木星の高層大気が異常な高温になっている謎の現象。
原因が高緯度領域で発生するオーロラだったことが明らかになりました。
木星周辺の宇宙空間にある荷電粒子が、木星の磁場にとらえられたときに木星にオーロラが発生します。
粒子は磁力線に沿って惑星の極域大気に振り込み、大気中の原子や分子と衝突すると光という形でエネルギーを開放。
地球では、このことにより極域の夜空を彩るオーロラが作られます。
木星では、火山活動が活発な衛星イオから噴出するガスが木星周囲の宇宙空間に荷電粒子を豊富に供給していて、太陽系最強の木星オーロラとそれによる極域大気の過熱を生み出しているようです。
長年にわたり木星のオーロラは、木星大気の異常高温を引き起こす熱源候補として注目されてきましたが、これまでの観測では結論を出すことができませんでした。
さて、今回の研究では木星大気の高温状態をどう説明しているのでしょうか。
その距離から降り注ぐ太陽光の量は地球の約1/25ほどしかありません。
この日射で暖められる木星の高層大気の温度を理論的に計算してみると、平均でおよそ摂氏-70度(絶対温度で約200K)という答えになります。
でも、実際の木星高層大気の温度はこの計算値とは大きく異なっているんですねー
観測からは摂氏420度(約700K)もあることが分かっています。
では、なぜこれほど木星の高層大気は高温なのでしょうか?
観測には、ハワイ島マウナケアにあるケックII望遠鏡に搭載された近赤外線分光器“NIRSPEC”を用いています。
研究チームは2016年4月と2017年1月の夜に木星を5時間ずつ観測。
すると、木星の大気に含まれるH3+イオン(水素原子が3個が結びついた陽イオン)が放つ赤外線の輝線を、木星の全緯度にわたって検出します。
H3+イオンは木星の高層大気(電離層)に多く存在するイオンで、この輝線の強さを測定すると高層大気の温度が分かります。
これまで、木星の高層大気の温度分布は非常に解像度の粗いデータしか得られていませんでした。
これでは木星全体でどのように温度が変化しているのかを理解することは難しく、異常高温を引き起こす熱源が何であるかの手掛かりを得ることができませんでした。
これを改善するため、今回の研究では以下の二段階のアプローチがとられています。
まず、ケックII望遠鏡の高性能を利用して木星の表面温度の計測点数を増やしました。
次に、計測値の不確定性が5%以下の場合にのみ、その値を最終的な木星マップに反映することとしています。
このアプローチにより研究チームが作成したのは、異なる空間分解能をもつ5つのマップでした。
最も高い分解能のものは、木星表面の緯度2度×経度2度の領域での平均気温からなるマップ。
そこから解像度を下げて、経度4度×緯度4度、6度×6度、8度×8度、10度×10度の領域での平均気温マップも作成しています。
さらに、最高分解能で作成したマップの計測結果の不確定性が高い場合には、より低い分解能での不確定性の低い値を代わりに採用。
これにより、可能な限り高い空間分解能を追求しつつ不確定性の排除も行い、分析に最適なマップを作成しています。
データを注意深く抽出してマッピング、分析するのに何年もかかったそうです。
最終的に出来上がったのは、1万を超える個別のデータポイントからなる温度マップでした。
このことが示唆しいるのは、高緯度の領域で加熱された大気が惑星風によって低い緯度へと運ばれているということ。
そう、木星の上層大気を高温にしている大元のエネルギー源はオーロラということになるんですねー
オーロラが上層大気を加熱しているのではないかという説は、これまでの研究にもありました。
でも、これまでの木星大気の温度モデルによると、高緯度地域から赤道に向かう風は木星の速い自転の影響で西へと曲げられてしまい、木星大気全体を温めることはできないとされています。
今回の観測では、木星の全球温度モデルの精度が向上したおかげで、このような惑星風の折れ曲がりは実際には起こっていないことが分かりました。
研究チームでは、オーロラが増光したときに高温領域が低緯度へと伸びていき、木星大気の過熱が強まる様子もとらえています。
すでに、日本の惑星分光観測衛星“ひさき”の観測によって、太陽風が強まると木星の磁場が圧縮されてオーロラが増光することは分かっていました。
今回のケック望遠鏡による観測で、それが大気の過熱につながることも判明したことになります。
オーロラが惑星の大気を加熱しているという証拠は、木星以外の巨大ガス惑星でも得られています。
(参照:太陽光による加熱は少ないはず… なぜ土星の上層大気は高温なのか?)
今回の発見は、木星の“エネルギー危機”を解決する有力な手掛かりになりそうです。
ただ、一方で惑星風の発生の仕方は様々な条件で変わるので、実際にオーロラが巨大ガス惑星の大気を加熱する詳細なメカニズムは、惑星ごとに異なっているのかもしれません。
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原因が高緯度領域で発生するオーロラだったことが明らかになりました。
木星周辺の宇宙空間にある荷電粒子が、木星の磁場にとらえられたときに木星にオーロラが発生します。
粒子は磁力線に沿って惑星の極域大気に振り込み、大気中の原子や分子と衝突すると光という形でエネルギーを開放。
地球では、このことにより極域の夜空を彩るオーロラが作られます。
木星では、火山活動が活発な衛星イオから噴出するガスが木星周囲の宇宙空間に荷電粒子を豊富に供給していて、太陽系最強の木星オーロラとそれによる極域大気の過熱を生み出しているようです。
長年にわたり木星のオーロラは、木星大気の異常高温を引き起こす熱源候補として注目されてきましたが、これまでの観測では結論を出すことができませんでした。
さて、今回の研究では木星大気の高温状態をどう説明しているのでしょうか。
なぜ木星の高層大気は高温なのか
地球と太陽の距離の5倍以上(約7.8億キロ)も離れている木星。その距離から降り注ぐ太陽光の量は地球の約1/25ほどしかありません。
この日射で暖められる木星の高層大気の温度を理論的に計算してみると、平均でおよそ摂氏-70度(絶対温度で約200K)という答えになります。
でも、実際の木星高層大気の温度はこの計算値とは大きく異なっているんですねー
観測からは摂氏420度(約700K)もあることが分かっています。
では、なぜこれほど木星の高層大気は高温なのでしょうか?
