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“アルマ望遠鏡”の大規模探査データから、観測史上最古の“隠れ銀河”を131億年前の宇宙で発見

2021年09月30日 | 銀河・銀河団
国立天文台や早稲田大学、広島大学の研究者を中心とした国際研究チームが、“アルマ望遠鏡”の大規模探査による観測データの中から、約130億年前の宇宙でチリに深く埋もれた銀河を複数発見しました。

そのうち1つは、チリに埋もれた銀河として見つかったものの中で最古の銀河。

今回発見されたような銀河は、すばる望遠鏡などを用いた観測で発見することは難しく、初期の宇宙にどれほど存在するのか、これまで全く分かっていませんでした。

今回の発見が示しているのは、宇宙の歴史の初期においても数多くの銀河がチリに深く隠されていて、いまだ発見されないままになっていること。

このような銀河の発見は、宇宙の初期における銀河の形成や進化をより統一的に理解する上で重要になるようです。

初期の宇宙にある銀河の観測

過去20年以上にわたり、世界中の研究者が“すばる望遠鏡”や“ハッブル宇宙望遠鏡”などを用いて遠方にある銀河の探査を行ってきました。

光が有限の速さでやってくることから、遠方銀河を探査することで初期の宇宙にあった銀河の姿を直接とらえることができます。

そして、それらの大規模な探査により見つかっているのが、ビッグバンから10億年以内の宇宙の初期に存在した多数の銀河でした。
さらに、宇宙の初期に銀河がどのように形成・進化してきたのかについての研究が大きく進んできました。

このような宇宙の初期にある銀河の大規模探査で観測されてきたものがあります。

それは、銀河に含まれる太陽の数十倍程度の質量を持った大型の星から放射される明るい紫外光です。

宇宙の膨張によって、遠方の天体からやってくる光の波長は伸びることになります。
なので、“赤方偏移”宇宙の初期にある銀河から放たれた紫外光は、地球で観測する際には可視光や近赤外線になります。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

ただ、この紫外光には銀河に含まれるチリによって大きく吸収・散乱されるという性質があるんですねー

このチリは、銀河内部で星が世代交代することによって作り出されます。
なので、銀河で過去にどのような星形成活動があったのかによってチリの量が変わってきます。

一方、内部で放たれた紫外光のほとんどが大量のチリに吸収・散乱されてしまうようなチリに埋もれた銀河の場合、可視光や近赤外線を用いた観測でも見つけることができません。

でも、初期の宇宙でこれまでに見つかっているチリに埋もれた銀河もあります。
それは、天の川銀河の1000倍以上といった激しいペースで星形成を行っている極めて稀な銀河に限られていました。

そのため、130億年ほど前の宇宙に存在する若くて星形成活動が比較的低調な銀河の大多数はチリにはあまり隠されておらず、感度の良い可視光や近赤外線の観測を行うことで検出が可能だと考えられてきました。

初期の宇宙にはチリに埋もれて見つかっていない銀河がたくさんある

国立天文台アルマ望遠鏡プロジェクトと早稲田大学理工学術院総合研究所、広島大学宇宙科学センターを中心とした国際研究チームは、“アルマ望遠鏡”による大規模探査プロジェクト“REBELS”で観測された銀河の研究を進めていました。

研究を進めるうちに、偶然こチリに埋もれた銀河を初期の宇宙で発見することになります。

“REBELS”の本来の目的は、130億年程度前の宇宙に存在したと考えられる近赤外線で非常に明るい40個の銀河を観測し、チリからの放射と炭素イオンの輝線の探査を行うことでした。

