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彗星コマ中のアンモニア分子はどこから来たのか? 別の分子などから二次的に放出されているのかも

2024年04月30日 | 宇宙 space
今回の研究では、C/2014 Q2(Lovejoy)彗星で観測されたアンモニア分子(NH3)を生成する謎の未同定分子について、彗星コマとガスのシミュレーション結果と観測結果との比較から、太陽紫外線での光解離寿命を約500秒とする結果を得ています。

近年、彗星核にはアンモニウム塩(※1)が、窒素原子のキャリアとして豊富ではないかと指摘されています。
でも、今回の研究結果においては、シアン化アンモニウム(NH4CN)や塩化アンモニウム(NH4Cl)といった単純なアンモニウム塩の存在は否定的と言えます。
※1.アンモニウム塩は化学式ではNH4Xと表記される分子種の総称。XにはCNやClなどが入る。
それでは、どのような分子がアンモニア分子の生成起源となっているのでしょうか?
今後の分光実験による研究の進展が望まれています。
この研究は、神山宇宙科学研究所・神山天文台の河北秀世教授(理学部)の研究グループが進めています。
本研究の成果は、2023年10月23日(世界時)発行のアメリカ天文学術誌“The Astronomical Jpurnal”のオンライン版に、“Direct Simulation Monte Carlo Modeling of Ammonia in Comet C/2014 Q2 (Lovejoy)”として掲載されました。
図1.2015年3月10日に撮影されたC/2014 Q2(Lovejoy)彗星。(Credit: Michael Jaeger)
図1.2015年3月10日に撮影されたC/2014 Q2(Lovejoy)彗星。(Credit: Michael Jaeger)


彗星における比較的軽い3種類の元素の組成比

彗星は太陽系において最も始原的な小天体の一つとされ、炭素・酸素・窒素の比較的軽い3種類の元素の組成比が、太陽の組成比と非常に似ています。

ただ、過去の観測研究から分かっていたのは、炭素・酸素・窒素のうち窒素だけが若干の欠乏が見られること。
この窒素欠乏の謎は長らく未解決のままでした。

でも、2014年~2016年にかけてチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を詳しく探査したヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機“ロゼッタ”の観測により、その原因がアンモニウム塩にあるという結果を得ることになります。

つまり、窒素原子は、揮発性の高い氷に含まれるアンモニア分子やシアン化窒素(HCN)だけでなく、アンモニウム塩として固体の形でも彗星核に取り込まれていて、普段はガス化しにくいので観測されていないのではないかと考えた訳です。

では、他の彗星でも同じようなことが起こっているのでしょうか?


アンモニア分子の素となる物質

研究グループでは、ハワイ島マウナケアの山頂にある口径10メートルのケックII望遠鏡に搭載された近赤外線高分散分光器“NIRSPEC”を用いて、2015年にC/2014 Q2(Lovejoy)彗星を観測。
その結果、アンモニア分子は彗星核から直接放出されているのではなく、彗星コマ中で別の分子などから二次的に放出されているという観測結果を得ました。

本研究では、DSMC(Direct Simulation Monte Carlo)と呼ばれる計算技法を用いて、彗星コマのガス流を再現するシミュレーションを実施。
どのような分子からアンモニア分子が生成されているかを調べています。

この技法は、密度の高いガスから密度の低いガスまで統一的に扱うことができるボルツマン方程式を、直接解くための数値技法のひとつ。
希薄な大気中での地球帰還カプセルの大気抵抗の計算や、エンジンのガス燃焼のシミュレーションにも用いられています。

研究グループでは、C/2014 Q2(Lovejoy)彗星を模擬したシミュレーションの結果と、実際に観測されたアンモニア分子の分布の様子を比較。
すると、アンモニア分子の素となる物質は、太陽光による光解離現象(※2)に対して、500秒程度の寿命を持つことが分かりました。
※2.光解離は、紫外線などの十分なエネルギーを持つ光子を受けて分子が壊れること。
実際に、アンモニア分子の一部が彗星核から直接放出されていると仮定すると、500秒以上の寿命を持つと考えられます。

また、シアン化アンモニウム(NH4CN)や塩化アンモニウム(NH4Cl)といった、単純なアンモニウム塩が寄与していた可能性については、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の光解離で生成されるシアン化水素(HCN)や塩化水素(HCl)の空間分布との比較から否定的です。

今回の研究では、アンモニア分子の素となる物質の特定には至っていません。
でも、光解離に対する寿命に制限を付けたことで、実験室での起源物質調査が進むことが期待されます。
図2.彗星コマ中で光解離によりアンモニア分子が生成されるイメージ。(Credit: 京都産業大学)
図2.彗星コマ中で光解離によりアンモニア分子が生成されるイメージ。(Credit: 京都産業大学)


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小惑星の軌道を意図的に変更するミッションで予想外の結果! 少なくとも4個の岩が火星に衝突する可能性があるようです

