NASAの系外惑星探査衛星“TESS”が、はるか彼方で起こった増光現象をとらえました。
それは、3億7500万光年彼方の銀河の中心にある超大質量ブラックホールに恒星が破壊される現象。
“TESS”は初めてこのタイプの現象をとらえたそうですよ。
ブラックホールに恒星が引き寄せられバラバラに破壊される現象
とびうお座の方向約3億7500万光年彼方にある銀河“2MASX J07001137-6602251”。
ここで起こった増光現象を、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”がとらえました。
この銀河の中心部には、太陽質量の約600万倍という超大質量ブラックホールがあります。
“TESS”が検出したと考えられているのは、超大質量ブラックホールに恒星が引き寄せられバラバラに破壊される“潮汐破壊現象”。
“TESS”が“潮汐破壊現象”を観測したのは今回が初めてのことでした。
今回の増光現象がとらえられたのは1月29日のこと。
オハイオ州立大学が運営する遠隔操作望遠鏡ネットワーク“ASAS-SN”によって検出され、“ASASSN-19bt”と名付けられています。
“ASAS-SN”は世界20か国に設置されているリモート望遠鏡のネットワーク。
超新星など様々な突発現象をいち早くとらえることを目的としている。
このとき、南米チリのラスカンパナス天文台で観測を行っていたアメリカ・カーネギー研究所のチームは、“ASAS-SN”からの速報を受け取るとすぐに天文台の2基の望遠鏡を“ASASSN-19bt”に向けています。
同時に要請したのが、NASAのガンマ線バースト観測衛星“スウィフト”やヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”などによる追観測でした。
増光がとらえられたのは常時観測されているエリア
幸いなことに、“ASASSB-19bt”は“TESS”の“継続観測領域”と呼ばれるエリアで起こった現象でした。
“TESS”は全天を26個のセクターと呼ばれる領域に分けて、1つのセクターを約27日間にわたって観測。
この観測は2018年7月から始まり、約2年で全天を一巡する計画です。
“TESS”は、長い時間をかけて大量の恒星の明るさを監視しています。
地球から見て惑星が恒星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探っているんですねー
“TESS”のセクターは、黄道の極から黄道近くまでをカバーする短冊状のエリアになっていて、27日ごとに隣のセクターに視野を向けて観測します。
ただ、黄道北極と黄道南極の付近はセクターが重なっているので常時観測されることになります。
この領域を“継続観測領域”と呼びます。
今回の“ASASSN-19bt”は、黄道南極に近いとびうお座で起こったため、南の“継続観測領域”に入っていました。
そこで研究チームでは“TESS”の過去の観測データを確認。
すると、“ASAS-SN”の検出より1週間も早い1月21日から“ASASSN-19bt”の増光がとらえられていたんですねー
この現象が“継続観測領域”の外で起こっていたら、増光の始まりを見逃していたのかもしてません。
“潮汐破壊現象”をこれほど早い段階で観測できたことは今までありませんでした。
そう、“TESS”による“継続観測領域”のデータによって、今回の“潮汐破壊現象”がまさに明るくなり始めた瞬間を見ることができという訳です。
複数の天文台や天文衛星がコラボして分かってくること
“ASAS-SN”の地上観測で今回の現象を素早く同定できたので、最初の数日間で多波長の追観測を行うことができました。
この初期段階のデータは“潮汐破壊現象”の物理過程をモデル化するのに非常に役立つことになります。
“TESS”で得られる早い段階の観測データによって、
これまでよりもずっとブラックホールに近い場所の光を見ることができた。
さらに、“TESS”のデータから分かってきたのは、“ASASSN-19bt”の増光が非常になめらかだったということ。
このことは、銀河中心で起こる別のタイプのバーストや超新星の増光と、“潮汐破壊現象”により起こる増光とを区別できることを示してくれました。
ガンマ線バースト観測衛星“スウィフト”で観測された紫外線のデータから分かったこともあります。
それは、“ASASSN-19bt”では数日間で温度が摂氏約4万度から2万度まで下がったことでした。
“潮汐破壊現象”で、こうした早い段階での温度低下が起こるというのは、いくつかのモデルで予測されていました。
それが、今回初めて観測されたことになります。
また、“ASASSN-19bt”では“スウィフト”とX線天文衛星“XMMニュートン”のどちらの観測でもX線の放射が弱いという特徴が見られました。
これも“潮汐破壊現象”で典型的にみられる特徴なんですが、紫外線が大量に放射されるのにX線が弱い原因については、まだ完全には分かっていません。
“潮汐破壊現象”は非常にまれな現象で、天の川銀河と同規模の銀河では1万~10万年に一度しか起こりません。
超新星爆発が1つの銀河で100年に一度くらいの頻度で起こるのに比べると非常に数が少ないんですねー
これまでに観測された“潮汐破壊現象”は40件ほどしかありません。
予測では、“TESS”が全天の観測を終える最初の2年間で遭遇する“潮汐破壊現象”は1~2個ほど。
なので、“TESS”の観測が始まったばかりの時期に“ASASSN-19bt”を観測できたこと、しかも長い期間観測できる“継続観測領域”の中で起こったことは本当に特別なことだと言えます。
増光現象は他にもあります。
世界各地の天文台と天文衛星がコラボすれば、それらについてもより深く知ることができるのかもしれませんね。
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それは、3億7500万光年彼方の銀河の中心にある超大質量ブラックホールに恒星が破壊される現象。
“TESS”は初めてこのタイプの現象をとらえたそうですよ。
ブラックホールに恒星が引き寄せられバラバラに破壊される現象
