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銀河中心の超大質量ブラックホールと銀河本体の成長は、どのように関係しているのか?

2023年02月27日 | ブラックホール
銀河の中心にある超大質量ブラックホールの成長と銀河本体の成長。
この2つは、どのように関係しているのでしょうか?
今回、機械学習を用いた研究によって、この2つの深いつながりが導き出されたんですねー
この研究は、数十年来の仮説を裏付けるものになるようです。
今回の研究の概念図。機械学習により、ブラックホールと本体の銀河の組み合わせを多数テストし、その中から実際の観測と最もよく一致する組み合わせを選んでいる。(Credit: H. Zhang, M. Wielgus et al., ESA/Hubble & NASA, A. Bellini)
今回の研究の概念図。機械学習により、ブラックホールと本体の銀河の組み合わせを多数テストし、その中から実際の観測と最もよく一致する組み合わせを選んでいる。(Credit: H. Zhang, M. Wielgus et al., ESA/Hubble & NASA, A. Bellini)

銀河本体と中心ブラックホールは同じ時期に成長する

ほとんどの銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えられていて、その質量は太陽の数百万倍から数十億倍にも及びます。

このような超大質量ブラックホールは、どのようにして早く成長するのでしょうか?
また、そもそも、どのように作られるのでしょうか?
天文学者は長年この謎に取り組んできました。

今回、機械学習を用いて、この謎の解明に挑んだのは、アリゾナ大学や国立天文台の研究者を中心とする国際研究チームでした。

まず、超大質量ブラックホールが時間とともに、どのように成長するかを予測するための機械学習の基盤を構築。
それを用いて多数の成長法則を提案していきます。

次に、それらの法則を使って、一つの仮想宇宙で何十億個ものブラックホールの成長をコンピュータで再現。
最後に、仮想宇宙を「観測」して、実際の宇宙で観測されるブラックホールと特徴が一致するかどうかをテストしています。

そして、何百万もの法則をテストした後、既存の観測結果を最もよく説明できる法則を選出。
その結果、分かってきたのは、超大質量ブラックホールの成長が、宇宙誕生から数十億年の間が最も活発で、以降は大変ゆっくりと進むことでした。

一方で以前から知られていたことがあります。
それは、銀河は新たな星を形成する速度が、宇宙誕生から数十億年でピークに達した後、時間とともに減少して、やがて星形成が停止するという振る舞いを示してきたことです。

今回の研究では、銀河の中心にある超大質量ブラックホールも、銀河本体と同じ時期に成長し、その後に成長が止まることを示すことが出来ました。

このことは、数十年来あった、銀河におけるブラックホールの成長に関する仮説を裏付けるものです。

でも、この結果が、さらなる疑問を投げかけることになります。

ブラックホールの大きさは、銀河本体と比べると大変小さいものです。
そう、ブラックホールが銀河と同じ時期に成長するためには、スケールが大きく異なるガスの流れを同期させる必要がでてくるんですねー

ブラックホールと銀河が、どのようにしてそのバランスを保っているのでしょうか?
今後の研究による解明が待たれますね。


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星のゆりかごでは、赤ちゃん星から噴き出す高速のガス流が、星の形成を誘発したり邪魔したりしている

2023年02月25日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、アルマ望遠鏡を使ってオリオン座の星団形成領域を観測。
すると、若い星から噴き出す高速のガス流が、同じ星団形成領域内の若い星たちに激しく衝突している様子をとらえることに成功しました。

衝突によって星団形成領域のガスやチリは激しく揺さぶられ、そこでの星の形成に影響を与えている可能性があるんですねー
このことは、若い星や星の材料が密集して存在する星団形成領域において、星が生まれてくる複雑な過程の理解に迫る重要な一歩といえる成果になります。
 今回の研究を進めているのは、九州大学大学院生の佐藤 亜紗子さんたちの研究チームです。
図1.星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”のイメージ図。アルマ望遠鏡によって、原始星が集団で生まれている星のゆりかご内部の詳細が明らかになった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)
図1.星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”のイメージ図。アルマ望遠鏡によって、原始星が集団で生まれている星のゆりかご内部の詳細が明らかになった。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)