そして、研究チームが“REBELS-12”と“REBELS-29”という2つの銀河の観測データを調査している時でした。
それぞれ本来の観測対象としていた銀河に加えて、そこから少し離れた場所からもチリからの放射と炭素イオンの輝線が非常に強く放たれていることに気付くんですねー
既知の遠方銀河“REBELS-12”、“REBELS-29”と、そこから少し離れた場所で発見されたチリに埋もれた銀河“REBELS-12-2”、“REBELS-29-2”。アルマ望遠鏡で観測した炭素イオンからの放射を緑色、チリからの放射をオレンジ色で、ハッブル宇宙望遠鏡などで観測した近赤外線を青色で表している。既知の遠方銀河では、近赤外線や炭素イオン及びチリからの放射、いずれも検出されているのに対して、今回アルマ望遠鏡で発見された2つの銀河は近赤外線では検出されなかった。これらの銀河は、チリに深く埋もれていると考えられる。
既知の遠方銀河“REBELS-12”、“REBELS-29”と、そこから少し離れた場所で発見されたチリに埋もれた銀河“REBELS-12-2”、“REBELS-29-2”。アルマ望遠鏡で観測した炭素イオンからの放射を緑色、チリからの放射をオレンジ色で、ハッブル宇宙望遠鏡などで観測した近赤外線を青色で表している。既知の遠方銀河では、近赤外線や炭素イオン及びチリからの放射、いずれも検出されているのに対して、今回アルマ望遠鏡で発見された2つの銀河は近赤外線では検出されなかった。これらの銀河は、チリに深く埋もれていると考えられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, ESO, Fudamoto et al.)

驚くべきことに、これらの偶然見つかった新たな放射源の場所には、感度の良い“ハッブル宇宙望遠鏡”を用いても何も見えませんでした。

つまり、これらの放射が示しているのは、“ハッブル宇宙望遠鏡”などが観測することのできる紫外光をほとんど放っていないチリに埋もれた銀河からやってきたものであること。
そのうちの1つ、“REBELS-12”の近傍に見つかった銀河は、チリに埋もれていた銀河の中では観測史上最古となる131億年前のものになるそうです。

さらに驚かされたのは、今回見つかった銀河が、これまで塵に埋もれた銀河に見られたような爆発的な星形成は行っていなかったこと。
星形成活動は、130億年程度前の宇宙でこれまで多数見つかっていた銀河と同程度のものでした。

つまり、今回見つかった銀河は、チリに埋もれているということ以外は、これまで知られている典型的な銀河と変わりないということです。

このことが示しているのは、典型的な星形成活動を行う“普通”の銀河であっても、宇宙のこれほど初期においてチリに埋もれて見えなくなってしまうことがあること。
まだ多数の銀河が、チリに埋もれて未だに発見されていないのではないか、ということを示唆していました。

今回の研究では、これまでの観測から全く見つけられなかったような種類の銀河が宇宙の初期に存在していることが分かりました。

この発見は、今まで考えられてきた宇宙の初期における銀河の形成の理論に大きな影響を及ぼすものです。

このような銀河がどの程度存在し、どのように銀河全体の進化と形成に影響してきたのでしょうか?
このことを、より統一的に理解するには、さらなる観測を待つ必要があります。

“アルマ望遠鏡”による探査や、2021年内に打ち上げ予定の“ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡”による大規模な銀河の探査と、それらによる銀河の形成に関する統一的な理解の進歩が待たれますね。
今回の観測結果の様式図。“ハッブル宇宙望遠鏡”による近赤外線の観測画像(左)では、中心やや下に銀河が見えている。これは右下のイメージ図のようなこれまで存在が良く知られていた若い銀河。一方、今回の“アルマ望遠鏡”による観測では、“ハッブル宇宙望遠鏡”では何も見えていない領域に、チリに深く埋もれた銀河(右上のイメージ図)を新たに発見している。
今回の観測結果の様式図。“ハッブル宇宙望遠鏡”による近赤外線の観測画像(左)では、中心やや下に銀河が見えている。これは右下のイメージ図のようなこれまで存在が良く知られていた若い銀河。一方、今回の“アルマ望遠鏡”による観測では、“ハッブル宇宙望遠鏡”では何も見えていない領域に、チリに深く埋もれた銀河(右上のイメージ図)を新たに発見している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope)



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惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか? アルマ望遠鏡による惑星誕生現場の大規模観測

2021年09月23日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回、東京大学と国立天文台の国際研究チームが実施したのは、5つ若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”を対象としたアルマ望遠鏡による大規模計画でした。
そして、惑星の形成現場において重水素を含む分子とイオン化率の分布を、これまでになく高解像度に描き出すことに成功したんですねー

特に重水素を含む分子は、地球に存在する水の起源を探るカギになる物質です。

なので、惑星が生まれる現場で重水素の分布を普遍的に明らかにすることは、太陽系の天体と太陽系外惑星の誕生過程を理解する上で欠かせないステップになるようです。

原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤

様々な化学組成を持っている太陽系の天体たち。

なぜ、このような化学組成に違いが出ているのでしょうか?