これは50年来の謎であり研究者の間では“エネルギー危機(energe crisis)”とも呼ばれている。
高層大気の温度分布を高解像度でマッピング
今回の研究を進めたのはJAXA宇宙科学研究所のチーム。観測には、ハワイ島マウナケアにあるケックII望遠鏡に搭載された近赤外線分光器“NIRSPEC”を用いています。
研究チームは2016年4月と2017年1月の夜に木星を5時間ずつ観測。
すると、木星の大気に含まれるH3+イオン(水素原子が3個が結びついた陽イオン)が放つ赤外線の輝線を、木星の全緯度にわたって検出します。
H3+イオンは木星の高層大気(電離層)に多く存在するイオンで、この輝線の強さを測定すると高層大気の温度が分かります。
木星の可視光線画像に、今回得られた赤外線スペクトルの輝度を重ねて描いたイラスト。赤からオレンジ、黄、白に向かうほど温度が高いことを表している。極域のオーロラが発生する領域が最も高温で、その熱エネルギーが風によって赤道へと運ばれ、木星全体の大気を暖めている。(Credit: J. O'Donoghue(JAXA) /Hubble/NASA/ESA/A. Simon/J. Schmidt) |
これでは木星全体でどのように温度が変化しているのかを理解することは難しく、異常高温を引き起こす熱源が何であるかの手掛かりを得ることができませんでした。
これを改善するため、今回の研究では以下の二段階のアプローチがとられています。
まず、ケックII望遠鏡の高性能を利用して木星の表面温度の計測点数を増やしました。
次に、計測値の不確定性が5%以下の場合にのみ、その値を最終的な木星マップに反映することとしています。
このアプローチにより研究チームが作成したのは、異なる空間分解能をもつ5つのマップでした。
最も高い分解能のものは、木星表面の緯度2度×経度2度の領域での平均気温からなるマップ。
そこから解像度を下げて、経度4度×緯度4度、6度×6度、8度×8度、10度×10度の領域での平均気温マップも作成しています。
さらに、最高分解能で作成したマップの計測結果の不確定性が高い場合には、より低い分解能での不確定性の低い値を代わりに採用。
これにより、可能な限り高い空間分解能を追求しつつ不確定性の排除も行い、分析に最適なマップを作成しています。
データを注意深く抽出してマッピング、分析するのに何年もかかったそうです。
最終的に出来上がったのは、1万を超える個別のデータポイントからなる温度マップでした。
オーロラが上層大気を加熱している
この温度マップから明らかになったのは、木星の高層大気はオーロラが発生する高緯度領域が最も高温で、そこから赤道に向かって温度が低くなることでした。このことが示唆しいるのは、高緯度の領域で加熱された大気が惑星風によって低い緯度へと運ばれているということ。
そう、木星の上層大気を高温にしている大元のエネルギー源はオーロラということになるんですねー
オーロラが上層大気を加熱しているのではないかという説は、これまでの研究にもありました。
でも、これまでの木星大気の温度モデルによると、高緯度地域から赤道に向かう風は木星の速い自転の影響で西へと曲げられてしまい、木星大気全体を温めることはできないとされています。
今回の観測では、木星の全球温度モデルの精度が向上したおかげで、このような惑星風の折れ曲がりは実際には起こっていないことが分かりました。
研究チームでは、オーロラが増光したときに高温領域が低緯度へと伸びていき、木星大気の過熱が強まる様子もとらえています。
すでに、日本の惑星分光観測衛星“ひさき”の観測によって、太陽風が強まると木星の磁場が圧縮されてオーロラが増光することは分かっていました。
今回のケック望遠鏡による観測で、それが大気の過熱につながることも判明したことになります。
オーロラが惑星の大気を加熱しているという証拠は、木星以外の巨大ガス惑星でも得られています。
(参照:太陽光による加熱は少ないはず… なぜ土星の上層大気は高温なのか?)
今回の発見は、木星の“エネルギー危機”を解決する有力な手掛かりになりそうです。
ただ、一方で惑星風の発生の仕方は様々な条件で変わるので、実際にオーロラが巨大ガス惑星の大気を加熱する詳細なメカニズムは、惑星ごとに異なっているのかもしれません。
今回の研究成果の紹介動画。可視光で観測された木星が表示された後、木星高層大気での赤外線の輝き(オーロラ)の様子がイメージ図で重ねられている。高層大気の温度は、高温から低温へ、白から黄、オレンジ、赤と表現されている。オーロラ領域は最も高温の領域で、風によって熱がオーロラ領域からどのように運ばれ木星高層大気全体の加熱につながっているかを表している。最後は、実際のデータに基づき、温度スケール入りで観測した全球での高層大気温度分布が示されている。(Credit: J. O'Donoghue(JAXA) /Hubble/NASA/ESA/A. Simon/J. Schmidt) |
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