星誕生の目印“双極分子流”と星のゆりかご“星団形成領域”

赤ちゃん星“原始星”は、宇宙空間のガスとチリが豊富にある領域“分子雲コア”の中で生まれます。
 宇宙空間には星の材料となる水素原子や水素分子を主成分としたガスが漂っている。その中でも特に水素分子が豊富に存在する場所が分子雲。さらに濃くなった場所は分子雲コアと呼ばれていて、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
また、原始星周囲で観測されるものに、分子ガスが噴き出している様子“双極分子流”があります。
この双極分子流は、原始星のサイズの100万倍以上の大きさにも広がることがあり、原始星よりも観測しやすいので、分子雲コアでの原始星の誕生をとらえる非常に強力なツールといえます。
 双極分子流とは、原始星からほぼ反対向き(南極方向と北極方向)に放出される分子ガスの高速な流れで、星の産声に例えられる。これにより分子コアが持っている回転の勢いを捨て去ることで星に成長する。太陽系の周辺数万光年以内や大マゼラン雲の原始星では普遍的に観測されてきた。
宇宙に存在するほとんどの星は、孤立して生まれるのではなく複数の原始星が集団で誕生し、これを星団形成といいます。

この星のゆりかごともいえる星団形成領域での双極分子流の役割は、周辺の分子雲コアに衝突することで局所的に星の形成を誘発すること。
でも、逆に星のゆりかご内の環境をかき乱すことで、周辺の星の成長を邪魔したりする可能性もこれまでに予測されていました。

このように、星団形成領域は原始星が誕生する一般的な環境であり、重要な研究対象になるはずです。
にもかかわらず比較的遠方にあるため、これまで領域内を詳細に観測することが困難でした。

さらに、星団形成領域は複数の原始星や双極分子流が混在した複雑な構造を持っています。

そう、これらを十分に見分けられる鮮明な画像を得るには、アルマ望遠鏡のような高い空間分解能を持つ望遠鏡を用いることが必須になるんですねー

星団形成領域を広視野で観測

そこで、今回の研究では、アルマ望遠鏡を使って最も若い星団形成領域のひとつである“OMC-2”内の“FIR 3”および“FIR 4”領域を観測。
この天体はオリオン座の方向に位置し、太陽系から最も近い巨大分子雲である“オリオンA分子雲(地球からの距離1400光年)”の中にあります。

研究チームが調べたのは、この星団形成領域をカバーするような広視野観測を行い、チリ、一酸化炭素(CO)、一酸化ケイ素(SiO)の3つの物質の分布でした。

チリは、星を育むゆりかごである分子雲コアの基本構成物質のひとつです。

一酸化炭素は、双極分子流や分子雲コアの主な構成要素である水素分子ガスに次いで多く存在している物質。
強い電波を出すので、星が成長する様子を観測的にとらえるために重要な分子のひとつになります。

そして、激しい衝突現象があるときに観測されるのが一酸化ケイ素です。
分子雲を構成するチリの表面に付着しているケイ素(Si)が、分子流と周辺物質の激しい衝突などの場面で宇宙空間に叩き出され、宇宙空間に浮遊する酸素(O)と結びつくことで、一酸化ケイ素ガス(SiO)からの放射が観測されるようになります。

