
そうすると、やがてはチャンドラセカール限界質量を超えてIa型超新星になることもできます。

そう、これが今回の研究のもう一つの成果。
新星がIa型超新星の親星になりうることを示す重要なものです。


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