宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

超新星の残骸から大量の放射性チタンを検出

2012年10月31日 | 宇宙 space
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のガンマ線観測衛星“インテグラル”が、超新星“1987A”の残骸から大量の放射性チタンを検出しました。
巨大な星が最後に迎える壮大な“超新星爆発”という、劇的なプロセスへの理解を深める成果になります。








17万光年かなたで起こった
超新星爆発“1987A”






恒星の内部では、水素が核融合によってヘリウムに変換され、エネルギーが生み出されています。
太陽の8倍以上の質量を持つ恒星は、水素という燃料を使い切ると、自身の重力で収縮を始めるんですねー

収縮によって恒星の内部温度はさらに上昇し、チタンや鉄、コバルト、ニッケルなど重い元素も作られるようになります。

やがて中心核が崩壊すると、その反動で劇的な超新星爆発が起こり、膨大なエネルギーととに様々な元素が宇宙空間にばらまかれることになります。

その後は、爆発で合成された放射性元素の崩壊で生み出される放射線が、超新星の残骸を光らせるというわけです。
様々な放射性元素は崩壊の際に、それぞれ固有のエネルギー(X線やガンマ線)を放出するため、超新星爆発でばらまかれた物質の化学組成を調べることができるんですねー

“1987A”は1987年2月に大マゼラン銀河に現れ、肉眼でも見えるほど明るく輝いた超新星です。
爆発がピークに達している間は、噴出物の外層に含まれる酸素からカルシウムまでの元素が見つかりました。
その直後には、内部層で起こったニッケル56からコバルト56へ、さらに鉄56へと続く放射性崩壊も見つかっています。

そして“インテグラル”が今回行った1000時間以上の観測で、“1987A”の放射性チタン(チタン44)からの高エネルギーX線を検出することに初めて成功したんですねー








放射性チタンの
分布をとらえた
超新星残骸のX線画像





これは、超新星“1987A”で、チタン44が作られたことを示す初めての証拠で、過去20年間におよび超新星残骸を光らせてきたほどの量でした。

今回の観測結果から、超新星の元となった恒星が崩壊を起こしたとき、太陽質量の0.03%ものチタン44が作られたと推定されます。

これは理論上予測されている値の上限に近いんですねー
チタン44が検出されている、もうひとつの超新星残骸“カシオペア座A”の2倍に相当します。
“カシオペア座A”と“1987A”ほど、大量のチタン44が作られたのは非常に例外的なことです。

“インテグラル”で得られた今回の成果は、将来の超新星爆発シミュレーションで考慮すべき新しい条件を与えてくれています。
重い星の最終段階を含めた進化過程についての理解が、今回のような観測でさらに深まっていくんですね。

宇宙の網を作る暗黒物質のフィラメント構造

2012年10月30日 | 宇宙 space
ビッグバン理論によれば、生まれたばかりの宇宙には密度にムラがあったそうです。

そのムラが物質の構造を形作り、
フィラメント(繊維状のもの)がつながったクモの巣のような“宇宙の大規模構造”を、
作っているようです。
フィラメントが網の目のように広がる“宇宙の大規模構造”のイメージ図
フィラメントの結合部に銀河団が形成される

宇宙の進化をコンピュータでシミュレーションすると、
網の目のような構造ができ、巨大銀河団をつなぎ目として、
長いフィラメント構造が広がる様子を見ることができます。

このようなフィラメントは、
主に暗黒物質(ダークマター)でできているので、観測は非常に難しくなります。

でも、今年に入って初めて、その一部が見つかったんですねー
観測技術の進歩はすごいものです。

さらに、今回の研究ではフィラメントの3次元構造を再現していて、
2次元での検証よりも信頼性の高いものになっています。

今回の研究では、マルセイユ天体物理学研究所の研究チームが、
巨大質量銀河団“MACS J0717”周辺領域の精細な画像と、
銀河団中の銀河の分光観測データを組み合わせています。

これらの観測データを一緒に解析することで、
銀河団の外まで広がるフィラメントの視線方向における形を調べることができるんですねー

そして研究では、いくつかのポイントを利用してフィラメントの3次元構造を得ています。

まずは、観測対象の選定です。
宇宙進化の理論によれば、銀河団は複数のフィラメントが交差するところで作られ、
フィラメントから物質が少しずつ流れ込みます。

この点において、銀河団“MACS J0717”は活発に成長していることが分かっていて、
最優良のターゲットになりました。
次に、重力レンズの利用です。
フィラメントの材料の大部分である暗黒物質は目には見えません。