今回、“FIR 3”および“FIR 4”領域での高感度観測により見つけることができたのは、これまでに報告されていた2倍の数の双極分子流、つまり原始星が形成されている直接的な証拠でした。
これにより、複雑な星団形成領域の様子が鮮明に描き出されることになります。
図2.アルマ望遠鏡による観測から得られた、星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”領域の電波画像。一酸化炭素ガスに赤、一酸化ケイ素ガスに青、チリからの放射にオレンジ色を割り当てた疑似カラー画像。各色について、電波強度が強くなるほど白みを帯びた色で表している。画像上側に“FIR 3”領域、下側に“FIR 4”領域がある。“FIR 4”領域内の原始星の候補天体は緑色の円で示している。“FIR 3”の原始星から噴き出した分子流(赤で示された一酸化炭素ガス)が“フィラメント状に広がる分子雲”などの周辺の高密度物質(オレンジ色で示されたチリの分布)と衝突し、分子流の端が圧縮されている様子が分かる(白い点線で囲まれた“圧縮された分子流のガス”)。また分子流の下流にある高密度ガスとの衝突では、“衝突領域”が一酸化ケイ素ガス(青白色)で鮮明に検出された。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)
図2.アルマ望遠鏡による観測から得られた、星団形成領域“OMC-2”の“FIR 3”および“FIR 4”領域の電波画像。一酸化炭素ガスに赤、一酸化ケイ素ガスに青、チリからの放射にオレンジ色を割り当てた疑似カラー画像。各色について、電波強度が強くなるほど白みを帯びた色で表している。画像上側に“FIR 3”領域、下側に“FIR 4”領域がある。“FIR 4”領域内の原始星の候補天体は緑色の円で示している。“FIR 3”の原始星から噴き出した分子流(赤で示された一酸化炭素ガス)が“フィラメント状に広がる分子雲”などの周辺の高密度物質(オレンジ色で示されたチリの分布)と衝突し、分子流の端が圧縮されている様子が分かる(白い点線で囲まれた“圧縮された分子流のガス”)。また分子流の下流にある高密度ガスとの衝突では、“衝突領域”が一酸化ケイ素ガス(青白色)で鮮明に検出された。(Credit: Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Sato et al.)

アルマ望遠鏡がとらえた分子流が星団形成領域内の星形成に与える影響

今回の一番の成果は、星のゆりかごである若い星団形成領域“OMC-2”内で、“FIR 3”領域中の原始星から噴き出た巨大双極分子流が、複数の若い星が密集している“FIR 4”領域に激しく衝突していることを示す決定的な証拠をとらえたことでした。

この巨大双極分子流が“FIR 4”領域と激しく衝突することで、その境界面で発生したと考えられる一酸化ケイ素ガス(SiO)の観測に成功。
図2の左上から進んできた巨大双極分子流が、“FIR 4”領域にある原始星の材料となる高密度ガスやチリと2か所で衝突した様子を、U字状の衝突面としてはっきりととらえることに成功しています(図2の“FIR 4”領域で青白く光っている構造を参照)。

アルマ望遠鏡の高い感度と空間分解能のおかげで、このように非常に若い星団で形成された原始星の双極分子流が、星団形成領域内の他の領域に衝突している証拠を、撮像することが初めて可能になったわけです。

また図2からは、巨大双極分子流が“FIR 4”領域に向かって進む途中、フィラメント上に広がる分子雲(図2のオレンジ色で表現されている“フィラメント上に広がる分子雲”)とも激しく衝突し、分子流内のガスが激しく圧縮されている様子も分かります(図2の白みを帯びた赤色で表されている“圧縮された分子流のガス”)。

双極分子流と激しく衝突したことで、分子雲内のチリが加熱されている証拠もとらえられています。

さらに、この圧縮された分子雲内で多数発見されたのが、星のゆりかご“分子雲コア”の起源になりうる分裂片でした。

それでは、星団形成領域内での巨大双極分子流と若い星たちの衝突をきっかけとして、星団内の星形成が誘発されたのでしょうか?
それとも、衝突前にはすでに星が誕生していたのでしょうか?
このことについては、今回の研究では明確に区別できませんでした。

それでも、今回の研究成果からは、双極分子流が衝突することで星団形成領域内のガスやチリを揺さぶり、星が生まれる環境がかき乱されている可能性がが示されました。
研究チームではアルマ望遠鏡を用いたさらなる観測で詳細を解明していくそうです。