2024年04月29日 | 太陽系・小惑星
小惑星の軌道を意図的に変更できるかどうかを検証したミッションがありました。
それは、NASAの小惑星軌道変更ミッション“DART”で、目標天体となった小惑星の衛星“ディモルフォス”の公転軌道を変更することに成功しています。

ただ、実験では事前に予測されていない結果をもたらしているんですねー
その一つが、幅数メートルの岩がいくつも飛び出したことでした。

今回の研究では、DARTミッションで飛び出したことが観測された37個の岩の軌道を追跡。
そのうち4個が、将来的に火星に衝突する可能性があることを突き止めています。

この分析結果は、地球や火星に衝突する小さな天体の起源を考察する上で、重要なものになるようです。
この研究は、地球近傍天体調整センター(NEOCC)のMarco Fenucciさんとイタリア国立天体物理学研究所(INAF)のAlbino Carbognaniさんたちの研究チームが進めています。
図1.ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”から飛び出した37個の岩(丸囲み中の公転)。直径は1~7メートルと推定されている。(Credit: NASA, ESA, David Jewitt(UCLA) & Alyssa Pagan(STScI))
図1.ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”から飛び出した37個の岩(丸囲み中の公転)。直径は1~7メートルと推定されている。(Credit: NASA, ESA, David Jewitt(UCLA) & Alyssa Pagan(STScI))


小惑星に人工物を衝突させて軌道を変化させるミッション

今から約6600万年前に起きた白亜紀末の大量絶滅は、小惑星の衝突によって引き起こされたという説が有力視されています。

もし、同じような天体衝突が起きれば、現在の文明は壊滅的なダメージを負うことになるので、喫緊の課題ではないにしても、天体衝突を回避する方法の模索が続けられています。

現在の技術で最も現実的な方法の一つは、人工物を高速で小惑星に衝突させて、その運動エネルギーで軌道を変化させるというもの。
NASAの小惑星軌道変更ミッション“DART”は、まさにこの手法が可能かどうかを調べるために行われたものでした。
図2.衝突前に撮影されたディモルフォスの表面(補正画像)。(Credit: DART, NASA / Edit: Eydeet)
図2.衝突前に撮影されたディモルフォスの表面(補正画像)。(Credit: DART, NASA / Edit: Eydeet)
DARTミッションで検証されたのは、65803番小惑星“ディディモス”の周りを公転する衛星“ディモルフォス”に探査機本体を衝突させて、その公転軌道を変化させられるかどうかでした。

ディモルフォスに探査機を衝突させたのは2022年9月26日のこと。
観測は宇宙と地上の両方で行われ、衝突の結果には予想外なものが含まれることになります。

その一つが公転軌道の縮小による公転周期の短縮です。
予測では約10分とされていましたが、実際には3倍以上の約33分にもなりました。

これほど予想がズレた理由として考えられるのは、ディモルフォスが一塊の岩ではなく、無数の小さな岩が緩く結合した構造をしていることです。
このような構造をしていると、衝突後の影響をシミュレーションで正確に推定することが困難になります。
図3.探査機がディモルフォスに衝突したシミュレーションの一例。(Credit: S. D. Raducan, et al.)
図3.探査機がディモルフォスに衝突したシミュレーションの一例。(Credit: S. D. Raducan, et al.)
予想外な結果は他にもあります。
それは、ディモルフォスから飛び散った岩でした。

ディモルフォスから飛び出した直径1~7メートルの岩の合計は37個もあり、それらはハッブル宇宙望遠鏡の観測により追跡されています。(※1)
これほど大きな岩が多数飛び出すことも、事前に予測されていないことでした。
※1.ただし観測能力の限界により、正確に推定可能な直径の最小値は4メートルとされている。
これらの岩は衝突時のエネルギーによって直接飛び出したのではなく、緩く結合した岩片で構成されているディモルフォス全体が衝突の衝撃によって揺さぶられた時の反動で飛び出したと考えられています。


少なくとも4個の岩が火星に衝突する可能性がある

今回の研究では、飛び出した岩の運命を確かめるために、2万年後までの公転軌道の変化を推定しています。

これほど小さな天体の公転軌道を正確に推定することは、通常なら不可能です。
でも今回の場合は、ディモルフォスという明確な基準点と、そこから飛び出した正確な時間が分かっていたので、より正確な公転軌道が計算でき、この研究を進めることを可能としています。
図4.ディモルフォスから飛び出した岩が、地球(左側)および火星(右側)の中心に対して、どれくらい接近するのかをシミュレーションしたもの。火星に対しては、その半径以下まで接近する。つまり、衝突する可能性が示されている。(Credit: M. Fenucci & A. Carbognani)
図4.ディモルフォスから飛び出した岩が、地球(左側)および火星(右側)の中心に対して、どれくらい接近するのかをシミュレーションしたもの。火星に対しては、その半径以下まで接近する。つまり、衝突する可能性が示されている。(Credit: M. Fenucci & A. Carbognani)
37個の岩について、誤差を考慮してシミュレーションを繰り返して分かったのは、少なくとも今後2万年間は地球に衝突しないこと。(※2)
でも火星には、少なくとも4個の岩が衝突する可能性があることが分かりました。
※2.最も近づくのは約2500年後で距離は約300万キロ。
そのうちの2個は約6000年後に、残りの2個は約1万5000年後に衝突する可能性があります。