でも、その質量による重力で、光は曲がるんですねー
なので、ハッブル宇宙望遠鏡を使って周辺領域の像のゆがみをとらえて、
暗黒物質の質量分布を把握することに成功しています。(左図)

そして、3次元モデルの構築に必要となる、銀河の距離と動きの測定です。

ハワイのマウナケア山頂にある
“すばる望遠鏡”、“CFHT望遠鏡”、“ケック望遠鏡”、“ジェミニ北望遠鏡”を利用して、
フィラメントに含まれる数千個の銀河の位置を特定し、その多くについて動きを測定しています。

このようにして再現された3次元構造は、
これまでの理論やシミュレーション研究の予測を大きく広げるものになりました。

6000万光年以上の長さを持つ“MACS J0717”のフィラメントは、
天文学的スケールとしても非常に大きいものとなったんですねー。

また、今回の対象となった構造が、巨大銀河団のそばにある平均的なものとすると…

網の目の結び目同士をつなぐフィラメントは、
理論的な予測より多くの質量を、暗黒物質として抱えている可能性があります。

ひょっとすると、宇宙の全質量の半分が、
こうした構造の中に潜んでいるのかもしれません。

地球と同じくらいの質量をもつ惑星を発見 “ラシーヤ天文台”

2012年10月29日 | 宇宙 space
太陽系からもっとも近い恒星系“リギルケンタウルス”に、地球と同じくらいの質量の惑星が見つかりました。





“リギルケンタルスB”と
惑星の想像図



“リギルケンタウルス”は、南半球の空ではよく目立つ1等星です。
でも、何より有名なのは、この星が太陽系から4.3光年しか離れていないことなんですねー
実際には“リギルケンタウルスA、B”と“プロキシマケンタウリ”の3つの恒星が連星を成している3重星です。



“リギルケンタウルス”は
南半球ではよく見える
明るい星ですが、
日本では沖縄など限られた
地域でしか見れない



“リギルケンタウルス”に惑星が存在するかどうかは、19世紀から議論されてきたのですが確認できませんでした。

今回初めて、南米チリにある“ラシーヤ天文台”のHARPS(高精度視線速度系外惑星探査装置)と、
3.6メートル望遠鏡を用いた観測で、“リギルケンタウルスB”の周りを回る惑星が発見されました。

研究チームは、軌道を回る惑星の重力によって、“リギルケンタウルスB”がゆるやかに引き寄せられたり、引き離されたりする現象をとらえています。

ドップラーシフト法と呼ばれるこの観測法は、恒星の光の波長がわずかに短くなったり、長くなったりするのを検出します。
今回は、秒速51センチ(時速1.8キロ)という極めて小さい動きを検出しているんですねー
これはドップラーシフト法としては、史上最高精度の観測となります。

“リギルケンタウルスB”は太陽より少し小さくて暗いのですが、太陽ととてもよく似ています。
見つかった惑星は、地球より少し重く、主星からは600万キロほど離れています。

太陽系で言えば、水星よりも内側の軌道を回っていることになるんですねー
3.2日の周期で“リギルケンタウルスB”を公転しています。

なので、この惑星は主星に非常に近く、生命が存在するには熱すぎる場所になります。
まぁー 今回発見したのは、恒星系にある惑星の1つに過ぎません。
HARPSや“ケプラー宇宙望遠鏡”の観測結果から、このような恒星系には低質量惑星が複数存在することが多いと示されています。
ひょっとすると他にも地球に似た惑星は存在するのかもしれません。

1995年に初めて太陽系外の惑星が見つかって以来、すでに800個以上の系外惑星が発見されています。
でも、その多くは地球よりはるかに大きいガス惑星“ホットジュピター”です。

なので次は、ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある、地球サイズの惑星を検出。
そして、その惑星の性質を解明することが次の挑戦になるんですねー
今回の発見は、その第一歩となるようです。

生まれたばかりの星から水分子メーザーを検出 “アルマ望遠鏡”

2012年10月28日 | 宇宙 space
生まれたばかりの星から、高エネルギー状態の水分子メーザーが初めて検出されました。
これは星の誕生や、その後の様子を研究する上で重要な発見となるんですねー

メーザーとは、1つの分子から放射された特定の波長の電波が、他の分子の電波と作用しどんどん増幅され強力な電波放射となるものです。
ある限定された温度と密度環境にあるガス雲の中の、ある特定の分子(水酸基・水蒸気・一酸化ケイ素・メタノール・アンモニアなど)で発生するんですねー