双極分子流によって圧縮されたガスの運動を調べ、星団形成領域への物質の流入、もしくは分子雲コアの破壊をとらえることができれば、“FIR 4”がどのような進化をたどり最終的にどれくらい重たい星を形成するのかを予測することができます。

今回の観測では、分子流が星団形成領域内の星形成に与える影響を直接とらえることに成功しました。
この研究をさらに進めていけば、一般的な星形成の形態である星団形成の理解を紐解くカギになるはずです。


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太陽から地球までの距離の約1パーセントしか離れていない!? 非常に接近した“超低温矮星”同士の連星を発見

2023年02月23日 | 宇宙 space
小さくて温度も低い恒星“超低温矮星”同士からなる連星が新たに発見されました。
惑星形成モデルによると、超低温矮星では原始惑星系円盤の質量およびサイズが小さいので、木星型惑星ではなく、水星から地球程度のサイズの惑星を比較的たくさん持ちうることが示唆されています。
この連星系でも“トラピスト1”のように地球型惑星が見つかるのでしょうか。
 今回の研究成果は、ノースウエスタン大学の博士研究員Chin-Chum Hsuさんを筆頭とする研究チームにより、アメリカ天文学会の第241回会合で発表されました。
“LP 413-53AB”星系(上段)、“TRAPPIST-1”星系(中断)、木星系(下段)を比較した図。“LP 413-53AB”を構成する2つの超低温矮星の間隔は、木星から衛星カリストまでの距離よりも短いとされる。(Credit: Adam Burgasser/University of California San Diego)
“LP 413-53AB”星系(上段)、“TRAPPIST-1”星系(中断)、木星系(下段)を比較した図。“LP 413-53AB”を構成する2つの超低温矮星の間隔は、木星から衛星カリストまでの距離よりも短いとされる。(Credit: Adam Burgasser/University of California San Diego)
“超低温矮星(Ultracool Dwarf Star)”は有効温度が3000ケルビン(摂氏2730度)を下回るほど赤い赤色矮星で、サイズや質量が恒星としての下限に近く、主に赤外線の波長で輝く天体です。

これまでに7つの太陽系外惑星が見つかっている恒星“トラピスト1(TRAPPIST-1)”も超低温矮星の一つになります。
 みずがめ座の方向約40光年の彼方に位置する“トラピスト1”は、太陽の9%ほどの質量で、表面温度が約2500Kとかなり低温の星。
今回報告されたのは、“おうし座”の方向に位置する連星“LP 413-53AB”。
この連星は2つの超低温矮星が互いに周回していると見られています。

ただ、2つの星は0.01天文単位程度しか離れておらず、公転周期はわずか20.5時間という短さ。
 1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。
多くの連星の公転周期は年単位なので、測定は数か月ごとに行われ、ある程度の期間を経た後にデータが分析されます。

ところが、“LP 413-53AB”では観測データが数分単位で変化していたので、スペクトル線がシフトする様子をリアルタイムで観察することができました。
 スペクトルは光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。
“LP 413-53AB”を構成する2つの超低温矮星の現在のサイズ(赤)と、形成から100万年頃の推定サイズ(点線)を示した図。(Credit: dam Burgasser/University of California San Diego)
“LP 413-53AB”を構成する2つの超低温矮星の現在のサイズ(赤)と、形成から100万年頃の推定サイズ(点線)を示した図。(Credit: dam Burgasser/University of California San Diego)
“LP 413-53AB”は形成されてから数十億年が経っていて、誕生から間もない頃の星のサイズは今よりも大きかったと見られています。

驚くべきことは、太陽から地球までの距離の約1パーセントしか離れていない“LP 413-53AB”の間隔。
形成されてから100万年程度しか経っていなかった頃には、星と星が重なり合っていたのかもしれません。

研究チームが推測しているのは、“LP 413-53AB”を構成する2つの星が進化する過程で互いに接近したか、現在は失われている3番目の星が星系から放出された後に接近した可能性です。

