“H-IIA”ロケット29号機が、
テレサット社の通信衛星“テルスター12ヴァンテージ”を搭載して、
2015年11月24日に打ち上げられることになりました。
この29号機では「高度化」と呼ばれる、
打ち上げ能力を向上させるための改良が、
初めて本格的に適用されることになるんですねー
海外受注としては初の静止衛星
打ち上げ予定日は2015年11月24日で、
時間帯は15時23分から17時7分(日本時間)の間で設定されています。
また延期した際の予備期間として確保されているのは、
11月25日から12月31日まで。
そして、予備期間中の打ち上げ時間帯は、
打ち上げ日ごとに設定されることになります。
打ち上げる衛星は、
衛星通信大手のテレサット社(カナダ)の新型通信衛星“テルスター12ヴァンテージ”。
海外から受注した商業打ち上げとしては、
2012年打ち上げの韓国“アリラン3号”以来2例目なんですが、
静止衛星は初めての事例になります。
“テルスター12ヴァンテージ”は、
欧州のエアバス・ディフェンス&スペース社が製造を担当した衛星。
52基のKuバンド・トランスポンダーを搭載し、
西経約15度の静止軌道から、南米や大西洋地域、欧州、中東、アフリカに対して、
通信や放送サービスを提供します。
打ち上げ時の質量は4900キロで、設計寿命は15年が予定されています。
過去最長のミッション
“H-IIA”ロケットは、
まず第1段エンジン“LE-7A”と固体ロケットブースター(SRB-A)に点火して離昇し、
1分56秒後に“SRB-A”を分離します。
今回使われる“H-IIA”の204形態は“SRB-A”を4基装備しているので、
分離は2基ずつに分けて行われることになります。
その後は“LE-7A”だけで飛行を続け、
打ち上げから6分40秒後に燃焼を終えて第2段と分離、
続いて第2段エンジン“LE-5B-2”に点火されます。
“LE-5B-2”は、まず4分ほど燃焼して停止。
続いて10分ほど慣性飛行した後、2回目の燃焼を行います。
第2回燃焼は約4分間続き、
それが終わると約4時間にわたって慣性飛行をします。
そして打ち上げから4時間22分45秒後に、第3回燃焼を1分弱ほど行って停止、
その直後に衛星を分離することになります。
分離時点での軌道は、
地表から最も近くなる近地点で高度約3131キロ、
最も遠くなる遠地点で高度約3万5586キロ、
軌道傾斜角(赤道からの傾き)は19.2度。
離昇から衛星分離までは4時間26分56秒にもなり、
H-IIAロケットはもちろん、日本のロケットにとっても、
過去最長のミッションになるんですねー
高度化の目的
今回の“H-IIA”ロケット29号機では、
「高度化」と呼ばれる、より使いやすいロケットを目指した改良策が、
初めて本格的に採用されます。
たとえば、これまでの“H-IIA”では、
通信や放送でよく使われる静止衛星の打ち上げ能力が、
他国のロケットと比べて劣っていました。
その理由は、静止衛星が乗る軌道“静止軌道”にあります。
“静止軌道”は、赤道上空(緯度0度)の高度約3万5800キロのところにあり、
地球の自転とほぼ同期しています。
地球から衛星、また逆に衛星から地球を見ると、
相手が静止しているかのように見えることから、そう呼ばれているんですねー
この“静止軌道”への距離的な問題から、
多くのロケットが“静止軌道”に衛星を直接投入することはできず、
その一歩手前の“静止トランスファー軌道”というところに投入しています。
ただ“静止トランスファー軌道”は、
高度や赤道からの軌道の傾きが“静止軌道”からずれているので、
その差を埋めて“静止軌道”に乗り移るのに必要となるのが、
衛星側でのエンジン噴射です。
そして、ロケットが投入する“静止トランスファー軌道”と、
最終的にたどり着かなければならない“静止軌道”との「差」が小さければ小さいほど、
衛星にとっては負担が軽く済むということになります。
ところが、“H-IIA”が打ち上げられる種子島宇宙センターは、
北緯約30度にあるので、この「差」が大きくなってしまうことに…
なので条件の悪い“静止トランスファー軌道”にしか衛星を投入できませんでした。
一方、商業打ち上げでライバルにあたる欧州の“アリアン5”ロケットは、