天体は原始太陽を取り巻くガスとチリの円盤“原始惑星系円盤”の中で作られます。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。

この“原始惑星系円盤”は場所によって化学組成や物理状態が異なっているんですねー
なので、それぞれの天体が作られた場所によって化学組成が違ってくるわけです。

このことから、“原始惑星系円盤”内での化学組成や物理状態を明らかにすることは、惑星形成の基礎になるわけです。

“原始惑星系円盤”内での分子の分布

“原始惑星系円盤”には多様な分子が含まれていて、それぞれの分子は特定の波長の電波を放出しています。

この電波の多くは数ミリメートル程度の波長を持ち、アルマ望遠鏡で観測することができます。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。
若い星を取り巻く“原始惑星系円盤”のイメージ図。この円盤内でガスとチリが集積して惑星が形成される。“MAPS”では、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにしている。(Credit: M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)

今回の研究で実施されたのは、アルマ望遠鏡を用いた大規模観測計画“MAPS”。
“原始惑星系円盤”に含まれる分子が放つ電波を高解像度にとらえることを目指しているんですねー
MAPSはMolecules with ALMA at Planet-forming Scales(アルマ望遠鏡による惑星形成スケールでの分子研究)。

この計画で目標とされていたのは、およそ20種の分子の“原始惑星系円盤”内での分布を約15天文単位の解像度で描き出すこと。
観測されたのは、5つの若い星(おおかみ座IM星、ぎょしゃ座GM星、AS 209、HD 163296、NWC 480)の周囲にある“原始惑星系円盤”でした。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。

アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。
アルマ望遠鏡で撮像した若い星“AS 209”と“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。円盤内の分布が分子によって異なることが分かる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Cataldi et al./Aikawa et al.)

アルマ望遠鏡を使うことで見ることができたのは、惑星がまさに作られつつある現場で分子がどのように分布しているのか。
なかでも、地球上の生命の起源にも関連する窒素有機化合物の分布を調べることが、今回のプロジェクトのワクワクするポイントだったそうです。

これまでにも、“原始惑星系円盤”内での分子の分布を調べる研究は行われてきました。

でも、これほどの高解像度・高感度で多様な分子の分布を明らかにするのは今回が初めてのこと。
“MAPS”では、HC3N、CH3CN、c-C3H2などの複雑な有機分子の“原始惑星系円盤”における分布も明らかにしています。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。
アルマ望遠鏡で観測した若い星“HD 163296”の周囲の“原始惑星系円盤”。この画像ではHCNの分布を淡い部分まで強調して表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/D. Berry (NRAO), K. Öberg et al (MAPS))

さらに、“原始惑星系円盤”の内側の領域では想像していたよりも10倍から100倍も多くの大型有機分子が発見されています。

その科学的特徴は太陽系の彗星に似ています。
大型有機分子は、宇宙に豊富にある一酸化炭素などの単純な炭素含有分子と生命の素になるより複雑な分子の間をつなぐ存在として、とても重要になります。
“MAPS”の観測結果は20本の論文にまとめられアメリカの天体物理専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ”のMAPS特集号として出版される。

惑星形成にも大きく影響を及ぼすイオン分子の分布

今回の研究では、“原始惑星系円盤”におけるイオン分子の分布も明らかになっています。

今回のHCO+分子の観測によると、“原始惑星系円盤”の半径100天文単位より外側のイオン化率は、中心星表面の磁気活動で生じたX線が円盤上空のガスを電離させていると考えると良く説明できました。
一方で半径100天文単位より内側のイオン化率は低くなっていました。

これは、“原始惑星系円盤”の内側ほどガスの密度が高くなっているためだと考えられます。

“原始惑星系円盤”のガス中にイオン分子が多いと、磁場の影響で円盤からガスが流れ出したり、円盤の回転の勢いが弱められてガスが中心星に向かって落下しやすくなったりと、円盤内での惑星形成にも大きな影響を及ぼすことになります。

今回、N2D+の観測からは、円盤の中心面付近のイオン化率は天体によって異なる可能性も示唆されていて、今後より多くの円盤の観測も待たれます。

高い感度と解像度を持つアルマ望遠鏡を使った“原始惑星系円盤”の観測結果。
さらに、彗星など太陽系物質の分析・観測結果を比較することで、私たちが住む太陽系の形成過程の謎に迫っていけるはずです。


