宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

微粒子表面の模様を調べると、小惑星イトカワの歴史が分かってきた

2016年06月30日 | 宇宙 space
探査機“はやぶさ”が2010年6月に地球に持ち帰った小惑星イトカワの微粒子。

この微粒子の表面模様を分析したところ、
微粒子表面に40億年以上昔から現在に至るまでの歴史が刻まれていることが、
分かったんですねー
小惑星探査機“はやぶさ(MUSES-C)”


微粒子の表面模様

探査機“はやぶさ”は2005年11月に、
小惑星イトカワの“ミューゼスの海”と呼ばれる領域から微粒子約1000個を採取し、
2010年6月に地球に戻ってきました。

以来、微粒子を用いた様々な分析が行われていて、
JAXAの研究チームでは微粒子の表面に記録された模様を調べ、
イトカワの歴史などを探ることを試みています。

分析された微粒子の大きさは、
数十マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1)で、
その表面の模様はナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)程度しかありませんでした。

でも、X線マイクロトモグラフィー(X線CT)や、
走査型電子顕微鏡を用いて微粒子表面の微細構造を詳細に観察。

すると、これまでは1種類しかないと考えられていた表面模様のパターンが、
複数存在することが分かってきます。

その模様のパターンは、
  同心円状に発達した明瞭な階段模様のもの、
  粒子の破断でできた平行な階段状の模様がみられるもの、
  微粒子同士がこすれて表面が摩耗したもの、
  太陽風にさらされ宇宙風化が進んだもの、
など少なくとも4種類あったんですねー
ナノメートルスケールで見えたイトカワ微粒子の模様。


模様から分かるイトカワの歴史

まず同心円状の模様は、
かつてイトカワに高温だった時期があることを示しているようです。

現在のイトカワの大きさは直径約500メートル。
でも、45億年前にイトカワの母天体が形成された時には、
直径が約20キロもあったと考えられています。

この母天体の内部が、他天体との衝突などによって摂氏800度ほどに加熱され、
特徴的な模様が微粒子表面に刻まれることになったんですねー

その後、およそ13億年前に母天体は大規模な衝突によって破壊され、
その破片が集積して現在のイトカワになります。

さらに、その後も天体衝突は続き、
レゴリスの形成やレゴリス内の粒子の粉砕が起こって、
破断面にその歴史が記されることに…

表面が摩耗したのは、最近100万年程度にレゴリス流動が起こり続けて、
微粒子がかき混ぜられ作られたと考えられます。

そして宇宙風化が進んだものは、
1000年間ほど太陽風にさらされて水素やヘリウムの蓄積が続き、
ブリスター(水ぶくれ状)構造になったからだそうです。

今回の研究で示されたのは、
微粒子の表面を観察することで、小惑星の歴史をたどることができること。

貴重な微粒子を壊すことなく、
数十億年から1000年程度昔まで天体の進化が調べられるんですねー
小惑星イトカワの微粒子表面には、
40億年以上昔から現在に至るまでの歴史が刻まれている。

イトカワの微粒子分析以外に、
今後のサンプルリターンミッションでも、この手法は活用できるはずです。

ナノメートルスケールの模様を詳しく調べることで、
今度はどんな歴史が見えてくるのか…

太陽系の進化や惑星の形成についても、明らかになるかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ リュウグウへ向けて! “はやぶさ2”が追加イオン・エンジン運転で軌道修正に成功


探査車が発見した予想外のものとは? かつて火星の火山は高温な活動をしていた

2016年06月29日 | 火星の探査
火星のゲール・クレーターで調査を続けている探査車“キュリオシティ”が、
鱗珪石(りんけいせき)という鉱物を発見しました。

鱗珪石は高温の火山活動で作られる鉱物なので、
火星には存在しないはずなんですねー

それは、火星では高温の火山活動は起こらなかったと考えられているからです。

なのに鱗珪石が存在するということは、
ひょっとすると火星の歴史を考え直す必要があるのかもしれません。


火山の活動度合い

火星には火山地形が無数にあり、
過去に活発な火山活動があった事はほぼ確実視されています。

でも、火山活動の活発度合いについては、
これまで低いものだと見られていたんですねー

それは火星が、地球と比較して小さな惑星で、
地質活動もその分控えめだと考えられてきたからでした。


爆発的なプロセス

NASAの火星探査車“キュリオシティ”は、
2012年8月に火星に着陸して以来、移動しながら火星の調査を行ってきました。

昨年の7月には、
ゲール・クレーター内の“バックスキン”と名付けられた場所を調査。

この場所にある堆積岩を掘り、採取したサンプルを分析したところ、
鱗珪石という鉱物が見つかります。
昨年の8月に撮影された“キュリオシティ”自分撮り。
中央下の白い部分は岩を掘ってできた粉。