また、“LP 413-53AB”ではハビタブルゾーンが連星の軌道とたまたま重なっているので、ハビタブルゾーンに惑星が存在することは無いとされています。

太陽系の近傍にある恒星の15%を占めるとも推定されている超低温矮星。
もし、“LP 413-53AB”のように近接した連星が超低温矮星では一般的な場合、生命居住可能な惑星はほとんど見つからないかもしれません。

超低温矮星の連星に関するこれらのシナリオを調査するためには、さらに多くの観測データが必要になります。
研究チームは同様の連星をより多く特定したいと考えています。


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銀河進化のモデルを見直す必要がある!? ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で見つけた初期宇宙にある棒渦巻銀河

2023年02月21日 | 銀河・銀河団
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、宇宙年齢が現在の2~4割だった時代に棒渦巻銀河が6個見つかりました。

棒渦巻銀河では、棒構造によって銀河中心部にガスが送り込まれることで、他の領域よりも速く星の形成が進みます。
このことは、棒構造が初期の時代に星の形成を加速するという、新たな経路が銀河進化モデルの中に見出されたことになるんですねー

初期宇宙での棒渦巻銀河の存在率を正しく導くように、銀河進化のモデルを見直す必要があるのかもしれません。

これまでに見つかった中で最も遠い棒渦巻銀河

アメリカ・テキサス大学オースティン校のYuchen Guoさんたちの研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が行った初期観測プログラムの一つ“宇宙進化初期リリース科学サーベイ(CEERS)”で得られた画像から、中心部に棒構造を持つ“棒渦巻銀河”を6個見つけました。
 棒渦巻銀河は渦巻銀河と全く同じ特徴を持つが、銀河中心のバルジを貫くような配置の棒状構造をディスク(中心核と腕を含む銀河円盤)内に持ち、渦巻腕がこの棒構造の両端から伸びている点が通常の渦巻き銀河と異なる。
棒渦巻銀河が見つかったのは、宇宙年齢が現在の20~40%だった時代でした。

今回見つかった棒渦巻銀河の一つ“EGS-23205”が位置しているのは、うしかい座の方向約110億光年の彼方(赤方偏移z=2.136)。
 膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
その姿は、ハッブル宇宙望遠鏡の画像ではチリに覆われた円盤の形がぼんやりと見える程度でした。

でも、昨年夏に撮影されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像では、明らかに棒構造を持つ美しい棒渦巻銀河としてとらえられていたんですねー
棒渦巻銀河“EGS-2305”。(左)ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像、(右)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による中間赤外線画像。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
棒渦巻銀河“EGS-2305”。(左)ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像、(右)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による中間赤外線画像。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
ハッブル宇宙望遠鏡ではほとんど見えなかった棒構造が、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の画像では際立っていたわけです。
このことは、銀河の基本構造を見る上でジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が驚異的な威力を持つことを示していました。

なぜ、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は遠くの銀河の構造をハッブル宇宙望遠鏡よりもくっきりと撮影できるのでしょうか?

この理由は、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がハッブル宇宙望遠鏡よりも主鏡が大きく集光力・分解能が高いこと。
それに、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡よりも長波長の赤外線で観測するので、チリを見通すことができるためです。

研究チームは、同じく約110億年彼方(赤方偏移z=2.312)にある棒渦巻銀河“EGS-24268”も同定。
“EGS-23205”と“EGS-24268”は、これまでに見つかった棒渦巻銀河の中で最も遠いものになりました。
そして、残りの4個の棒渦巻銀河も80億光年以上の彼方に位置していました。