直径数メートルの岩が衝突した場合、地球では大気圏で完全に燃え尽きるか、小さな破片しか残らないはずです。
でも、火星には地球の約0.75%という薄い大気しかないので、ほとんど抵抗を受けずに落下する可能性があります。

本研究では、この影響も検証していて、岩が比較的頑丈な場合は、ほとんど質量を失わずに地表へ落下。
地表には、直径200~300メートルものクレーターが形成されると予測しています。

ただ、ディモルフォスの岩が頑丈かどうかは明確になっていません。
予想以上に脆い場合は空中で砕けてしまい、地表に明確な影響が現れない可能性もあります。

火星の地表には、今のところ生命は見つかっていませんが、数千年後には人類が火星に基地を設けている可能性は十分にあります。
そして、このような直径数メートルの小さな天体を観測することは非常に困難です。

遠い将来の話になるものの、十分な大気に保護されていない火星の地表にある基地は、たとえ小さな天体であっても衝突リスクを抱えることになりますね。


地球に落下する天体の起源

今回の研究結果は、地球に落下する天体の起源に関しても、興味深い洞察を与えてくれています。

地球には毎日数万個もの天体が落下していて、そのうちの10個から50個ほどは隕石として地表に到達していると推定されています。
これらの隕石の起源については、伝統的に火星と木星の間にある小惑星帯の小惑星が起源だと見なされてきました。

でも、観測能力の向上によって、地球のすぐ近くを通過する“地球近傍小惑星”の存在が明らかになると、地球近傍小惑星から飛び出した破片が隕石として落下しているのではないかという説が出てきます。

例えば、落下前に宇宙空間で発見された珍しい小惑星の一つ“2018 LA(隕石名はモトピ・パン隕石)”です。

当初、“2018 LA”は小惑星帯にある4番小惑星“ベスタ”が起源だと考えられていました。
でも、その後の研究で、地球近傍小惑星である直径約500メートルの454100番小惑星“2013 BO73”が起源ではないかとする説も出てきています。
図5.小惑星“2018 LA”の破片の一つ(モトピ・パン隕石)。当初は小惑星帯に起源があると考えられていたが、後の研究では地球近傍小惑星を起源としているという説が出ている。(Credit: SETI Institute)
図5.小惑星“2018 LA”の破片の一つ(モトピ・パン隕石)。当初は小惑星帯に起源があると考えられていたが、後の研究では地球近傍小惑星を起源としているという説が出ている。(Credit: SETI Institute)
ある研究では、直径約100メートルの小惑星に直径約1メートルの小天体が衝突した時の衝撃で拡散した破片の一部が地球へ落下したものが、時々地表で隕石として見つかると推定してます。
その割合は、火球の約4%とするものもあれば、見つかっている隕石の約40%、あるいは約70%とするものすらあります。

一方、DARTミッションでは、質量約570キロの探査機本体が直径約170メートル・質量約400万トンのディモルフォスに秒速約6.6キロで衝突した結果、直径数メートルの岩が複数飛び散っています。

この時のエネルギーは、直径約100メートルほどの小惑星に直径約1メートルの小天体が衝突する”いうシチュエーションの約16分の1ですが、それでも十分に似た状況が発生し得ることを示しています。

現在の技術では、直径約100メートルの小惑星でも単独で発見することは困難です。
まして、直径約1メートルの小天体を発見して正確な公転軌道を予測できたのは、事実上DARTミッションが初めての事例となります。(※3)
今回行われた岩の長期的な軌道予測が、地球で見つかる隕石の起源推定に影響を与えてくれるといいですね。
※3.地球に極めて接近し、あるいは衝突した一部の小惑星は、直径約数メートル程度だと推定されている。でも、こうした小惑星の観測回数は限られていて、その軌道は極めて荒くしか予測できないので、起源を推定するのは困難となる。


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なぜ、コロナはこんなに超高温になるのか? 熱以外の手段でエネルギーを伝える仕組み光遷移とその確率を上げる電弱ホール効果

2024年04月28日 | 太陽の観測
太陽の表面温度(※1)は5500℃なのに、数千キロ上空の“コロナ(太陽コロナ)”の温度は100万℃にもなります。

なぜ、コロナはこんなに超高温になるのでしょうか?