とびうお座の方向約3億7500万光年彼方にある銀河“2MASX J07001137-6602251”。
ここで起こった増光現象を、NASAの系外惑星探査衛星“TESS”がとらえました。
この銀河の中心部には、太陽質量の約600万倍という超大質量ブラックホールがあります。
“TESS”が検出したと考えられているのは、超大質量ブラックホールに恒星が引き寄せられバラバラに破壊される“潮汐破壊現象”。
“TESS”が“潮汐破壊現象”を観測したのは今回が初めてのことでした。
今回観測された潮汐破壊現象“ASASSN-19bt”のイメージ図。 超大質量ブラックホール(左上)のそばを通過した恒星が強い潮汐力によってバラバラに破壊され、 残骸がガスの帯となってブラックホールを取り巻いている。 ガスはブラックホールに落ち込みながら互いに衝突して高温になり、強い光を放射する。 |
オハイオ州立大学が運営する遠隔操作望遠鏡ネットワーク“ASAS-SN”によって検出され、“ASASSN-19bt”と名付けられています。
“ASAS-SN”は世界20か国に設置されているリモート望遠鏡のネットワーク。
超新星など様々な突発現象をいち早くとらえることを目的としている。
このとき、南米チリのラスカンパナス天文台で観測を行っていたアメリカ・カーネギー研究所のチームは、“ASAS-SN”からの速報を受け取るとすぐに天文台の2基の望遠鏡を“ASASSN-19bt”に向けています。
同時に要請したのが、NASAのガンマ線バースト観測衛星“スウィフト”やヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”などによる追観測でした。
増光がとらえられたのは常時観測されているエリア
幸いなことに、“ASASSB-19bt”は“TESS”の“継続観測領域”と呼ばれるエリアで起こった現象でした。
“TESS”は全天を26個のセクターと呼ばれる領域に分けて、1つのセクターを約27日間にわたって観測。
この観測は2018年7月から始まり、約2年で全天を一巡する計画です。
“TESS”は、長い時間をかけて大量の恒星の明るさを監視しています。
地球から見て惑星が恒星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探っているんですねー
“TESS”の観測エリア。 “TESS”には4台のカメラが搭載されていて、4つの画像が黄道の極から黄道近くまでを短冊状にカバーしている。 このモザイク画像(セクター)が27日ごとに黄経方向に移動し、約2年で全天をカバーする。 黄道北極・黄道南極付近はセクターが重なるので常時観測されることになる。 |
ただ、黄道北極と黄道南極の付近はセクターが重なっているので常時観測されることになります。
この領域を“継続観測領域”と呼びます。
今回の“ASASSN-19bt”は、黄道南極に近いとびうお座で起こったため、南の“継続観測領域”に入っていました。
そこで研究チームでは“TESS”の過去の観測データを確認。
すると、“ASAS-SN”の検出より1週間も早い1月21日から“ASASSN-19bt”の増光がとらえられていたんですねー
この現象が“継続観測領域”の外で起こっていたら、増光の始まりを見逃していたのかもしてません。
“潮汐破壊現象”をこれほど早い段階で観測できたことは今までありませんでした。
そう、“TESS”による“継続観測領域”のデータによって、今回の“潮汐破壊現象”がまさに明るくなり始めた瞬間を見ることができという訳です。
複数の天文台や天文衛星がコラボして分かってくること
“ASAS-SN”の地上観測で今回の現象を素早く同定できたので、最初の数日間で多波長の追観測を行うことができました。
この初期段階のデータは“潮汐破壊現象”の物理過程をモデル化するのに非常に役立つことになります。
“TESS”で得られる早い段階の観測データによって、
これまでよりもずっとブラックホールに近い場所の光を見ることができた。
さらに、“TESS”のデータから分かってきたのは、“ASASSN-19bt”の増光が非常になめらかだったということ。
このことは、銀河中心で起こる別のタイプのバーストや超新星の増光と、“潮汐破壊現象”により起こる増光とを区別できることを示してくれました。
ガンマ線バースト観測衛星“スウィフト”で観測された紫外線のデータから分かったこともあります。
それは、“ASASSN-19bt”では数日間で温度が摂氏約4万度から2万度まで下がったことでした。
“潮汐破壊現象”で、こうした早い段階での温度低下が起こるというのは、いくつかのモデルで予測されていました。
それが、今回初めて観測されたことになります。
また、“ASASSN-19bt”では“スウィフト”とX線天文衛星“XMMニュートン”のどちらの観測でもX線の放射が弱いという特徴が見られました。
これも“潮汐破壊現象”で典型的にみられる特徴なんですが、紫外線が大量に放射されるのにX線が弱い原因については、まだ完全には分かっていません。
“潮汐破壊現象”は非常にまれな現象で、天の川銀河と同規模の銀河では1万~10万年に一度しか起こりません。
超新星爆発が1つの銀河で100年に一度くらいの頻度で起こるのに比べると非常に数が少ないんですねー
これまでに観測された“潮汐破壊現象”は40件ほどしかありません。
予測では、“TESS”が全天の観測を終える最初の2年間で遭遇する“潮汐破壊現象”は1~2個ほど。
なので、“TESS”の観測が始まったばかりの時期に“ASASSN-19bt”を観測できたこと、しかも長い期間観測できる“継続観測領域”の中で起こったことは本当に特別なことだと言えます。
増光現象は他にもあります。
世界各地の天文台と天文衛星がコラボすれば、それらについてもより深く知ることができるのかもしれませんね。
系外惑星探査衛星“TESS”が初めて観測した“潮汐破壊現象”の説明動画。 超大質量ブラックホールが恒星を引き寄せバラバラに破壊する現象。 |
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