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高密度で星が存在する銀河の中心領域“銀河バルジ”にも、恒星から遠く離れた軌道を回る冷たい系外惑星は存在している

2021年09月12日 | 宇宙 space
重力マイクロレンズ法による系外惑星の観測結果を利用した研究で、恒星から遠い軌道を回る木星のような冷たい惑星は天の川銀河内に普遍的に存在していることが示されました。

系外惑星の探査方法

太陽系以外の恒星の周りを回る系外惑星が初めて見つかったのが1995年のこと。
それ以来、系外惑星の研究は世界中で活発に行われていて、今では4500個以上の惑星が見つかっています。

それらのほとんどが、ドップラーシフト法やトランジット法で発見されたもの。
ただ、探査方法の制約から、これらの惑星のほとんどが太陽から3000光年以内の恒星の周りを回る惑星に限られているんですねー
ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出。
トランジット法では、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。

天の川銀河の半径は約5万光年なので、銀河スケールで見ると発見されてきた系外惑星は、ほぼ太陽系と同じ位置に存在しているといえます。

では、天の川銀河内のもっと離れた別の場所に惑星は存在するのでしょうか?

たとえば、太陽系から約2万光年ほど離れた“銀河バルジ”と呼ばれる銀河の中心領域には、太陽系近傍の10倍以上の密度で星が存在しています。

そのため、もし惑星が存在していたら周りの星から受ける影響も大きいはずです。
そのような環境にも惑星は存在するのでしょうか?

現在、この問いに答えることのできる唯一の手段が重力マイクロレンズ法による惑星探査で、日本でも大阪大学を中心に進められています。
天の川銀河を俯瞰したイメージ、右下は銀河バルジにある冷たい系外惑星のイメージ図。青の点々は、マイクロレンズ法の探査領域に存在する冷たい系外惑星の分布イメージ図。右上の明るい領域が銀河バルジ。
天の川銀河を俯瞰したイメージ、右下は銀河バルジにある冷たい系外惑星のイメージ図。青の点々は、マイクロレンズ法の探査領域に存在する冷たい系外惑星の分布イメージ図。右上の明るい領域が銀河バルジ。(Credit: Osaka University)

遠方の系外惑星までの距離

銀河バルジのような遠方の系外惑星を探す有効な方法として、重力マイクロレンズ法があります。
重力マイクロレンズ法とは、系外惑星の質量によって生じる重力レンズ効果の観測からレンズ源になっている惑星の存在を検出する手法。
現時点では主星から離れた土星より軽い系外惑星を検出できる唯一の方法になる。

この方法は、惑星の重力によるレンズ効果で向こう側の恒星の光が明るくなる現象から、惑星の存在を探るもの。
他の手法と違い、惑星系の主星の光を検出する必要が無いので、太陽系から遠く離れた“銀河バルジ”の惑星も見つけることが可能です。

でも、一方で惑星までの距離の測定が難しいという課題もあるんですねー

これまで、“銀河バルジ”に惑星は無い可能性を指摘した研究もありましたが、不正確な距離測定のデータに基づいていて、よく分かっていませんでした。

そこで今回、NASAゴダード宇宙飛行センターと大阪大学大学院理学研究科の研究チームが注目したのは“アインシュタイン角半径”でした。

“アインシュタイン角半径”は、重力マイクロレンズ法で見つかった系外惑星について、惑星系の質量と惑星系までの距離の兼ね合いで決まる物理量です。

この物理量はすべての惑星系に対して偏りのない測定ができ、不正確な測定結果を含む可能性をほぼ排除できるという利点があります。

研究チームでは、重力マイクロレンズ法で見つかった28個の惑星系に対して、測定された“アインシュタイン角半径”の分布と、天の川銀河の星のモデルから期待される“アインシュタイン角半径”の分布を比較。
銀河中心から太陽系近傍まで、徐々に惑星の存在率が変化するというモデルで観測結果を説明できるものを調べています。