赤道直下の南米ギアナから打ち上げることができます。
そう、条件の良い“静止トランスファー軌道”に投入することが可能なんですねー
他のロケットも性能を上げるなどして、
少しでも衛星にとって優しい“静止トランスファー軌道”に入れられるよう、
工夫をしています。
つまり同じ衛星を“H-IIA”で打ち上げた場合には、
「他のロケットで打ち上げた場合に比べ、衛星の推進剤を多く使ってしまう」
っという問題があり、このことは衛星の寿命にかかわることになります。
他にも、
「他国のロケットを基準にして作られた衛星が、“H-IIA”では打ち上げられない」
という問題もありました。
そこで高度化では、ロケットの第2段エンジンや機体に改良を施し、
「これまでより長い時間の運用を可能にする」
「エンジンの燃焼開始と停止を3回繰り返し出来るようする」
などにより、これまで衛星が負担していた軌道を変えるのに必要な推進剤の一部を、
ロケット側で肩代わりしようとしています。
これにより、他国のロケットで打ち上げた場合と、
ほぼ同じ条件の軌道に衛星を送ることが可能になります。
ただ、打ち上げられる衛星の質量は小さくなってしまいます。
他の改良として、
打ち上げ時の振動や分離時の衝撃を小さくし衛星への負担を低減、
地上のレーダー局を頼らない飛行による地上インフラ設備の減少などなど…
とにかく、これまでより使いやすい“H-IIA”になることが目指されています。
こうした「高度化」の技術は、これまでの打ち上げの中で実証試験が行われたり、
また一部に関しては、先行的に搭載されて使われたりしています。
でも、高度化における改良点のほとんどすべてが使用されるのは、
今回の打ち上げが初めてとなります。
なので、今回の商業打ち上げは、実証試験も兼ねているといえます。
打ち上げが成功すれば、
“H-IIA”と他国とのロケットの間にあった格差が、
埋まったことが実証できます。
さらに、これまでの打ち上げ実績を加えて大きな付加価値が付けば…
商業打ち上げの受注に、はずみがつくかもしれませんね。
こちらの記事もどうぞ ⇒ 情報収集衛星光学5号機の打ち上げに成功 H-IIAロケット
テレサット社の通信衛星“テルスター12ヴァンテージ”を搭載して、
2015年11月24日に打ち上げられることになりました。
この29号機では「高度化」と呼ばれる、
打ち上げ能力を向上させるための改良が、
初めて本格的に適用されることになるんですねー
海外受注としては初の静止衛星
打ち上げ予定日は2015年11月24日で、
時間帯は15時23分から17時7分(日本時間)の間で設定されています。
また延期した際の予備期間として確保されているのは、
11月25日から12月31日まで。
そして、予備期間中の打ち上げ時間帯は、
打ち上げ日ごとに設定されることになります。
打ち上げる衛星は、
衛星通信大手のテレサット社(カナダ)の新型通信衛星“テルスター12ヴァンテージ”。
海外から受注した商業打ち上げとしては、
2012年打ち上げの韓国“アリラン3号”以来2例目なんですが、
静止衛星は初めての事例になります。
“テルスター12ヴァンテージ”は、
欧州のエアバス・ディフェンス&スペース社が製造を担当した衛星。
52基のKuバンド・トランスポンダーを搭載し、
西経約15度の静止軌道から、南米や大西洋地域、欧州、中東、アフリカに対して、
通信や放送サービスを提供します。
打ち上げ時の質量は4900キロで、設計寿命は15年が予定されています。
H-IIA F29コア機体 |
過去最長のミッション
“H-IIA”ロケットは、
まず第1段エンジン“LE-7A”と固体ロケットブースター(SRB-A)に点火して離昇し、
1分56秒後に“SRB-A”を分離します。
今回使われる“H-IIA”の204形態は“SRB-A”を4基装備しているので、
分離は2基ずつに分けて行われることになります。
その後は“LE-7A”だけで飛行を続け、
打ち上げから6分40秒後に燃焼を終えて第2段と分離、
続いて第2段エンジン“LE-5B-2”に点火されます。
“LE-5B-2”は、まず4分ほど燃焼して停止。
続いて10分ほど慣性飛行した後、2回目の燃焼を行います。
第2回燃焼は約4分間続き、
それが終わると約4時間にわたって慣性飛行をします。