今回の研究で目にしたのは、こうしたデータを過去に誰も使ったことも定量的に分析したことも無い、まったく新しい領域でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた6個の棒渦巻銀河。各左上のラベルは銀河の名称とその銀河が存在する時代(Gry=10億年)で、約84億~110億年前の範囲にあたる。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた6個の棒渦巻銀河。各左上のラベルは銀河の名称とその銀河が存在する時代(Gry=10億年)で、約84億~110億年前の範囲にあたる。(Credit: NASA/Guo, Jogee, Finkelstein and CEERS collaboration/University of Texas at Austin)
棒渦巻銀河では、棒構造によって銀河中心部にガスが送り込まれることで、他の領域より10~100倍も速く星の形成が進みます。
さらに、中心部に供給されたガスの一部は、銀河中心にある超大質量ブラックホールの成長にも使われます。

今回、初期の宇宙に棒渦巻銀河が見つかったことで、棒構造が初期の時代に星形成を加速するという、新たな経路が銀河進化モデルの中に見出されたことになります。

こうした初期の宇宙に、すでに棒渦巻銀河が存在するという事実は、まさに現行の銀河の理論モデルに見直しを迫るもの。
そう、初期宇宙での棒渦巻銀河の存在率を正しく導くように銀河の物理を修正する必要があるんですねー
研究チームでは、今後の論文で様々なモデルの検証を行っていくそうです。


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土星の衛星ミマスの地下にも海がある? 海はまだ若いけど現在進行形で拡大している可能性が示されました

2023年02月19日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
土星の主要衛星の中では最も小さい“ミマス”は、密度が低く、大部分は氷と岩石で構成されていると考えられています。
約23時間の周期で土星を公転しているのですが、その周回中にリズミカルな揺れが検出されているんですねー

地下に海があるという仮説は、このリズミカルな揺れという現象からきているのですが、“ミマス”のコアが球体でないという点も、有力な原因として考えられています。
“ミマス”は氷で覆われた外層は球体なのですが、岩石のコアは、ラグビーボールのような楕円体なのかもしれません。

どのような理由であれ、土星探査機“カッシーニ”の画像を丹念に調べて発見した揺れは予想外のものでした。
地球の衛星の月を含め多くの衛星は、公転中にわずかに揺れているので、その事自体は珍しくありません。
でも、その幅は直径400キロ程度の衛星にしてはかなり大きく、1回の公転で3キロ程度と予想していたのが、実際にはその2倍もあったんですねー

どうすればミマスの揺れをうまく説明することができるのでしょうか?
そして、ミマスの地下に海は存在するのでしょうか?

“カッシーニ”が観測したミマスの振動

土星の衛星ミマスは、かつては地質活動のない天体だと考えられていました。

それは、ミマスの直径が約400キロと小さく、他の衛星との位置関係から潮汐力もあまり受けないので、内部で熱は生じていないと考えられていたためです。

そのうえ、ミマスの表面に火山や谷のような構造は見られず、表面を覆うクレーターには埋められた形跡も無いんですねー
なので、ミマスの内部は氷と岩石がほぼ均一に混ざり合っていて、明確な構造を持たないと考えられていました。

ところが、NASAの土星探査機“カッシーニ”のミッションが終わりに近づいた頃に状況が変わります。
ミマスに接近した“カッシーニ”が自転周期を厳密に測定すると、わずかながら振動していることが分かりました。

この現象は“秤動(ひょうどう)”と呼ばれていて、地球の月をはじめ多くの天体で一般的に起こる現象でした。
 秤動とは、ある天体からその周囲を公転する衛星を見たときに、その衛星が見かけ上行うように見える、または実際に行うゆっくりとした周期的な振動運動。単に秤動という場合には、地球を周回する月の秤動を指すことが多い。
秤動に大きな影響を与えるのは公転軌道の特性です。
でも、ミマスの場合は公転軌道の値だけでは秤動を説明できないことが分かっています。
図1.“ハーシェル・クレーター”が目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよく分かっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核をがあるという説が提唱されている。(Credit: Denton & Rhoden)
図1.“ハーシェル・クレーター”が目を引く土星の衛星ミマス。その内部構造はよく分かっておらず、地殻の下に海があるという説と、非対称な形状を持つ核をがあるという説が提唱されている。(Credit: Denton & Rhoden)

なぜミマスは振動しているのか

秤動の測定からミマスの内部は均一ではなく、分厚い地殻と大きな核に分かれた明確な構造を持っていることも判明しました。

このことにより、ミマスの大まかな構造は判明。
でも、これだけでは秤動を完全には説明できませんでした。

どうすればミマスの秤動をうまく説明することができるのでしょうか?