これらの惑星系はすべて、主星から遠いところを公転する冷たい惑星でした。

その結果、たとえば銀河中心から3000光年(銀河バルジ内)の星は太陽系近傍の星と比較すると、0.3倍~1.5倍惑星を持ちやすいことが分かりました。

これまでに銀河バルジには惑星は存在しないという可能性も指摘されてきました。

でも、今回の研究が示していたのは、木星や海王星のような中心星から遠い軌道を持つ冷たい惑星が、銀河バルジから太陽系近傍までの広い範囲に存在していることでした。

銀河バルジには、100億歳程度の年老いた星が多く存在しています。

また、太陽系近傍に比べて星の数密度が非常に高いので、太陽系の惑星とは大きく異なる環境で惑星が形成され進化してできたと考えられます。

今回の研究成果が示唆しているのは、木星のような遠い軌道の冷たい惑星が、様々な環境下で形成され、長期間安定して存在できること。
このことは、惑星の形成過程や天の川銀河における惑星の形成史を解明する上で重要な手掛かりになるはずです。

ひいては、太陽系の形成プロセスや生命が存在する惑星がどれくらい宇宙に存在するのか? っといった問いの答えにもつながると期待されています。


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なぜNASAが選定したミッションは二つとも金星なのか?

2021年09月05日 | 金星の探査
今年の6月、NASAは“ディスカバリー計画”のミッション選定を発表しました。

そこで発表されたのは、2030年までに打ち上げ予定の金星に向かう二つのミッション…
なぜ、いまNASAは金星に向かおうとしているのでしょうか?

金星に向けた2つのミッション

NASAは“ディスカバリー計画”のミッション選定を今年の6月に発表しました。

予想外なことに2つのミッションはどちらも金星のもの。
2つの探査機は地球の内側を公転し、その大きさや質量が地球と似ていることから、しばしば地球の双子星と呼ばれる金星に向かうことになります。

専門家の多くが「NASAはそろそろ金星に戻るべき時だ」と感じていたこともあるのですが、それでも同時に二つの金星ミッションが選ばれたことは驚くべきことでした。
金星に到着する“VERITAS”(左)と“DAVINCI”(右)のイメージ図
金星に到着する“VERITAS”(左)と“DAVINCI”(右)のイメージ図(Credit: Lockheed Martin)
金星の大気や環境は地球とは全く異なっていて、金星には二酸化炭素を主体とする非常に分厚い大気があります。
この環境で2つのミッションでは、どのような活動をするのでしょうか。

1つ目は、金星の雲頂から地表までの大気の垂直構造に焦点を当てるミッション“DAVINCI”です。

“DAVINCI”では探査機が金星に到着すると、地表へ降下しながら大気の温度、気圧、および組成を測定するプロープを展開。
着陸前にはプロープが高分解能で金星の地表を撮像していきます。

ただ、金星地表の気温は約460度、気圧は90気圧にも達すると言われているので、着陸後の探査機は長く活動することは無いようです。

2つ目のミッション“VERITAS”では、金星の地表と内部構造に焦点が当てられます。

“VERITAS”で明らかにするのは、火山活動や地球のテクトニクスのような地質学的現象が金星で起きている手がかりがあるかどうか。
オービター(周回機)を用いて金星を覆う厚い雲を透かし地表を観測することで、金星の立体地形図を作成していきます。

これら2つのミッションから得られるデータは、2015年12月から金星の雲頂面における気象現象を観測し続けているJAXAの金星探査機“あかつき”による観測と合わせることで、金星の全体像を明らかにしてくれるはずです。
“あかつき”のイメージ図。
“あかつき”のイメージ図。(Credit: 池下章裕、ISAS/JAXA)

ディスカバリー計画

低コストで効率の良いミッションを目指し1992年に創設されたのが“ディスカバリー計画”です。

すでに、NASAでは12のミッションを実施しているんですねー

NASA惑星科学部門では、宇宙探査ミッションをその予算と規模により4つのクラスに分けています。

“ディスカバリー計画”が属しているのは、キューブサットよりも少し大きい程度の探査機を扱う最小カテゴリの“SIMPLExプログラム”と、大規模な“ニュー・フロンティア計画”や“フラッグシップ”というカテゴリの間。
科学者自身が想像力を深く掘り下げ、太陽系の謎を解き明かすための新しい方法を見つけ出す機会を生み出すミッションが“ディスカバリー計画”になります。

目標は、より小さいリソースと短い開発スパンで実現可能な小規模ミッション、そして優れた成果を得ることです。

大規模な2つのカテゴリでは、10年おきに行われる調査結果(ディケーダル・サーヴェイと呼ばれているもの)や、NASAの戦略的目標を参照したコミュニティ全体による推奨に基づいて調査目標が定められています。