そして打ち上げから4時間22分45秒後に、第3回燃焼を1分弱ほど行って停止、
その直後に衛星を分離することになります。
分離時点での軌道は、
地表から最も近くなる近地点で高度約3131キロ、
最も遠くなる遠地点で高度約3万5586キロ、
軌道傾斜角(赤道からの傾き)は19.2度。
離昇から衛星分離までは4時間26分56秒にもなり、
H-IIAロケットはもちろん、日本のロケットにとっても、
過去最長のミッションになるんですねー
H-IIAの1号機 |
高度化の目的
今回の“H-IIA”ロケット29号機では、
「高度化」と呼ばれる、より使いやすいロケットを目指した改良策が、
初めて本格的に採用されます。
たとえば、これまでの“H-IIA”では、
通信や放送でよく使われる静止衛星の打ち上げ能力が、
他国のロケットと比べて劣っていました。
その理由は、静止衛星が乗る軌道“静止軌道”にあります。
“静止軌道”は、赤道上空(緯度0度)の高度約3万5800キロのところにあり、
地球の自転とほぼ同期しています。
地球から衛星、また逆に衛星から地球を見ると、
相手が静止しているかのように見えることから、そう呼ばれているんですねー
この“静止軌道”への距離的な問題から、
多くのロケットが“静止軌道”に衛星を直接投入することはできず、
その一歩手前の“静止トランスファー軌道”というところに投入しています。
ただ“静止トランスファー軌道”は、
高度や赤道からの軌道の傾きが“静止軌道”からずれているので、
その差を埋めて“静止軌道”に乗り移るのに必要となるのが、
衛星側でのエンジン噴射です。
そして、ロケットが投入する“静止トランスファー軌道”と、
最終的にたどり着かなければならない“静止軌道”との「差」が小さければ小さいほど、
衛星にとっては負担が軽く済むということになります。
ところが、“H-IIA”が打ち上げられる種子島宇宙センターは、
北緯約30度にあるので、この「差」が大きくなってしまうことに…
なので条件の悪い“静止トランスファー軌道”にしか衛星を投入できませんでした。
一方、商業打ち上げでライバルにあたる欧州の“アリアン5”ロケットは、
赤道直下の南米ギアナから打ち上げることができます。
そう、条件の良い“静止トランスファー軌道”に投入することが可能なんですねー
他のロケットも性能を上げるなどして、
少しでも衛星にとって優しい“静止トランスファー軌道”に入れられるよう、
工夫をしています。
つまり同じ衛星を“H-IIA”で打ち上げた場合には、
「他のロケットで打ち上げた場合に比べ、衛星の推進剤を多く使ってしまう」
っという問題があり、このことは衛星の寿命にかかわることになります。
他にも、
「他国のロケットを基準にして作られた衛星が、“H-IIA”では打ち上げられない」
という問題もありました。
そこで高度化では、ロケットの第2段エンジンや機体に改良を施し、
「これまでより長い時間の運用を可能にする」
「エンジンの燃焼開始と停止を3回繰り返し出来るようする」
などにより、これまで衛星が負担していた軌道を変えるのに必要な推進剤の一部を、
ロケット側で肩代わりしようとしています。
これにより、他国のロケットで打ち上げた場合と、
ほぼ同じ条件の軌道に衛星を送ることが可能になります。
ただ、打ち上げられる衛星の質量は小さくなってしまいます。
他の改良として、
打ち上げ時の振動や分離時の衝撃を小さくし衛星への負担を低減、
地上のレーダー局を頼らない飛行による地上インフラ設備の減少などなど…
とにかく、これまでより使いやすい“H-IIA”になることが目指されています。
こうした「高度化」の技術は、これまでの打ち上げの中で実証試験が行われたり、
また一部に関しては、先行的に搭載されて使われたりしています。
でも、高度化における改良点のほとんどすべてが使用されるのは、
今回の打ち上げが初めてとなります。
なので、今回の商業打ち上げは、実証試験も兼ねているといえます。
打ち上げが成功すれば、
“H-IIA”と他国とのロケットの間にあった格差が、
埋まったことが実証できます。
さらに、これまでの打ち上げ実績を加えて大きな付加価値が付けば…
商業打ち上げの受注に、はずみがつくかもしれませんね。
こちらの記事もどうぞ ⇒ 情報収集衛星光学5号機の打ち上げに成功 H-IIAロケット