このコロナが加熱されるメカニズムはまだ分からず…
“コロナ加熱問題”と呼ばれるこの謎の解明は、太陽研究における大きな課題になっています。
※1.太陽を含めた恒星の“表面”は、通常は不透明な部分の最表層部のことを指す。これは“光球”と呼ばれ視覚的な表面と一致する。
今回の研究では、“電弱ホール効果”と呼ばれる現象を通じて、コロナ加熱のカギは素粒子“ニュートリノ”が崩壊して“光子”となるとする理論を発表しています。
この研究は、北海道大学の石川健三さんと北海道科学大学の飛田豊さんの研究チームが進めています。


熱以外の手段でエネルギーをコロナへ伝える仕組み

地球から見て太陽が月に完全に隠される“皆既日食”では、黒い影のような月の周りに白い光の環を観察することができます。
この環は、ラテン語で冠を意味する“corona”に因んで“コロナ”と名付けられています。

コロナの正体は、太陽の外側を覆うプラズマ化した薄い大気。
その温度は100万℃以上にも達しているんですねー

でも、太陽の表面温度は5500℃なので、コロナは表面と比べると実に200倍も高温なことになります。

炎がその温度以上に空気を加熱することがないのと同じように、コロナの高温は太陽放射だけでは説明ができません。
なので、コロナの高温は、熱以外の手段でエネルギーが伝えられていることを示しています。

このエネルギーの伝達手段が大きな謎に包まれているので、これまでコロナの加熱をうまく説明できていませんでした。

長年有力視されている説には“波動説”(※2)と“磁気リコネクション説”(※3)の2つがあるのですが、どちらも観測された現象だけでは、コロナの温度上昇を十分に説明できないという問題を抱えていました。
※2.プラズマ内では音波に似た波が発生し、エネルギーを伝えることが知られている。太陽は巨大なプラズマの塊なので、光球内部のエネルギーが波を通じてコロナへと伝達しているのではないかという予測が波動説。波の発生は観測されているが、波のエネルギーをコロナの過熱に変換する機構が謎のままで、また温度上昇の一部しか説明できないという問題もある。

※3.太陽の磁場は太陽自身の活動によって、局所的に激しく捻じ曲げられる箇所がある。この捻じれが限界に達すると、逆向きの磁力線と繋ぎ変わると同時にエネルギーが解放される。このエネルギーがコロナが高温となる原因と予測しているのが磁気リコネクション説。磁場の捻じれの解消は、小規模な太陽フレア(ナノフレア)を伴うので観測で証明が可能。ただ、今のところはコロナを加熱するには到底足りないフレアしか観測されておらず、やはり温度上昇の一部しか説明できないという問題がある。
図1.2023年4月20日にオーストラリアのエクスマウスで観測された皆既日食。黒い太陽の周りにみられる白い輪がコロナ。(Credit: Mantarays Ningaloo, Australia/MIT-NASA Eclipse Expedition)
図1.2023年4月20日にオーストラリアのエクスマウスで観測された皆既日食。黒い太陽の周りにみられる白い輪がコロナ。(Credit: Mantarays Ningaloo, Australia/MIT-NASA Eclipse Expedition)


コロナを加熱する原動力は光遷移というニュートリノの崩壊にあった?

今回、研究チームが考えたのは、“電弱ホール効果”と呼ばれる現象を通じて、重いタイプの“ニュートリノ”が軽いタイプの“ニュートリノ”と“光子”に崩壊される過程が、コロナを加熱する原動力となっているのではないかとする理論でした。

ニュートリノは、宇宙を形作る基本要素となる“素粒子”の1グループ。
そのニュートリノは3種類に分かれていて(※4)、お互いにわずかながら質量が異なる関係にあります。
太陽の中心部では水素の核融合反応に伴って、大量のニュートリノ(太陽ニュートリノ)が放出されていることが知られています。
※4.ニュートリノのタイプは3種類、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノがある。ニュートリノの質量がゼロではなく、お互いに異なる質量の値を持つことは証明されているが、それぞれのタイプが具体的にどれくらいの質量をもつのかは判明していない。
光子とは、肉眼でも見える可視光線も含めた“電磁波”を粒子と考えた場合に対応する素粒子で、電気と磁気を統合した力“電磁相互作用”を伝える粒子(ゲージ粒子)です。
大雑把に言えば、私たちが物質を見たり物質に触れたりできるのは、電磁相互作用によって原子同士が相互作用しているためです。

でも、ニュートリノは電磁相互作用をしないので、通常は光子と相互作用をすることはありません。
ただ、“弱い相互作用”という力でのみ、他の物質と相互作用をする性質があります。(※5)
※5.ニュートリノは他に重力相互作用もするが、素粒子レベルの世界ではあまりにも弱い力なので無視される。
弱い相互作用は、太陽の中心部で発生する核融合反応や、ニュートリノが他の物質と相互作用するときなどに働く力です。

弱い相互作用が伝わる距離は、原子の約1万分の1の大きさしかない原子核の内部に収まるほど短いものです。
なので、ほとんどのニュートリノは原子と出会っても、そこに何もないかのように素通りしてしまいます。