それに対して、“ディスカバリー計画”でミッションの行き先を決定するのは、純粋にそれぞれのミッション提案チームの好奇心だけ。

当初、“ディスカバリー計画”に2つの金星ミッションが選ばれたことは驚かれました。
でも、「2つの探査機が一緒になった方がバラバラに実施する場合より多くの科学的成果を得られる機会になる」っとすぐに認識されるようになったそうです。

これとよく似ているのが、NASAの“オシリス・レックス(OSIRIS-REx)”とJAXAの“はやぶさ2”の小惑星からのサンプルリターンミッション。
それぞれが採取したサンプルを交換する協定を結んで成果を最大化させようとしています。

つまり、惑星がどのように進化してきたかといった複雑な疑問を解明するためにも、いくつかのデータセットを得ることは不可欠なことになるということです。

並行してミッションを進めることで違った側面に関する情報を得ることもできます。
これにより、新たな発見があれば見間違いでないことを確認することもできそうです。

なぜNASAは金星に戻ることにしたのか

“DAVINCI”と“VERITAS”は、NASAが30年ぶりに金星に向かうミッションになります。

NASAの金星ミッションは1990年代の探査機“マゼラン”が最後…
それでも、金星地表のデータとしていまでも価値の高いものを提供しています。

これまでにも、お隣の惑星である金星に再び探査機を送り込むミッションコンセプトはいくつかありました。
でも、どれも採択には至らなかったんですねー

では、なぜNASAはこのタイミングで金星に“戻る”ことにしたのでしょうか?

人々が納得する宇宙探査とは、“ストーリー”が伴っているものです。

それは、太陽系にある他の世界を訪れることで、私たちが知りたいと本気で思っていることにどれだけ近づくことができるかだと思います。

NASAが継続的に火星探査を行うのは、現生であれ過去のものの痕跡であれ、“赤い惑星に居住する生命”がテーマだからです。
こういった話題は専門家だけでなく、私たちを魅了します。

金星への興味は、科学コミュニティでの研究から明らかになってきたように、その生い立ちにあります。

地球の双子星と呼ばれる金星のストーリーとは地球のものであり、いかに生命居住可能性が維持されるのかといったハビタリティに関するものになります。
そう、私たちが地球表層環境の進化や気候変動の影響を含めた将来のことを解明しようとするときに役立つのが金星の研究なんですねー

金星が地球の双子星と呼ばれるのは、サイズ、質量、太陽からの距離という点で似ているからです。
でも、この2つの惑星の状況は大きく異なっています。

金星を研究し、金星と地球がそれらの進化においていつどのように道を違えたのかを解明していくことは、私たちの星の理解を深めることにも役立つはずです。

さらに、金星での発見は地球の理解に役立つだけではありません。

太陽系の外に目を向けると、太陽以外の恒星を公転する系外惑星の発見が爆発的に増えてきています。

地球や金星に近いサイズの惑星も発見されていて、これらが生命居住可能性を維持できるかどうかという疑問は重要な研究対象になりつつあります。

すぐそこにある太陽系の惑星について知れば知るほど、遠く離れた系外惑星の世界のことをきちんと考えることができるようになるわけです。

確かに金星では、大気中にホスフィン(リン化水素。リンと水素による無機化合物、PH3)検出の可能性が示されたことにより、これが金星の雲の中の生命に由来する可能性についての議論を呼び、地球とは異なる形の生命居住可能性とは何か、という問題意識に至っています。

科学的な議論や関心の大きな的になったこの不確かな発見が教えてくれたこと。
それが、「謎を解き明かすべく再び金星に戻りたい」っと科学者たちが考えていたことでした。
NASAの“DAVINCIプローブ”が金星表面から数キロの高度で自由落下する様子(イメージ図)。“DAVINCI”は金星で初めて大気圏の最も深い下層での撮像と大気成分の計測を行う。
NASAの“DAVINCIプローブ”が金星表面から数キロの高度で自由落下する様子(イメージ図)。“DAVINCI”は金星で初めて大気圏の最も深い下層での撮像と大気成分の計測を行う。(Credit: NASA GSFC visualization by CI Labs Michael Lentz and others)

2つのミッションから見えてくるもの

それでは、“DAVINCI”と“VERITAS”からの最大の発見は何になるのでしょうか?