“バックスキン”の堆積岩は泥岩で、過去に水があった痕跡を示す岩石です。

この“バックスキン”にドリルで穴を開け、
採取した岩石試料をα粒子X線分光計分析により結晶物質の調べています。

“バックスキン”の試料を採取するために開けられた穴(画像下)。

すると重量比で40%の結晶性物質の内、14%は鱗珪石と呼ばれる鉱物でした。

そして14%もある鱗珪石の量が重要になります。

それは鱗珪石が形成される条件が「低圧環境で870℃以上の高温」であり、
地球では鹿児島県の硫黄島などのように、
極めて二酸化ケイ素に富んだ高温の火山に見られるからです。

でも火星では、こうした火山活動は起こっていない、
もしくは起こっていても小規模だったと考えられているんですねー

なので今回の発見は、
火星の火山は、過去には予想以上に高温な活動をしていた可能性を示していて、
火星の歴史を考え直すいい機会を、あたえてくれているのかもしれません。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 火星の「動く砂丘」 探査車“キュリオシティ”がパノラマ撮影


史上最古の酸素を発見! 場所は131億光年彼方の宇宙に存在する銀河

2016年06月28日 | 宇宙 space
アルマ望遠鏡の観測により、131億年前の宇宙に存在する銀河に、
電離した酸素ガスが初めて検出されたんですねー

このことは、いまだ謎である宇宙再電離を探る、
重要な手がかりになると期待さるそうですよ。


重元素の量と宇宙の歴史

138億年前、ビッグバン直後の宇宙には、
最も軽い元素になる水素と、2番目に軽いヘリウム、
そして3番目に軽いリチウム(ごく微量)しか存在していませんでした。

それは、酸素や炭素といったより重い元素は、
星の内部で起こる核融合反応によって作られ、超新星爆発などによって宇宙空間にばら撒かれて、
次世代の星の材料になるからです。

こうして星の生死が繰り返されることで、星の内部の重元素が増えていくので、
その量は星形成の歴史を反映するものになります。

なので、とくに宇宙最初期の重元素を探すことは、
宇宙で最初の星形成の歴史や銀河の誕生について調べることにつながるんですねー


電離した酸素

今回の研究では、宇宙最初期の重元素を探すためアルマ望遠鏡を使用。

2012年に、すばる望遠鏡によって発見された、
くじら座の方向にある銀河“SXDF-NB1006-2”を観測しています。

この観測で研究チームが注目したのは電離した酸素で、
酸素からの光が検出可能であることをコンピュータシミュレーションで確認したうえで、
観測を実施しています。

すると銀河から、酸素に由来する電波が検出されます。

この結果は、
今から約131億年前、宇宙誕生後およそ7億年という最初期の宇宙に、
酸素が存在していたことを証明するもので、
人類が目にする最古(すなわち最遠方)の酸素になりました。

検出された電波は、
強いエネルギーを受けて電子を2個失った状態の酸素からのもの。

このことから、
この銀河には太陽の数十倍の質量を持つ巨大な星が多数存在していて、
強烈な光を放って酸素を電離していると考えられます。
“SXDF-NE1006-2”のイメージ図。
巨大な若い星たちが放つ強烈な光によってガスが電離されている様子。

観測された酸素の量はシミュレーションの予想通り。

ただ、チリが少ない(チリからの電波が検出されない)という予想外の結果や、
炭素も検出できず…
この結果は“宇宙再電離”を考えるうえで非常に重要な点になるようです。


宇宙再電離

宇宙再電離とは、宇宙の誕生から数億年後、
宇宙に満ちていた水素原子が電離された現象のことです。

天体からの光によって引き起こされたと考えられているのですが、
それがどんな天体なのかは、はっきりとは分かっていないんですねー

今回の観測対象である銀河のようにチリや炭素が少ないと、
銀河中の巨大星から放たれた強烈な光が銀河の外にまで達し、
広範囲のガスを電離させることになります。

なので、今回電離した酸素が見つかった銀河“SXDF-NE1006-2”は、
宇宙再電離を引き起こした光源のプロトタイプなのかもしれません。

今回の研究成果は、
宇宙再電離を研究する上での第一歩に過ぎないのかもしれません。

アルマ望遠鏡の高い解像度で観測すれば、
銀河における電離酸素ガスの分布や運動の様子も見えるはずで、
銀河の性質を議論する上で非常に役に立つ情報になります。

どんな銀河が宇宙再電離を引き起こしたのか?
明らかにする重要な手がかりが、今後の観測で得られればいいですね。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 水素の霧が晴れたのかも? 131億年前に突然現れた銀河たち


太陽を2つ持つ惑星に生命は存在するか? 水が液体で存在できる領域に惑星を発見

2016年06月27日 | 宇宙 space
系外惑星探査衛星“ケプラー”の観測により、
2つの恒星が互いを回り合う「連星」の周りを回る系外惑星が発見されました

この系外惑星は“ケプラー1647b”といい、
「連星」を回る系外惑星としては最大のものになり、
1100日以上をかけて2つの太陽の周りを回っているようです。
連星を回る系外惑星(イメージ図)
小さな黒い天体が“ケプラー1647b”


連星を回る“周連星惑星”