核融合反応が起きている太陽の中心核は極めて高密度ですが、そこで発生したニュートリノはほとんど何の抵抗も受けずに通過できると考えられるので、物質の密度が極めて希薄なコロナではなおさら素通りすると考えられます。(※6)
※6.太陽の中心核に対するコロナの密度は750京分の1以下しかない。
あまりにも他の物質と衝突することがないので、ニュートリノは物理学者の間で“幽霊粒子”と呼ばれるほどです。
このため、コロナ加熱問題において、ニュートリノの存在はこれまで無視されてきました。


ニュートリノの光遷移の確立を大幅に高める電弱ホール効果

ただ、電磁相互作用と弱い相互作用は、条件次第では区別できない同じ性質の力になることが知られているんですねー
なので、これを考慮した場合には話が変わってきます。

電磁相互作用と弱い相互作用を統一した力は“電弱相互作用”と呼ばれていて、1964年に理論が提唱されて以来、電弱相互作用で予言された素粒子の存在も実験的に確かめられています。

ニュートリノは電磁相互作用をしませんが、電弱相互作用は電磁相互作用と弱い相互作用の性質を併せ持つので、ニュートリノと光子との直接的な相互作用が発生することになります。

通常、電弱相互作用が現れるのは、恒星の中心部でも実現しない約1000兆℃という超高温環境での話になります。(※7)
でも、実際にはそれよりも低い温度でも低い確率で電弱相互作用が現れ、重いタイプのニュートリノが軽いタイプのニュートリノと光子に分解する“光遷移”と呼ばれる現象が発生すると考えられます。
※7.このような環境は、誕生直後の宇宙と高エネルギーな粒子同士の衝突で一瞬生み出される以外は、存在しないと考えられている。
ただ、電弱相互作用を考慮した上でも、これまではコロナ加熱問題とニュートリノの関りは考えられてきませんでした。

光遷移で生じた光子はコロナにエネルギーを与えることになるので、ニュートリノがコロナを加熱するというのは理論的にはあり得ますが、光遷移が発生する確率は極めて低いと考えられます。
また、ニュートリノが光遷移する現象の実験的な観測にも成功していないので、ニュートリノの光遷移もコロナ加熱問題では無視されてきました。

そこで、今回の研究で提唱しているのは、“電弱ホール効果”と呼ばれる現象が、ニュートリノの光遷移の確立を大幅に高めるのではないかとする理論です。

これは、電磁相互作用での“量子ホール効果”という現象を、電弱相互作用に拡大したもの。
量子ホール効果の詳細は、この記事のレベルを超えてしまいますが、簡単に言えば、強い磁場の下で電子が運動したときに発生する現象のことを指します。(より詳細な注釈は(※8)へ、この内容は読まなくてよいかも…)
※8.試料に流れている電流(電子の運動方向とは逆向き)に対して垂直な方向に磁場をかけると、電流、磁場、そしてローレンツ力(電子が磁場を受けて発生する力)がそれぞれ垂直となる。ローレンツ力は電子を試料の片側に寄らせて電荷を蓄積するため、やがて発生するクーロン力と釣り合い、磁場や電流と垂直方向に電圧が発生。これは“ホール電圧”と呼ぶ。ホール電圧と電流との大きさの比率は“ホール低効率”と呼ばれ、磁場の強さに比例することが知られている。この説明全体が“(古典的)ホール効果”と呼ばれる。量子ホール効果とは、このホール効果を量子力学の下で説いたもので、ホール低効率が強い磁場の下では特定の値(フォン・クリッツィング定数)の整数倍にしかならない(量子化する)現象のことを指す。
今回の電弱ホール効果を考える上で重要なのは、
“電弱相互作用が電磁相互作用と弱い相互作用を統一したものなら、電磁相互作用で発生する現象が電弱相互作用で起きていてもおかしくない”
と考える点です。

電子の運動や磁場は電磁相互作用で説明できる現象なので、電弱相互作用に考えを拡大すれば、弱い相互作用を受けるニュートリノもまた量子ホール効果と似たような相互作用が発生すると考えられます。


電弱ホール効果は典型的なコロナ内部の環境で起きやすい

本研究では、強い磁場の下にある環境下で電弱相互作用の理論を解くことで、量子ホール効果と同じ形式の相互作用が現れることを理論的に証明しました。
簡単に言えば、電弱相互作用の理論をある形式で解いた場合、電磁相互作用での量子ホール効果と同じ形の式が現れるという意味になります。

この式で関与する素粒子はニュートリノと光子なので、ニュートリノと光子の相互作用、つまり重いタイプのニュートリノが軽いタイプのニュートリノと光子に崩壊するという現象が発生します。

コロナ内部の物質密度そのものは低いものの、極めて強い磁場がかかっていて、電子の密度は高い傾向にあります。
本研究で示した、電弱相互作用における電弱ホール効果が起きやすいと理論的に示されている環境は、典型的なコロナ内部の磁場および電子密度の値と一致します。