推測は難しいのですが、“DAVINCI”の降下プローブによる観測からは、金星大気中の希ガスやその他の組成の正確な測定値が得られると期待されています。

そうすれば、金星がなぜ地球と違い“暴走温室効果”に見舞われたのかを解明できるはずです。

希ガスの“非反応性”から、それが惑星が形成されてからそのままの状態で保存されてきた分子化石ということができます。

したがって、地球上に存在する希ガスと金星に存在する希ガスの量を比較することで、惑星形成当初は2つの惑星が同様の状態にあったのか、もしくは金星の運命は最初から決まっていたのかを解明できるかもしれません。

また、“DAVINCI”では地球の大陸と同等のものだと考えられている金星のテッセラと呼ばれる領域の画像を、初めて高分解能で撮像することになっています。

“VERITAS”で得られる高分解能の地形図、合成開口レーダーの画像、赤外線観測を連携すれば、金星の表層部分の堅い岩盤“リソスフェア”の性質や進化を多角的に迫ることができ、さらに金星が現在も地質学的に活動的であるか、そしてテクトニクスが作用しているのかを解明できるかもしれません。
レーダーを使用し高度および地理的特徴をとらえた高分解能マップを作成するNASAの金星周回機“VERITAS”のイメージ図。
レーダーを使用し高度および地理的特徴をとらえた高分解能マップを作成するNASAの金星周回機“VERITAS”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
地球とよく似た大きさですが、現在の金星は地質学的な動きは鈍いようです。
火山活動やリソスフェアが現在も動いているという証拠はほとんどありません。

地球では、こういった活動が生命を維持するのに適した環境を保つため不可欠なんですねー

では、金星は地質学的な活動を一度も発達させてこなかったのでしょうか?
それとも、一度は地球と似ていたのに、そうではなくなったのでしょうか?
まだ活動が残っていて、そこから金星での地質活動史を読み解くことができるのでしょうか?

テッセラは金星の地表の中でも最も古い領域と考えられていて、“DAVINCI”のプローブが降下しながら高分解能で撮像する画像には、ここがかつては海に囲まれた大陸であった証拠が見つかる可能性があります。

一方、金星の周りを周回する“VERITAS”では、レーダー観測により得られた情報をもとに金星全球の3次元地形図を作成します。

さらに“VERITAS”は、岩石から放射される近赤外線を測定して、地殻の動きや火山のホットスポットを探すことができます。

こういったデータセットを組み合わせることで、金星の過去と現在の状態が見えてくるはずです。

これから長期的に注目される惑星

金星にまつわる魅力的なストーリーが虜にしたのは、NASA“ディスカバリー計画”の審査員だけではありませんでした。

NASAが“DAVINCI”と“VERITAS”の選定を発表した1週間後のこと。
ヨーロッパ宇宙機関“ESA”も“EnVision”というミッションで金星に「戻る」ことを明らかにしています。

ミッションの採択や投資は科学に基づくということはもちろん重要ですが、そこに関わる人たちにも深く関わることです。
そう、多くのエンジニアや科学者が、技術を開発し、探査機を作り、ミッションを運用することになるんですねー

運用が終了した後も、データの解析やその意味するところを解明するのに何年も、もしくは何十年も費やすことになります。

そこで期待されるのは、これらのミッションが次世代、さらにその先へと金星のコミュニティが作られるための核になること。
さらに、世界中で金星のストーリーに興味・関心が広がれば、多くのアイデアがいっぱいに詰まった真のグローバルな協力の機会が生み出されそうです。

NASAにもヨーロッパ宇宙機関にも金星ミッションがあること。
さらに、他機関のミッションにNASAやヨーロッパ宇宙機関が提供する機器が搭載されること。
そして、JAXAには現在運用中の探査機“あかつき”があります。

これらのミッションはこれから何十年もの間、金星探査を推進することのできる国際的で多様性のある、持続的なコミュニティを作るチャンスを与えてくれることになります。

金星は、これから長期的に注目されることになり、そこから新しい知見がもたらせるはずです。
どんな発見があるのでしょうか? ワクワクしますね。
ヨーロッパ宇宙機関の金星ミッション“EnVision”のイメージ図。“EnVision”が解明しようとしているのは地球と金星が異なる進化をした理由。
ヨーロッパ宇宙機関の金星ミッション“EnVision”のイメージ図。“EnVision”が解明しようとしているのは地球と金星が異なる進化をした理由。(Credit: ESA)


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