はくちょう座の方向約3700光年先にある“ケプラー1647”は、
太陽より少し大きい星と、少し小さい星からなる連星系です。

この連星系で今回見つかったのが系外惑星“ケプラー1647b”で、
年齢は約46億歳の地球とほぼ同じ約44億歳でした。

連星を回る惑星は“周連星惑星”と呼ばれ、太陽を2つ持つことになります。

  周連星惑星というのは、
  単一の恒星の代わりに、連星系の周囲を公転する惑星のこと。


銀河系の約半数が連星系の恒星と見られているのですが、
連星の周囲は重力が複雑に作用するので、
惑星は形成されにくいと考えられているんですねー

今回、トランジットという方法で“ケプラー1647b”を見つけています。

トランジット法とは、
惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)する時に見られる、
わずかな減光から惑星の存在を検出するです。

そして、トランジットを起こしている“周連星惑星”としては、
これまで発見されている中では最大で、木星と同じ位の質量と半径を持っていました。

ただ、2つの恒星が互いを回り合う連星系では、
一方の恒星がもう一方の恒星の前を通過する食連星も起こるので、
惑星の通過と見間違えてしまうんですねー

なので連星系でのトランジット法を用いた惑星発見は難しくなります。
これまでに系外惑星探査衛星“ケプラー”が発見した
“周連星惑星”の大きさの比較


地球外生命は存在する?

“ケプラー1647b”は、
これまでに確認されている系外惑星の中では、
最長の周期でで2つの太陽の周りを回っています。

この長い公転周期が、
「大きな惑星なのに、これまで発見されてこなかった」
ことの原因になっているのかもしれません。

また“ケプラー1647b”は、連星から約4億キロ離れています。

太陽系でいえば小惑星帯のあたりになり、
これまで見つかったどの“周連星惑星”よりも主星から遠いんですねー

この距離が、
ちょうど連星系“ケプラー1647”のハビタブルゾーン内になるので、
地球外生命を想像してしまいますよね。

  ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)とは、
  主星からの距離が、水が液体の状態で存在できる温度をもつ領域のこと。


スターウォーズのルーク・スカイウォーカーの故郷、
太陽を2つ持つ惑星タトゥイーンに似ていますが、
“ケプラー1647b”は木星のようなガス惑星なので、
生命が存在できる可能性はなさそうです。

まぁー 惑星の周りに大きな衛星でも存在すれば…
そこには生命に適した環境があるのかもしれません。

ただ、“ケプラー1647b”を重要な存在としているのは、
理論的に存在が予測されている長周期の“周連星惑星”の、
氷山の一角だからです。

もちろん、生命を育める環境があるかどうかも重要ですが…


こちらの記事もどうぞ ⇒ 連星系に惑星が存在する可能性

大質量星形成領域でジェット駆動のバウショックを観測

2016年06月26日 | 宇宙 space
大質量星形成領域“S255”の水メーザー観測から、
アウトフローやU字形のメーザー分布が検出されました。

このことは、低質量星形成領域で見られるジェット駆動のアウトフローが、
大質量星形成領域でも見られることを示す重要な観測結果だそうです。


“VERA”での高精度な測定

大質量星形成は低質量星形成と同じ仕組みなのか?
っという疑問は、天文学における大きなテーマになっています。

でも、大質量星は低質量星に比べて数が少なく、
これまで観測的研究があまり進んでいませんでした。

今回の研究では、大質量星形成と低質量星形成の関係を明らかにするため、
国立天文台を中心とした国内の電波望遠鏡ネットワーク“VERA”を用いて、
オリオン座の方向の大質量星形成領域“S255”を観測。

“VERA”では遠く離れた電波望遠鏡で同時観測を行うことで、
口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能が得られるんですねー

なので、天体の距離と運動を高精度に測定することができます。
NASAの赤外線天文衛星“スピッツァ-”がとらえた大質量星形成領域“S255”。
(赤外線3色合成による疑似カラー画像)


ジェット駆動のアウトフロー

2008年11月から2010年8月にかけて行った観測から得られたのは、
“S255”の大質量原始星の周りでの物質の流出“アウトフロー”と、
U字形のメーザー分布でした。

そして、このU字形のメーザー分布は、
低質量星形成領域の研究でよく用いられる、
“ジェット駆動バウショック”モデルを使えば、
上手く再現できることも分かります。

  “ジェット駆動バウショック”とは超音速で運動している物体が、
  亜音速に減速される場所で発生するU字形の衝撃波。


大質量原始星は十字の位置にある。
矢印はメーザーの運動の向きを表す(青が観測者に向かう方向)。
右の拡大図で黒の実線がジェット駆動バウショックモデルを示していて、
観測された空間分布とよく一致している。

今回の観測結果は、
低質量星形成領域で見られるジェット駆動のアウトフローが、
大質量星形成領域でも見られることを示す重要なものです。

なので今後期待されるのは、
他の大質量星形成領域も“VERA”で観測することで、
大質量星形成と低質量星形成に関する個々の物理過程の共通点・相違点が、
解明されることなんですねー


こちらの記事もどうぞ ⇒ 秒速1100キロで移動する星のバウショック