それには、地殻と核の間に液体の水の層があると仮定すると、最も簡単に説明できそうです。

ただ、この場合だと地殻の厚さは24キロから31キロあり、その下には深さ40キロ未満の海が存在することになります。

それに、海と呼べるほど大量の水が凍らずに液体のままで存在するには熱源が必要になってきます。

潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性は、ミマスと同じ土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどで指摘されています。
これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。

でもミマスでは、この地質活動の証拠が見当たらないんですねー

なので、内部に液体の水の層は存在せず、核が球形ではなくラグビーボール型に大きく変形していることで、対象型ではない核の構造が秤動に影響を及ぼしている、とする説も有力視されていました。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

クレーターを対象とした研究へ

この謎を別のアプローチから検証したのは、パデュー大学のC.A.Dentonさんとサウスウエスト研究所のA.R.Rhodenさんの研究チームでした。

研究の対象としたのは、ミマスで最も目立つ“ハーシェル・クレーター”。
このクレーターは直径が約140キロと、ミマスの直径の3分の1ほどもある大きなクレータです。

でも、より興味深いのはその構造でした。

クレーターの深さは約10キロで、高さ約6キロの中央丘が存在しています。
このような明確なクレーター構造は、地殻が固くなければ形成されないんですねー

仮に、内部に海があって地殻が薄いとすれば、クレーターの形成時に地殻を破って海水が表面に現れるので、このような構造は形成されないはずです。
図2.衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30キロの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55キロ以上の場合になる。(Credit: Denton & Rhoden)
図2.衝突クレーターのシミュレーションの結果の一例。地殻の厚さが30キロの場合、内部の海が表面に現れてしまい、現在のクレーターの形状と一致しない。よく一致するのは、地殻の厚さが55キロ以上の場合になる。(Credit: Denton & Rhoden)
そこで研究チームが繰り返し行ったのは、予想されるミマスの地殻の厚さを最も薄い予測値である25キロから、すべて凍結している場合の予測値である70キロまで様々な値に設定して、“ハーシェル・クレーター”形成時の衝突のシミュレーションでした。

地殻の厚さを内部に海が存在するモデルにおける値である30キロ未満に設定したシミュレーションでは、予想通り地殻は衝突によって破れてしまう結果になりました。

地殻の厚さが55キロ以上の場合だと実際の状況と結果が最も一致。
でも、現在のクレーターの形状がよく再現されたのは、内部で十分な熱が生じている場合のみでした。

以上の結果から導かれたのは、“ハーシェル・クレーター”形成時のミマスの地殻の厚さは55キロ以上あったこと。
さらに、地殻は現在に至るまでの間に、約30キロまで薄くなっている可能性があるそうです。

つまり、ミマスには地質活動があり、徐々に内部が融けることで形成された若い海が存在する可能性が示されたわけです。

このシナリオの場合、ミマスの地殻は現在進行形で徐々に薄くなっているけど、地質活動が表面に現れるほど薄くはなっていないという現状と一致しています。

それでも熱源やその保持には、まだ多くの謎が残っています。

液体の水が豊富に存在する場合は、内部が完全に凍結している場合と比較して、熱の保持に関するパラメータが大きく変更されるので、この謎は新たなモデルを構築することで解明できる可能性はあります。

ミマスの軌道要素は特殊であり、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスのように、内部に海を持つと考えられるほかの氷衛星のモデルをそのまま適用することはできません。

そう、ミマスの場合は新たなモデルを一から構築しなければいけないんですねー
この点からも、今回の研究結果の検証にはしばらく時間がかかりそうだといえますね。


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