一方、太陽の他の場所では、この条件が満たされることはないので、電弱ホール効果によって太陽本体が過熱されることはありません。
なので、太陽表面とコロナの温度に大きな差が生じていることとも矛盾しません。

電弱ホール効果によってニュートリノが光子に崩壊する場合、崩壊して生じた光子がコロナのプラズマにエネルギーを与えることで、コロナは過熱されます。
今回示された電弱ホール効果によって、ニュートリノが光子に崩壊する確率は10の40乗倍に上がるので、これまで無視されてきたニュートリノとコロナとの関りが見直される可能性はあります。

もし、電弱ホール効果の理論が正しければ、超新星爆発(※9)に並ぶニュートリノが積極的に関わる数少ない天文物理現象の一つに挙げられることになります。
※9.超新星爆発で放出される膨大なエネルギーは、恒星の中心核の崩壊で発生したニュートリノの1%程度が、物質と衝突することで発生すると考えられている。でも、超新星爆発の直前に発生する他の現象(崩壊する物質と中心核との衝突による衝撃波や、衝突による跳ね返り)も考慮しなければならず、どの現象がどの程度の割合で関与しているのか、詳細はよくわかっていない。
電弱ホール効果は、今のところ提唱されたばかり。
なので、理論が正しいかどうかは第三者による検証が必要となるんですねー
ただ、電弱ホール効果の直接観測は極めて難しく、当面は不可能だと考えられています。

また、仮に電弱ホール効果の理論が正しいとしても、コロナの過熱にどの程度の割合で関与しているのかについての検証も必要となります。

このため、現時点ではコロナ加熱問題は解決したとは言えません。

一方、電弱ホール効果を通じて生じる光子やニュートリノの性質は理論的に決定できるので、観測によって理論と合致する光子やニュートリノを検出することは可能です。

電弱ホール効果の実在や、それによってコロナ加熱問題が解決するのかは、当面の間は光学とニュートリノの両面で太陽観測を行い、詳細なデータを得られるかどうかにかかってくるのでしょうね。


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JAXAが発表! H3ロケット3号機は先進レーダー衛星“だいち4号”を載せて6月30日に打ち上げへ

2024年04月27日 | 宇宙 space
H3ロケット3号機による先進レーダー衛星“だいち4号(ALOS-4)”の打ち上げ予定日が決定したと、4月26日にJAXAから発表されました。

設定された打ち上げ日は2024年6月30日。
打ち上げ予定時刻は、日本標準時間の12時6分42秒~12時19分34秒。
打ち上げ不備期間は7月1日から7月31日としています。

H3ロケットは、種子島宇宙センター大型ロケット発射場から打ち上げられることになります。
図1.H3ロケット試験機2号機打ち上げライブ中継より
図1.H3ロケット試験機2号機打ち上げライブ中継より


先進レーダー衛星“だいち4号”

搭載される先進レーダー衛星“だいち4号”は、2014年に打ち上げられた陸域観測技術衛星2号“だいち2号”の後継機となります。

Lバンド合成開口レーダーを搭載し、新開発のデジタル・ビーム・フォーミング技術などを活用することで、“だいち2号”で実現した3メートルの分解能を維持しつつ、観測幅を4倍の200キロに拡大。
これにより、“だいち2号”では4回に分けて観測が必要だったものが1回の観測で済むことになり、年間の観測回数をこれまでの4回から20回に増やすことが可能となっています。

レーダーは雲を通り抜けるので、天候に関係なく地表の観測が行えます。
異なる時期の観測データを比較することで、火山活動で地盤沈下、地滑りなどを監視することができます。

ちなみに、先進光学衛星“だいち3号(ALOS-3)”は、2023年3月7日に実施されたH3ロケットの試験機1号機の打ち上げ失敗により失われています。

このため、H3ロケット試験機2号機には、失われた先進光学衛星“だいち3号”の質量を模したダミー衛星“VEP-4”を搭載し、打ち上げ後の分離も確認されています。
“だいち4号”の打ち上げと軌道投入も成功する気がしますね。
図2.2024年3月11日に三菱電機鎌倉製作所で報道陣に公開された先進レーダー衛星“だいち4号(ALOS-4)”。
図2.2024年3月11日に三菱電機鎌倉製作所で報道陣に公開された先進レーダー衛星“だいち4号(ALOS-4)”。


H3ロケット3号機

H3ロケットは、これまで日本の主力ロケットだった“H-II”の後継機として、JAXAと三菱重工業が開発した新型ロケットです。

毎年6機程度を安定して打ち上げることで、日本における宇宙輸送の基盤とするほか、民間商業衛星の打ち上げ受注を目指し、柔軟性・高信頼性・低価格の観点で、これまで以上に使いやすいロケットとして開発されました。

H3ロケットの試験機1号機は、2023年3月7日に実施された初飛行で、第1段の切り離し後に第2段の“LE-5B-3”エンジンを点火することができず打ち上げは失敗。