このメーザーを検出したのは南米チリの“アルマ望遠鏡”です。
国立天文台の研究チームが、オリオン座大星雲にある生まれたばかりの星“オリオンKL”の電波源Iを観測し、高エネルギー状態にある水分子が放つメーザーの検出に成功しました。

     “アルマ望遠鏡”で観測された“オリオンKL”の電波写真
     水分子メーザーとギ酸メチル分子からの電波が混ざっている画像(a)から、
     ギ酸メチルが放つ別の周波数の電波強度画像(b)を引き算し得られた
     水分子メーザーのみの画像(c)

高エネルギー状態の水メーザーは、年老いた星ではこれまでに数例の検出例があります。
でも、生まれたばかりの星では初めての検出なんですねー
“アルマ望遠鏡”のかつてない高感度と、撮像能力によって初めて可能になった研究成果といえます。

研究チームはこれまで、国立天文台の電波望遠鏡ネットワーク“VERA”を用いて、“オリオンKL電波源I”の観測を行ってきました。

“オリオンKL電波源I”の周囲にあるガスの円盤や高速ジェットからは、低エネルギー状態にある水分子や一酸化ケイ素分子のメーザーが発せられていたんですねー





“オリオンKL電波源I”の想像図




“VERA”で得られたこのデータと、今回の“アルマ望遠鏡”で検出された高エネルギー状態の水分子メーザーを比較すると、それらが同じ速度で運動するガスから放射されていることが分かりました。

この結果は、高エネルギー状態の水分子メーザーも、生まれたばかりの星のごく近くにあるガス円盤や、高速ジェットの高温ガスから放射されていることを意味するんですねー
これにより、高温ガスの新しい観測手段を手に入れたことになり、生まれたばかりの星のより近くにまで迫る研究が可能になります。

今後“アルマ望遠鏡”は、さらに高性能化が進められていきます。
近い将来には、現在の50倍の高解像度で天体画像が得られるようになる計画です。

これを、高エネルギー状態にある水分子メーザーの観測に用いれば…
“オリオンKL電波源I”の性質や、その周辺を回るガス円盤、吹き出す高速ジェットの詳細な撮像が可能になるかもしれないんですねー

そして、星がどのようして生まれるのか? っという謎が解明されるかもしれません。

月の水は太陽風で作られた?

2012年10月25日 | 宇宙 space
NASAの探査機“エルクロス”の衝突実験など、数々の探査機に活躍によって、月の土壌に水が含まれていることが分かってきました。




“エルクロス”が
カウベス・クレーターに
衝突した直後の映像
衝突で発生した月面破片から
水の存在を示す証拠が
見つかっている


でも、その水がどこから来たのかは分かってないんですねー

地球を含む太陽系の天体に、どうやって水がもたらされたのか?
これまで唯一知られてきたのが、水分の多い小惑星や彗星が衝突するというものです。

ところが今回の研究で、水が運ばれる別の方法が見つかったんですねー

研究チームは、アポロ計画で持ち帰られた月のレゴリス(細かい砂の層)を、赤外線分光器と質量分析計で分析しました。
すると、流星チリの衝突で砂の中に生成されたガラス粒子の中に、大量のヒドロキシ基が存在することが分かりました。





NASAのアポロ計画で
採取された月のガラス粒子



ヒドロキシ基は、水分子から水素イオンが1つ欠けたものです。
つまり1つの酸素原子と、1つの水素原子から成るんですねー

月のガラス粒子に含まれるヒドロキシ基の大部分は、太陽風によって月面に注がれた陽子の一部が酸素原子と結合して作られ、小天体の衝突で溶融したガラス粒子の内部に閉じ込められたものと分かりました。

今回の研究は、レゴリスのガラス粒子がヒドロキシ基の貯蔵媒体になっていることを初めて示したものなんですねー

レゴリス層は月の表面の大部分を占めていて、その半分はガラス質でできてます。
なので氷や水のようなおなじみの形ではないにしろ、ヒドロキシ基という水の材料が月のあちこちにあるのかもしれません。

また、この研究により“ベスタ”、“エロス”のような小惑星や、水星などの天体の表面に、太陽風によって発生したヒドロキシ基が存在するかもしれないんですねー
このような天体は、それぞれが異なる環境を持っているものの、どの環境の中でも水が発生するようです。

水の材料があちこちで手に入るとなると…
これからの宇宙計画で水やロケット燃料を作り出す新たな手法のヒントになる可能性がありますね。