その後、原因の解明などを進め対策を実施し、1年以内という比較的早期の打ち上げ再開を実現しています。

H3ロケット試験機2号機の打ち上げは2024年2月17日のことでした。
H3の第2段機体は所定の軌道へ投入され、搭載されていた2機の小型副衛星“CE-SAT-IE”と“TIRSAT”も地球低軌道への投入に成功。
試験機2号機の打ち上げは成功に終わっています。

今回の打ち上げでは、初めて“試験機”という文字が外されH3ロケット3号機という名称になっています。

なお、機体の形態は、2機の試験機と同じH3-22Sを採用。
このH3-22Sという機体は、新型1段エンジン“LE‐9”を2基搭載、改良型固体ロケットブースター“SRB-3”を2基装着、衛星などを搭載するペイロードを保護するフェアリングがショート形態になります。


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初期の天の川銀河に合体した2つの銀河の痕跡を発見! 大量の恒星データから見つけた古く運動方向や速度が揃った2つの集団

2024年04月26日 | 銀河・銀河団
初期の天の川銀河は、複数の小さな銀河が合体して誕生したと言われています。

近年、恒星の位置や運動方向に関する大規模なデータが揃ったことで、合体した銀河の痕跡を具体的に知ることができるようになってきました。

今回の研究では、大量の恒星が記録されている“ガイア”と“スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)”のデータを組み合わせて分析。
そこから、合体した銀河の痕跡を探っています。

その結果、今から約120~130億年前という極めて初期の時代に、天の川銀河と合体したと推定される2つの銀河の痕跡を発見することに成功。
これらの銀河を、ヒンドゥー教の神話に因み“シャクティ(Shakti)”と“シヴァ(Shiva)”と名付けられたそうです。
この研究は、ドイツ・マックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)のKhyati MalhanさんとHans-Walterさんの研究チームが進めています。
図1.天の川銀河におけるシャクティ(ピンク色)とシヴァ(緑色)に属する恒星の分布図。シャクティの一部がシヴァに被って隠れている点に注意。また、空白域は観測データが無いので、分布がこの外側にも広がっている可能性がある。(Credit: S. Payne-Wardenaar, K. Malhan & MPIA)
図1.天の川銀河におけるシャクティ(ピンク色)とシヴァ(緑色)に属する恒星の分布図。シャクティの一部がシヴァに被って隠れている点に注意。また、空白域は観測データが無いので、分布がこの外側にも広がっている可能性がある。(Credit: S. Payne-Wardenaar, K. Malhan & MPIA)


小さな銀河が複数合体して大規模な銀河が誕生する

私たちの地球が属している天の川銀河は、周辺の銀河と比べると規模が大きな銀河になります。
このような大規模な銀河は、より小さな銀河が複数合体して誕生したというのが、現在の有力な説になっています。

合体前の銀河は、それぞれ独自の恒星や水素ガスを持っています。
銀河が合体すると恒星は混ざり合い、水素ガスから新たな恒星が誕生することもあります。
図2.天の川銀河の誕生のシミュレーション。一見するとどれが天の川銀河なのかわからないが、このように天の川銀河の“種”は無数にある銀河の一つでしかなかった。(Credit: Vintergatan – Renaud, Agertz, et al. (動画よりキャプチャ))
図2.天の川銀河の誕生のシミュレーション。一見するとどれが天の川銀河なのかわからないが、このように天の川銀河の“種”は無数にある銀河の一つでしかなかった。(Credit: Vintergatan – Renaud, Agertz, et al. (動画よりキャプチャ))
銀河の合体では恒星やガスの集合をかき乱すので、数十億年前の合体の痕跡を知ることは不可能に思えますよね。

でも、恒星が密に集合して見える銀河も、実際には“太平洋にスイカが2個浮かんでいる”と例えられるほど内部はスカスカの状態。
なので、合体時に運動方向や速度が乱される恒星はほんのわずかで、大半の恒星はそのような力学的性質が銀河の合体後も保存されることになります。


合体した銀河の痕跡を探す

このことに加え、数十億年前の出来事である合体よりも前から存在していた、あるいは合体の直後に誕生した恒星は、年齢が古い傾向にあります。

水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
この重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成され、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられています。

生成された金属は恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくので、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。

このことから、含まれる金属(※1)の量が少ないほど古い恒星と言え、金属の量が少ない“低金属星”の集団が見つかれば、その集団は古い起源を持つことが推定できます。
つまり、恒星の運動と年齢が揃っている大きな集団が見つかった場合、それらは合体した銀河の痕跡である可能性がある訳です。
※1.恒星における“金属”とは、水素とヘリウム以外の元素の総称で、炭素や酸素のような化学的には非金属となる元素も含まれている。
ただ、合体から数十億年経った現在では、かつて別の銀河だったそのような恒星の集団も概ね天の川銀河の回転方向に沿った運動をしていて、元の力学的性質は部分的に失われています。

また、星団や恒星ストリームのように、規模は銀河よりもずっと小さいものの、年齢や運動方向が揃っている恒星の集団もあります。
このことから、合体した銀河のような大規模な集団の痕跡を見つけるには、大量の恒星のデータを取得・分析する必要があります。

このような研究は、これまで不可能でした。
でも、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星“ガイア”によって状況は変わってくるんですねー
“ガイア”は、天の川銀河に属する恒星の性質を収集し続けていて、現在では約15億個もの恒星のデータを持っています。

“ガイア”の観測データによって作成された天体カタログの分析から、“ガイア・ソーセージ”や“ポントゥス・ストリーム”など、80憶年以上前に合体したとみられる銀河の痕跡が次々と見つかっています。

また、天の川銀河の中心部には“プア―・オールド・ハート”(※2)という年齢の古い恒星の集団があります。
現在の天の川銀河は、この集団と他の銀河が合体することで形成されたのかもしれません。
※2.金属に乏しい(プア―)、恒星の年齢が古い(オールド)、天の川銀河の中心部(ハート)に位置することを意味している。


銀河内に見つかった年齢が古く運動方向や速度が揃っている2つの集団

今回の研究では、このような古い銀河の痕跡を探るため、別の掃天観測プロジェクト“スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)”の最新版“Data Release 17”の観測データを、“ガイア”の観測データによって作成された天体カタログに加えて分析を行っています。

“ガイア”と“スローン・デジタル・スカイサーベイ”では、観測している恒星に違いがある一方で、同じ恒星の異なるデータを収集していることもあります。

研究チームでは、この2つのカタログデータから約580万個の恒星を選び出して分析を行いました。
図3.恒星を運動の性質でプロットした図。古い恒星のみを抜き出して分析すると、すでに見つかっている2つの集団の他に新たに2つの集団が浮かび上がった。(Credit: Khyati Malhan & Hans-Walter Rix.)
図3.恒星を運動の性質でプロットした図。古い恒星のみを抜き出して分析すると、すでに見つかっている2つの集団の他に新たに2つの集団が浮かび上がった。(Credit: Khyati Malhan & Hans-Walter Rix.)
その結果、見つかったのは、どちらも年齢が古く、運動方向や速度が揃っている2つの集団でした。

2つの集団が見つかったのは、それぞれ天の川銀河の中心部から比較的離れた場所。
今から約120~130憶年前に合体した銀河の痕跡と考えられます。

この年代は、すでに知られているほかの合体の痕跡と比べても非常に古く、“プアー・オールド・ハート”と合体した最初の銀河の痕跡かもしれません。

今回の分析でカウントされた恒星は、1つ目の集団で1719個、2つ目の集団では5607個でした。
でも、合体前の大きさはどちらも天の川銀河の0.001%程度(太陽の1000万倍程度)の質量を持つ矮小銀河だと考えられます。
合体した年代の古さと規模の大きさから、研究チームでは1つ目の集団を“シャクティ”、2つ目の集団を“シヴァ”と名付けました。

“シャクティ”と“シヴァ”という名は、どちらもヒンドゥー教に因んだもの。
“シヴァ”はヒンドゥー教の主審の1柱で、破壊と創造を司ります。
一方、“シャクティ”はしばしばシヴァ神妃(配偶神)と見なされる女神、またはエネルギーや力の象徴を指します。

この2つの集団は、ほぼ同じ時代、天の川銀河の歴史の初期に合体したことから、まさに天の川銀河の“創造と破壊”に絡んでいるペアであることを象徴した命名であると言えます。
図4.恒星を運動の性質でプロットした図。今回発見されたシャクティとシヴァの他にも、合体した銀河の痕跡を思わせる集団が見つかっている。(Credit: ESA, Gaia, DPAC, K. Malhan et al.)
図4.恒星を運動の性質でプロットした図。今回発見されたシャクティとシヴァの他にも、合体した銀河の痕跡を思わせる集団が見つかっている。(Credit: ESA, Gaia, DPAC, K. Malhan et al.)
“シャクティ”と“シヴァ”の発見は、天の川銀河やそれと同じくらいの大きさを持つ銀河が形成される過程を調べる上で、重要なものと言えます。

古い時代の宇宙を観測すれば、合体前の小さな銀河を見つけることもあるはずです。

“シャクティ”や“シヴァ”に属する恒星の性質を詳細に調べておけば、合体前の小さな銀河と性質を比較することができます。
これにより、“シャクティ”や“シヴァ”の合体前後の状況を、より正確に知ることができるかもしれません。

また、今回のような衝突した銀河の痕跡を探る研究は世界中で並行して進められていて、“ガイア”の観測データだけでも次々と見つかっています。
その他のいくつかの掃天観測プロジェクトの観測データを組み合わせることで、この発見はさらに加速し、天の川銀河の合体・形成の歴史が見通せる日もそう遠くないのかもしれませんね。


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